2020年9月 - 2022年3月
国際刑事裁判所における共犯の処罰限定原理の研究:中立的幇助の視点から
日本学術振興会 科学研究費助成事業 研究活動スタート支援 研究活動スタート支援
本研究の目的は、国際刑事裁判所(ICC)が管轄する中核犯罪の「周辺的関与者」(強制収容所の掃除・炊事係のように、犯罪組織の体制維持に寄与しているものの、組織の日常的職務を担当したに過ぎない者)の処罰の限界を探ることにある。採択1年目たる本年は、周辺的関与者の責任に取り組む前提作業として、ICC規程上の2つの共犯概念(「幇助犯」および「集団犯罪への寄与」)の基本的要件を整理するために、近時の国際刑事法廷の裁判例と、学術論文等を検討する作業を中心的に行った。
本年度の研究成果は、次の通りである。(1)ICC以前の国際刑事法廷(特にICTY・ICTR)の判例では、幇助の成立要件として、援助行為が正犯の犯行に対して「実質的な」(substantial)効果を有する必要があるとの定式が定着しており、初期のICCでも、これを踏襲し、幇助犯や集団犯罪への寄与といった共犯形態の成立のために、寄与に最低限の敷居が存在するとの立場が採られていた。このように、寄与に一定の「重さ」を要求することで、周辺的関与者による寄与を排除しようとの姿勢が見られた。(2)これに対して、近時のICC判例では、そのような寄与の最低限の敷居は、幇助犯・集団犯罪への寄与の成立要件としては不要との立場が定着しつつある。(3)一見、このような立場を厳格に貫くと、たとえば武力紛争の捕虜収容所において虐待がなされていることを知りつつ、収容所の掃除・炊事係として虐待体制維持に協力した者にも、直ちに犯罪が成立しかねない。もっとも、ICC規程上の共犯形態の下では、ICTY・ICTRの幇助犯よりも敷居の高い主観的要件(犯罪容易目的)が要求されているため、これを通じて周辺的関与者の刑事責任を限定できる場合もありうるとの中間的な帰結に至った。
以上の成果は、2021年度6月締切の所属大学紀要『信州大学経法論集』に投稿する予定である。
本年度の研究成果は、次の通りである。(1)ICC以前の国際刑事法廷(特にICTY・ICTR)の判例では、幇助の成立要件として、援助行為が正犯の犯行に対して「実質的な」(substantial)効果を有する必要があるとの定式が定着しており、初期のICCでも、これを踏襲し、幇助犯や集団犯罪への寄与といった共犯形態の成立のために、寄与に最低限の敷居が存在するとの立場が採られていた。このように、寄与に一定の「重さ」を要求することで、周辺的関与者による寄与を排除しようとの姿勢が見られた。(2)これに対して、近時のICC判例では、そのような寄与の最低限の敷居は、幇助犯・集団犯罪への寄与の成立要件としては不要との立場が定着しつつある。(3)一見、このような立場を厳格に貫くと、たとえば武力紛争の捕虜収容所において虐待がなされていることを知りつつ、収容所の掃除・炊事係として虐待体制維持に協力した者にも、直ちに犯罪が成立しかねない。もっとも、ICC規程上の共犯形態の下では、ICTY・ICTRの幇助犯よりも敷居の高い主観的要件(犯罪容易目的)が要求されているため、これを通じて周辺的関与者の刑事責任を限定できる場合もありうるとの中間的な帰結に至った。
以上の成果は、2021年度6月締切の所属大学紀要『信州大学経法論集』に投稿する予定である。
- ID情報
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- 課題番号 : 20K22051
- 体系的課題番号 : JP20K22051