基本情報

所属
公益財団法人 地震予知総合研究振興会 地震防災調査研究部 副首席主任研究員 (東京大学名誉教授)
学位
理学博士(1981年3月 東京大学)

J-GLOBAL ID
201801020775891369
researchmap会員ID
B000319397

I これまでの研究(岩﨑貴哉)

 

A 1976-1982年

1976年に東京大学大学院理学系研究科地球物理学専門課程に入学し,地震学教室で研究を開始した.この期間に研究は,主として理論地殻変形・変動である.修士課程では,半無限弾性体内の有限矩形断層による媒質内の変位・歪の解析的表現式を初めて導出した.博士課程では,多層粘弾性構造を持つ媒質における準静的変形の研究を行った.表面加重に対応する準静的変形の表現式を求め,それに基づいて,湖の枯渇(Lake Bonneville)及び氷河の融解(Fennoscandia)による隆起現象から,マントル最上部の粘性係数を推定した.一方,同様の媒質における断層運動に伴う変位・歪の表現式を求め,1923年関東地震及び1944-1946年の東海・南海道地震に伴う過渡的地殻変動現象についての考察を行った.

B 1982-1990年

 1990年に北海道大学理学部付属海底地震観測施設助手に採用されてからは,海底地震観測による日本近海の地震活動及び制御震源を用いた地殻・上部マントル構造の研究に携わった.自然地震観測研究では,1982年浦河沖地震の余震分布や,千島海溝南端部十勝沖から北海道東部における自然地震活動を明らかにした.また,構造研究では,海底地震観測と制御震源を組み合わせた稠密屈折/広角反射法地震探査から,千島海溝南端部及び琉球海溝北部における,プレートの詳細な沈み込み構造を初めて明らかにした.前者においては,沈み込む太平洋プレートの海洋第2層が陸側斜面下で低速度層となることを観測から明らかにした.一方,後者においては,陸側斜面下に厚さ10kmを超えるwedge構造を持つ付加体が存在することがわかった.

C 1990-2019年

1990年に東京大学地震研究所に移って以来,制御震源を用いた島弧部の地殻・上部マントル構造を中心とした研究に従事してき.特に1997年以降は,自然地震観測(特に地震予知計画の合同観測や内陸地震発生直後の余震観測)にも携わるようになり,陸域構造探査・自然地震観測及び観測センター海域構造探査の陸域部観測支援等を行ってきた.特に,大規模構造探査が実施されるようになり,東北日本弧,西南日本弧,北海道日高衝突帯などの詳細な地殻・上部マントル構造を提出してきた.1999年から数回実施された海陸統合の地殻構造探査では,特に西南日本弧下のプレートの沈み込み構造(プレート上面反射体や付加体の構造)については,大きな進展を見た.

 2002年からは文部科学省受託研究の主査として,糸魚川-静岡構造線における重点的調査観測,神縄・国府津-松田断層帯における重点的調査観測のプロジェクト研究を実施した.また2004年からは地震予知研究計画の内陸地震関係の責任者(取りまとめ役)となり,2013年までの10年間で跡津川断層地域,濃尾断層地域の共同観測を主導した

2014年以降は,制御震源探査データの解析手法の開発,大規模地殻活動予測に資する日本列島基本構造モデル構築等に関する研究活動を行った.

この時期の後半では,反射法地震探査と屈折・広角反射法探査を有機的に結びつけた構造解析を実施し,北海道日高衝突体下に入り込む東北日本弧の実態や,紀伊半島下における中央構造線構造,その下に沈み込むフィリピン海プレートの構造を明らかにした.

D 2019年以降

 2019年からは,地震予知総合研究振興会において,引き続き,日本列島及びその周辺で行われた大規模構造探査のデータ解析を進め,駿河湾下の沈み込み構造や東北日本弧の構造を提出した.更に,解析手法の改良・開発も行っている.

 

I I 研究内容

 

 Iで述べたように,研究活動の大半は,自然地震・制御震源を用いた観測研究である.以下に,1990年以降(東京大学地震研究所勤務から現在に至るまで)の研究活動を大きく4項目に分けて示した.

 

A 制御震源を用いた地殻・上部マントル構造研究

日本における地殻構造探査の実施形態は,1990年代半ばに大きく変わった.即ち,この時期から,屈折法と反射法を組み合わせた大規模な構造探査が実施され,島弧地殻の詳細な構造が明らかにされた.

(1) 島弧規模の地殻・上部マントル構造

 1997年以降,日本列島を横断する測線において大規模な構造探査を,平田・佐藤両教授とともに計画・実施した.その結果,日本海生成の原因となった伸張応力場による東北日本弧の地殻改変構造や,北海道日高域における島弧-島弧衝突構造(地殻の剥離過程)を明らかにすることができた.また,西南日本におけるフィリピン海プレート沈み込み構造,内帯・外帯の構造解明を,共同研究として実施した.更に,九州日奈久域における伸張応力場下の地殻構造についても研究を進めた.

