共同研究・競争的資金等の研究課題

2019年4月 - 2022年3月

国際刑事裁判所規程における幇助犯の研究

日本学術振興会  科学研究費助成事業 特別研究員奨励費  特別研究員奨励費

課題番号
19J01653
担当区分
研究代表者
配分額
(総額)
4,030,000円
(直接経費)
3,100,000円
(間接経費)
930,000円

本年度は、国際刑事裁判所(ICC)における幇助犯の客観的要件としての「寄与」の内実の明確化を目的に、①国際刑事法廷の判例調査と②ドイツ刑法の調査を行った。
①では、ICCおよびアド・ホック国際刑事法廷の裁判例を分析した。かつての判例には、軍隊が犯罪を行った際、移動手段等を手配した事務担当者のような、組織のルーティン業務を担ったに過ぎない者の幇助犯成立を否定すべきとの発想から、行為が犯罪の援助に「特に向けられていたこと」を要求した例がある。この問題は、日独で「中立的幇助」として論じられており、国内法の議論が国際刑事法廷でも有用であるとの結論に至った。この点については京都大学国際法研究会で報告を行い、ドイツ法調査の基盤を構築した。
②では、ドイツ刑法上の中立的幇助を調査した。その結果、ナチス時代の強制収容所の経理担当者が、30万人のユダヤ人虐殺の幇助とされた例の存在が判明した(BGHSt 61, 252)。連邦通常裁判所は、経理業務という一般的職務行為も幇助にあたるとし、学説では、強制収容所等では全ての組織運営行為が中立性を失うとの指摘がある。他方、被害者のユダヤ人も収容所業務に従事させられた以上、幇助犯成立には限界もあるべきとの結論に達した。以上につき刑法読書会で報告し、国際刑事法廷の解釈に国内の議論を応用する足がかりを得た。
また、②との関係で、ドイツはICC規程上の、軍隊上官等の責任を拡大する「上官責任」概念を国内法化したところ、上官が犯罪を故意に防止しない場合、幇助犯と上官責任が競合することが判明した。ドイツ法上、幇助犯の下では「部下による犯罪につき」重い責任を問われる一方、上官責任では、犯罪の防止懈怠自体が軽い独立犯罪とされ、両者が競合する場合には幇助犯が優越する。本検討により、上官責任との関係での幇助犯の性質を明確化した。以上につき、刑法学会関西部会で報告を行った。

ID情報
  • 課題番号 : 19J01653