マヤ語入門

マヤ語入門

音楽で学ぼう [4] Maaya X-Ch'úupal

今回はマヤ語歌謡コンクールCD第4巻に収録されているMaaya X-Ch'úupal (Rogelio Canché Canché作詞・歌)。リズムはクンビア。この映像の字幕はCDに付いている歌詞とは表記法が少しだけ違っている。また、いくつか間違いも修正されている。それでもよく分からない箇所が実は数カ所ある。



Tak te tin kaajalo' kin wilik u máan
僕の村にもいるんだ
jun túul ki'ichpam maaya x-ch'úupal.
綺麗なマヤの女性が一人
Ts'o'ok u yookolik in puksi'ik'al
僕のハートはとっくに盗まれてる
jach chéen ikil u che'ej túun tin wéetel
僕に向かって微笑んでくれるだけなのに
le x-ch'úupalo' uts in wilik.
その子に会うのが楽しいんだ
Jach máan ki'ichpam in wéet lu'umil.
すっごく綺麗なんだ、僕の村に住んでるその子は。


Kéen ts'o'okoke' tse'eko', kin wilik u máan
ミサが終わったら、いつもいるんだ
chakjole'en u boonmil u chi'.
唇を赤く塗ってるんだ
Teene' kin ts'áaylin táakpachtej
僕は彼女を追いかけるんだ
chéen yo'olal in ts'ikbal tu yéetel,
彼女と話をするために
tumeen taak in wóok'ot yéetel,
彼女と踊りたいしね
kéen jo'op' u káajbal vaquería.
バケリーアが始まったら

Tak te tin kaajalo' kin wilik u máan
jun túul ki'ichpam maaya x-ch'úupal.
Ts'o'ok u yookolik in puksi'ik'al
jach chéen ikil u che'ej túun tin wéetel
le x-ch'úupalo' uts in wilik.
Jach máan ki'ichpam in wéet lu'umil.

Jach uts in wilik ich vaquería
バケリーアで彼女に会えるのはとても楽しい
u nikte'il u pool yéetel bóoch'.
頭には花を刺して、レボッソを羽織ってる
U yiipile máanja'an tu t'óon.
ウィピルが脹ら脛を隠して
Jats'uts yéetel ka'anal xanab.
それに高いサンダルを履いて、粋だね
Ko'oten in wóok'oto'on le paaxa'.
おいでよ、この曲を僕と一緒に踊ろうよ
Ts'o'okole' kin wóok'oto'on le wakaxo'.
次はトリートを踊るんだよ

Jach ku bin te óok'oto'.
彼女は踊りによく行くんだ
Jach ku bin te tse'eko'.
彼女はミサによく行くんだ
Jach uts in wilik
僕は彼女を見てるのが楽しい
kéen jo'op' u yóok'ot le chan x-ch'úupo'.
彼女が踊り始めたときなんかはね

Uts u yu'ubike' paaxal
彼女は音楽を聴くのが好きだ
jach máan uts u yóok'ot
彼女は踊るのが好きだ
jach uts in wilik
僕は彼女に会えるが楽しい
kéen jo'op' u yóok'ostik jarana.
彼女がハラーナを踊り始めたときなんかはね


【単語】
paax 音楽・演奏
jarana ハラーナ(スペイン語。音楽のジャンル)
vaqueria バケリーア(スペイン語。舞踏会)
wakax 牛。ここでは、El Toritoという曲を指している。
óok'ot 踊り・踊る
bóoch' レボッソ
xanab サンダル・靴
iipil ウィピル

【解説】
こんな牧歌的な世界が今現在本当にあるのかは疑問だ。バケリーアが恋愛の場であったのは随分と昔の話だ。それとも、ロヘリオおじさんのかつての経験を歌にしたのかな。

óok'otは名詞だが、動詞扱いができる。そのままでは逆受動態動詞なので、他動詞として用いる場合には接尾辞の-tが必要となる。ところが、óok'ot+tは前のtがsに変ってóok'ostとなることが多いようだ。ただし、óok'ojtという綴りも見たことがあるので、前のtはt/j/sの間で遷移するのだろう。

tin kaajalo'(私の村で)のtinは前置詞tiにA代名詞のinが付いた形で、連用形(IKAL体)に用いられるアスペクトtin (taan in)ではない。

kin wilik u máan(私は彼女が歩くのを見る)のmáanは「通る」という意味の動詞だが、jach máan ki'ichpamのmáanは強調の副詞のようだ。
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音楽で学ぼう [3] Ko'ox Cancun

