基本情報

所属
元 野菜茶業研究所 金谷茶業研究拠点  (20160331退職時 業務第2科長)

J-GLOBAL ID
200901048658331621
researchmap会員ID
0000043740

外部リンク

 #Straighthead  畑地転換水田 稔実不良,青立ち,異常穂、判別キーは双芽、実験手順+

  #TEA  ( 茶栽培、茶樹状態診断、茶農家向け資料、茶樹研究のネタ、気象災害、茶園熱画像 ほか)

【2025年春の特記事項⇒10年以上畑作利用していた農地を水稲栽培に復田する場合の注意事項】2024年夏以降コメ不足が顕在化し米価が急騰しています(2025.03現在)。そのため、かつて水田として造成された土地を水田に復田する事例が規模を問わず全国各地で増えることが予想されます(兼業のかつての飯米農家でもコメ高価格に対応し家計の足しになる自給的稲作が増える可能性があります)。畑地として10年以上の長期にわたり使われてきた土地を水田に戻すためには、用水路清掃、畔の補強やモグラなど小動物や昆虫が掘った穴を埋め漏水を防止する作業、畑利用による田面の高低差を均す作業など多くの事前準備が必要になります。私が40年前に研究していた水稲の生育障害(Straighthead、畑地転換水田における青立ち、異常穂・・下方詳細説明)は転換畑を復田して水稲を栽培したときにおこりやすい不稔や奇形穂を特徴とするイネの生理障害です、詳しくは下方の詳しい記述をご参照願います。この障害を防止するには「中干し」を絶対に忘れないことが特に重要です。

 私の四国での研究は1991年春で終わりましたが、この障害についてその後に宮城県下の現地でも発生したことが報告されています(下に表題を示します)。漏水を防ぐため代掻きを丁寧にし「中干し」をしていなかったことが症状の発生につながったと思われます。畑からの転換水田や復元田では「中干し」は絶対忘れてはいけない重要な栽培技術です。

 (2024年12月ごろ以降・・ 最下部とマイポータルなどにお茶関係の参考情報を追加途中です・・進捗が遅くお詫びします・・茶樹の栽培研究分野は専門研究者が元々数少ないうえ、明確な研究データを得るためには10年以上の時間と労力が必要です。お茶はイネやムギ・ダイズなどの一年生の普通作物に比べ栽培試験がとても難しい作目です。圃場試験を行うために必要な、なるべく均一な園地の造成や丁寧な茶苗定植、幼木から成木園までの斉一な栽培管理、これらを単独の研究者が最初から最後まで数十年以上にわたって自らが携わることは「ほぼ不可能」といえます(繰返し精度や微気象の園内分布にそれほど配慮なしに定植・育成された試験茶園が残念ながら大部分です、永年性の木本である茶樹は園地内の微気象や地下部の土壌環境の差異を経年的に蓄積する性質の作物ですので、数十年先までの試験利用を想定した圃場造成が求められるのですが現実には実行困難です。試験茶園の造成や試験区設定に関しては、第二次大戦後アメリカ方式の試験研究が一般的であった沖縄県農業試験場名護支場の茶園では統計的に使えるように工夫された試験茶園配置を目撃しました)。このように解決が難しい実験上の制約は多いものの「おそらく的外れではないと思われる研究情報」もたくさん蓄積されていると考えています。長期間の現場観察や災害対応経験から積み上げられた情報のほとんどは研究論文としては出されないため「経験知」や「暗黙知」「当然の了解事項」などとして関係者の間に蓄積されています。それらもここに収録してゆく予定です。茶の情報は最下方に記述しています、記述容量オーバーのためお茶情報の多くはマイポータルに続きます)

【ここではイネ生理障害Straightheadを詳しく解説しています、基本情報、用語変遷、主要参考資料、実験情報、実験データに加え、未解明の本障害原因物質にアプローチする手がかりを提示しています。主に研究者向けですが「水稲の生育が土壌によって大きな差異がある、特に有機物の鋤込みが水稲生育に及ぼす影響の土壌間差異」などに興味をお持ちのすべての方にお役に立てると考えています】

【20250303記述⇒Straightheadの研究について私が陥っていた大きな間違いに、いまさらながらやっと気づきました。私の以下のプロファイルでは「Straightheadはとても珍しくてめったに起きないイネの生理障害」との基本的立場から本障害を紹介しています。ところが、その立場では研究展開はとても限局的です。いわば好事家の道楽研究に似ておりイネ栽培研究者一般の興味を引くことは少なかったと思います。それに関し1985年に作物学会四国支部に報告した研究「四国地域内採集土壌における水稲青立症の再現」(日本作物学会四国支部紀事 13-18, 1985-12-25)を紹介し、この生理障害は日常の稲栽培と連続した問題であることを記述しておきたいと思います。この研究では四国4県と四国農試場内から集めた20種の水田土壌に麦わら・ろ紙粉末を加え常時湛水でポット栽培した結果を示しています。栽培上の問題があった現地水田のみならず、試験場の試験圃場でも栽培履歴によって障害発生土壌に変化する場合があることが明瞭に示されています。昨今(2025年)米作の見直しによって他作物から水稲栽培に復田する事例が増えることが想定されますが、その場合、過度な代掻きによる漏水防止や前作物の残渣で分解の遅い有機物に十分注意されることが肝要と思われます。怪しい土壌を見分ける方法としては、試験土壌に粉末ろ紙を1%添加し湛水状態でバケツに1か月ほど静置したものに正常に育てたイネ品種の大苗を鉢つきつきで植えてみると判別可能と思われます】

(上記の表中の現地土壌などの詳しい解説:9番の三間土壌はStraightheadの典型症状が発生することが採土地周辺の現地水田で確認された。6番の志度町の水田地域は通称で「ハネ田」と呼ばれる水田群で有機質を施用して湛水すると稲が生育不良になる地域とのことを関係者に聞いた。) 

【ここには奇形穂や奇形胚を特徴とする水稲生理障害Straighthead(しんでんあおだち、青立ち、異常穂、水稲不稔青立症)についての詳しい解説と資料リストに加え、ポット試験による症状再現手順など実際的な工夫について、実際にこの問題を担当した者として、興味を待たれた関係者への問題追及の道案内になるような研究情報を下方の項目★S★以下に記述しています】

【Straighthead の原因物質を探索するには、Straightheadに特有の稔実籾に発生する双芽を指標にして追跡できると私は考えています。不稔歩合で評価できる稔実不良は不良環境に遭遇したイネのごくごく一般的な症状ですので、不稔になったからと言ってStraightheadであるとは言えません】。(双芽は写真のような幼芽を2本持つこの障害特異的な症状で稔実籾に数%発生します。この障害の影響を受けていない正常なイネでの発生頻度は稔実籾中1/1000程度です)