 近年は,災害軽減のための大規模調査観測も計画的に実施されており,良質のデータが集積しつつある.これらのデータを再解析することによって,伊豆弧衝突部の地殻構造の解明を行ない,伊豆弧の付加と剥離様式,プレート沈み込み構造を明らかにした(修士学生との共同研究).

 

(2) 西南日本下のフィリピン海プレート沈み込みの構造

 JAMSTCと共同で,西南日本-紀伊半島-東海域にかけて3本の海陸統合地殻構造探査を計画・実施した.これらの探査の最も重要な発見は,巨大地震発生域の深部(陸側)延長部に強反射面は存在し,それが沈み込むプレートの上面に対応することであった(飯高准教授・蔵下助教及びJAMSTECとの共同研究).現在に至っても,紀伊半島東部で2006年に実施した探査データの再解析を進め,紀伊半島下のフィリピン海プレート上面の構造,その上盤側でのプレートと付加体との衝突・改変構造を求めている.更に,構造と低周波地震との関連性をプレートの脱水作用を念頭において研究を行ってきた.

(3) 国際シンポジウム(SEISMIX 2006)の開催

    日本における地殻構造探査の大規模化と研究の進展に伴い,その成果は海外でも注目されるようになった.その理由は,日本のような変動帯において構造研究を実施しているケースは極めて稀であること,また,我々の成果が,大陸地殻に“化石”として残っている地殻発達・改変の構造を“現在進行形”の姿として提出していることによる.国際シンポジウム“SEISMIX (大陸と縁辺域の深部地震探査に関する国際シンポジウム)”は,特に制御震源を用いた構造研究に関する,レベルの高いシンポジウムであり,その日本開催を佐藤教授,JAMSTEC金田義行博士,千葉大学伊藤谷生教授とともに計画・実現させた.このシンポジウムは,2006年の9月に神奈川県の葉山で実施され,内外から120人の研究者が集まり,活発な討議が行われた.この分野における日本の立場は,これまでに提出してきた成果とともにこの会議の日本開催によって,確実に強くなったと言える.

 

B 文部科学省受託研究における研究活動

 

(1)糸魚川—静岡構造線断層帯における調査研究

    2002-2004年,“糸魚川-静岡構造線断層帯に関するパイロット的な重点的調査観測”の主査となり,この断層帯の形状・物性解明,地殻活動把握,地震断層履歴解明のための総合的調査観測を実施した.2005年から,このプロジェクトは,強震動予測を調査項目に加えた本格調査(“糸魚川-静岡構造線断層帯における重点的調査観測”)に移行し,主査の役目もそのまま引き継いだ.2005-2009年までのこの調査観測では,理学研研究科池田安隆准教授,本研究所平田・佐藤両教授とともに,反射法・重力探査を5カ所で実施し,この構造線が諏訪湖を挟んでその北部と南部でその形状が大きく異なり,諏訪湖付近がsegment境界になっていることを直接的に示した.これらの成果は国内の学会(地震学会・地球惑星科学関連学会)とともに,国際学会で報告を行った.また,このプロジェクトに関連して,過去の既得データについても再解析を進め,同構造線断層帯北部についてその深部構造まで含めたモデル構築を推進した.

(2)神縄・国府津-松田断層帯における重点的調査観測

神縄・国府津-松田断層帯を取り囲む地域は,フィリピン海プレートの沈み込みに伴う多重衝突によって,いくつかの断層帯が形成され複雑なブロック的地殻構造を成している.この地域の断層帯の全体像を明らかにし,歪みの分配を明らかにして断層モデルを構築し,強震動予測に至る総合的な観測を,2009-2011年の3年間にわたって,主査として主導した.この調査研究の一環として行われた構造探査では,神縄・国府津-松田断層帯がフィリピン海プレートからの分岐断層であることがわかり,同断層帯がメガスラスト地震の発生に伴って活動する可能性が強いことを明らかにした.

 

C 地震予知のための新たな観測研究計画等における研究活動

 

(1)跡津川断層域合同観測

   “地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)(2004-2008年)”において,内陸地震域における応力集中プロセスの解明に焦点を当てた研究計画を立案し,研究代表者として全国の大学・研究機関による合同観測として実施した.この研究は,歪集中帯内の跡津川断層系において地震・電磁気・GPS・ 制御震源地震探査を密接な連携のもとで実施し,断層周辺域の不均質構造と,地震活動・地殻変動などの断層及びその周辺における地殻内の運動特性の関係を明らかにしようとするものであった.得られた結果によれば,跡津川断層域上部には,そのアスペリティに対応する見られる複数の高速度体が検出された.また,断層の下部延長部には,深部滑り域が存在すると考えられ,その深部域から上部地殻のアスペリティ周辺部(アスペリティの間の低速度域)まで,流体(水)を含む低速度・低比抵抗体が伸びていることが判明した.このような不均質構造は,深部滑りに起因する応力の擾乱を集中させるメカニズムとして作用するというシナリオが考えられる.これらの成果は国際学会等で報告を行った.