今回もVicente Medrano Gilさんの曲からもう一つ。Ko'ox Cancun. (カンクンへ行こう)だ。これは、以前、Yool Iikの番組Ba'ax ka wa'alikの中で暫くテーマソングとして使われていた曲だ。リズムはプンタ・ロックなので明らかにのりがいい。聞いただけで、カンクンでリゾート気分満開。

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【歌詞】
Ku ya'ala'al ten ko'ox Cancun.
カンクンに行きましょう、て言うんだ
ka wile' gringa'o'obo'.
グリンガを見ましょう、て
Keen k'uchoko'o te' jáal ja'o',
ビーチに行けば
ti' u láaj jaymaj u bajo'obi'.
みんな寝そべってるんだって

Ku ya'ala'al ten ko'ox Cancun.
カンクンに行きましょう、て言うんだ
ka wile' gringa'o'obo'.
グリンガを見ましょう、て
Keen k'uchoko'on Sheraton,
シェラトンに行けば、
ti' u láaj jaymaj u bajo'obi'.
みんな寝そべってるんだって

Yaan jaajawa'ani',
仰向けのもいるんだって
yaan noonoka'ani',
うつ伏せのもいるんだって
yaan k'atal-tsela'ani',
横向いてるのもいるんだって
yan xan u jek'maj u bajo'obi'.
中には足を広げてるのもいるそうな

Yaan jaajawa'ani',
仰向けのもいるんだって
yaan noonoka'ani',
うつ伏せのもいるんだって
yaan k'atal tsela'ani',
横向いてるのもいるんだって
yan xan chika'an u me'exi'.
中には髭をはやしてるのもいるとか

Ko'ox Cancun.
カンクンに行きましょうよ
Ma' u páajtal in bin.
俺、行けないよ
Ba'axten ma'?
どうして駄目なの?
Mina'an ten taak'in.
お金がないんだ

Kon a k'éek'en,
豚を売っちゃいなさいよ
kon a wakax,
牛を売っちゃいなさいよ
kon a tsíimin,
馬を売っちゃいなさいよ
kon a wala' péek',
犬を売っちゃいなさいよ
ko'ox Cancun.
カンクンに行きましょうよ

Taak in taal.
一緒に行きたくなった
Taak in bin.
行きたくなった
Mach a baj, boxita,
掴まってろ、
tumeen taak in taal.
俺も行くから

ta paach, Cancun.
お前について、カンクンに


【解説】
おい、お前、どこにも行かなかったんじゃねえのか。カンクンに遊びに行くのは別か? でも、家畜まで売って遊びに行くところか? 犬まで売り飛ばすなんて、マジで? ちなみに、グリンガとはスペイン語以外の言語を話す白人女性のこと。

この曲は歌詞と実際に歌っている歌がなかなか一致しない。マヤ語ってこんなに難しいのと思いたくなるほど、一致しない。しかし、文字を見てるのに聞き取れないわけでは決してない。単に、言文一致にすると、意味を取るのが難しくなるので、文法的に正しい「表記」の歌詞にしてあるだけだ。

たとえば、つぎのパートは決して、文字のようには聞えない。
Ma' u páajtal in bin. 俺、行けないよ

おそらく、「ム パーティン ビン」に聞えるはずだ。実際、そういうふうに発音しているのだから、当たり前。CDの歌詞カードにも、そういうふうに(Mu pajtin bin)書いてある。でも、これでは、意味が取りづらい。音楽に音をうまく乗せるという意味では、このような表記の方がある意味で親切ではあるのだが。


さて、ここでは重要表現として二つ覚えていただこう。

(1) Mina'an ten taak'in. 金がない。

 逆に「金はある」だったら、Yaan ten taak'in.

