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2013/01/08

高崎卓馬氏の無意味な文書を掲載した東京五輪招致委員会の不明

Tweet ThisSend to Facebook | by suzumura

東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会は、「なぜ東京にオリンピックを招致する必要があるのか」という点を宣伝するため、著名人やオリンピックに出場した経験のある選手などによる文章を掲載しています。


その第一弾として公開されたのが、高崎卓馬氏による「2020年以降の日本のために絶対に必要なもの。カッコつけてなんとなく反対とか言わないで欲しい。」という導入文が付された文章です1


高崎氏が寄稿した内容は以下の通りです。


津波の直後、東北に行った。

帰りに自分にできることを必死に考えた。

未来をつくるために、仕事をつくりだすために、
大きな経済効果があるものをもってこないといけないって本気で思った。

東北にオリンピックを持ってきたいと思った。


それから個人的にひとをたどってどうやったら実現できるか考えた。

まず、地元のひとが「欲しい」と思う必要があった。

復旧に心も体もすべてを使うひとたちにその余裕はなさそうだった。

僕はそれでも、2020年になった時のことを考えてほしいと言い続けた。
地元の有力者を訪ね回って説得した。

意見をまとめて、県庁に乗り込んだ。


でもまだそのときの宮城には2020年はまだ遠く、
招致の体力も、政治的な意味もからみ、
招致の中心になる決意まではたどり着けなかった。
悔しかった。

すべてのひとが賛同してくれるのに実現できないものがある。

そのことが悔しかった。
けれど

その帰り道。

僕はひとつのことに気がついた。

東北はニッポンだ。
ニッポンのためになることをやる。

それは東北のためにもなる。

僕たちが復興しなくてはいけないのはニッポンだ。

東北だ、東京だ、と見えない線を引いて
意識を小さくしているのは間違っているかもしれない。
ニッポンのオリンピックを東京でやりたい。

東北のためになることを、
きちんと開催計画、招致の過程すべて、に盛り込んで
大きな経済効果をつくって、
ひとつの目的をもつことの楽しさや、気持ちよさをつくりたい。


できることをひとつひとつやっていきたい。
この国のために。
ただのCMプランナーなんだけど。

 

2013年に開催国が決まる。


この文章は、2020年に宮城県でオリンピックを開催するために活動したが実現させることができなかった高崎氏の体験を前段とし、後段では、「東北はニッポンだ。ニッポンのためになることをやる。それは東北のためにもなる。僕たちが復興しなくてはいけないのはニッポンだ。」という着想を得た高崎氏が東京でオリンピックを開催することの重要性を訴える、という内容になっています。


高崎氏が宮城県でオリンピックを開催するために具体的にどのような活動を行ったかについて、残念ながら私は詳らかに知らないため論評は控え、もっぱら、後段で取り扱われている、東京でオリンピックを開くことの重要性を訴える内容を吟味します。


「東北はニッポンだ。ニッポンのためになることをやる。それは東北のためにもなる。僕たちが復興しなくてはいけないのはニッポンだ。」という展開は、「東北はニッポンだ」と「ニッポンのためになることをやる」との間に、何らの因果関係も、推論上の連続性もないことは明らかです。何故なら、「東北はニッポンだ」ということは事柄の認識に関わることであり、「ニッポンのためになることをやる」は意志ないし企図を示すため、思考の範疇としては種類を異にするからです。


また、「ニッポンのためになることをやる」こと、「それは東北のためにもなる」のであり、それは「僕たちが復興しなくてはいけないのはニッポンだ」からだ、という立論も、必然性はなく、蓋然的な妥当性しか有しません。「ニッポン」と「東北」の間の関係が、「ニッポン」を上位の概念とし、「東北」を下位の概念とするなら、上位の概念である「ニッポン」に有益なことは下位の概念である「東北」にとっても有益かもしれないものの、そうではない可能性は排除されていないこと、また、「ニッポンのためになることをやる」と「復興しなくてはいけないのはニッポンだ」という二つの事柄の間には、やはり必然的な関係性がないからです。


