共同研究・競争的資金等の研究課題

2018年 - 2020年

弾性表面波からの放射圧を用いた細胞接着の力学的特性の解明

文部科学省・日本学術振興会  科学研究費助成事業  国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)

担当区分
研究代表者
配分額
(総額)
15,080,000円
(直接経費)
11,600,000円
(間接経費)
3,480,000円
資金種別
競争的資金

iPS細胞を用いた再生医療などが注目される中,細胞の大量培養技術への期待が高まっており,手作業に頼っていた細胞の培養,剥離,回収,パターニングといった作業を自動化する必要がある.これまでに,培養基材に適切な固有振動モードを励振することで,酵素フリーで基材から細胞を剥離する手法や,回収・再播種を伴わない連続的な増殖培養を可能にする手法を開発した.また,培養チャンバから細胞懸濁液を回収する方法や細胞をパターニングする方法なども具現化した.しかし,細胞剥離メカニズムなどは不明であった.こうした手法を細胞培養のための基盤技術とするために,本国際共同研究では,弾性表面波(SAW)デバイスから発生する音響放射圧を培養ディッシュに対して領域選択的に照射することによって,プローブ等を必要とせずに非接触で細胞接着の力学的特性を明らかにすることを目的としている.
2018年度は,細胞の接着に関する力学特性を明らかにするために,音響放射圧の局所的な照射によって,細胞培養面の微小な領域から細胞を剥離できることを確認した.すなわち,国際共同研究先で製作を予定している弾性表面波(SAW)デバイスではなく、先鋭な超音波―ホーンを有するランジュバン型振動子を用いて細胞培養ディッシュ下方から集束した音響放射圧を培養細胞に照射する装置を製作し、代表的な接着性細胞であるマウス由来筋芽細胞株C2C12を微小な領域で剥離できることを明らかにした.また,SAWデバイスを用いることによって,より微小な領域への超音波照射が可能となるため,Focused SAWデバイスを設計し,国際共同研究先の研究室がこれを試作し,イースト菌を用いて局所的に超音波照射が可能であることを確認した.
本国際共同研究では当初計画において,研究全体を以下の3つのフェーズに分けた.(1) 力学特性測定装置の設計・製作と実験条件の決定(@慶應義塾大学),(2) SAWデバイスの開発と培養ディッシュへの放射圧の透過実験(@UC San Diego), (3) 細胞接着の力学特性の測定(@UC San Diego, 慶應義塾大学).2018年度は,このうち主に(1)に関する成果が得られた.また,2019年度にUC San Diegoに滞在して実施する予定の(2)のためのSAWデバイスの設計を行い,滞在予定研究室の学生の協力によってデバイスの有効性を確かめた.
以上のように,本国際共同研究の現在までの進捗は順調に推移していると判断している.
「現在までの進捗状況」で述べたように,当初計画の(1)~(3)に実行に向けて順調に推移している.当初,自身がUC San Diegoで行う予定であったSAWデバイスの製作がすでに滞在予定研究室の協力によって実施されているため,6月中旬に渡米後,本デバイスを用いて培養ディッシュに印加される音響放射圧の分布や強度を明らかにする実験に取り掛かる予定である.特に,細胞に印加される音響放射圧の定量は本国際共同研究の最も重要なポイントであるため,海外共同研究者であるJames Friend教授のSAWデバイスや音響放射圧の理論計算に関する豊富な経験や知見を元に実験計画や実施方法を決定する.具体的には以下の通りである.
4~6月(渡米前):James Friend教授との研究実施計画の事前打ち合わせ
7~8月:UC San Diegoでの実験実施のための準備(UC San Diego指定の講習の受講など)
9~11月:実験装置の組み立てと実施
12~3月:実験データの整理と成果発表の準備