 埼玉県大里村水田土壌にろ紙粉末1%を添加し湛水した上澄み液を週に2回添加した

これは埼玉県大里村の異常穂発生土壌20㎏に1%の粉末濾紙を加え50Lコンテナで湛水静置した上澄み液を週に2回各種処理を加えてポットに供給しました、左から順に活性炭・陽イオン交換樹脂・対照水道水・無処理の上澄み液そのもの・バブリング15分間・100℃で5分間沸騰の各処理、成熟期の状況です。稔実不良の穂が緑色で直立しています。稔実のデータ数字

【直下に私のプロフィールが書いてあるのは、実在する人間が自身の研究経験を元に書いた情報であることを明らかにするためです】【内容は書いている時点での私の考えです、順次追加する予定です(250705以降は主要追加部をマイポータルへ)】【Straighthead研究については過去の研究情報が多数ありますが、1991年に稲作から茶業に担当研究分野を異動したため多忙にかまけデータを論文化できず今日まで経過しました。さらに2001年以降農業関係の国立研究機関が独立行政法人化され、ネット上に担当研究情報を含む個人的見解を出すことが禁止されたため、個人の視点から雑多な研究情報を発信することは不可能でした。退職後ようやく長いトンネルを抜け、研究者として個人の見解に基づきイネやチャの研究情報を積極的に発信できることとなり、関係者に深く感謝申し上げます】

[私の経歴等] このページに関心を持ってくださり感謝いたします。私は、1956年2月生まれで奈良県吉野郡吉野町出身です。奈良県五條高校から三重大学農学部に進み修士課程(土壌肥料研究室指導教官梅林正直先生)を修了し、1980年4月農林水産省四国農業試験場に採用され、2016年3月に国立研究開発法人農研機構野菜茶業研究所を定年退職しました。その後、2021年3月まで再雇用職員として農研機構果樹茶業研究部門金谷茶業研究拠点で茶業後継者への研修指導業務などを支援しました。2021年3月に再雇用任期を満了し、現在静岡市駿河区在住です。1991年から金谷で茶樹栽培研究に25年間従事し、茶樹根系の比較調査、熱画像による茶園と茶樹の状態診断、茶園凍霜害などを研究し、2016年3月に業務第2科長で定年退職しました。1991年4月に金谷に移る前は、香川県善通寺市の四国農業試験場で1980年4月から1991年3月まで水稲栽培研究に従事しました。四国では水田作を担当する作物第三研究室(片岡孝義室長,小松良行主研,金忠男主研)に新人研究員として配属されました。大学の専攻が農芸化学で栽培研究は未経験でしたが先輩研究者や職場の人たちから公私にわたり様々なことを教えていただけました。水稲栽培試験は素人でしたが、兼業農家でしたので1960年代の中ごろまでは役牛も一頭おり、私も子供ながら年間の色々な農作業を見聞きし手伝いました。冬作の畑での麦踏みや稲作の田植え・除草・稲刈り・脱穀・籾摺りなどに加え、夏に行う番茶づくり、里山のタキギ拾いや松葉掻きなど今ではほとんど昔話のような農作業も手伝いで一通りはやったことがあります。身近で小さい時から体験した色々なことが、試験場の職場に入ってから仕事の自信と助けになりました。それどころか、小学校5年の夏休み自由研究で我が家水田の入水口の一角で行った苗の一株当たり植え付け本数を1,2,3,4,5本と変えて穂の大きさを比べる試験を超多収稲品種の比較試験でも行い、小学生時代とほぼ同じことを仕事として行うことになって大変驚くと同時にとっても不思議な感覚を覚えました。

四国の10年間に担当した課題は、転換畑雑草アゼガヤの生態と防除、麦跡水田の湛水直播技術、イネの生育調節剤、超多収イネの品種生態、イネの生理障害Straighthead、その他いろいろな課題を研究しました。中でもStraightheadの研究は新人には超難問題でとても苦しみました。この障害の追試をお考えの方の参考のため10年間直接携わった研究者からの参考情報を詳しく説明しておきます。特殊な土壌条件(発生しやすい土壌がある)と栽培管理(湛水状態の持続、有機物すき込みなど土壌還元を促進する栽培管理)・イネ品種(品種によって感受性に大差がある)が重なって発生するイネ生理障害Straighthead(アメリカ合衆国南部やオーストラリアの稲作で重要な生理障害、日本ではかなりレアな障害で中国農業試験場の北村英一氏により1950年代に詳しく研究され「しんでんあおだち」と命名された、1980年代に埼玉県大里村などのイネ麦二毛作地域で問題になり土壌肥料分野では「異常穂」と記述される特異的な水稲稔実障害)について、鑑別に役立つ特徴的な症状(双芽や無胚など胚の異常)や発生要因の究明・高感受性イネ品種(陸稲在来品種やフィリピン稲「Palawan」など)による発生土壌の生物検定手法の確立を目指し1980~1991年まで取り組みました。

【写真:Straightheadが発生した現地水田(1982年 愛媛県三間)】

【写真:ポット試験で再現したStraighthead稔実籾の各種異常胚:無胚、双芽などの異常 品種:日本晴】

本文下部の★S★以下に詳細な説明文を記述してあります。

現地水田で発生したStraighthead(愛媛県三間1983)

Straighthead 稔実籾で見られた双芽

ポット試験で再現した奇形穂

 【写真】ポット試験で再現したStraightheadの奇形穂や双芽

  ★S★イネの生理障害Straightheadに関する詳細説明★

 Straightheadは稔実不良と奇形穂・奇形穎果を特徴とする生理障害で、現在でもアメリカ合衆国南部稲作地帯やオーストラリアの稲作で重要な障害とされています(アメリカ南部向けのイネ育種ではこの障害への感受性が品種評価の重要項目とされています)。日本ではまれな生理障害で、イネ栽培研究者でも現地の水田圃場でこの障害の現物に出会うことは珍しい特異な現象です。日本では、第2次大戦後の食糧不足時代の新規開田の水稲作では多様な生理障害が各地で見られたことが報告されていますが、本障害については1950年代中心に当時兵庫県姫路市田寺にあった農林省中国農試と県立の兵庫農試で競うように原因究明と対策技術が検討されています↓。

中国農試北村英一「しんでんあおだち」【畑地転換水田における水稲の異常発育に関する研究(第1報)中国農業試験場報告. A, 作物部・環境部 (12) 43-56, 1966-01 】この包括的な報告書より以前に1950年代に多数の報告があります(後述する予定ですが下記の岩本さんの博士論文が後々に世界中で引用されているのに比べ、北村さんのこの研究があまり引用されずほとんど注目されていないことは非常に残念ですし、その後のStraighthead研究の展開に少なからず悪影響があったと私は感じています)。北村さんが昭和29年日本作物学会に報告した論文の一部を以下に示します

