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2013/08/17

ヤマトシジミの内部被曝について:続報

Tweet ThisSend to Facebook | by あだちしゅん
以前記述したヤマトシジミの内部被曝について、続報が出ていました。読んだ感想は、以前の論文に関して示された数々の疑義に関して、概ねきちんと答えられているということです。サイエンスの世界では論文に疑義のある場合は論文で反論し、そのまた反論も論文で行うという作法があります。私の師匠も何度もこういったことをしていました。ネット上で必要以上に騒ぐのは、サイエンティストとしてはあまり宜しからぬ態度であります。

 

続報では以下の11のポイントについて説明が為されていました。

 

1. ヤマトシジミが放射線のindicator speciesとして相応しいか

 ->私はチョウの生態や分類に詳しくないので、コメントは控えます。

2. ヤマトシジミの形態異常は緯度に依存したものでないか

 ->福島原発の周辺のみで形態異常の頻度が増加し、それより高緯度でも低緯度でも頻度は低い。

3. ヤマトシジミの成育阻害は福島原発周辺でのみ見られること

4. ヤマトシジミの形態異常は温度の効果に依るものではないか

 ->温度による形態変異と福島原発周辺での形態異常は異なり、福島原発周辺の形態異常は人工的に被曝させた時の異常に酷似している。(Jun T.さんも昨年同様のことを述べておられました。

5. ヤマトシジミの形態異常とされているものは福島原発周辺の地域性のものではないか

 ->今回の形態異常は過去のサンプルの形態とは異なる。

6. 形態異常の頻度は福島原発周辺のカタバミによる内部被曝下の飼育で世代ごとに増加し、遺伝性があると見られること

7. 福島原発周辺、沖縄のヤマトシジミの内部被曝やEMSDNA傷害剤)による実験で同様の遺伝性の形態異常が見られること

8. ヤマトシジミの形態異常は津波や地震に直接影響を受けている訳ではないと考えられること

9. サンプルサイズは最低限のレベルは確保されていると考えられること

10. 飼育条件は問題ないと考えられること

11. 被曝の操作実験の重要性

 

問題となっている被曝量は100 mSvのオーダーなので、突然変異を誘発する損傷乗り越えDNA合成の効果が最も顕著に現れやすい被曝量だと考えられます。突然変異はDNAの傷を乗り越える際に誘導される誤りがちなDNAポリメラーゼが原因で起こるので、被曝量が増えるほど起こりやすくなります(放射線感受性に関する覚書参照)。被曝量があまりにも大きくなると生物は死んでしまいますが、生きるか死ぬかの瀬戸際辺りで突然変異の個体の割合は一番高くなり、被曝量を横軸、突然変異の割合を縦軸にした曲線は上に凸となります。今回の被曝量はそのピークに近いと考えられます。

 

ここで注意しなければならないのは、この論文ではヤマトシジミは放射線に弱いindicator speciesとして記載されており、より放射線に強いと考えられるヒトの被曝とは状況が異なることです。ヒトは100 mSvオーダーの被曝では生存率にヤマトシジミほどの顕著な差は出ません。福島の住人の方々の放射性セシウムによる内部被曝は問題のある程高い訳ではなく、放射性ヨウ素に関してはグレーゾーンの方が若干名おられる可能性がある程度で、正確には分からないレベルです。ヒトの個体の中でも単一遺伝子のホモの変異で400倍くらい感受性が高くなる場合があり、その割合は0.25%ほど、片方の遺伝子に変異が入ってリスクの高いヒトの割合は5%ほどもあります。同じ種内でもこうなのですから、ヤマトシジミのような別種で放射線感受性が高くても何ら不思議はありません。ショウジョウバエのデータから考えると感受性が出るのはおかしいという批判もありましたが、ショウジョウバエもヤマトシジミとは異なる種なのでこの批判は同様に当たりません。福島原発の事故で多量の放射性物質が放出されたのは事実なので、放射線に弱い生物に影響が出ても何ら不思議はありません。

 

前回の報告の「ヤマトシジミの形態異常は被曝とは関係のない沖縄のヤマトシジミの外部/内部被曝によっても再現された」というデータには、目立った反論はなかったと続報では書かれています。私もこのデータは捏造だと騒がない限り反論しようがないと書いていたので、リーズナブルな結果だと思います。この仕事の改善点について強いて言えば、以前述べたように沖縄のヤマトシジミの個体群に放射性物質の含まれた福島のカタバミの葉を食べさせた後のF1/F2世代に、今度は放射性物質の含まれない沖縄のカタバミの葉を食べさせ、生存率の低下と形態異常の増加がまだ観られるようなら、F0世代の内部被曝に依る突然変異の影響を観ている可能性がよりいっそう強まったのではないかと思われます。

 

今回のヤマトシジミの続報は、サイエンスの作法に則ったものだと思います。前回も今回もオープンアクセスの論文であるのも配慮があると言えるでしょう。前回の論文はあまり良くデザインされた論文ではないとは言えると思いますが、捏造だとか売名行為だとまで言われる筋合いの論文ではないと思います。サイエンスの議論において、政治的な立場や感情論に基づいた批判を行うことは適切でありません(私も政治的には著者の方とは立場を異にします)。今回の続報への反論もやはり論文の形で行うべきでしょう。

 

 

 

 


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