講演・口頭発表等

2018年10月13日

平安時代の字書・辞書間における義注・訓注の重なりについて

日本語学会2018年秋季大会
  • 李 媛
  • ,
  • 藤本 灯

記述言語
日本語
会議種別
口頭発表(一般)
主催者
日本語学会
開催地
岐阜大学

平安時代に日本で編纂された国語辞書『色葉字類抄』や漢字字書『類聚名義抄』において,掲出訓や掲出漢字に対して多字・多訓を配する点については,中国の字書の影響であると考えられてきたが,これに関する実証的な研究はなかった。本研究では,同じく日本の漢字字書のうち漢字の義注を持つ『篆隷万象名義』(「宀」部のうち,義注を持つ90字)を利用して,義注と訓注の対応関係を調査することとした。
【研究方法と結果】〈手順1〉万象名義の見出し字について,字類抄・名義抄が持つ訓を調査した。〈手順2〉万象名義の義注に用いられた漢字(単字)について,字類抄・名義抄が持つ訓を調査した。〈手順3〉上で得られた訓のうち一致する/しない場合に分類・整理した。結果は次の通り。 【X】一致・部分一致 a.すべての万象名義単字注にそれぞれ共通する訓が字類抄・名義抄ともにある(18例) b.すべての万象名義単字注にそれぞれ共通する訓が字類抄・名義抄いずれかにはある(19例) c.万象名義単字注のうち,字類抄とも名義抄とも共通しない字がある(23例) d.字類抄に掲出字の収録がなく,名義抄の漢文注とのみ重なる部分がある(16例) e.その他(4例) 【Y】すべて不一致 f.字類抄にも名義抄にも万象名義掲出字の収録があるが,すべての万象名義単字注と両本の訓が共通しない(5例) g.字類抄に収録があるが共通せず,名義抄に万象名義掲出字がない(4例) h.字類抄にも名義抄にも万象名義掲出字がない(1例)
【考察】日本の古辞書におけるカナの訓注と漢字字書における中国由来の単漢字義注との間には一定の対応関係が認められることが実証された。また単字注を持たない万象名義掲出字は字類抄に採録されていないこと,一方で,単字注を1つか2つ持つ万象名義掲出字については字類抄・名義抄両本の訓と重なるものが多いことが明らかとなった。字類抄・名義抄それぞれ独自の訓注にはしばしば根拠不明なものが見られ,それらは現在の訓点資料等に見られるような一時的な訓であることも十分考えられるが,今後の検討課題としてゆきたい。