 ◎兵庫農試井上肇・岩本利一「不稔青立ち」【水稲の不稔青立について-1・2-井上 肇, 岩本 利一 中国四国農業研究 / 中国四国農業研究機関協議会 編 (2) 13-16, 1952-09 】後日に岩本利一氏はこの問題で博士論文(東京農業大学)を執筆されStraightheadの主要な基本論文として現在でも外国論文に引用されていることが多い報告です。

 第2次大戦敗戦後の当時は食糧不足を補うため限られた用水を使ってなるべく広い新規水田を潤すため丁寧な代掻きや床締めなど漏水防止対策が徹底されて土壌還元が進み、結果的にStraighthead の発生を助長したのではないかと筆者は推定しています。(ちなみにアメリカ合衆国南部でStraightheadが問題になった1920年代初頭には本障害への決定的な対策技術として「中干し」が推奨されています⇒ TISDALE, W. H.  and JENKINS, J. M. 1921. STRAIGHTHEAD OF RICE AND ITS CONTROL. U.S. Dept. Agr. Farmers' Bui. 1212, 16 pp. これは日本で秋落ち水田の対策技術として「中干し」が取り上げられるより30年近くも前です。)その後、1970年代になると自脱型コンバインが普及し稲麦二毛作地帯で生わらのすきこみが増え、有機物すき込みによる水稲の生育障害が注目されることとなりました。代表的な現地として埼玉県大里村津田地区周辺で発生した奇形穂や不稔が大きな問題になり、当時鴻巣市にあった農水省農事試験場が調査に乗り出し、その後西南暖地の水稲関係研究室が共同して稲作不安定の要因を詳しく研究することになりました。1980年に四国農試に入所した筆者は、同じく鴻巣から赴任された片岡孝義室長から「難しい問題だから先の長い若い人はぜひ取り組め」との命令を受けました。作物の生理障害はターゲットとなる典型症状を見極め、それを実験的に安定して再現できない限り発生要因を追跡することが不可能な難しい研究です。この問題に着手した当時の私は新人でもあり生理障害の原因究明という研究がいかに難問であるか自覚がまったく足りませんでした。1980年代はまだインターネットもなく既往論文や冊子体の2次抄録誌で「生理障害」「Straighthead」 を追跡し、四国農試の図書館にあったIRRIのイネ育種関係の単行書などを手掛かりに手探りで仕事を進めました。約5年ほども過ぎたころ、ポット試験による症状再現手法や陸稲など高感度品種の大苗による生物検定法などを考案し、ようやくこの問題の入り口がはるか彼方に見えるところまでこぎつけました。その後、大苗を使った各種の再現実験や50リットルのコンテナ多数に大里村水田土を詰め濾紙粉末1%を加えて湛水状態の上澄み液を大量に準備し、その液について、空気バブリング処理、活性炭吸着処理陰陽のイオン交換樹脂処理、を行って高感度品種のポットに週に2回注ぐ実験(上に写真掲載)など・・・色々試みました。1991年3月に善通寺から金谷に移るギリギリまでこの難しい問題に取り組みました。(当時の野帳データは成績概要集にB4の裏表1枚もので取りまとめてありますので、資料公開のStraighthead参考情報の中に順次掲載する予定です、まとまりのある報告書や論文作成まで到達できなかったことは深く後悔していますが当時の自分自身の限界であったことを痛感しています) 私の実際の研究はその時点で止まってしまいましたが、その後も上の写真に示した異常胚や双芽の不思議さに興味は尽きず、もはや栽培実験はできないもののこの問題を考え続けて今に至っています。私が四国を離れて40年近く経過しますがこの障害の発生原因の本体はいまだに解明されていないようです。このような形式で自分の研究情報を残しておける時代になったことに深く感謝するとともに真の原因が早期に究明されることを願っています。 Straightheadは日本では発生頻度の低い珍しい障害ですので、このようなレアな課題の研究に時間を割くこと自体が非難されることがあり、私も会議の場で場長から強い口調で詰問されたことを昨日のことのように覚えています。この問題は日本ではごくまれな現象ながら、水稲が湛水状態で土壌還元の強い条件下でも正常に稔実できる特異な作物である理由の一つを追求する重要な研究課題であると私は思っています。また、アメリカ合衆国南部稲作地帯やオーストラリアの稲作でこの障害が稲作の代表的な生理障害とされていることに関し、これらの地域で使われているイネ品種の来歴にStraighthead に感受性の高い陸稲品種やフィリピン稲品種が関係する可能性があると考えています。障害の発生する土壌で湛水栽培しその稔実籾を発芽させると、上の写真のように1個の籾から幼芽が2本出てくる双芽というStraightheadに特有の特殊な現象が数%発生しますが、最近の日本品種で品種間差異を調べると農林22号とコシヒカリなどその類縁品種で双芽が出現しやすい特徴が受け継がれていることを見出しました。これらの品種に導入されている陸稲由来の病害抵抗性と何らかの関係があるのかもしれませんがそれ以上の詳細はわかりません(このことについては四国農試で同じ研究室に所属した金忠男さんからご示唆をいただきました)。

以下にポット試験でこの障害を安定的に再現する実際的な工夫やポイントなどを記述しておきたいと考えます。ポット試験で症状を再現し自信をもってこの障害だと判別できるまでに私は約5~6年ほどもかかりましたので、ご興味ある方は以下の記述を参考にすることで何年分か近道ができるかもしれません。

[ ポット試験でStraightheadを再現する時には次のことがとっても大事です❗]

①straightheadが発生した水田周辺で現場の土を入手する。埼玉県大里村津田地区の土壌が代表的な発生地域(下)

 この地区以外にも日本各地に障害発生土壌があることが明らかにされているがこの地域がおそらく国内最強レベル。

大里

②感受性の高いイネ品種を入手し種子を増殖する(イネ遺伝資源配布組織に依頼するなど)。在来陸稲品種「孝之助」フィリピン陸稲「palawan」はかなり高い感受性がある。またこれらの高感度品種は比較的大穂で一穂籾数が多く穂揃いが良くポット試験で使いやすい。日本の代表的品種「日本晴」は感受性はそれほど高くはないのですが、稔実籾100粒の発芽試験で双芽2粒を指標にすると本障害と確認できます(正常土壌では双芽1個の自然発生確率は多くみても0.1%~0.05%ですので、100粒の発芽試験で自然に出現する双芽が1個出てくる確率は1/10~1/20ですので、100粒の発芽試験に双芽が2個偶然同時に出現する確率は1/10X1/10~1/20X1/20=1%~0.03%程度と見込まれます。したがって100粒の発芽試験を行い双芽が2個以上出現すればその試料はStraightheadとしてよいと判断されます。ちなみに一般的な水稲品種でこの障害以外の原因で双芽が%レベルで出現することはないと考えられます)。

イネ品種による症状の差異(四国農試転換畑土壌)

