MISC

2022年

長野県神城断層近傍における最終氷期以降の堆積環境の復元

日本地理学会発表要旨集
  • 竹本 仁美
  • ,
  • 松多 信尚
  • ,
  • 佐藤 善輝
  • ,
  • 廣内 大助

2022s
開始ページ
191
終了ページ
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14866/ajg.2022s.0_191
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

1.はじめに

糸魚川–静岡構造線活断層系北部に位置する神城盆地は,盆地の東側を神城断層に限られている.神城断層は低角な逆断層で,日本でも有数の活動の活発な活断層として知られる. 逆断層の活動履歴を明らかにし,断層活動をより確実に評価するためには,断層の隆起側と低下側で堆積物の対比とイベント層準の検討を丹念に行う必要がある.隆起側との対比を正確に行うために,低下側の堆積環境を推定し,堆積物の供給過程を検討することが求められる.堆積環境を推定するためには,花粉分析に基づく古植生のデータが大きく貢献すると期待できる.神城盆地内の堆積環境について,下川・山崎(1987)は,約3万年前に「古神城湖」が存在した可能性を指摘した.多ほか(2000)は堆積物の層相から,「古神城湖」は後背湿地や短命な浅い湖沼の複合体であり,安定した湖よりも沖積平野に近い環境であったと推定している.本研究では,盆地内でも特に湿潤な地点を選定して掘削したボーリングコアを用いて,神城断層の低下側の堆積環境の復元を試みた.



2.研究方法

2021年1月に,長野県北安曇野郡白馬村神城において,神城断層の低下側でボーリング調査を実施し,HMK01 およびHMK02 の2本のオールコアボーリング試料を採取した.HMK01 は深度 0 〜 28m,HMK02 は深度 25 〜 33m である.HMK02 は HMK01 の別孔として,直近で掘削したものである.コアを半割し層相の観察と記載を行ったのち, XRF コアスキャナによる元素濃度分析を行った.もう一方のコアから約 10cm 間隔を基本として採取した試料を用いて花粉分析を行い,最終氷期最寒冷期以降の古植生を推定した.花粉の計数は木本花粉を 300 個以上になるまで行い,花粉分類群ごとの出現率を算出した.



3.結果と考察

HMK01 および 02 は,いずれも粘土〜砂質シルト層が大部分を占め,ラミナがよく発達する.腐植層は相対的に少ないものの,薄い層が堆積物中に頻繁に挟まれている.堆積物の層相や粒度の特徴に基づき,ボーリングコアを複数のユニットに区分した.HMK01:下位よりUnit 6 〜 1 に区分した.Unit 5, 3 は粒径が相対的に大きい傾向にある. Unit 6 〜 5 では,カバノキ属 Betula が高率で出現し,モミ属 Abies,トウヒ属 Picea がそれに次ぐ.これらの分類群はUnit 5 〜 4 にかけて急激に減少することから,この時期に急激に温暖化し,それと同期的に堆積環境が変化したと推定される.上部のUnit 1 は厚い腐植層で,ミズバショウ属 Lysichiton が極めて高率で出現する.Unit 1 堆積時以降はこの地点に湖沼が存在していた可能性が高い.HMK02:下位より Unit 9 〜 7 に区分した.Unit 8 は相対的に粒径が大きい傾向にある.また,粒径の小さいUnit 9, 7 にはラミナが発達する.特に Unit 9 ではビビアナイトが連続して認められることから,この時期は比較的静穏な堆積環境下にあったと推定できる.Unit 9 から 8 にかけて掃流力が高まり,Unit 7 にかけて比較的穏やかな堆積環境に変化したと考えられる.神城断層の下盤側では,流速のゆるやかな河川が長期的に存在しており,静穏な時期と掃流力が比較的大きい時期を交互に繰り返しながら盆地の埋積が進んでいったと推定できる.

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2022s.0_191
CiNii Research
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390291767745536256?lang=ja
ID情報
  • DOI : 10.14866/ajg.2022s.0_191
  • CiNii Research ID : 1390291767745536256

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