MISC

2007年

人口転換開始時期の地域差の検討:1920年前後の愛知県の市郡別人口を用いて

日本地理学会発表要旨集
  • 鈴木 允

2007
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14
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記述言語
日本語
掲載種別
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

<BR>I はじめに<BR> 日本の総人口は2006年,ついに減少に転じたが,それまでの増加基調は,幕末から始まって続いてきたものである。こうした人口の増加と停滞の波は,多産多死→多産少死→少産少死へと移行するという,人口転換の所産として一般に捉えられてきた。日本の場合には,出生率が上昇することで幕末に人口増加が始まり,1920年代以降,出生率・死亡率の低下によって人口が大幅に増加したことが分かっている。しかし,人口転換の開始時期やプロセスに関しては様々な議論があり,より詳細な検討の余地が残されている。とくに,都市と農村の人口学的特徴に違いがあることを踏まえると,都市化の進展が人口転換に与えた影響がどのようなものであったかが,重要な論点となると考えられる。<BR> こうした議論を難しくしている大きな要因の1つは,人口統計の不備である。第1回国勢調査の実施は1920年であるが,それ以前の人口統計は拙稿(2004)で述べたように,多くの問題を孕んでいるため利用が難しく,国勢調査以降の分析が中心となってきた。しかし,国勢調査以前の戸口調査人口を分析した小嶋(2001)による,郡部の1910年代における出生力低下が人口転換の端緒ではないかとの指摘は,1920年以前の人口動態の検討や,都市部と農村部とを分けた検討の意義を鮮明にしている。<BR> そこで本研究では,1910年から1930年までの愛知県の市郡別人口動態を検討し,人口転換の開始時期とその地域差の考察を試みることとした。<BR>分析にあたっては,1920年以前の人口統計については,毎年の戸口調査による現住人口に,拙稿で用いたのと同様の修正を行って用いた。また,1920年以降は5年毎の国勢調査の結果を用いた。<BR> 以下に,分析結果の概要と,予察的な考察を述べる。<BR><BR>II 出生率・死亡率の推移<BR> 1915年頃までは,市部・郡部とも出生率はかなり高い状態で,死亡率は多少の波はあるが年率20‰程度で安定していたため,人口の自然増加状態が続いていた。<BR> 1915年以降,出生率は市部・郡部を問わず明確な低下傾向にあり,1919→1920年で各市郡の出生率が上昇しているものの,それ以外に特定の年次に極端な変化を示したりはしていない。市部と郡部との比較では,郡部の出生率が高く,市部が低い傾向が明瞭である。一方死亡率は,1916年から1920年にかけて大幅に上昇している。なお,この上昇には,1918年のスペイン風邪流行が大きく影響を及ぼしている。また死亡率の地域差は,都市の方が若干低めではあるが,明確な地域差は見られない。<BR> なお,資料的な問題として,1920年は国勢調査の結果を受けて,人口データなどに若干調整が加えられている可能性が否定できないことも付記しておく。<BR> 1920年以降の出生率と死亡率の推移については,とくに1910年代からの動向との連続性を意識してまとめると,次のような結論となるであろう。<BR>1.1910年代までは緩やかな上昇傾向をたどってきた出生率は,1910年代に入って頭打ちとなり,1918年頃の一時的な落ち込み,1920年頃に回復という過程を経て,1920年代からは低下を始めた。2.出生率の低下は,とくに,高出生率の郡部から始まり,その後全体で低下傾向となった。3.死亡率は,1910年代半ばまで緩やかな漸減傾向にあったが,1918年に突然上昇し,1920年にもかなり高い水準を保っていた。これが1920年以降再び低下し,1930年頃までに1910年頃の水準まで回復した。<BR><BR>III 人口転換の時期とその地域的差異<BR> 1916年頃からの出生率の低下は,1920年以降の変化も併せて考えると,スペイン風邪の影響を受けた一時的なものと考えられる。とすれば,人口転換自体は1920年代から始まったと見る方が自然ではないだろうか。また,市部の出生率の方が低い傾向は1930年以前では明確であるので,都市人口比率の拡大が,全体の出生率を低下させる原因となり得たことも,の2点からである。<BR> 粗出生率・粗死亡率のデータしか検討していない本研究の知見からはこれ以上のことは言えないが,本稿で述べてきたような方向性の検討を進めていきたいと考えている。<BR><BR>文献<BR>小嶋美代子 2004.『明治・大正期の神奈川県―人口構造と変動を中心に―』.麗澤大学出版会.<BR>鈴木 允 2004. 明治・大正期の東海三県における市郡別人口動態と都市化―戸口調査人口統計の分析から―. 人文地理55-5: 22-42.

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http://ci.nii.ac.jp/naid/130007013769
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  • CiNii Articles ID : 130007013769
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