 ③土壌に添加する有機物は動物実験で飼料に使う粉末濾紙が使いやすく、成分がセルロースで単純です。麦わらなど実際栽培場面で使う有機物は粉末にするためには相当手間がかかるうえ複雑な組成物となるので結果の解析が難しいです。
④ポット試験では常時湛水を維持することが極めて重要(同じ条件のポットを沈水状態で栽培すると安全)

⑤苗の初期生育への影響を回避する方法として正常水田土壌で育成した大苗を鉢土つきのままで使うと良いと考えます。ポットでイネを栽培する場合、通常の方法では所定量の土壌を詰めたワグネルポットに試験したい有機質を加えて施肥代かきし、そこに稲の苗を植えてゆきます。ところがこの方法では有機質が湛水されて急激に分解するため植えたイネの苗生育に甚大な悪影響を示すことが少なくありません。土壌によってはまれに有機質を加えて代掻きしても苗生育に悪影響が出ない場合がありますがそれは例外的です。そこで筆者は、苗の初期生育と有機質の土壌中での分解を切り離せるような条件設定を工夫しました。すなわち無処理の問題のない水田土でイネの苗をある程度のサイズまで育てその後に鉢つきのまま試験したい湛水土壌に移植する方法です(大苗移植)。具体的には、500ml容のポリエチレンカップに肥料添加した水稲用育苗用土を詰め催芽種子を播種し、大苗まで1か月程度プール状のコンテナで育苗し根鉢に根が十分充満すればカップから根鉢ごと引き抜いて所定の条件の大きなポットに移植する(下に概念図)。最初のころはこの概念図の通りに、育苗した苗を小ポットに一度植えて根鉢が硬くなってから株全部を根鉢ごと引き抜いて別の大きなポットで実験していましたが、1987年ごろからは、小ポットに催芽籾を直接播いて大苗を作る方法が楽でした。直播すると苗を移植するより根鉢の形成が早く大きな根が沢山周囲に充満するので苗移植より早くて簡便で都合がよかったです。大苗の実験方法を使えば、還元状態で幼植物が大きなダメージを受けて枯死したり、その後の生育自体が異常になることを回避できます。また、この方法であれば、土壌に有機物を添加して代かき湛水し時間経過を経たのちにどの程度の症状が出るのかを比較することができます。(大苗を使うことを思いつく前は、イネの稚苗を有機物を添加して代掻きしたポットにそのまま移植していましたが、その方法では有機物の分解による土壌還元の影響で苗が枯死したり、生存しても長期間活着せず有機物無添加の対照区と比較不可能なほど異常な生育となっていました。通常土壌で大苗になるまで育成して鉢土つきのまま有機物添加土壌に移植すると初期生育阻害の影響を回避できました。またこの方法では、有機物を添加して代掻きした障害発生土壌を別の場所・別の条件で所定の期間培養しておき順次大苗の入ったポットに戻してやることで、湛水開始後どのくらいの期間が経てば障害発生能が高くなるのかが分かります。同じようにして症状が出る最小土壌量も見極めることができました。ちなみに愛媛県三間町の障害発生土壌では、1%粉末濾紙を添加した場合、高感受性イネPalawanでは1/2000aワグネルポットに湛水土壌150gを加えるだけでも双芽が出現しましたので、障害発生土壌は相当強烈でした。)

大苗を用いる方法模式図

⑥Straightheadであることのキー症状は稔実籾を発芽させて双芽発生率を調べる。上でも述べましたが正常土壌で無症状の場合、双芽の発生率は多くても0.1%(普通は0.05%以下)稔実籾250gをバットに播種して発芽させて双芽を調べたところ、双芽は多くても1粒出現するかどうかの自然発生頻度でした、それに対しstraightheadの稔実籾では双芽が数%以上出るうえ、上方写真に示した無胚種子や幼芽欠損など異常胚も多数出現しました。多くのStraighthead の文献では「不稔」を手掛かりに本障害を判別しているものが大部分ですが、「不稔」は不良環境に遭遇したイネの非特異的な代表的症状であり、冷害や塩害・干ばつなどの気象災害はじめあらゆる障害で起こります。何も問題のない生育をしている正常なイネでも穂によって数%から10%を超える不稔が出る場合がしばしばあります。このような生理的に起こってくる不稔は解釈に苦しみますしその原因も多岐にわたると推定されます。したがって「不稔」はStraightheadで収量を激減させる農業生産的な意味で本障害の主症状ではあっても原因追跡のキー症状としては不適切だと筆者は考えます。これに関し、ヒ素を土壌に添加して起こる水稲不稔を [As induced straighthead] と呼んでいる論文が最近相当に多数出現しています(近年Straightheadでヒットする大部分の論文がヒ素で誘発される稔実不良をStraightheadと記述しています)。これらの論文を読んだ一般研究者はStraightheadがあたかもヒ素が原因で起こる障害であるかのように誤認する恐れが多分にあります。アメリカやオーストラリアの水田で起こるこの障害は自然条件で発生するStraighthead ですが、それにヒ素がかかわると述べているのは綿花栽培で使われたヒ素系除草剤が綿の後イネを栽培して不稔を起こすと指摘する論文がある程度です。イネに不稔が起こるメカニズムはヒ素の障害と関連性がある可能性はあるかもしれませんが、ヒ素で誘発された不稔を扱う論文や実験では、自然に起こるStraighthead の指標症状として極めて特異的で特徴的な異常胚や異常穂の再現には一切触れていません。筆者も着手3年目にポット試験でヒ素系農薬を含む各種薬剤類添加試験を試みたものの、どの薬剤やホルモン類でも異常胚や奇形穂は再現できませんでした。逆に不稔はかなり多くの薬剤処理で発生し、「不稔はあまりにも一般的で非特異的な症状のためStraightheadの原因特定の手掛かりにはなりえない」と感じ、私はそれ以上追及するのはあきらめました。さらに付け加えると、ヒ素による水稲の生育障害は日本の土壌肥料研究者が土壌汚染分野で長年精力的に研究を積み重ねてきた重要な研究課題ですが、異常穂や異常胚についての記述は見られず、それらの論文では水稲の稔実障害や不稔について詳しく論じられていても、なぜかそこに「Straighthead」という英名は一切使われていません。水田土壌肥料研究者はイネの生理障害にも詳しく、前出の中国農試北村英一氏の先駆的なStraighthead研究を知らない者などなく、明確な原因が分からない段階で用語を軽々しく使うべきではない、と考えられていたのかもしれません。【ヒ素によって誘発されるStraightheadについては下方に追加記述しました。

下表:正常な水稲種子における双芽の出現率

(データの説明:通常水田で栽培した各品種の種籾をろ紙を敷いたバットに播種して発芽させて出現する双芽を計数した)

 

