MISC

2013年

2011年東北地方太平洋沖地震における海岸地形による津波高の特徴と明治三陸津波との比較

日本地理学会発表要旨集
  • 松多信尚

2013
83
開始ページ
128
終了ページ
128
DOI
10.14866/ajg.2013s.0_128
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

2011 年3 月11 日の東北地方太平洋沖地震により発生した津波(以後、平成津波)により東北地方から千葉県にかけての沿岸部は広域にわたり壊滅的な被害を受けた.日本地理学会災害対応本部津波被災マップ作成チーム(2011)や東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ(2012)などによって浸水範囲、津波高、遡上高が迅速に測られ、インターネット上で公表されている。平成津波の津波高を明治三陸津波(以後、明治津波)と比較すると、岩手県では大きな差がないが宮城県以南では今回の津波高が明治津波を大きく上回っており、津波を引き起こすした海底地震断層が岩手県沖から茨城県沖にまで達したことが、津波の観測データからも推定されている。一方で、よりローカルなデータを観察し、現地調査を行うと、津波高は隣接する浦ごとに大きな違いがあることがわかる。災害の社会的要因の考察や災害文化、復興などを考えるうえで、自然的要因である浦々毎の津波高の違いは重要な要素と考えられるが、ほとんどの議論が津波高の最大値に着目した議論で、同一地域での津波高の地域差に着目した検討は不十分である。 本研究は、浦々での津波高の差異を、特徴的な海岸地形ごとに検討し、明治津波と比較することで、平成津波の特徴と自然科学的な意味について考察することを目的としている。 内閣大臣官房都市計画課(1934)に従い、湾の形状を 甲類1:直接外洋に向かえるV字湾 甲類2:直接外洋に向かえるU字湾 甲類3:直接外洋に面し海岸線の凹凸が少ない場合 乙類4:大湾の内にあるV字形の港湾 乙類5:大湾の内にあるU字形の港湾 乙類6:大湾の内にあり海岸線の凹凸が少ない場合 丙類7:細長くかつ比較的浅い湾 丁類8:海岸線が直線に近い場合 と分類し、すでに湾形分類がされていた地域において平成津波と明治津波の津波高を比較した。平成津波の津波高は東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ(2012)のデータを、明治津波の津波高を内閣大臣官房都市計画課(1934)のデータを用いている。その結果、1.明治津波では甲類で津波高が極めて高く、乙類は概して津波高が低い傾向にある。それに対して、平成津波では甲類と乙類でそれほど差が顕著ではない。その傾向は特に大船渡以南で顕著で、甲類と乙類で津波高に差が見られない。逆に釜石以北では甲類が乙類より大きい傾向がみられる。2.明治津波では湾形がV字湾である甲1類、乙4類が、U字湾である甲2類、乙5類や,凹凸の少ない湾形である甲3類や乙6類と比較して、津波高が湾奥で大きくなる傾向がある。しかし、平成津波ではV字湾がU字湾や凹凸の少ない湾と比較して大きいといった特徴が無く、むしろU字湾でしばしば25m以上の津波高を記録しており、遡上で湾奥が高くなる傾向は顕著ではない。3.全体では平成津波の方が明治津波より大きい傾向にある。久慈以北では明治津波の津波高が平成津波の津波高の二倍前後に達し、逆に気仙沼以南では明治津波の津波高は小さくなる。これは、明治三陸地震の震源が東北地方太平洋沖地震の震源より北にあるためと思われる。4.湾形ごとでは、甲類では北部で明治三陸津波の津波高が平成三陸津波の津波高の2倍強に達するほか、陸前高田の根岬、集でも2倍以上に達する。そのほかの釜石~気仙沼間でも0.5-1.5倍程度でやや明治三陸津波の方が大きい傾向がある。その一方で乙類は平成三陸津波の津波高が明治三陸津波のそれを大きく上回っており、釜石~気仙沼間で最大4倍程度に達し、明治三陸津波の津波高が小さくなる気仙沼以南では10倍を超える津波が来襲したことになる。 津波解析プログラムで津波の特徴と津波高の関係を計算すると、波長の長い津波は大きな湾の中まで津波高が大きいのに対し、波長の短い津波は大きな湾の中の津波高は小さい。このことから、明治三陸地震は短波長の津波を発生させる地震であったのに対し、東北地方太平洋沖地震は長波長の津波を発生させた地震であることがわかる。ただし、平成津波は、釜石以北では甲類の津波高が乙類より高いことから、長波長と短波長の津波の両方の特徴を併せ持つと考えられる。これは、釜石沖に施設されている海底ケーブル式の地震計システムによって長波長の津波とパルス状の津波が観測された(東京大学地震研究所HP)ことと調和する。大船渡以南の女川までの区間では甲類と乙類の津波高に差がないことから、この地域ではパルス状の津波が無かった可能性がある。これは中田ほか(2012)が推定する海底地震断層による変動地形が北部ではバルジを伴うのに対し、宮城県沖ではバルジを伴わない事を支持する。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2013s.0_128
J-GLOBAL
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201302216928780683
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130005457266
ID情報
  • DOI : 10.14866/ajg.2013s.0_128
  • ISSN : 1345-8329
  • J-Global ID : 201302216928780683
  • CiNii Articles ID : 130005457266

エクスポート
BibTeX RIS