MISC

2016年

土砂の動態を基にした流域環境管理の必要性:システム論を用いた適切な河川環境の維持・管理

日本地理学会発表要旨集
  • 町田 尚久

2016
0
開始ページ
100092
終了ページ
100092
DOI
10.14866/ajg.2016s.0_100092
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

1.はじめに<br> 1997年の河川法改正により全国の主要な河川では,整備に関する基本的な事項をまとめた河川整備基本方針と,自然環境の保全や河川空間の利用の地域連携などをまとめた河川整備計画が策定された。一方,短期間による豪雨の増加など想定していない新たな気象条件下での洪水災害が近年発生し,これらに対応する河川管理が求められている。この対応には,河川の特性である流量や勾配の管理だけではなく,河川の状態を維持するための土砂供給を管理する必要がある。しかし,河川管理の現場において,土砂供給やそれによって発達する地形についてはあまり考慮されていない。また,土砂の動態把握は河川工学分野を中心に研究が進んでいるが,流域全体の河川管理に結びつく結論には到達していない。土砂の動態把握は,流量と同様に流域単位の特徴を示すと考えられる。そこで本研究では,土砂が作り出す地形と氾濫発生地点の変化を土砂供給という視点を基に,河川管理を流域単位で検討した。なお,本研究では流域全体で作用している河川の掃流力を一つのシステムとして捉え,流域環境管理を考えた。<br> <br>2.地域概要<br> 本研究の対象は埼玉県を流れる荒川中流部の扇状地河道区間とした。この区間は国の直轄管理区間の一部であり,2007年に河川整備基本方針が策定され,現在は整備計画を策定中である。また,河川環境としては堤外地段丘がここ数十年で発達し,現在は木本が繁茂して固定化されつつある。この区間では,明治末期から河床が低下する傾向にあり,この河床変動が人為的影響で生じたことが指摘されている(町田,2013)。一方,寛保2(1742)年洪水の頃は荒川上流部で山地が荒廃し,土砂供給が現在よりも多かった可能性も指摘されている(町田,2015)。<br> <br>3.流域単位でのシステム論的解釈<br> 河川作用を用いて河川地形の変化を流域単位で考えると,流量増大・減少とそれに伴う土砂量の変化が,地形形成や維持に影響することがわかる。これをシステム論的に捉えると,インプットは大雨による流量増大や山地荒廃による土砂供給量の増大であり,アウトプットはインプットに応答した地形変化や環境変化が位置づけられる。これを本研究では「河川地形システム」と呼ぶ。河川環境を適切に解釈するためには,定性的資料や定量的資料など現地調査や観測では捉えられない無数の情報を利用しなければならない。そこで河川の動態を捉えやすい掃流力に注目し,システム論的に解釈する。この解釈によって,河川への土砂供給のインパクトとそれを受けることで生じるレスポンスを捉えることができ,インパクトによる空間的な応答と,時間的な応答を明らかにすることができる。さらに,空間的・時間的な整理と河川地形システムで矛盾なく整理することができれば,流域内では人間社会のシステムとの組み合わせが可能になる。<br> <br>4.土砂の動態と河床変動との関係<br> 土砂の動態は,町田(2015)が示したように山林の状況が土砂供給に影響すると考えられ,山林の荒廃が渓岸崩壊や表層崩壊を誘発させ土砂生産量が増えることで,河床変動は上昇に転じる。こうしたメカニズムから町田(2013)が示した河床変動や氾濫発生地点の変遷についてはさらに理解が深まる。土砂供給に起因した河床変動は,地形の周辺にある環境に大きな変化が生じさせる。したがって,定期的な河床観察や土砂供給の変化が生じた事象を記録した史料を用いても,河川地形システムの視点を用いることで矛盾なく河川環境の変化が説明できる。<br> <br>5.流域単位での環境変化<br> 土砂は,河川環境を構成する土台であり,流量と共に河川環境へ影響する。河川を流域全体ではなく,ある地点ごとに調査する場合,時に土砂よりも植生や人為工作物が重要視されるが,流域全体を通してみると,上流部での土砂供給が強く影響して流域の自然環境が形成されていると考えることができる。したがって,上流域における土砂管理は,流域全体の河川地形だけでなく,河川周辺にある環境(たとえば,新たな植物群落の成立など)にも影響する。このことからも人間活動や自然環境の保全にとって土砂の動態把握を河川管理に組み入れることが極めて重要なことが分かる。さらに歴史的視点を加え,過去から現在までの河床変動,地形変化および河川周辺の環境変化も併せて検討する必要がある。本研究の結論は,流域単位で河川環境を土砂などの影響も含めて複合的かつ時空間的に幅広く河川環境を理解した上で,持続的・安定的な河川管理を行う必要があると考える。<br>

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2016s.0_100092
J-GLOBAL
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201602200371162808
CiNii Research
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001205694656640?lang=ja
ID情報
  • DOI : 10.14866/ajg.2016s.0_100092
  • ISSN : 1345-8329
  • J-Global ID : 201602200371162808
  • CiNii Articles ID : 130007017439
  • CiNii Research ID : 1390001205694656640

エクスポート
BibTeX RIS