2010年4月 - 2013年3月
セラピーツーリズムと自己物語にみる〈ライフポリティクス〉の民俗学的研究
日本学術振興会 科学研究費補助金特別研究員奨励費(研究課題番号:10J07601) 特別研究員奨励費
本研究は「心」や「経験」を商品化したツーリズムの社会的成立条件を分析し、そうした移動行為への参与観察や参加者へのインタビューを行うことで,高度消費社会に特徴的な自己や主体の形成過程を明らかにすることを目的とした。2年目にあたる平成23年度は、前年度までの実地調査でのデータ分析、理論枠組みの洗練作業、そしてアメリカやドイツの民俗学会・研究所での成果相対化が実施作業の中心となった。事例の検討は(1)2010年度末に行った沖縄でのスピリチュアルツーリズムの調査、(2)2011年夏期新潟県佐渡島にて行った短期農村移住者への調査に関して行った。調査ではこれらの移動実践を行った人々への生活史調査を行ったが、それらの語りの分析から導き出された一つの強い傾向は「脱イデオロギー性」とも言うべき、自己の経験を大きな物語へと回収されることを強く拒む志向性である。たとえば沖縄の聖地を旅する人々は自身に「信仰」が無いことを強調し、スピリチュアリズムや神秘主義といった宗教類型への文脈化を拒み、他方農村移住者も環境主義や農本主義的といった思想とは自らが無縁であることを語りの上で強調する。ここに見られるのは、実践上の動機をあくまで個人の意思や生活歴に位置付けようとする傾向であり、宗教研究で言う一種の私事化の表れであるが、自己が焦点化されている点に経験消費経済に顕著な特徴を窺うことができる。イデオロギーに対するリアリティーの衰退と、「自己」や「経験」への内閉化がパラレルな関係であるとすれば、それはどのようにして進捗したのか。今後はこれまでの質的データや理論枠組みを統合する形で上記の問いへの道筋を示す予定である。
- ID情報
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- 課題番号 : 10J07601
- 体系的課題番号 : JP10J07601