⑦ご参考までに 「Straightheadを研究する意義と理由」の説明

◆イネが水田で育つ作物である根拠の一つを解析するため(酸素不足の湛水土壌で正常に生育し、出穂・開花・結実して増殖できることの理由)◆イネの品種が陸稲と水稲に区別されている根拠の一つを解析する(水不足に適応力のある陸稲、湛水状態に適応力のある水稲、湛水に適応する能力の一つがstraightheadに対抗して稔実できる能力と思われます)◆湛水中の水田土壌で起こる物質代謝とイネの体内代謝や生理的機能との関係をより深く理解する(水田土壌中に鋤こまれた未熟有機質の代謝物がイネの生育に及ぼす影響を詳しく解析する、最近では土壌DNAで土壌微生物の種類や活動状態をモニタリングできるようになった、また幼穂や茎基部組織をメタボローム解析すると稲体の代謝状態が物質レベルで把握できるようになってきている。ただし両者ともにかなりの資金と設備がかかるので「理由付け」がないと不可能)

籾数や果実着果数を人為的に減らす技術につながる可能性 この障害では通常では200粒以上ある一穂籾数が激減し枝梗も減るため一穂に20粒とかそれ以下になりますもしこの障害の原因物質や症状発生メカニズムが解明されると「人為的に籾数や果実着果数を減らす」技術ができるかもしれません。

先にも書いたようにstraightheadというイネの生理障害は、日本全国で年間に多くみても合計数ヘクタール程度のごくわずかな発生面積と思われるまれな障害です。おまけに、幼穂形成期に水田を中干しして落水を徹底すると確実に被害を防止出来ることから、障害のメカニズムと原因究明に貴重な時間と資金・労力を投入し続けることがなぜ必要なのか、説得力のある理由付けをすることがとっても大変で苦労しました。その状況は30年前もそうでしたし、国立研究機関が独立行政法人になってしまった今では、一層先鋭化して研究者の前に立ちふさがっているように私は感じます。興味ある研究課題に出会えたとしても、その課題に時間と資金を割くためには、担当する研究課題や所属組織との整合性が必ず問われます。自分の思うように勝手気ままに研究出来るのは本当のアマチュアだけかもしれないと思います。その意味では、駆け出しの私が四国でこの課題に10年間一途に取り組む環境に恵まれたことに深く感謝しております。

◆日本の主なStraighthead研究者とそれぞれの講演要旨含む関係文献の紹介(査読論文のみを重視するシステムでは、この障害の研究のように成功者がほとんどいない課題では有用な参考情報が人知れず放置されています。例えば北村英一氏の成果中国農試報告)難しい未解決の問題であればあるほど評価が確立した学会誌の研究論文だけではなく「機関の研究報告書」「講演要旨」「参考資料」を丹念に拾い集めることが重要だと私は考えています、現在(2025)では非常に強力な検索システムによって資料が電子化されていさえすれば自宅PCから世界中の研究論文や雑誌記事の所在を知ることができます。それでもまだ電子化されていない非公開資料や閲覧制限が掛けられている資料は不可視ですので注意が必要です◆

参考になる検索キーワード⇒日本語の論文検索システム(CINII、NDLサーチ、googleScholer、などによる人名・事項名などをキーワードにした検索)で以下のキーワードを検索してみればこの問題の基本文献にたどり着けます、「青立ち」「不稔青立ち」「畑地転換水田」「異常穂」「北村英一」「岩本利一」などで2000年代以前を調べてください。 ごく最近「青立ち」で検索していたところ昭和30年代初めの徳島学芸大の野瀬先生の資料に行きつくことができました、以下に表題部分と少しを引用しますが、四国地域ではかなり昔から新規開田水田で稔実不良がよく起こっていたことを知りました。「青立」でヒットした文献を改めて丁寧に調べていてこの文献を見出しましたが最近の強力な論文検索システムが整備されていなければとうてい到達不可能な私にとっての重要情報でした。 

 ※Straightheadでの検索時注意事項※

論文検索するときStraightheadをキーワードにすると「As induced Straighthead」の関連論文が大量にヒットしますが、これはかなりの論文がノイズです、これらの研究の多くでは「イネの稔実不良」という一般的な用語の代わりに「straighthead」を使っているだけで、自然に起こっているStraightheadの追求とはまったく別の研究です。これらの論文の大部分は、いまだ発生原因物質が解明されていない自然に起こるStraightheadを扱っているのではなく、ヒ素を処理して起こるイネの稔実不良を「straighthead」と呼んで研究している論文です。表題にStraihtheadを使うと稲作関係研究者の興味を引きつけやすいという裏の狙いがあるのではないかと松尾は考えています。「ヒ素で起こるイネの稔実不良」というまっとうな用語に比べ「Straighthead」を使うと圧倒的にインパクトのある内容を読者に想起させる効果が高いと思われます。この件に関して作物学会用語集では「青立ち」の対応用語として「straighthead」が当てられており、この問題と何らかの関連性があるかもしれないと私は思っています。これに関して「As induced straighthead」の研究を最初に発表しているのは金沢大学理工研究域物質化学系の長谷川浩先生の下で博士号を取られたMohammad Azizur Rahman博士で彼の論文(2008)の被引用数は110件を越えています(100件を超える被引用数はとても驚異的な数字です、この研究分野における基本論文であることは間違いないと思います、バングラデシュの稲作ではヒ素を含む地下水が灌漑されており大問題となっているのでその問題を解決する研究として非常に大切な情報といえます)。私的見解ですが金沢大学には農学系の学部がなく稲作研究の助言は誰にもしていただけなかったと想像します。ちなみに彼の博士論文はヒ素汚染のバイオレメディエーションに関する研究内容で稲作とは直接的関係はないようです。薬剤で起こるイネの稔実不良からその物質をStraightheadの原因物質と推論している論文は結構多く、兵庫農試の岩本は有機チオール(メルカプタン類)を唱えています、また硫化水素が原因だとの説もあります。いづれにせよ特定の薬剤処理によってイネに稔実不良の症状が出るからそれが障害の原因かもしれないという単純な論理では、自然におこっているstraightheadの真の原因物質には到底たどり着けないだろうと私は思います。高感度で簡便な生物検定法を開発し地道に原因物質を追跡する以外に方法はないだろうと思います(私には果たせませんでしたが、1合目の入り口付近までは見えていたように思います)。 

まだ未着手の簡単実験レシピ (私にはもうできませんが原因物質にアプローチできる可能性がある実験)◆

以下はとても単純な基本実験ですがStraighthead の原因物質を追跡するうえで入り口となりうると思います。ご興味ある人はやってみて下さい、これらは高価な設備が無くとも実施可能です。イネの生物検定はコシヒカリや手近な品種で可能ですが、在来陸稲や高感度品種を使うと応答がより明瞭になります(私の試験データを下方に示しました)。この問題はイネがなぜ湛水状態で生育し稔実できるのかという基本的な研究につながると思います。この記述を読まれた非専門家にも取り組んでいただけると私は考えています。土壌によって作物の生育に大差が生じる点を究明することは非常に重要だと私は思います。