(2) Taak in bin. 行きたい。

 「Taak + A 代名詞 + 連用形(未完了)」が「~したい」を表す基本文型。
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音楽で学ぼう [2] Sukila'ilen

前回の音楽は耳慣らしが中心だった。文法的にはちょっと難しかったかも知れない。今回のはもっと簡単な文型のものにしよう。

今度は、第3回(2005年)の受賞曲Sukila'ilen(私はスキラ村の人)という曲だ。リズムは何だろう。プンタ・ロックぽい、クンビアだろうか。作詞・唄はVicente Medrano Gilさんだ。マヤの男性にしては割と背の高いダンディーなおっさんだ。

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【歌詞】
Te' tin kaajala' chéen ku beeta'al kool.
私の村では、ミルパだけをやっています。
Ma' in bin mix tu'ux, sukila'ilen.
私はどこにも行きません。スキラ村の人間だから。

U yich in meyaj tun láaj xu'upul ten.
畑で収穫したものは全部なくなりそうです。
Mina'an ten bu'ul. 
私には豆もない
Mina'an ten xi'im.
私にはトウモロコシもない
Chéen wáa jay p'éel ts'íin.
ユカが少しあるだけ
Chéen wáa jay p'éel ts'óol.
カボチャが少しあるだけ
U yich in meyaj tu láaj xu'upul ten.
畑で収穫したものは全部なくなりそうです。

Kex in wu'uy wi'ij,
たとえ、腹が減っても
kex in wu'uy ke'el,
たとえ、寒くても
kex in wu'uy wi'ij,
たとえ、腹が減っても
ma' in p'atik in kaajal.
私は村を捨てません

Kex in wu'uy wi'ij,
たとえ、腹が減っても
kex in wu'uy ke'el,
たとえ、寒くても
kex in wu'uy wi'ij,
たとえ、腹が減っても
sukila'ilen.
私はスキラ村の人間です。

Tin bin túun tin kool.
私はこれからミルパに出かけます。
Ts'o'ok in chupik in chuuj.
ヒョウタンには水を詰め終わりました。
Aanten, ki'ichkelem yuum,
神様、お助け下さい
ka ts'o'okok in kool.
どうかミルパができあがりますように。

Tin bin túun tin kool.
私はこれからミルパに出かけます。
Ts'o'ok in chupik in chuuj.
ヒョウタンには水を詰め終わりました。
Síij to'on saanto ja',
私たちに恵みの水をお授け下さい。
ka yanak in kool.
どうか畑が実りますように。

【解説】
この歌のメッセージは次のフレーズに凝縮されている。

Ma' in bin mix tu'ux. Sukila'ilen.
(私はどこにも行かない。スキラ村の人間だから。)

ma'は否定辞。binはその前にA代名詞のin(1人称単数)があるので、bin(行く)の連用形(不規則変化)、つまり、現在時制。
後半のSukila'ilenは、Sukila' + il + enに分解できる。Sukila'は村の名前、ユカタン州東部のバジャドリーの近くに位置します。接尾辞の-ilが付くことで、出身者を表します。最後のenは1人称単数のB代名詞。B代名詞は自動詞だけでなく、名詞や形容詞にも付けることができます。つまり、Sukila'ilenで、Soy sukilaense/I am a Sukila'an.

ミルパ(トウモロコシ栽培を中心とした農業)だけではやっていけないので、みんな出稼ぎに出るご時世に、ミルパだけで食っていくというのはなかなかできないことでしょう。だからこそ、この歌を作ったのだろうし、村を後にせざるを得なかった人たちへの賛歌でもあるのでしょうね。
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音楽で学ぼう [1] Tin wayak'tech

マヤ語を勉強するのに、文字ばかり読めてもつまらないので、文法の勉強は少しお休みにして、マヤ語の歌で耳慣らしすることにしょう。INDEMAYAが行っているマヤ語の歌コンクールの受賞作品がネットで公開されているので、それをいくつか聞いてみよう。

まずは、簡単なところで、第2回(2004年)の受賞曲 Tin wayak'tech だ。作詞・唄はRogelio Canché Canché. この曲はYoutubeにも映像があがっている、ある意味で有名な曲である。



<歌詞>
Ok'najke' tin wayak'tech.
夕べ、君の夢を見たんだ。
Tin wayak'tikech tin wéetel.
僕と一緒にいる君の夢を見たんだ。

Tin wayak'tike' in yaamech.
夢では僕は君を愛し、
Tin wilike' a yaamen xan.
しかも、君も僕を愛してた。

Sáaschaj ten tin tuklikech.
夜が明けても、僕は君のことばかり考えてる。
Tu'ux binech, ba'axten ma' taal.
君はどこに行ってしまったのか。どうして帰ってこないの。
Ma' wilik'e jach in yaamech.
僕は君をこんなに愛してるのに。
Ta wóolal táan in muk'yaj.
君のことを思うと、僕はつらいんだ。

