MISC

最終著者
2022年

コア堆積物の解析にもとづく菊川低地の形成過程

日本地理学会発表要旨集
  • 堀 和明
  • ,
  • 石井 祐次
  • ,
  • 田村 亨
  • ,
  • 佐藤 善輝
  • ,
  • 稲崎 富士
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  • 中西 利典
  • ,
  • 北川 浩之
  • ,
  • 廣内 大助
  • ,
  • 三笘 加葉
  • ,
  • 松多 信尚

2022s
開始ページ
158
終了ページ
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14866/ajg.2022s.0_158
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

はじめに

南海トラフで繰り返し生じてきた地震にともなう地殻変動や津波履歴の検討には,沿岸に分布する海成段丘や沖積低地といった地形やそれらを構成する堆積物が用いられてきた.これらの地形や堆積物の解析・分析を通して,地殻変動や津波に関する情報を抽出するためには,地形・地層の形成過程と氷河性海水準変動との関係を明らかにしておく必要がある.本発表では,遠州灘東部に位置する菊川低地の浜堤・砂丘上において採取したコア堆積物の解析・分析結果を報告するとともに,先行研究(鹿島ほか,1985;杉山ほか,1988)や既存資料(中部電力,2020)を踏まえた上で菊川低地の形成過程を論じる.



調査対象地と方法

菊川は流域面積158 km2の小規模河川で,下流域において,東を牧之原台地,西を小笠山丘陵に限られる幅の狭い沖積低地を形成する.河口付近には最大標高20–30 mに達する海岸砂丘が分布する.

浜堤・砂丘上に位置する掛川市千浜でKICコア(現海岸線から2 km内陸,標高17.62 m,掘削長21 m),同市三俣でKIMコア(現海岸線から1.7 km内陸,標高7.87 m,掘削長23.3 m)を,機械ボーリングにより採取した.コア堆積物については,写真撮影,軟X線写真撮影,色調,かさ密度,砂泥比の測定をおこなった.また,DirectAMSおよび名古屋大にて放射性炭素年代測定を実施した.なお,KICコアについては,産総研で長石のOSL(IRSLおよびpost-IR IRSL)年代を測定した.



結果と考察

KICコアは最下部約2 mにみられた泥層を除き,中粒砂を主体とする砂層で構成されていた.深度0–8 m付近の砂層は他の層準に比べて淘汰がよい傾向にあった.また,深度15.6–19 m付近の砂層には礫が含まれており,深度16.5 m付近では礫が35%程度を占めていた.最下部の泥層は貝殻片を含み,珪藻について概査をしたところ干潟に特徴的な種が多くみられた.

KIMコアは,深度0–7 mが砂層で構成され,その下位にある深度7–16 mは礫を含む砂層を主体とするが,深度7–8.4,9–9.3,10–10.6,15.6–16 mはおもに礫からなっていた.深度16–22 mは貝殻片や有機物を含む泥層からなっており,深度22 mで更新統と考えられる泥層に達した.

年代測定結果から,KICコアでは約6 ka頃に泥層を覆う砂層の堆積が始まったと考えられる.標高0 m付近のOSL年代値は放射性炭素年代値とも整合的であり,6–3.7 kaにかけて砂が平均7 m/kyrで堆積したことを示唆する.一方,KIMコアでは,7.9–7.6 ka頃に砂層の堆積が急激に生じたと推定される.両地点よりも陸側では,泥層中にK-Ahテフラが確認されており,その分布標高は−5–−7 mである(中部電力,2020).

KIMやKICコア堆積物にみられた砂層とその下位の泥層の境界深度は,KIMのほうがKICに比べて深い.既存の地質断面図(鹿島ほか,1985;杉山ほか,1988)においてもこれらに対比される砂層と泥層の境界深度が陸側に向かって浅くなる特徴がみられる.完新世の海進時における海岸線の向きが現在とほぼ同じ(西北西―東南東)と仮定すると,バリアと考えられる砂礫堆が海水準上昇にともなって陸側に移動しながら下位の泥層を覆っていった可能性がある.また,この砂礫堆はKIC付近で陸側への移動を止め,より陸側には浅い水域が広がり,K-Ahを含む泥層が堆積していったと考えられる.

両コアには礫を含む砂層や礫層が確認されたが,礫を含む砂層の上限はKIMコアで標高約1.2 m,KICコアで標高約2.1 mであった.堆積物の特徴と海水準との関係を詳細に明らかにすることで,今後,地殻変動量を定量的に見積もることができるだろう.



謝辞

放射性炭素年代測定の一部は,名古屋大学宇宙地球環境研究所でおこなわれた.本研究は科研費(課題番号:18H00765,18H01310)の助成を受けたものである.

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2022s.0_158
CiNii Research
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390291767745529216?lang=ja
ID情報
  • DOI : 10.14866/ajg.2022s.0_158
  • CiNii Research ID : 1390291767745529216

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