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2016/01/29

体細胞ゲノム編集治療に関する論文を発表

Tweet ThisSend to Facebook | by Tetsuya

体細胞ゲノム編集治療はすでに臨床応用が進んでいるが、リスクをどう評価し、患者に説明すべきか

目下、ゲノム編集という先端遺伝子工学はすでに臨床応用段階に到達している。米国ではZFNCCR5を破壊したT細胞をエイズ患者に投与した臨床試験で安全性が確認されているが、一方、ゲノム編集のオフターゲット効果の評価方法は未だコンセンサスがありません。今後、世界的に多くの臨床試験が進むとみられますが、過去の遺伝子治療臨床試験で副作用による被験者死亡という教訓をふまえ、ベネフィットのみならず、リスクをどう評価し、患者に説明するか統一した見解を作る時期にきているのではないでしょうか。ゲノム編集のリスクをどうとらえ、どのような評価をすべきか検討しました。

 

Exvivo somatic editing, in vivo somatic editing, in vitro germline editingを比較すると、Ex vivo somatic editingが研究の進展状況、医療コンセプトを考えると現在最も有望であり、今後急速に臨床試験が増え、現実的な医療に発展すると考える。

・つまり、投与細胞のリスクが評価されていれば、適切なリスク情報を提供した上で患者同意をとることができるし、また、オフターゲット変異が発見されたなら、投与を中止すればよい(iPS由来網膜移植の臨床研究における2例目で同様事例があった)。
・受精卵編集もオフターゲット変異があれば子宮移植をやめることができるが、この場合数個のバイオプシーした胚細胞に遺伝的解析が依存するため、正確な評価は現状困難であり、また生殖細胞系遺伝的改変固有の倫理的問題が大きいため、今推奨できるものではない。
In vivo editingは、患者全身における効果の評価が困難である。人工のヌクレアーゼを人体に導入するという前代未聞の医療であることに留意しなければならない。

・ゲノム編集の過程で全く企図していない部位にDNA鎖の切断(オフターゲット効果)を生み、それらはオフターゲット変異、Indelといった小さな変異や、レアだが染色体レベルの巨大な異常にもつながりうることが最近明らかになってきた。

・ゲノム編集酵素を設計する際、細胞株を使い、特異性の検証は行われている。だが、その方法はさまざまあり、現在最も精度が高いのはWhole genome profilingと呼ばれるものである。しかし、それも、Digenome-seqGuide-seqなど方法論があり、研究コミュニティでコンセンサスはない。

・私たちは、医療応用に際しては、ゲノム編集酵素の設計時のWhole genome profilingによる特異性検証のみならず、臨床ケースが許す限り、投与細胞のオフターゲット変異の解析は、適正なコンセントをとるためには必須であると考える。

・臨床応用の場合、ゲノム編集酵素は患者のゲノム情報(SNPも含む)を考慮しつつ設計し、改変細胞はWhole exome-seqなど、合理と考えられる方法で厳格にリスクを評価すべきだ。

・最後に、西欧初の遺伝子治療製剤Glyberaが推定薬価、患者あたり1億円と目されることを考えると、将来、コストとアクセスの問題がゲノム編集医療にも生じるだろう。ゲノム編集医療の在り方を社会的に議論する時期を迎えつつある。今後大いに検討すべきだ。


発表論文(3月10日までフリーアクセスです)
Motoko Araki and Tetsuya Ishii
Providing Appropriate Risk Information on Genome Editing for Patients.
Trends in Biotechnology 34, p86–90, February 2016

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