カウンタ

2811003(Since 21st May 2010)

研究ブログ

研究ブログ >> Article details

2017/06/02

【評伝】イルジー・ビエロフラーベクさん――ある麒麟児の栄光と挫折

Tweet ThisSend to Facebook | by suzumura

現地時間の6月1日(木)、チェコの指揮者のイルジー・ビエロフラーベクさんが死去しました。享年71歳でした。


4歳で児童合唱団に参加することで音楽の世界に接したビエロフラーベクさんはプラハ音楽院とプラハ芸術アカデミーで音楽の専門教育を受けました。プラハではロバート・ブロック、アロイス・クリーマ、ボフミール・リシュカ、ヨセフ・ヴェセルカらに指揮の指導を受けるとともに、1968年からはストックホルムで3年にわたってセルジュ・チェリビダッケの助手として指揮を学びました。


この間、1970年にオムロツ指揮者コンクールで優勝し、1971年にはカラヤン指揮者コンクールで最終選考に残って評価を高め、1972年にブルノ国立フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者、1977年にプラハ交響楽団の首席指揮者を務めるなど、チェコスロバキアの有力な若手指揮者として頭角を現しました。


周知の通り、チェコスロバキアを代表する国際的な楽団はチェコ・フィルハーモニー管弦楽団であり、ビエロフラーベクさんもオムロツ指揮者コンクールの優勝後に副指揮者となったことで、チェコ・フィルとの関係が始まりました。


副指揮者の任期を終えたビエロフラーベクさんはチェコ・フィルに定期的に客演し、1981年には正指揮者、1990年には首席指揮者に就任し、ヴァーツラフ・ターリヒ、カレル・アンチェル、ラファエル・クーベリック、ヴァーツラフ・ノイマンの系譜に連なる、チェコスロバキアを代表する指揮者の一人となりました。


しかし、1989年にチェコスロバキアの民主化をもたらしたいわゆるビロード革命によってチェコ・フィルに対する政府の支援が削減され、楽団の財政状況が悪化を受けて1991年に改組されたことが、ビエロフラーベクさんとチェコ・フィルの関係に変化をもたらします。すなわち、楽団員による投票が行われ、ゲルト・アルブレヒトが新たな首席指揮者に選ばれたのです。


こうして就任から2年でチェコ・フィルの首席指揮者の座を失ったものの、ビエロフラーベクさんは、1994年にプラハ・フィルハーモニアを創設し、1995年にBBC交響楽団の首席客演指揮者、2006年には首席指揮者に就任するなど、活動の場を広げることに成功しました。


投票によって首席指揮者の地位を失ったとはいえ、ビエロフラーベクさんとチェコ・フィルとの関係は良好でした。それでも、アルブレヒトがチェコ・フィルやチェコ政府との音楽的、政治的な対立によって1996年に首席指揮者を辞任して以降、ウラディーミル・アシュケナージ、ズデニェク・マーカル、エリアフ・インバルが相次いで首席指揮者となり、ビエロフラーベクさんが再びチェコ・フィルを率いる機会は訪れませんでした。


そして、2012年、ビエロフラーベクさんは退任から20年を経て、チェコ・フィルの首席指揮者に復帰しました。この20年間にBBC響だけでなく、ニューヨーク・フィルハーモニック、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、NHK交響楽団や日本フィルハーモニー交響楽団、あるいはメトロポリタン歌劇場など各地の主要な楽団や劇場に出演してたビエロフラーベクさんはチェコ・フィルと緊密な関係を築き、2017年1月には任期を2021-2022年のシーズンまで延長することが発表されたばかりでした。


若くして頭角を現し、順調に経歴を重ねながらチェコ・フィルの首席指揮者問題で挫折を味わったビエロフラーベクさんは、2007年9月8日にロイヤル・アルバート・ホールで行われた第113回BBCプロムスの第72回ラスト・ナイト・コンサートで非英語圏出身の指揮者として初めて恒例の演説を行い好評を博すなど、「チェコを代表する指揮者」から「チェコから来た世界で活躍する指揮者」へと変貌を遂げることに成功しました。


また、1997年に母校のプラハ芸術アカデミーの指揮科教授に就任して後進の育成にも尽力し、門下からブルノ国立歌劇場元音楽監督のトマーシュ・ハヌス、プラハ・フィルハーモニア音楽監督のヤクブ・フルシャ、プラハ国民劇場首席指揮者のトマーシュ・ネトピルといったチェコを代表する30歳代、40歳代の指揮者が巣立っています。


70歳代を迎え、チェコ・フィルとともにこれまでの音楽活動を大成させる時期に至ったビエロフラーベクさんであっただけに、がんによる闘病生活を送っていたとはいえ71歳での長逝は惜しまれるところです。


今後、門下の俊英や次の世代の指揮者たちがビエロフラーベクさんの衣鉢を継いでチェコの音楽界を支えることが期待されます。


<Executive Summary>
Critical Biography: Jiří Bělohlávek, His Frustration and Glory (Yusuke Suzumura)


Jiří Bělohlávek, CBE, the Principal Conductor of the Czech Philharmonic Orchestra (CPO), had passed away at the age of 71 on 1st June 2017. He was a kind of prodigy and once was appointed to the Principal Conductor of the CPO when he was 44 years old, but he lost the position by the voting of the members of the CPO. After this frustration, he became an international conductor and was recognised as one of representatives came from the Czech Republic.


Trackback URLhttps://researchmap.jp/index.php?action=journal_action_main_trackback&post_id=61493
17:06 | Impressed! | Voted(5) | Comment(0) | Trackbacks(0) | 評伝