 

(2) 濃尾地震震源域の総合集中観測

“地震及び火山噴火予知のための観測研究計画(2009-2013年)”において,研究代表者として,変形速度の大きな構造帯である新潟-神戸歪集中帯内に位置する国内最大級の内陸地震である1891年濃尾地震の震源域(濃尾断層)に焦点をあて,総合的観測(自然地震観測・電磁気観測・GPS観測・制御震源地震探査)とモデリング研究を密接な連携のもとに実施した.この共同研究を通して,震源域の下部に流体の存在を示唆する異常構造のあることが明らかとなった.また,制御震源探査から,この地域下のプレート形状と反射特性が明らかとなり,内陸大地震とプレート運動が流体を介して直接影響し合っている可能性が強く示唆された.

 

(3) 内陸地震合同余震観測]

    2004年新潟県中越地震から2018年北海道東部胆振地震に至るまで,国内で多くのM7クラスの内陸地震が発生している.このような地震の余震観測を,地震研内外の研究者と共同で立案・実施してきた.余震直後から稠密な機動的観測を実施することによって,これまでになく詳細な震源分布が求められ,走時データによるtomography解析によって震源域における不均質構造と本震・余震の破壊様式の関係,応力状態との関係法海が,飛躍的に進展した.

 

D 探査・解析手法/モデリング研究

 

  近年の日本における探査は,その規模も技術も飛躍的に向上し,大量且つ良質のデータが取得されるようになった.これに伴い,データ処理・解析手法の向上が不可欠となる.特に最近の探査で屈折法と反射法両方のデータを一挙に取得しており,統合化された解析手法の確立が必要である.このような認識のもとに,以下のような研究を実施してきた.

 

(1)ABICに基づくインバージョンスキームを用い,屈折初動データに関して簡便・且つ正確な誤差評価のできるextended time-term法を提出した.

 

(2)屈折法解析として近年用いられているトモグラフィ解析の有効性の評価((株)地球科学総合研究所と共同研究)を行った.この研究から得られた知見を元に,糸魚川-静岡構造線及び伊豆衝突帯の探査データの再解析を行い,信頼性の構造モデルを提出した.

 

(3)反射法の分野で近年開発されたCRS/MDRS法を既往のデータ(北海道日高衝突帯の反射データ,糸魚川-静岡構造線における反射法データ等)に適用し,深部構造や断層の深部構造イメージングに貢献した.特に,日高におけるデータの解析によって,深部衝突構造に関する知見が得られ,同地域の地殻の改変過程の理解に大きく貢献しつつある.

 

(4)干渉法による地下構造イメージング法の開発を行い,探査条件の悪い既得データの再生の道を開きつつある.即ち,干渉法から擬似ショット記録を生成させることによって,ショット記録を飛躍的に増やし,これまで不可能であったショット点の少ない屈折法記録から反射法的imagingが可能となりつつある.この方法を適用した紀伊半島探査データにおいては,沈み込むフィリピン海プレートのみならず,プレート上盤側の中央構造線や付加体に起因する地質構造にイメージングに成功した.

 

(5)日本列島で観測される地震活動や地殻変動は,プレート運動に起因する外力(応力)と列島内の不均質構造の相互作用で説明されるべきであろう.これまでの成果として提出した構造モデルはこのような相互作用研究の土台となる重要な情報である.この立場で,内陸域断層の形成過程に対するシミュレーション研究を実施している建築研究所芝崎文一郎博士のグループの共同研究者となり,東北日本弧におけるケーススタディを実施した.

 

(6)“災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(2014-2018年)”の一環として,地震研究所 佐藤比呂志教授・石山達也准教授とともに日本列島全体の地殻活動の長期予測に資する日本列島の基本構造モデルを構築した.特に,日本列島周辺におけるプレートの形状,モホ面の形状を,震源分布,制御震源探査結果,自然地震tomography結果から構築した.このような基本的構造が構築されたことにより,大規模シミュレーションのよる地殻活動予測の根幹ができたと言える.


論文

  151

MISC

  31

書籍等出版物

  5

講演・口頭発表等

  114

担当経験のある科目(授業)

  3

共同研究・競争的資金等の研究課題

  35

社会貢献活動

  8