2003年 - 2005年
脳由来神経栄養因子(BDNF)の1塩基多型(SNP)の分子神経生物学
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特別研究員奨励費 特別研究員奨励費
本研究では、ヒト脳由来神経栄養因子(Brain-derivedneurotrophic factor, BDNF)のR125M、R127Lという低頻度の1塩基多型(SNPs)バリアントの解析を通じ、BDNFの機能解析を行った。R125M/R127Lバリアントではプロテアーゼ等により切断を受けず、成熟型BDNF(matBDNF)が生成されず、前駆体(proBDNF)のまま細胞外に放出された。培養小脳顆粒細胞の低カリウム刺激誘導アポトーシス(プログラム神経細胞死)を同BDNFバリアント(proBDNF)は亢進した。これは、細胞の生存を促進する本来のBDNFの機能とは真逆の作用であった。生化学的解析によりこの細胞死促進の分子シグナルが、proBDNF→p75ニューロトロフィンレセプター→RacGTPase→P38MAPK→cJun, AP1転写調節因子というシグナル経路を経ることを示した。また中隔野由来コリン作動性ニューロンの神経突起数を同BDNFバリアントが減少させることを示した。また共同研究により、R125M/R127L-BDNF(proBDNF)ノックイン(KI)マウスを作製し、以下の知見を得た。同KIマウスは、幼弱期に死亡するBDNFノックアウトマウスと異なりadultになるまで生存した。同KIマウスは著しい失調性歩行と運動活性の顕著な亢進を示した。さらに同KIマウスは、脳の形態形成においても特異的な異常がみられた。同KIマウスの解析によりproBDNFの生理機能解析が進展することが期待される。
- ID情報
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- 課題番号 : 03J01669
- 体系的課題番号 : JP03J01669