日本語の訳は参考程度にしていただきたい。一部意訳もあるので、ニュアンスが多少違うところがあるかも知れない。少なくとも、CDに入っている歌詞カードのスペイン語訳とはかなり違う。ただ、スペイン語訳の方がかなり意訳だと思うのだが。

なお、歌の途中で、次のようなかけ声が入っている。
Peeksabaj, peeksabaj.
スペイン語で言えば、Muévete, muévete. 「体を動かせ」
Seeten ki'.
スペイン語で言えば、Qué sabroso.もしくはSabrosísimo.「気持ちいい~」

【解説】
1行目のtin wayak'techは本来tin wayak'tajechだが、アスペクトを表すajが抜けている(発音されていない)。決して、tin wayak' [space] tech.の誤植ではない。wayak'tのtは逆受動態を他動詞化するための接尾辞だ。

2行目のtin wayak'tikechは現在形(未完了アスペクト)だが、夢の中の話なので、スペイン語で言えば、時制の一致による線過去に当たる。

3行目tin wayak'tike'は、夢で見た内容として"in yaamech"という節が来るため、-e'が付いている。また、in yaamechはwayak'tikの目的語であるためモダリティ接辞tが付かない。ちなみに、付いてしまうと、tin wayak'tikの一部を構成しない別の文章となる。

6行目のtu'ux binechは「お前はどこへ行ったのか」という通常の疑問文だが、歌詞カードのスペイン語では「お前がどこにいようとも」と反語表現になっているが、これは意訳だろう。それに続く、ba'axten ma' taalも「どうしてお前は来ないのか」という疑問文だが、「もう帰って来い」となっている。これは明らかに意訳だ。

ちなみに、CD付属の歌詞カードのマヤ語は表記に多少問題があるようだ。たとえば、tin wilike'をtin wike'としている。これはそういうふうに発音した(歌った)ものを「正しく」音声表記したものとも言えるが、これでは意味が通らない。意味を考えれば、wike'はwilike'「分かる」でなければならないのだが、これは wilik > wilk > wik というふうに音が消失する傾向にある。たとえば、日本語で「わかった」を「わぁった」と発音したとしてもコンテクストで理解できるのと同じことだ。そうした言文一致はそれなりに価値はあるかもしれないが、書き言葉としてのマヤ語、また標準語としてのマヤ語が確立していない状況では多少問題がある。実際の歌でも、私にはwilke'と聞えるのだが、みなさんにはどう聞えるだろうか。

さあ、どれだけ聞き取れるようになっただろうか。文字を見ないで、音声だけを聞いてみよう。では、もう一度。今度は字幕付きで。ただし、表記には注意されたし。
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第9課 存在表現 Part 2

動詞yanの使い方に関してはこの講座の第7課で紹介したところだが、イラリアのテキストでは第3課(pp.28--51)で詳細に解説しているので、その説明を元に第7課で不十分だった点について補足しておこう。

