共同研究・競争的資金等の研究課題

1994年 - 1996年

電子陽電子衝突装置LEP及びLEP-IIでのOPAL測定器による素粒子の研究

日本学術振興会  科学研究費助成事業 国際学術研究  国際学術研究

課題番号
06044046
体系的課題番号
JP06044046
配分額
(総額)
31,300,000円
(直接経費)
31,300,000円

CERN(欧州素粒子研究機構,在ジュネ-ブ)は、21世紀初頭まで素粒子物理学のエネルギーフロンティアをになう加速器として、世界最大かつ最高エネルギーの電子陽電子衝突装置LEPを建設した。東京大学素粒子物理国際研究センターを中心とするグループは、このLEPを用いた国際共同実験OPALにおいて、常に主導的な役割を果たしてきている。OPAL実験の提案および、その設計に重要な貢献をし、測定器の最重要構成要素の一つである電磁カロリメタの開発、建設をおこない、その運転、保守、改良を続けている。また、実験開始以来、大型計算機やワークステーションを用いて多量のデータを精力的に解析し、物理研究の最前線において活躍を続けている。
LEPは平成元年の運転開始から平成7年までは、電子陽電子の衝突エネルギーをZ^O粒子(弱い相互作用を媒介する質量約910億電子ボルトの中性粒子)の質量付近に合わせてZ^O粒子を大量に生成し、その生成、崩壊を詳細に観測することにより、素粒子相互作用の標準理論をLEP以前に比べて圧倒的な精度で検証し、また、素粒子の世代数が3であることを初めて決定するなど、この数年間の素粒子物理の進歩に重要な貢献をしてきた。平成7年後半からはLEPのエネルギー増強計画LEP2が開始され、平成8年には、W粒子(弱い相互作用を媒介する質量約800億電子ボルトの荷電粒子)を対生成できるエネルギーに到達し、歴史上初めて電子陽電子衝突実験でW粒子を直接詳細に観測できるようになった。これにより、標準理論を新しい角度から検証し、また、今までの約2倍の衝突エネルギーで実験を行なうことにより新しい粒子や現象が見えてくる可能性が開けた。
本科学研究費補助金(国際学術)の当該年度のうち、平成6年度と7年度にOPALは約270万のZ^O崩壊事象を記録した。実験開始から積算すると約500万のZ^O崩壊事象を記録したことになる。この大量のデータから得られた最近の主な成果を以下に示す。
(1)Z^Oの諸性質(質量、全崩壊幅、レプトン対およびクォーク対への部分崩壊幅、前後方非対称度、タウ-レプトンの偏極度など)のより精密な測定を行ない、電弱標準理論の精密な検証をおこなった。また、その結果から標準理論を使って、トップクォークの質量を正確に推定した。トップクォークは最近、米国テバトロン加速器により発見され予言どおりの質量であることが確認された。同様にW粒子の質量も正確に算出することができる。これをLEP2での精密な直接測定と比較することは理論の厳しい検証となる。
(2)Z^Oの崩壊から得られる大量のタウ粒子を使って、新しい手法により、実験的にあまり良く知られてなかったタウ-ニュートリノの質量に新しい制限を得た。
(3)ボトムクォークを含む中間子やバリオンの寿命や中性ボトム中間子の粒子-反粒子振動などを、様々な手法で画期的な精度で測定した。
(4)物質の質量の起源を与えるヒッダス粒子や新粒子の探索を幅広い角度から行なったが、このエネルギーでは発見されなかった。このような新粒子探索は、より高いエネルギーのLEP2に引き継がれた。
平成7年度11月にLEPはZ^Oから離れ、まず衝突エネルギーを約1.5倍に上げて実験を行なった。LEPは、必要な新技術開発を克服し予定通りの強度で電子と陽電子を衝突させることに成功した。東京大学の建設した電磁カロリメタも全カウンタ9440本が高性能を維持しており、OPALのほとんど全ての物理解析に重要な貢献をしている。平成8年度にはLEPは更にエネルギーを上げ、W粒子を対生成できるエネルギーに達した。LEP2でのこれまでの主な成果は以下のとおり。
(1)Wの質量は生成断面積から算出する方法と、検出器で一事象ごとにWの質量を再構成するという2つの独立な方法で測られた。今のところLEP全体でわずか数百のW対生成事象しかないが、他の加速器の実験による今までの結果と同じ程度の測定精度が既に得られた。
(2)標準理論から期待されるさまざまな反応を幅広く測定し、LEP2のエネルギーでも実験結果と理論の予言が良く一致していることを確かめた。標準理論を越える新物理から予想される僅かなずれと比較することでこれらに対する新しい知見が得られた。
(3)これまでの探索の結果、ヒッグス粒子はその質量が688億電子ボルトより重い事がわかった。また、超対称性粒子の探索も引つづきおこなわれ、超対称性理論のパラメーターに更に厳しい制限を与えた。また、これらの結果をもちいてグルイ-ノの質量にたいしても他の実験で得られたものより厳しい制限を与えることができた。
以上をはじめとする数多くの成果は逐次国際会議等で報告され、既に学術専門誌に発表されたか、または発表が決定している。現時点では、今までに収集したデータの解析及び来年度からの更に高いエネルギーでの実験準備を精力的に行なっている。Wの質量の精度を約5倍上げる等、測定精度を格段に上げることのみならず、いよいよヒッグス粒子や超対称性粒子が発見される可能性の高い領域であり、数多くの研究成果が期待されている

リンク情報
KAKEN
https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-06044046
ID情報
  • 課題番号 : 06044046
  • 体系的課題番号 : JP06044046