錯視日誌 - はじめに -

 
 錯視日誌では、研究、教育、アート,その他のことについて、いろいろなことを書いています。数理視覚科学の研究から生まれた学術的な新しい錯視図形や錯視アートの新作も発表しています。もともとは文字列傾斜錯視日誌という名前で、文字列傾斜錯視自動生成アルゴリズム(新井・新井、特許取得、JST)による作品の発表を中心にしていましたが、文字列傾斜錯視以外の話題が多くなってきたので、名称を「錯視日誌」に変えました。

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2017/11/05

バナッハの線形作用素論とサクスの積分論 雑感

Tweet ThisSend to Facebook | by araih
 1932年にS.バナッハが『線形作用素の理論』という数学史上極めてモニュメンタルな著書を出版した。この本が関数解析を数学の一つの分野として立ち上がらせたと言われている。元々はポーランドの出版社から「Monografie Matematyczne」というシリーズの一つとしてフランス語版が出版されたのだが、1987年に英訳が刊行され、今では Dover 社の廉価版が出ている。
 このバナッハの本を見ると、優れた数学書ではしばしばあることだが、全く古さを感じさせない。現役の関数解析の教科書とそれほどの違いがないのである。もちろんこの本の後に得られた定理は書かれていないので最新の話題というわけにはいかないが、それにしても根本的なスピリットに変化はない。言い換えれば、関数解析学の教程が、すでに創始者の手による最初の本で決定していたと言えるだろう。むしろ、かえってこの古いバナッハの本の方が、大筋がくっきりとしていて、応用で飾り立てた本とは違った推進力を感じることができる。
 まさに、古典的名著ここに有り、である。




 ところで、この本と同時に、最近筆者が填まっているのが、サクスの『積分の理論』である。これも原著は 1937 年に「Monografie Matematyczne」の一つとして出版されたもので、1964年に英訳がDoverから刊行され、2005年に新装版となっている。この本では、関数の微分とルベーグ積分の関係が詳細に解説されている。曲面 z=F(x,y)の曲面積に1章を割いているのも、ルベーグの学位論文の影響がまだ新鮮だったであろう時代を感じさせる。付録にバナッハが書いた「ハール測度について」と「抽象的空間における積分論」という小論も掲載されている。
 サクスの『積分の理論』は、実函数論の古典的な定理の宝庫である。このような古典的な実函数論の優れた書物が現在でも入手可能であることは喜ばしい。人はいつ引き出しから古いものを取り出し、それを磨き上げて新しいものに発展させるのかはわからないものである。



 余談だが、志賀浩二先生の『無限からの光芒』(日本評論社)によると、サクスには次のようなエピソードが残されている。バナッハとシュタインハウスがある論文を執筆し、学術誌に投稿した。その論文のレフェリーがサクスであった。サクスはこの論文の主要定理の証明が、カテゴリーの考え方を使うと簡単になることを見出し、著者たちに送った。著者たちはレフェリーの提案を入れてカテゴリーを用いた証明に変えた。じつは、これが関数解析にカテゴリーを使った最初であった。今ではその功績がバナッハとシュタインハウスに帰せられているが、じつはサクスによるものであったそうである。
 同書によれば、サクスはナチスに殺害されたとのことである。


前回までの『私の名著発掘』はこちらへどうぞ
https://researchmap.jp/joqw0hldv-1782088/#_1782088

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