■例文
1. Yaan t'u'ulo'ob tin wotoch. 私の家にはウサギがいる。
2. Yaan cha'an tu kaahal in ka'a suku'un. 私のいとこの村では祭りをやっている。
3. Yaan ya'ab ba'alcheo'ob tu yotoch hwaan. フアンの家には家畜がたくさんいる。
4. Yaan xook sáamal. Bik tu'ubuk tech. 明日は勉強がある。忘れないように。
5. Yaan ya'ab máako'ob k'íiwik. Míin yaan ba'ax úuchih. 広場に人がたくさんいる。何か起こったのだろう。
6. Seen yaan ch'o' tin wotoch. Le beetik tin manah hun túul hmiis. 私の家にはネズミがいるんだ。だから、猫を一匹買った。
7. Ta kaahale' seen ya'ab mehen k'éek'en ku máano'ob k'íiwik. 君の村には広場をうろついている豚がいっぱいいるんだね。
8. Tin kaahale' yaan óok'ot behlae'. 私に村では今日、ダンスがある。
9. Yaan síinik tu chuum le nikte'o'. Le beetik táan u kíimil. ニクテの木の根元に蟻がいる。だから、木が枯れそうだ。
10. Seen yaan saayo'ob tin wotoch. Tu haantiko'ob tu láakal in pak'al. 私の家には蟻塚がある。そいつらが畑を全部食い荒らしているんだ。
11. Tin wotoche' seen yaan hats'uts' ch'íich'o'ob ku k'aayo'ob sáansamal in wu'uyeh. 私の家には綺麗な鳥がいる。その鳥が歌うのを私は毎日聞いている。
12. Tene' yaan ten hun p'éel xts'ipit. 私は指輪を一個持っている。
13. Teche' yaan tech óox p'éel a xáanab. 君は靴を三足持っている。
14. Letie' yaan hun túul u nohoch k'éek'en utia'al u koneh. 彼は売るための大きな豚を一頭持っている。
15. To'one' yaan to'on ya'ab u heheláasil ba'alcho'ob t otoch. 私たちは家に色んな家畜をたくさん飼っている。
16. Te'exe' yaan te'ex ya'ab u hobonil xko'olel kaab. あなた達はミツバチの巣箱をたくさん持っている。
17. Letio'obe' yaan tio'ob senkech se'en. Le beetik ma' tu bino'ob mix tu'ux. 彼らはひどい風邪をひいている。だから、どこにも行かない。
18. Tene' ti' yanen tin wotoch, ka'a taal le cháako'. 雨が来たとき、私は家にいた。
19. Teche' ti' yanech ta wotoch, ka'a púuts' a xmehen yéetel u hyaakunahe'. あなたの娘さんが恋人と駆け落ちしたとき、あなたは家にいた。
20 Leti'e' ti' yan tu yotoche'. Ma' tu yu'ubah le k'aayo'. 彼は家にいた。だから、その歌を聞かなかった。
21. To'one' ti' yano'ob t otoche', tumen taan k beetik u hanalil payalchi'. 私たちは家にいた。と言うのは、祈祷用の料理を作っていたからだ。
22. Te'exe' ti' yane'ex ta wotoche'ex, ka'a taal le kala'an u poche'exo'. 酔っぱらいがやって来てあなた方を罵ったとき、あなた方はは家にいた。
23. Leti'o'obe' ti' yano'ob tu yotocho'obe'. Chéen  ma' hóok'o'ob u toke'ex ti' le kala'ano'. 彼らは家にいた。しかし、その酔っぱらいからあなた達を護るために家から出てこなかった。

■文法解説
上の文章はyanの用法上、3つのグループに分けられる。今回のは簡単だ。1番~11番、12番~17番、18番~23番だ。

1~11は前回説明した「~が存在する」という単純な文章だ。12~17は存在するものが誰のところにあるかを表している。ある意味での所有表現と言えるだろう。所有者はten/tech/ti'/to'on/te'ex/ti'o'obで示される。ここまでは、前回の復習だ。

さて、問題は18~23の例だ。これらの文ではyanの後ろにB代名詞がくっついている。存在を表す表現ではこの形はあまり使われない、と前回は説明したはずだ。実は、このB代名詞が付いた形はB代名詞が主語となる存在表現、つまり日本語で言うところの「いる」という意味の表現だ。西語ではestar表現、英語ではthereが付かないbe動詞の存在表現に相当する。

この表現で特徴的なのはyanの前に場所を表す前置詞のti'が付いていることだろうか。このti'とB代名詞がセットで出てきたら、「いる」表現だと思えばいいのかもしれない。注意しなければならないのは、この形は過去時制だということだ。

現在時制では、当然、A代名詞が必要になる。次の文を参照されたい。

Ka hóok' le óotsil xch'úupalo'. Ba'ale' ma' tu kaxtah nah utia'al u yantali'. (I:418)
「可哀想な娘は家を出た。しかし、落ち着くための家は見つからなかった。」

yantalがyanの現在時制(未完了形)だ。前置詞のti'はないが、主語が娘であることを考えれば、このyanは「いる」という意味の存在表現だ。面白いことに、この動詞は代名詞のinやaが付いてもyantalなのに、kが付くとantalになる。in wantalやa wantalにならないのだ。そのくせ、k antalだの、命令形ではanenなどとなる不思議な動詞だ。
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第8課 主語動詞倒置構文

マヤ語の語順はVOSであることを以前紹介した。また、OやSをVの前に移動することも可能であることも述べた。しかし、一つ注意しなければならないことがある。次の例を見ていただきたい。

