錯視日誌 - はじめに -

 
 錯視日誌では、研究、教育、アート,その他のことについて、いろいろなことを書いています。数理視覚科学の研究から生まれた学術的な新しい錯視図形や錯視アートの新作も発表しています。もともとは文字列傾斜錯視日誌という名前で、文字列傾斜錯視自動生成アルゴリズム(新井・新井、特許取得、JST)による作品の発表を中心にしていましたが、文字列傾斜錯視以外の話題が多くなってきたので、名称を「錯視日誌」に変えました。

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2017/09/24

微分積分学の誕生とニコラウス・クザーヌス

Tweet ThisSend to Facebook | by araih
 たまたま書店で手に取った『微分積分学の誕生』(高瀬正仁著、SBクリエイティブ、2015)をぱらぱらめくっていると、ニコラウス・クザーヌスの肖像画が目に付き、どうしても読みたくなり購入してしまいました。クザーヌスは15世紀のドイツの神学者・哲学者です。私は神学を専門にしているわけではないのですが、クザーヌスとは何か縁のようなものがありました。じつは中学時代にドイツで通っていた学校の校名がニコラウス・クザーヌス・ギムナージウム(Nicolaus Cusanus Gymnasium)だったのです。そのため前々からクザーヌスがどういう人なのか、興味だけはもっていて、クザーヌスについて書かれた本なども買ったりしていました。ただその本はもっぱら神学に重点がおかれており、専門が離れているせいかそれほど読むこともできず、ほとんど積ん読でした。
 ところが『微分積分学の誕生』を見てみると、クザーヌスの専門書でないにもかかわらず、彼の学説の要点が数学の視点から端的にまとめられており、小伝まで付いていました。しかもその解説は私にとっては非常にわかりやすいものでした。これまで私が読んだ(それほど多くない)数学史の本の中では、クザーヌスにかなりの比重が置かれているといえるでしょう。特にライプニッツへの影響が詳しく記されています。この本によると、ライプニッツが曲線を
「無限小の辺を無限に連ねて形成される多角形」
と捉えた発想の淵源はクザーヌスにあったそうです。高瀬氏は次のようにも記しています。

 『実際にデカルト、フェルマー、ライプニッツと、三者三様の接線法が現れました。唯一の普遍的な答えがあるわけではなく、ライプニッツの場合にはクザーヌスの神秘思想の影響が感知されます。』(『微分積分学の誕生』(高瀬著)、p.159より引用)

 今からすれば、微分積分が神秘思想とつながるのはおかしく感じますが、当時は微分あるいは無限小という考え方はそのくらい得体の知れないものだったのでしょう。しかしその後の微分積分の役割を考えると、クザーヌスからライプニッツへの継承は、神秘主義から科学への飛躍と言えるのかも知れません。このように、多くの学者が神秘として厳密には扱えないようなものが、明晰な数学理論として捉えられ始めるとき、科学の理論的側面に大きな発展が起こるようです。

 ところでインターネットで検索すると、まだ Nicolaus Cusanus Gymnasium は健在で、その公式サイトのトップには次のように書かれていました。

Das NCG ist ein Gymnasium mit bilingualem deutsch-englishen Bildungsgang und mathematisch-naturwissenshaftlichem Schwerpunkt, das durch seine Gruendungssurkunde von 1951 den Leitideen des Nicolaus Cusanus verpflichtet ist.
  Sis hoc quod vis! -Sei das, was du willst!
  (Nicolaus Cusanus, 1456)
NCGはドイツ語-英語のバイリンガルな教育課程をもち、数学-自然科学に重点をおいた中高学校で、1951年の創立憲章以来、ニコラス・クザーヌスの基本思想に負っています。
 Sis hoc quod vis!  汝が欲するものであれ
 (ニコラス・クザーヌス、1456)

 Google map で調べてみると、友人たちと歩いた通学路のあたりは大筋、中学時代と同じ風景でした。日進月歩のインターネットで実感するのも変ですが、昔居たことのある所がほとんど変わっていないというのも感慨深いものです。

前回までの『私の名著発掘』はこちらへどうぞ
https://researchmap.jp/joqw0hldv-1782088/#_1782088

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