MISC

2010年

台湾東部・鹿野断層におけるトレンチ調査

日本地理学会発表要旨集
  • 松多 信尚
  • ,
  • 陳 文山
  • ,
  • 紀 權やお
  • ,
  • 楊 志成
  • ,
  • 黄 能偉
  • ,
  • 鹿野断層 調査グループ

2010
77
開始ページ
247
終了ページ
247
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14866/ajg.2010s.0.247.0
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

台湾島はフィリピン海プレートのルソン弧とユーラシア大陸プレートとの衝突帯である.台東縦谷断層は地質学的なプレート境界と考えられ,その東側は堆積岩や火山岩で構成された海岸山脈,西側は変成岩からなる中央山脈である.<br> 台東縦谷断層は東側隆起の逆断層で,奇美断層を境に北部と南部に分けられる.これらの断層は逆断層がクリープしているとされ,20-30mm/yr程度の早さで短縮しているとされている.<br>台東縦谷断層は1951年にマグニチュード7前後の地震を立て続けに起こした. 北部のセグメントで実施されたトレンチ調査の結果で,活動間隔が約170-210年程度と報告されて,南部のセグメントでは活動間隔が100年程度と推定されている(Chen et al., 2007 ).<br> 鹿野断層は台東縦谷断層の西側に位置する分岐断層である.断層は東側隆起の逆断層である.上盤側は中期更新統の河成堆積物で構成されている.Chen et al.(2007)は,断層を挟んで位置するGPS観測データから,鹿野断層も台東縦谷断層と同様にクリープしているとしている.しかし,観測点は少なく,鹿野断層のクリープ運動を証明するには至っていない.また,この断層がクリープによって歪みを解消し,大きな変位を伴う地震を発生させるか否かは不明である.そこで,我々は鹿野断層のクリープ運動の有無,地震イベントの有無,活動間隔を知るためにトレンチ掘鑿調査を実施したので報告する.<br> 我々は空中写真をもとに写真判読をした.その結果をふまえ現地調査を実施し,地形分類図を作成し,地形発達史を編んだ.その上で,活断層を認定し,適当な場所でトレンチ調査を実施した.<br> 我々は地形面の連続性から4段の段丘を認定した.高位の段丘群Aは,赤色化した土壌を有している.中位の段丘群Bの離水年代はその段丘礫層を覆う湖成堆積物の基底から得られた年代測定結果から19000年程度と考えられる.低位の段丘群CはShyu et al.(2005)から約3000年に形成され,最低位段丘群Dは離水年代は数百年と推定される.<br> 地形分類図をもとに推定される地形発達史は,高位段丘群の時代以降,鹿野断層の活動により,高位段丘を挟んで南と北の地域に分化した.南地域では鹿野川の河道が南に振れることによって広い段丘が形成され,北地域では断層活動と中央山脈からの扇状地とによるせき止め効果によって局所的な閉塞地が形成された.その後,北側の閉塞地は谷頭浸食に伴う河川争奪がおきて排水され,地形面は離水したと考えられる.<br> 我々は高位段丘の北側の中位段丘面と断層下盤側が閉塞された時代の堆積物に中位面が覆われていると思われる場所で,トレンチ掘削調査を実施した.トレンチの大きさは幅10m長さ30m深さ6.5mである.<br> その結果,下位に撓んだ中位段丘の構成礫層物,それを覆ったシルトや砂層といった細粒な堆積物が観察された.礫層を覆う堆積物中には傾斜不整合が2箇所認められ,シルト層がほぼ水平に堆積したと仮定すれば,その鉛直方向の変位量は最上位の地層にあたる耕作土の直下で少なくとも2m程度に達する.<br> また,南側の壁面には明瞭な断層が確認され,耕作土の直下まで達している.しかし,その変位量は大きいところでも断層面上で20cm程度しかなく,耕作土の直下ではシェアゾーンのみが肉眼で確認できる.この地層の上下変位量は2m程度であることから,断層は変形の一部に寄与していないことが分かる.一方,北側の壁面では南壁面と比較して明瞭な断層が確認されない.しかし,液状化を示唆する地層が一回のみ変位を受けたと考えられる地層で確認でき,この地域が強い揺れを経験したことがあることがわかる.また,小規模な二次的な断層がこの層より下部まで確認でき,液状化の痕跡がある層で不明瞭になる.このことは,断層は地震イベントと同時に発生した液状化によって地層を切断することが出来なかったと考えられる.つまり,液状化を起こした強い揺れは鹿野断層の活動の可能性が高い.<br> これらの地層からは多くのC14資料が得られた.暦年補正を施した値で耕作土の直下が1890―2110yrBP,上位の傾斜不整合の上部で2120-2340yrBP,1990-2290yrBP,下部で2120-2330yrBP,下位の傾斜不整合の下部で4240-4430yrBPといった年代測定の結果が得られた.したがって,最新イベントは2110yrBP以降で,その前のイベントが2120-2330yrBPの間,もう一つ前のイベントは4300yrBP頃と考えられる.活動間隔は約2000年で,最新イベントは数百年前ごろにあったと推定される.<br> また,シェアゾーンは放棄された耕作土には達していないこと,液状化している地層から地震動を伴う地表変位があったことが示唆されること,傾斜不整合が二箇所のみで見られることから,少なくとも鹿野断層はクリープ運動が地表まで達しておらず,激しい揺れを伴う地震活動が発生することが推定できた.

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DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2010s.0.247.0
J-GLOBAL
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201002271776326000
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130007016947
ID情報
  • DOI : 10.14866/ajg.2010s.0.247.0
  • ISSN : 1345-8329
  • J-Global ID : 201002271776326000
  • CiNii Articles ID : 130007016947

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