1) 動詞 + 名詞1 + 名詞2
2) 名詞 + 動詞 + 名詞

1)の文では名詞2が主語であることが、語順の基本原則から分かる。では、2)の文ではどれが主語でどれが目的語か分かるだろうか。意味で分かるだろうというのはダメだ。動詞が「殺す」、名詞が「人間」と「ジャガー」だったら、どうする? 言語規則は曖昧性を最大限排除するものでなければならない。どの名詞が動詞の前に移動したのかを明らかにするためには、各名詞に主語ないしは目的語というタグを付ける必要がある。だが、それはそれで余計な規則を必要とすることになる。

ラテン語では全ての名詞が格変化することでこの語順の問題を解決していた。だから、名詞はどこにあっても、それが主語か目的語かなどが明確であった。しかし、それは複雑な格変化を覚えることを意味したため、後世、その格変化は次第に簡略化されることとなった。英語に至っては一般名詞およびそれに付く冠詞は格変化を失い、語順だけで主語と目的語の区別をするまでに至っているのである。それがいいとは一概には言えない。では、マヤ語はこの語順の問題をどのように克服しているのだろうか。

■例文
 1: Pedro: Máax kiinsik wakax ta kaahal, Pablo? パブロ君、君の村では誰が牛を屠殺するんだね。
 2: Pablo: Hun túul máak. ある男性です。
 3: Pedro: Ba'axten ku kiinsik le wakaxo'? その人はどうして牛を屠殺するんだね。
 4: Pablo: Utia'al u koneh. 売るためです。
 5: Pedro: Máax haantik u bak'el wakax? その牛の肉は誰が食べるんだね。
 6: Pablo: Tuláakal máak. みんなです。
 7: Pedro: Ba'ax ku beetik le t'eelo? 雄鳥はどんなことをするだね。
 8: Pablo: Ku k'aay. 歌います。
 9: Pedro: Kux máak ku k'aay wa? 人間は歌うのかな?
10: Pablo: Ku k'aay. 歌います。
11: Pedro: Ba'ax haanteh kaaxo'? 鶏を食べたのは何だね?
12: Pablo: Hun túul ooch. イタチです。
13: Pedro: Máax kiins le t'eelo'? その雄鳥を殺したのは誰だね?
14: Pablo: Teen kiinseh. 私が殺しました。
15: Pedro: Ba'axten ta kiinsah le t'eelo'? どうしてその雄鳥を殺したんだね?
16: Pablo: Utia'al in haanteh. 食べるためです。
17: Pedro: Ba'axten ku kinsa'al le wakaxo'? 牛はどうして殺されるのかな?
18: Pablo: Utia'al konbil u bak'el. 肉を売るためです。
19: Pedro: Teche', Pablo, ka haantik wa u bak'el wakax? パブロ君、君は牛の肉を食うのかね?
20: Pablo: Kin haantik. Kux teech? 食べます。あなたはどうなのですか?
21: Pedro: Kin haantik xan. ああ、私も食べるあるね。

■文法解説
「だね」を執拗に繰り返すこの怪しいペドロは一体何者? 宇宙人か? そんな感じのやりとりだが、うまくできている会話(Maas Colli, 1997, p.25)だと思う。少なくとも、主語の倒置(動詞の前への移動)を理解する上では最適な例文だ。諸君は、どんな規則が働いているか分かるかな。
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第7課 存在表現

動詞の勉強は少しお休みして、便利かつ重要な表現を覚えよう。今回は存在を表わす表現だ。英語のthere be、スペイン語のhaberを用いた表現に相当するマヤ語だ。ただし、マヤ語にはbe動詞に相当する単語がそもそも存在しないので、不特定なものと特定物との間での区別のない。

■例文
1. Yaan wa ha' ka konik? 売(kon)れる水(ha')はありますか。
2. Yaan wa ha' a kon ten? 私に(ten)売ってもらえる水はありますか。
3. Yaan múuyal ka'an. 空(ka'an)に雲(múuyal)がある。
4. Tene' yaan óox túul in paalal. 私は息子(paalal)が三人いる。
5. Tu'ux yaan a p'óok? あなたの帽子(p'óok)はどこに(tu'ux)ありますか。
6. Tin kaahale' yaan hun túul máak ku kiimsik wakax tu láakal u ts'ook u k'iinil p'is k'iin. 私の村(kaahal)には週(k'iinil p'is k'iin)末(ts'ook)毎に牛を屠殺する人(máak)が一人います。

■文法解説
yaanが存在を表わす動詞である。これは姿勢動詞(positional verb)と呼ばれる動詞で、普通の動詞とはちょっと違う活用をする。とりあえず、この形を覚えてもらいたい。

