講演・口頭発表等

招待有り
2022年3月5日

シダ植物の群集形成および系統分類学的研究

日本植物分類学会第21回大会
  • 新田ジョエル

開催年月日
2022年3月4日 - 2022年3月6日
記述言語
日本語
会議種別
口頭発表(招待・特別)
開催地
オンライン

分子系統解析の時代に入ってからこの約30年間、シダ類が小葉類ではなく種子植物の姉妹群であることや、トクサ目がシダ類の仲間であることなど、シダ植物の系統樹に関する革命的な事実が次々と発見されてきた。一方で、シダ植物に関しては、その高次倍数体の多さや完全に独立に生息できる配偶体と胞子体からなるライフサイクルの特殊性の為に、いまだに解決されていない問題が多く残されている。私の研究では、特にフィールド調査を基礎とする群集生態学的なアプローチだけではなく、分子系統学とビッグデータ解析をも用いる総合的な手法によってシダ植物の進化と生態学の理解の深化を図る研究に従事してきた。
本講演では、まずフランス領ポリネシアのタヒチ島とモーレア島のシダ植物を研究対象としたシダ植物の両方のライフステージをサンプリングした系統群集的な解析を紹介する。シダ植物の配偶体が受精という極めて重要な役割を果たしているにもかかわらず、その個体の小ささから、胞子体に比べて生態学研究が著しく進んでいない。本研究では、DNAバーコードによって配偶体を1300個体以上種同定し、配偶体と胞子体の分布の違いを明らかにした。これにより、シダ植物において配偶体より胞子体の群集構造の方が環境に影響されやすいことを示し、シダ植物の進化が気候変動に今後どのように反応するか予測するためにも重要な発見があった。さらに、コケシノブ科において胞子体と配偶体の乾燥耐性の比較研究を行い、二つのライフステージは群集構造が異なるだけでなく、生理学的な面でも異なっていることを示した。そして、木に着生するシダ植物と地上性シダ植物の形態的特徴を比較し、着生種が全体的に小さい葉を持つにもかかわらず、群集レベルの解析によって、地上性シダよりも形態的な多様性が高いことを示した。
最後に、現在行なっているシダ植物全般の進化に関わる研究を紹介する。本研究では、地球全体規模でのシダ植物の研究に向けて、GenBankのデータを自動的にダウンロードし、最新の系統樹を作るシステムを構築している。これにより、常に最新で最多の種数を含む系統樹を誰でも手に入れることができ、様々な進化・生態学的な解析に利用できるようになる。また、この系統樹はシダ植物の分類体制にとって重要な資料になると期待している。