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2010年4月 - 2010年4月

下部地殻レオロジーの実験的研究:延性破壊による地殻深部での震源核形成について


近年の地球物理学的観測網の発展により、下部地殻が地震学的に “active” であると考えられ始めた(Jackson, 2002)。インド楯状地では、従来上部マントル内で起こるとされていた地震を震源決定しなおした結果、これらの地震がMoho面上部の下部地殻内で起きていることが明らかになった(Maggi et al., 2000a, b)。さらに、地表に露出する実際の下部地殻岩石中から、温度約800 ºC, 圧力約1 GPaという条件にもかかわらず、地震発生の痕跡であるシュードタキライトの産出が報告されており(Austrheim & Boundy, 1994)、下部地殻が地震を発生しうるほど強度が高いことを裏付けている。しかし、実際の下部地殻という高温高圧下でどのように地震の核形成(岩石の摩擦すべりおよび破壊)が始まるかについては明らかになっていない。
下部地殻岩石のレオロジーとして、Rybacki et al. (2008) は、ガス圧式試験機(封圧400 MPa = 深度約15kmでの制岩圧に相当)を用いた、剪断変形実験から、細粒斜長岩の延性破壊が、下部地殻中での震源核形成の一因となることを指摘した。彼らの実験では、高歪で粒界に存在する微小空洞(キャビティ)が、巨視的な剪断面へと成長し、試料の延性破壊を引き起こすことが観察されている。さらに、天然のマイロナイト中の斜長石多結晶体からも、キャビティ形成による破壊面の存在が観察され(Shigematsu et al., 2004)、キャビティ形成とその発達が、地殻深部での破壊核形成の一因となる可能性が指摘されている。一方、金属学の分野では、高圧下では、空洞の発生と引き続く延性破壊が抑制されることが知られており、低封圧で行われたRybakcki et al. (2008) の実験結果を、より高圧の下部地殻へと応用出来るかどうか(つまりキャビティ形成の圧力範囲)という点については不明である。
地殻深部でのキャビティ形成による地震核形成の可能性について、下部地殻に相当する圧力を発生することができるGriggs型試験機(封圧 ~ 1.4 GPa)を使い、下部地殻相当の圧力下でもキャビティ形成による延性破壊が起こるかどうかを調べる必要がある。そこで、本研究は、Griggs試験機を使い、斜長石多結晶体の高圧下でのキャビティ形成の可能性について調べ、下部地殻中での震源核形成機構について言及することを目的とする。