存在するものとして言及されるものが主語となる。だから、yaanは3人称の形である。ただし、主語の数は多くの場合反映されない。つまり、yaano'obとはあまり言わない。また、yaanが現在時制だとすれば、A代名詞が必要なはずだが、通常、付かない。表記されないだけなのか、話し言葉でも意識されていないのかは不明だ。

注意して欲しいのは、4番の文(「私は息子が三人いる」)で主語は息子であって、私ではないことだ。この文を正確に訳せば「私には息子が三人いる」だからだ。マヤ語の存在表現は全てこの形(~に~がある)をとると考えておくのがいいだろう。よって、ものの所有者は与格代名詞(ten, tech, ti', to'on, te'ex, ti'o'ob)の形をとる。
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第6課 逆受動態動詞 [2]

マヤ語の逆受動態は他動詞の一つの態であるだけでなく、動詞の一つの種類でもある。マヤ語の動詞には他動詞、逆受動態、自動詞の三種類がある。主格の人称表示に関して言えば、他動詞がA代名詞を用いるのに対し、逆受動態と自動詞はB代名詞を用いる。ここまでは、いままでの文法解説で説明してきたことだ。B代名詞が主語になる場合、目的語としてさらにB代名詞を取ることは不可能なので、主語にB代名詞を用いる逆受動態といわゆる自動詞をあわせて、自動詞と呼ぶことにしよう。

ある意味でのこの基本形(他動詞=A代名詞、自動詞=B代名詞)に対して、逆の代名詞を使う用法が存在する。主語にB代名詞を用いる他動詞、また主語にA代名詞を用いる自動詞だ。それは他動詞が自動詞化することであり、また自動詞が他動詞化することを意味する。ちなみに、欧米語をベースとした言語学では、こうした変化は他動詞の場合は態(voice)の変化と呼ばれる。一方、自動詞の変化は自動詞の他動詞化としか説明できない。いずれにせよ、マヤ語の動詞はAグループとBグループの間で、動詞の形態を変化させることができる。そのメカニズムの一部を確認しておこう。

■例文
1. Letie' ku k'aay. 彼は歌う。
2. Teche' ka k'aax. あなたは結ぶ。
3. Tene' tin molah u soholil in wotoch. 私は家のゴミ(soholil)を集め(mol)た。
4. Tene' tin woklah hun p'éel xts'ipit. 私は指輪(xts'ipit)を一個(p'éel)盗ん(okol)だ。
5. Tene' tin na'atah ba'ax kun úuchul. 私は何が起こる(úuchul)か分かっ(na'at)た。
6. Tene' tin haantah k'abax bu'ul. 私はカバシュ・ブウルを食べ(haan)た。
7. Tene' tin tséemtah in waal. 私が自分の子ども(waal)を育てた。
8. Tene' tin kanáantah in na' le ka'a k'oha'anchachi'. 私は母(na')が病気になった(k'oha'anchah)とき、母の面倒を見(kanáan)た。
9. Tene' tin tsikbaltah bix lúubik xWaanah tu k'ab che'. 私はフアナがどうやって木の枝から落ちた(lúubul)かを喋っ(tsikbal)た。
10. Tene' tin woxo'ontah hun p'éel p'iis ixi'im. 私は一袋(p'iis)分のトウモロコシ(ixi'im)の実を外し(ox'on)た。
11. Tene' tin sakaltah lahun páawo'. 私はサブカン(páawo)を10個(lahun)編ん(sakal)だ。
12. Te'exe' ka wéemsahe'ex. あなた方は(荷などを)降ろす(éems)。
13. Tene' tin we'esah ti' in waal bix u kiimsa'al wakax, kaax, úulum, k'éek'en yéetel ooch. 私は牛や鶏、七面鳥、豚、イタチはどういうふうに殺す(kiims'al)のか、子どもに見せて(e'es)やった。
14. Tene' tin bisah in nook' chuybil. 私は服を縫って(chuybil)もらいに持って行っ(bis)た。
15. Tene' tin wéemsah a k'aan lu'um. 私はあなたのハンモック(k'aan)を床に(lu'um)降ろした。
16. Letio'obe' ku kíimsaho'ob. 彼らは屠殺(kíims)をする。
17. Tene' hóok'sah in waakax hanal. 私は牛を餌を食べ(hanal)に出させ(hóok's)た。
18. Tene' tin woksah nikte' ich nah. 私は花(nikte')を家に入れ(oks)た。

