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(2010 年 4 月 30 日「研究ブログ」に設置)

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2015/10/14

文字通りの幾何

Tweet ThisSend to Facebook | by Takebe
数学の現場を撮ったドキュメンタリー映画を見てきました。全世界初公開!E. Eremenko 監督の「文字通りの幾何 Буквальная геометрия (英語の題は The Discrete Charm of Geometry)」という映画です。

HSE 数学学部の元学部長 Lando 先生の所に招待が来て、数学関係者は誰でも来て良い、という話だったので行ってみました。監督と主演男優?の挨拶もあるというので…。実は、「主演」というか主役になっているのは A. Bobenko 氏。可積分系、特に離散可積分系を幾何学に応用し、更にコンピューター・グラッフィックスにも繋げている数学者。私の業界では有名人ですが、招待状に載っていた写真にドーンとアップで写っていて、「これはもしかして可積分系の映画?!」と気になったわけです。

映画は、Bobenko 氏とその周辺、特にベルリン工科大学を中心とするドイツの特定領域研究 "Discretization in Geometry and Dynamics" (SFB/TRR 109) で行われている研究の現場を撮りつつ、数学者の仕事に対する心情をインタビューする形式。数学屋さん向けに一言で言っておくと、やっている研究は離散化された曲面とその共形写像の研究で、CG にする所まで含んでいるようです(「普通の幾何では『存在と一意性』のような良い定理はあっても、構成的ではないことがあるが、我々がやっている離散幾何では『存在と一意性と構成』ができます」というのは Bobenko 氏のセリフ)。

映画の最初の方、研究会の場面で Bobenko 氏が「A を立体にして、その表面を離散化して平面に共形的に写す方法はよく分かっている。次の問題は B だ。これはよく分かっていないことが沢山ある」と言う場面があり、これがロシア語原題の元。映画では言ってませんが、もしアルファベットを立体にすると「A, D, O, P, Q, R」と「B」と「C, E, F, G, H, I, J, K, L, M, N, S, T, U, V, W, X, Y, Z」の三つの組に分かれます。各組の文字に共通の性質はな〜んだ、ってのはなぞなぞにありそうですが、「『穴』が一つあるか(グニャグニャ変形するとドーナツ型になる)、二つあるか、無いか(変形するとボール状に出来る)」の違いで、2つ穴の場合は他の二つに比べて数学的に格段に難しくなります。映画の最後に研究成果の?離散共形写像を使った「A」と「B」の模型を作っていました(どういう特異点があるかが大事)。

但し、この映画には数学の中身を観客に説明する意図は全く無く、研究現場(研究会、黒板の前での議論など)の雰囲気や数学者の数学へ向かう各人各様の姿勢を紹介するのが主眼。ですから、数学をご存知ない方や数学者でも非専門家には、出てくる数学そのものは雰囲気が分かる程度でしょう。逆に専門が近い私には無駄のないスピード感があって嬉しいです。

Bobenko 氏は応用にも積極的で、建築家と議論したり、ルーブル美術館とかエッフェル塔の改修工事の現場へ行って撮っているので、そういう場面は数学者に限らず楽しめるかも知れませんが、全体としては割と淡々とした感じですから、非数学者の方にどれくらいアピールするのかは私には正直に言って分かりません。しかし「現場の雰囲気」という点では「そうそうこんな感じだよね」と親近感がありました。Bobenko 氏が上映後に質問に答えて「最初の内は議論の最中を撮られると戸惑ったが、すぐに慣れた。もちろん監督も気をつけてくれたが」と言っている通りで、本当の(やらせではない)現場の議論ですから。

登場した数学者で私が分かったのは、A. Bobenko, A. Its, U. Pinkall, J. Nash など。物理学者の F. Dyson も出ていました。

十月から十二月にかけて "festival of actual scientific films" という、最近の科学映画をロシアの大学で無料で上映する、という催しがロシア文化省の後援で行われていて、そこで上映される映画の一つだとか。Festival のポスターにこの映画のワンシーンが使われています(他に Particle Fever (2013 アメリカ), Disaster Playground (2015 アメリカ), Alce cares (2015 オランダ), Planetary (2015 アメリカ) などなど;プログラムはこちら(その内にリンク切れるかも))。日本ではこういう催しは無理かな?
05:12 | Impressed! | Voted(2) | Comment(0) | 書評