<br><b>【目的】</b><br> 日本の子どもの自尊感情(Self-esteem)は、世界的にみて低いことが問題視されており、1990年代以降、家庭科教育においても子どもの自尊感情を育てることへの研究関心が高まってきている。前報(2005年度例会)では、関東地方Aエリアデータから、小学校低学年から高校までの全学校段階・性別の子どもの自尊感情が家庭・学校双方と有意に相関することを明らかにした。本報告では、東北地方Cエリアのデータから、前報と同様に子どもの自尊感情と家庭要因、学校要因との関連について検討する。また、関東と東北エリアの結果の比較から、両地域に共通する特徴について明らかにする。<br><b>【方法】</b><br> 使用するデータは、お茶の水女子大学JELS2003児童生徒質問紙調査データ(記名自記式)である。対象者は、東北地方Cエリアの小学3年生921名、６年生962名、中学３年生968名、高校3年生1150名、計4001名(調査時期2004年７月～11月、回収率97.0％)。および、関東地方(東京近郊)Aエリアの小学3年生1118名、６年生1164名、中学３年生1057名、高校3年生1438名、計4777名 (調査時期2003年10月～12月、回収率96.5％) である。<br><b>【結果と考察】</b><br> 「自尊感情」は、Rosenberg(1965)の「自尊感情尺度」を元に「物事を人並みにはうまくやれる」、「自分に対して肯定的だ(自分が好きだ)」、「自分には人よりすぐれたところがある」の3項目に対する回答を点数化し、加算して分析に使用した(3～15点)。Cエリアの「自尊感情」得点は、小３を除く全ての学年において男子の平均値が女子よりも有意に高く(Ｔ検定)、中３の得点が最も低かった。Aエリアとほぼ同様の分布を示した。<br> 家庭要因としては、「家庭の雰囲気」に注目した。「家庭の雰囲気」得点は、菅原・他(2002)の「家庭の雰囲気尺度」を参考に、「あたたかい感じがする」、「楽しい」、「ほっとする」の３項目に対する回答を点数化(「そう思わない」1点～「そう思う」4点)し、加算して分析に使用した(3～12点)。Cエリアでは、小3と中3で女子の得点が男子を上回ったが、小6と高3では有意な性差はなく(Ｔ検定)、中3が男女とも最も値が低かった。Cエリアで男女共に「家庭の雰囲気」得点が高3に再度高まる点が、Aエリアで高3男子の得点が最も低いという状況と異なることが明らかとなった。<br> 学校要因としては、「学校は楽しい」得点(「全然あてはまらない」1点～「とてもあてはまる」4点)、「学校での人間関係」得点(2～8点)、「成績の自己認知」得点(「下のほう」1点～「上のほう」5点)の3点に注目した。「学校での人間関係」得点は、「同級生に好かれている」、「先生に好かれている」の2項目に対する回答を点数化(「全然あてはまらない」1点～「とてもあてはまる」4点) し加算したものである。Cエリアの「学校は楽しい」得点、「学校での人間関係」得点は、小3と高3で女子の得点が有意に高かった(Ｔ検定)。「成績の自己認知」得点は、小6で男子、高3で女子の値が有意に高かった(Ｔ検定)。Cエリアでは、「学校は楽しい」得点が、男女とも学年が上がるほど低下する傾向にあり、「成績の自己認知」得点に有意な性差がみられた点にＡエリアとの違いがみられた。<br> 子どもの自尊感情と家庭、学校要因の相関についてみると、Cエリアも小学校低学年から高校までの全て学校段階・性別で、全要因間に有意な相関がみられた。両エリアの男女に共通した特徴は、自尊感情の最も低下する中３では、他の学校要因より「家庭の雰囲気」の相関が弱く、中３・高３では「学校での人間関係」が自尊感情と最も強く相関したことだった。家庭科教育で小学校から高校までの子どもの自尊感情を高めようと考えた場合、家庭・学校で応用できる子ども自身の人間関係能力を向上させることが、有効と考えられる。 <br>(なお本報告は、お茶の水女子大学21世紀COEプログラム『誕生から死までの人間発達科学』プロジェクト_III_「青少年期から成人期への移行についての追跡的研究JELS」の共同研究の成果の一部である。)