講演・口頭発表等

2013年

脊髄相反抑制量と皮質脊髄路及び脊髄運動ニューロン興奮性の関係性について

理学療法学Supplement
  • 窪田 慎治
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  • 上原 一将
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  • 守下 卓也
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  • 隠明寺 悠介
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  • 田中 恩
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  • 平野 雅人
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  • 藤本 周策
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  • 船瀬 広三

記述言語
日本語
会議種別

【はじめに、目的】ヒトの脊髄反射回路における抑制性Ia介在ニューロンを介した2 シナプス性相反抑制量には,個人差が存在している事が広く知られている.これまでに,Physical exercise量と相反抑制量との関係性を示した報告などがあるが,脊髄運動ニューロンプール興奮性や皮質脊髄路からの下降性入力量など神経生理学的因子と相反抑制量との関係についてはまだ明らかにされていない.相反抑制量は,脳卒中や脊髄損傷など上位中枢の障害によって変化する事などが知られている.従って,リハビリテーションにおいて,脊髄反射機構の制御メカニズムを解明する事は,科学的根拠に基づいた理学療法を行うために重要である.本研究の目的は,脊髄相反抑制量の個人差を規定している神経生理学的メカニズムを明らかにすることである.【方法】本研究では,ヒトにおける脊髄反射回路の動態を観察するため,健常成人14 人(26.7 歳 ± 21 歳)を対象とし,ヒラメ筋H 反射の計測を行った.測定肢位は安静座位(股関節屈曲120 度,膝関節屈曲120 度,足関節底屈110 度)とした.脊髄運動ニューロンプール興奮性は,下肢ヒラメ筋のH反射最大振幅,M波最大振幅を測定し,H/M比を用いて評価した.相反抑制量は,総腓骨神経(CPN)に条件刺激を加えた際のヒラメ筋H反射振幅の試験刺激H反射振幅からの変化量とし,条件刺激と試験刺激の時間間隔(C-T interval)を,0 から5 msで1 msごとに変化させ H反射振幅の変化量を計測した.皮質脊髄路からの下降性入力の影響は,一次運動野(M1)ヒラメ筋支配領域を経頭蓋磁気刺激法(TMS)で条件刺激した際のヒラメ筋H反射振幅を記録し,試験刺激時のH反射振幅との変化量を計測した.皮質脊髄路からの下降性入力の影響を調査するため,安静条件でTMS刺激強度を0.95-1.0 × active motor threshold (AMT)とし,C-T interval-4, -3, -2, -1, 0, 1, 10 msで変化させ,条件刺激によるH反射振幅の変化量を計測した.その後,皮質脊髄路から抑制性Ia介在ニューロンへの下降性入力による影響を検討するため,C-T interval -2 ms と0 msで条件刺激した際のヒラメ筋H反射振幅の差を算出した.実験を通して,ヒラメ筋H反射のテストサイズは,M波最大振幅の15-25%になるように調節した.得られた結果より,相反抑制量とH/M比,相反抑制量とM1 条件刺激時のH反射振幅変化量(-2 msと0 msのH 反射振幅の差)についてピアソンの相関分析を行い,相反抑制量と脊髄運動ニューロンプール興奮性および皮質脊髄路からの下降性入力量との関係性について比較検討を行った.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいたものであり,広島大学総合科学研究科研究倫理審査委員会において承認を得た後に計測を行った.被験者には実験について十分に説明を行い,計測の前に同意書に署名を得た.【結果】相反抑制量と脊髄運動ニューロンプール興奮性の指標であるH/M比との間には一定の傾向はみられなかった(r = 0.11, P = 0.62).M1 条件刺激によるH反射変化は,C-T interval 0 msでのヒラメ筋H反射の変化量に個人差が見られ,CT interval -2 ms から0 msのH反射変化量と脊髄相反抑制量との間に強い相関関係を認めた(r = -0.71, P < 0.01).【考察】脊髄運動ニューロンプール興奮性を示す指標であるH/M比と相反抑制量とに相関関係はみられなかった.従って,脊髄運動ニューロンプールの興奮性自体は,脊髄相反抑制量に関与していない事を示唆している.一方,脊髄相反抑制量は,M1をC-T interval 2 msと0 msで条件刺激した際のヒラメ筋H反射振幅の減少量に依存し,増大する傾向がみられた.TMS を用いてM1 をC-T interval 0 ms付近で条件刺激した際に見られるヒラメ筋H反射の抑制は,脊髄内抑制性Ia介在ニューロンを介した2 シナプス性の抑制であるとされている.従って,皮質脊髄路を介したIa介在ニューロンへの下降性入力量の違いが,脊髄相反抑制量の個人差に関与している可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】ニューロリハビリテーションにおいて,個々の症例の神経機能の状態に応じた治療法の確立が提唱されている.本研究の結果は,脊髄相反抑制が皮質脊髄路からの制御を受け変化している事を示唆するものであり,臨床症状を理解する上で重要な神経生理学的背景メカニズムを示す知見として重要である.

リンク情報
URL
http://ci.nii.ac.jp/naid/130004585198