論文

2019年3月

「一所に根を張ることと、複数の空間に根を広げること――定住化後も水上・陸上を動きつづける中国の船上生活者とホームをめぐる実践」

『人類学研究所 研究論集第7号 定着/非定着の人類学――「ホーム」とは何か』
  • 藤川 美代子

7
開始ページ
45
終了ページ
67
記述言語
日本語
掲載種別

the 6th East Asian Island and Ocean Forum(於・中国広東省湛江市)における発表原稿をもとに、大幅に加筆修正したもの。 <br />
船上生活者のように、生業と生活という「生」の営みを可能にする住まいを操縦しながら、複数の空間間の移動を常態としてきた人々にとって、「ホーム」とはいかなる空間を指すのだろうか。本稿が焦点を当てるのは、1960年前後に定住地の割譲と集合住宅の分配を経験した後、水上の船に全面的に依拠した生活を脱して、陸上世界に多くを依存する生活へと転換した中国福建省南部の「連家船漁民」である。①国家の命により突如として与えられた他者の土地を占有することの正当性を強調するかのようにくり返し語られる「共産党政権誕生への貢献と犠牲」、「巨大台風の襲来による犠牲」という二つの物語と、②神明の力を用いて他者からの借り物としての土地を自らのものへと読み替えようとする民俗的な試み、③水上での移動の歴史を回顧しながら、漁村や国家の外部へと接続するように展開される祖先のルーツ探しからは、連家船漁民たちがホームをめぐって見せる二つの方向性の異なる営みが浮き彫りになる。

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