◎身近にある土地利用条件の異なる各種土壌を500g~1㎏程度集め粉末ろ紙(粉末ろ紙がなければデンプン)を1%加え良く撹拌し湛水状態で1か月程度保ち、正常土壌のバケツに植えたイネ(移植後約1か月)を鉢土ごと持ち上げて泥状の試料土壌を入れそのまま湛水状態で穂が出るまで栽培する。穂が出たら稔実を比較するとともに稔実籾を発芽させ調べる。土壌によってはイネに全く影響のないものや逆に生育が著しく不良のものまで出ると思われますがそれが重要な情報です。有機物を入れたときの土壌の反応とイネの応答の解析は様々な研究展開が可能と思われます。

◎上記で稔実不良や異常発芽が見られた土壌と影響が軽微な土壌を使い、同じ量の有機物を添加して湛水期間を変えた処理区を設定し(例えば2週間湛水、4週間湛水、8週間湛水、4か月・・・・)上記同様にバケツイネに決まった時期に添加し(湛水開始時期をずらす)反応を調べる。このようにすると湛水が継続すると影響がなくなる(原因物質が消失)のかどうかが分かると思われます。

◎先の土壌比較実験で著しい異常が出た土壌について、長期乾燥処理、乾熱処理(電子レンジ処理やフライパンで炒る)長期湛水処理(湛水状態で1年など)を行って異常発生の有無を比較する。異常を引き起こす成分が熱でなくなる土壌成分であるかどうかなどが分かる。

◎異常が明確に出現する土壌と高感度品種が入手できた時は障害原因物質を追跡できる重要な手段が得られたとみられます。ご検討をお願い申し上げます、とともに幸運をお祈りいたします。

 ◆私の主要実験データ

1990年日本作物学会四国支部講演会での発表要旨原稿要旨本文

 ◆Straightheadの参考データなど◆・・・順次追加する予定でおります

下イラスト:Straighthead の稔実籾に見られた異常の種類

稔実籾の異常(イラスト)

 

下表:イネ品種による反応の差異

(説明:品種名の下の()書きは S感受性品種 R抵抗性品種 土壌の種類はSが四国農試転換畑土でStraightheadを起こす土壌、Nは正常の水稲単作水田土 、土壌に添加する有機物量は1/5000aポット当たりの重量gで示す)

品種の感受性比較

 

下:在来陸稲や外国陸稲におけるStraighthead感受性の調査結果

(説明:四国農試転換畑土に1%の粉末ろ紙を加え常時湛水して2反復で調査した、高感受性で穂が大きく出穂時期が好適な品種を探索した。陸稲品種でこの障害が出やすいと推察されたので高感度で実験に使いやすい品種を探した。)

高感受性イネ品種の検索実験

 

下:薬剤処理による類似不稔症状の発生

薬剤試験の方法薬剤試験の結果

 参考資料:アメリカ合衆国のStraighthaed稲での発芽試験情報(本文未入手、発芽に影響があると指摘している)

参考資料参考資料

↑この文献の説明:北村英一氏の昭和29年発行の作物学会論文ではStraightheadの穂の形成異常や稔実籾に種々の胚異常が発生することが明記されているが、諸外国のStraighthead研究では明瞭ではなかった。  

  #茶樹栽培研究情報

以下ではスペースが許される限り ◆お茶栽培研究に関係した情報(容量オーバー後はマイポータルに追加見込み)◆

チャはイネに比べ定量的な実験が難しい作物なので経験蓄積による洞察が大切になることを退職後に痛感しています。その意味でも30年近く経験してわかってきた手掛かりを後に続く人のために書き残しておくことがとても大事だと思っています。私は1991年にイネ栽培から茶樹研究に変わりましたが、そのころにはまだ旧茶業試験場で長年茶樹の研究に取り組んでおられた先輩方から長年の研究経験で蓄積された知識や知恵や失敗談を直接問答形式で知る機会がありました。現在では研究組織が大きく縮小され、研究室制度もなくなり「1専門分野に担当者1人」という相当厳しい状況になっているようです。茶樹の栽培研究は大学などの研究勢力がごくわずかのため、仲間がおらず誰にも相談できない状態に追い込まれてしまうことが強く危惧されます。ここに残す雑多な情報の一部でも今後の茶樹栽培研究に少しでも役立つことを強く願っています。

茶園と茶樹の経済寿命について

 試験場在籍中に茶園と茶樹の耐用年数について行政関係からよく問い合わせを受けました。牧之原台地の茶園では戦前から茶園となってきた園地も多いのですが、それらの大部分は戦後「品種茶園」(⇒やぶきた)への改植が行われました。新規の茶園造成は1970年代から80年代ごろまでは荒茶価格が良好だったことから、盛んに開園され新植(大部分の品種やぶきた)が行われていました。戦前からの茶園では今でも100年以上たった茶樹がまだごくわずかに残っています(実生茶園)が、それらの茶園も含めて煎茶の荒茶取引価格が低迷しているため現在(2025年)では各地の既存産地で耕作放棄茶園が激増し茶樹の新植も大きく減っています。茶樹が植物としてはかなりの寿命を持つことは各地に大茶樹(藤枝、嬉野にあります これらの大茶樹は大楠や大杉のように大きな単一の幹を持つ個体ではなく、根元から株立ちする複数の太枝で構成されています)があることで証明されますが、「茶業経営から見て茶園が何年くらい持つのか?」という問いは「いつごろまでに植え替えたほうが良いのか?」という意味ではないかと私は思っています。この問いについて、①茶園作業効率上の問題(摘採機械の進歩・大型化への対応) と ②新品種への転換 の2点が大きい要因だろうと考えます。 そしてこれら2点の次に来るのが ③樹齢の進展による生産性の低下への対応(別に記述)と思われます。

 古い茶園を改植するにせよ新規開園するにせよ茶園の園地造成や新植などすべてについて膨大な資金と時間と労力投入を要します。茶の苗を植え付けるまでの土地の造成や土壌の改良(深さ1m以上までの排水対策と茶樹に好適な土層づくり⇒高出力の重機を用いて短期間で慌てて作業すると土壌の圧密などが起こって生産が不安定になり後々非常に苦労することになる)に少なくとも1年必要です、苗を植える時も数十年以上栽培し続けるためには手間のかかる細かい配慮(別に記述予定)が欠かせません。植えた後も雑草防除や防風対策が必須で、少なくとも3年間程度は手を抜けません。このようなことから茶業経営者は次世代またはさらにその先のことまで考えて「改植」や「新規造成」に取り組んでこられました。「見事な茶園」は世代を超えた努力と丹精の結晶だと考えられます。