従って、この箇所は一見すると何らかの論理的な命題を証明するかのような形式を取りながら、実は論理性をまったく有さず、単に高崎氏の決意、あるいは主張を述べているに過ぎません。


さらに、高崎氏は「東北だ、東京だ、と見えない線を引いて意識を小さくしているのは間違っているかもしれない。ニッポンのオリンピックを東京でやりたい。」と唱えるものの、オリンピック憲章第33条第4項において「全ての立候補都市のある国の中央政府は、法的な拘束力のある文書を IOC に提出し、その中で、その国と当局がオリンピック憲章を遵守しかつ尊重することを、当該政府が約束、保証しなければならない。」とオリンピックの開催における国家の関与を明記するものの2、第34条は開催権のものは国家ではなく都市に与えることを命じますから3、「東北だ、東京だ」という区分けは、決して「見えない線」ではなく、目に見える線となります。


その意味で、高崎氏は、オリンピックの基本というべき事項に無知であるか、あるいは当然知るべき点を故意に無視したかのどちらかであると言えるでしょう。


そして、「東北のためになることを、きちんと開催計画、招致の過程すべて、に盛り込んで大きな経済効果をつくって、ひとつの目的をもつことの楽しさや、気持ちよさをつくりたい。」というとき、「気持ちよさをつくりたい」という行為の主体が高崎氏であるか、東京の人か、東北の人か、日本の人か、あるいは他の人々であるのかを明示しないことは、多様な読み方を許すという点では巧妙ではあるものの、東京での開催を主張しながら「東京の人たち」と明記し得ない点で、説得力を欠くと言えます。


このように、高崎氏の文章は、あたかも何かを言っているかのようでありながら何も言っていない、空疎な文字の羅列であることは明らかです。


確かに、宣伝の文言の一つひとつを取り上げてその意味や論理的な整合性、あるいは説得性を問うことは、不毛なことかもしれませんし、「まあ、そう思う人もいるってことか」と考えるのが妥当な態度かもしれません。


それでも、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会が「東京にオリンピックを招致することの必要性を訴える」という目的で掲載する以上、そこには説得的な議論が掲載されるべきであることに変わりはありません。


それにもかかわらず、招致委員会が思わせぶりで空虚な文字の連なりを堂々と掲げるとすれば、それは、単に招致委員会の不名誉だけに留まらず、そのような招致委員会の活動を監視し得ない、立候補都市東京の住民の不名誉ともなるのです。


東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会には、高崎氏の不見識な文章を即時に撤回することと、今後はぜひとも実のある議論を掲載することが望まれます。


そして、「2020年以降の日本のために絶対に必要なもの。カッコつけてなんとなく反対とか言わないで欲しい。」と言いながら、東京でオリンピックを開催することが「2020年以降の日本のために絶対に必要」であることを示しえなかった高崎氏対して、われわれは次のように言うことができるでしょう。


「カッコつけてなんとなく賛成とか言わないで欲しい」と。


1 Why招致/日本にオリンピック・パラリンピックを呼ぶ理由. 東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会, 掲載日不詳, http://tokyo2020.jp/jp/whybid/ (2013年1月8日閲覧).
2 オリンピック憲章第33条第4項. オリンピック憲章2011年版・日本語, 2011年, http://www.joc.or.jp/olympism/charter/pdf/olympiccharter2011.pdf (2013年1月8日閲覧).
3 オリンピック憲章第34条. オリンピック憲章2011年版・日本語, 2011年, http://www.joc.or.jp/olympism/charter/pdf/olympiccharter2011.pdf (2013年1月8日閲覧).


<Executive Summary>
An Odd and Meaningless Advertisement by Tokyo 2020 Bid Committee and Mr. Takuma Takasaki (Yusuke Suzumura)


An official website of Tokyo 2020 Bid Committee runs promotional statements by some Olympians or famous people. On the first part of these statements, a comment by Mr. Takuma Takasaki is available. However his phrases are meaningless and illogical and the Committee shall take a hard look at themselves for running such odd comment on their official website.


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