上記①については手摘みで摘採し手揉みで製茶していた明治時代までの茶生産が機械化と大型化により、人力運搬⇒軽トラや中型トラック⇒大型トラックとなり茶園の区画やアクセス通路や園地道路がその時代の製茶システムに適合する必要があることが非常に大きなポイントです。②の新品種への転換は実生茶園からやぶきたへの大規模な品種転換が全国の茶産地で行われたことが典型例ですが、現在でもその規模は別にして品種転換が改植(茶園区画等のリニューアル含む)の大きな動機になっていると思われます。

それでは③の樹齢の進展による生産力の低下の問題ですが、それには2つの大きな要因があります。3-1樹体の劣化、3-2土壌の劣化、の2つです。3-1の樹体の劣化では、茶樹の枝葉が茂る部分=「地上部」 土の中にある根系=「地下部」 地上部と地下部を結ぶ部分である株元=「根株」に樹体劣化の症状が現れます。樹体の劣化は太枝や幹基部が腐ってくることが一番わかりやすい症状です。茶園は数年に一度葉層を刈り下げる作業(中切り)があるのでその時に以下のポイントを観察して劣化の有無を確認します⇒①太枝の地面に接する部分を手で探り腐朽の有無を調べる(地面に接する部分から太枝の腐朽が始まることが多い) ②太い枝を手で持って左右に揺すったとき 株全体が揺れると株元はしっかりしているがその太枝だけが揺れて株全体が揺れないときには株基部に問題がある可能性あり ③中切りして残った枝が細い枝(φ1㎝内外)ばかりで太い枝が見当たらない・・・これらの時には樹体の劣化が強く疑われます。経営的な長期見通しと人的な資源をよく検討されて改植や茶園リニューアルの適否をお考え下さい。

「土壌の劣化」について私は専門外ですが、茶園では年間窒素肥料の施用量が普通作物の数倍以上もあり、なおかつ畝間の同一部位に数十年間継続して施用されることから茶園土壌が酸性化(㏗3以下)して粘土成分が下方に溶脱されることが指摘されています(加藤忠司ら)。それらの溶脱した成分が地中の深い部分(表層下50㎝~)に沈積して粘土層を形成すると透水性が著しく低下して茶園の水はけが悪くなって地下部の劣化を早めると考えられます。茶園土壌や茶樹地下部の状況を直接調べることは多大な時間と労力が必要でとても大変です。そのうえ穴を掘って直接的に調べたところでその地点の情報しか得られません。茶園は造成され苗を移植してから土層を改良することはほぼ不可能です。これらのことに関し、熱画像装置で茶樹葉層の温度を測って茶株の状態を推定する研究などに長年取り組みましたがまだまだ実用的ではありません。唯一、かなりの労力はかかるものの茶園の土層の状態を推定できる方法として「土壌貫入抵抗の深さ別調査」が比較的使える方法だと思います。これらについては別途に説明する予定です。 

捨てておかれがちな調査困難で難しい問題はまだまだ沢山その辺に転がっています◆ 

この情報を書き込んでいるのは2025年6月ですがAi技術が急激に進歩しつつあり、あらゆることが「すでに分かっている」ことのように一般に考えられているかもしれません。お茶や茶樹の研究についてもかなりのことが分かっている専門分野もありますが「茶樹地下部の動態」は依然として詳しくわかっていません。調べてデータを取ること自体が非常に困難(労力や資金・時間)な課題なので賢明な研究者は「なるべく手を出さない」「見て見ないふりをする」状態で昨今は推移しているのではないかと私には思われます。金谷拠点ではかつての国立茶業試験場の時代に 茶樹第3研究室が担当してビル3階建て研究棟の中に「噴霧耕装置」が建設され茶樹の成木を噴霧耕で生育させ根の生育を解析する研究が行われていました。この装置の最後の時代に赴任された本間知夫氏(現在前橋工科大学教授)が維持管理を担当され「根の研究」にレポートを出されています。茶樹は永年生の樹木のため噴霧耕で長期間栽培することは他作物に比べ途方もない労力と神経を使います。現実の茶園では、茶樹の根系は噴霧耕装置とは全く違う状況にあると推定されますが具体的なことはほとんど何もわかっていません。茶園の数十センチ下の土の中にある茶樹根の動態は、今現在のところ推定と想像で組み立てられています。私が生産現場で見た茶樹地上部とわずかばかりの掘り取り調査、茶園環境の観察から研究者や茶栽培者にお役に立てる情報を随時書き加えてゆきたいと考えます。 

◆茶樹木化根の品種系統間差異◆(下表の説明:金谷拠点の育種母樹園を改植する機会に抜根された茶株69品種について各品種10株以上を詳しく観察しました。茶園の改植を担当する業務科職員の理解を得て、重機で掘り起こした茶株をその場に倒立させ数日乾燥してから根に挟まった土壌を鉄棒で取り除く作業を約2か月ほど行って品種による根系の差異を見出そうとしました。当初は数値で計測できる特性が何かあるだろうと甘く考えていたのですが、品種によって移植年度がかなり違うこと、植えた後で枯死し欠株になっている部分では株密度が大きく異なること、土壌の特徴が植えた場所によってかなり違っていること(黒ボクと赤土が混在)、他に比べ高密度で植えられた品種があること・・・など諸問題に遭遇したため「概念的情報」ではあるのですが以下のように情報をまとめました。ある意味では失敗した調査でしたが茶樹の根系を詳しく比較するため必要な工夫について考察できました。挑戦される研究者に役立つ留意点は別記に記述予定です。)

茶樹木化根 特徴的な品種

 上表に示した代表的品種についての説明 ①根株から出る太根の数ではやぶきたが8本程度であるのに比べ、べにほまれでは1株から2本程度しか出ていないものが多かった  

「茶園の土の深さ」は 非常に重要でとても奥深い問題です

茶園の有効土層の深さと土壌の特性は茶樹の生育を左右する決定的に重要な要素です。ところが茶園の有効土層の深さや土壌の特性を簡便に計測する方法は今のところ見当たらないというのが正直なところです。水田の場合は、造成時に田面水の過剰な浸透を防止するために鎮圧して鋤床層を設けその上に作土層を積み上げる形式で造成されているので、水稲栽培時の主な根群域は鋤床の上で15~20㎝の深さで安定しています。ところが旧来の茶園の造成では、自然の土地の起伏を均して少し傾斜を持たせ(降雨や風の停滞を防止するため数度の緩傾斜にする)て園地を造成し、そこに茶の苗を植える方法が主流でした。篤農家など非常に手間暇をかけられる農家では深さ1m程度まで天地返しを行って深く膨軟な土層を確保する場合がありますがそれほど多数派ではないと思われます。1950年代以降は機械力で茶園を造成する手法が大きく発展し、初期には山成方式により元々の土地形状に沿った茶園造成が行われ、その後1960年代以降は改良山成工法によって大幅な土地形状の改変を伴う大規模な園地造成が盛んになっていきました。1990年代以降に茶業が衰退に向かうとともに条件不利茶園が耕作放棄され廃園化して現在に至っていると思います。

 私は1991年に金谷に赴任しましたが、その直後1994年と1995年の2年間継続した少雨と異常高温が茶樹に及ぼす影響について解析するための農水省の緊急調査(果樹試験場との共同調査)に参画する機会に恵まれ静岡県下の茶園や影響が大きかった府県の茶園でも現地調査を行いました。その当時の私は茶樹についてまだほとんど素人同然でしたが多数の現場を調査し影響の大きかった茶園での茶樹掘り取り調査、影響軽微な地域と被害甚大な地域で典型茶園を追跡する調査などに参加し、その後の研究展開に非常に有益な体験を積むことができました。その経験から「茶園の土層の深さと立地環境が干ばつや異常高温対策の要になる」との実感を得ることができました。

◆茶園の土の深さを簡便に評価する方法◆

 貫入型土壌硬度計(大起理化DIK5590)などを使う、手元にそれがなければロープなどを地面に固定する用具「打ち込みマルカン」をホームセンターなどで購入してマルカン部分に木製の棒などを通し取っ手を付けると使いやすい。長さ90㎝のものか120㎝のもので丁度よい長さです。このようなアナログな方法ではありますが、茶園のある地点でどの深さまで貫入できるのか、あるいは貫入時の手元に伝わる振動で礫や砂の有無(手元にカチカチと礫や砂の振動が伝わる)や粘土質で透水不良の部分がどの程度あるのか(包丁で羊羹を切っているようなヌメヌメ感がします)が推察できます。理想的には調べたい茶園で5畝おきに畝間10m毎に一か所程度の測定をすればその茶園の土層の状態がおおむね把握できると思われますが「土が深い良い茶園ほど調査が大変」で「土が浅く深くない茶園では楽に調査が終わる」傾向があります。牧之原台地で台地上を南北に結ぶ主要道路沿いの茶園で貫入深度を計測したデータを下に示しました。平坦な台地面で一見すると良好な茶園が多いのですが土の深さは千差万別でした。隣同士の畑でも土の深さはかなり違う場合が多く、「隣と同じように管理しているのに茶の生育が全然違う」と茶農家さんが感じる原因の一つと考えられます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆茶園立地環境を詳しく見るためのポイント◆ 

◆茶樹根群分布は数年で決まるかもしれない◆ 

◆木化根の大規模な入れ替りはおそらく期待できない◆ 

◆茶樹はとてもお行儀のよい作物です◆ 

◆根群の状態を地上部熱画像から推察する試み◆ 

◆木化根の形態特性は10年生茶樹でも分かる可能性がある◆ 

◆木化根や太い枝に貯まるデンプンとヨード反応による評価見込み◆ 

◆「樹勢」という魔法の言葉を使わない茶樹の状態診断◆ 

◆茶業研修生への講義で触れた「たとえ話による茶栽培の理解」◆ 

◆気候温暖化への適応は「暑く長い夏をいかに安全に越させるか」がポイント◆ 

◆新聞で見かける「園相良好」は相当危険な用語です◆ 

◆茶業研修生の存在に深く感謝◆金谷拠点では大正時代に国立茶業試験場が設置されて以来の茶業技術研修生制度があります(名称は変遷しています 2年制 短大や専門学校並みの位置づけと思われます、高校卒業者が大部分大学卒も時折)。私が1991年に金谷拠点に転勤して以降再雇用が満了するまでの30年間には研修生への講義と卒論指導を業務の一環としてほぼ毎年対応していました。茶業がまだ元気であった1990年代は1学年15人以上の研修生が全国から金谷に集まって寮生活していました。昨今(2025)研修生はかなり少人数となったらしいのですが、1年目の座学と製茶実習・手もみ技術の講習、2年目の卒論研究を通じて「茶生産の基礎を実作業も通して学び、自分自身で考えられる茶業者」となるべく期待されています。そのような研修生への座学は私は当初少々実務経験のある「雑草防除」を担当していました。その後は茶園で現場体験も積み次第に守備範囲が増え「茶園と茶樹の状態診断」なども講義しました。研修生への講義では自分自身が問題をより深く理解するために非常に役に立ちました。特筆すべきは卒論指導です。研修生の卒論といっても研究をするための専門的訓練を受けておらず自分が担当する研究課題に関連したテーマを分かりやすくブレークダウンした卒論テーマを一緒になって数か月データを取り、手取り足取りで卒論を作成指導するというのがその実態です。PCで文書を作ることも図表を作ることもほとんど経験がない研修生が大部分ですので「辛抱のいる作業」でしたが、今振り返ると研修生が存在したおかげでより深く自分の研究ができたと痛感します。金谷に転勤する前の善通寺ではほぼ一人で研究せざるを得なかったし難しい課題を前に孤独感に襲われることも多かったのですが、金谷に来て研修生と一緒にデータを取ったり手伝ってもらえる人が目の前にいることは大きな励みになり研究をより深く楽しむことができました。歴代の研修生には厚く感謝します。それに関連し最近国会図書館の資料検索ページ(NDLサーチ)に金谷の研修生論文集が収録されていることが分かりましたので下にその画像を示します。ご興味ある方は一度検索してみてください。

 

 

◆荒茶の火入れや緑茶熟成技術の非常に奥深い世界◆

 ◆茶の栽培や茶に関して松尾が助けられた情報(羅列します)◆

 ◎茶新芽がどのようにして伸びていくのかを記録した中野敬之氏(元 静岡県茶業研究センター所属)のYoutube画像

  検索⇒キー  [ 中野敬之 youtube ] などで検索すると動画で茶新芽が伸びる過程を記録している

松尾からの説明:茶樹新芽は単純に真上に向けて動かずに伸びてゆくのではなく、旋回しながら上方に伸びて行くようです、旋回を阻害するような被覆物は新芽にかなりのストレスを与えると推定されます。茶の新芽は物理的なストレスに弱く、強風や強雨でたたかれると伸びが止まったり成分が苦くなったりするようです。ここにデータは示しませんが有機液肥を週1回摘採期までに全5回散布する試験を、金谷の一番茶で5反復して行ったところ、対照区で水道水を散布した区では苦み成分が増え芽長が少し短くなりました。高級抹茶を生産する棚被覆(間接被覆)に比べ遮光資材をじかに葉層面にかける直接被覆では品質にずいぶん差が出ますが新芽への物理的刺激が一因と考えられます(接触ストレスを軽減できる直接被覆資材が必要です)。

文字数制限(32000文字)に達しました

以下マイポータルにある [松尾の資料公開] を見てください、随時追加する予定です。

 

 

 


主要な書籍等出版物

  4

主要な論文

  135

主要な講演・口頭発表等

  89

主要なWorks(作品等)

  11

主要なMISC

  79

主要な共同研究・競争的資金等の研究課題

  9

主要な担当経験のある科目(授業)

  6

主要な所属学協会

  8

産業財産権

  1

主要な社会貢献活動

  1