■文法解説
上の例文すべてに関してここで全部を説明するのは、学習者にとってはあまりに大変なので、一部の説明に止めよう。でも、上の例文はイラリアの教科書の第2課に出てくるものばかりだ。

さて、tene'の次に来るA代名詞(in)とその後ろの動詞の形に注目して欲しい。大きく分けて、5つのグループに分類できるのだが、どうなるだろうか。トライしてみて欲しい。     1) k+A代名詞+V+無標 (1,2)
 2) t+A代名詞+V+ah (3-5,13)
 3) t+A代名詞+V+t+ah (6-11)
 4) k+A代名詞+V+s+ah (12,16)
 5) T+A代名詞+V+s+ah (14,15,17,18)

5番を3)のグループに入れた人はいるかも知れないが、それはそれで構わない。むしろ、その方が目の付け所としてはいいはずだ。

これまでの知識を総動員すれば、次のことが分かるはずだ。
 1) 「自動詞」(逆受動態)の現在時制の文
 2) 他動詞の過去時制の文
 3) 逆受動態動詞にtが付いて他動詞化したものの過去時制の文
 4) 他動詞の現在時制のはずだが、過去時制の他動詞マーカーが付いている
 5) 他動詞の過去時制の文

接尾辞-sから説明しておこう。これは、いわゆる自動詞を他動詞化するための接尾辞だ。éem(降りる)、kíim(死ぬ)、hóok'(出る)、ok(入る)、bin(行く)が自動詞で、それに接尾辞の-sが付いたのが上の例文だ。ただし、binsはbisに変化する。なお、13番のe'es(示す)は実は元々他動詞であり、自動詞は存在しない。それゆえ、5)ではなく、2)のグループに入る。

では、第4のグループとなった12番の文は一体何なのか。éemに他動詞化辞のsが付いているので他動詞であることまでは分かるが、なぜ現在時制で他動詞マーカーの-ahが付くのか。この-ahは実は逆受動態のマーカーだ。つまり、éemsahはこれ自体が動詞(逆受動態動詞)の語幹であり、実は1)のグループと同じ文なのだ。16番も同様である。なお、éemsahの後ろに付いている-e'exは2人称複数、kíimsahに付いている-o'obは3人称複数のマーカー(主語の一部)である。

これで、逆受動態動詞としては、そもそも逆受動態である動詞、そして自動詞を他動詞化し、その他動詞を逆受動態にしたものの二つを見たことになる。しかし、まだ一番肝心とも言える、他動詞から派生(態変化)した逆受動態を見ていない。実は、他動詞から派生する逆受動態にはいくつものパターンがあるので、その詳細は次回以降に回すこととしよう。
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第5課 逆受動態動詞 [1]

世界の言語は目的語の表し方から見た場合、対格(accusative)言語と能格(ergative)言語に分けることができるらしい。対格言語は主語と目的語にそれぞれ異なる格(case)を与え、一方で自動詞と他動詞の主語は同じ格を取る。たとえば、「私」は英語では主格がI、目的語がmeというふうに異なる形になるが、自動詞であっても他動詞であっても主語はIだ。

それが当たり前だと思わないで頂きたい。世の中にはそんなふうにはならない言語があるのだ。能格言語では、自動詞の主語は、他動詞の目的語と同じ格を付与され、他動詞の主語とは異なる形を取るのである。

■例文
1. Tene' tséemnahen. 私が養った。
2. Teche' tséemnahech. あなたが養った。
3. Letie' tséemnahi'. 彼が養った。
4. To'one' tséemnaho'on. 私たちが養った。
5. Te'exe' tséemnahe'ex. お前たちが養った。
6. Letio'obe' tséemnaho'on. 彼らが養った。
7. Tene' tin tséentikech. 私がお前を養っている。

■文法解説
(1)B代名詞
1から6までは「過去時制」のところで説明した「自動詞」の過去の文だ。動詞の語尾にB代名詞が付いている。では、tséemnahが「養う」という動詞の語幹かというとそうではない。7番の文章を見ていただきたい。語尾にB代名詞の-echがあるが、その前に、直接目的語の存在を表す未完了のマーカーの-ikがある。さらにその前に-t-がある。さらにその前にtséemの異音のtséenがある。これが「養う」という動詞の語根だ。

さて、まずは-echからだ。2番の文には人称代名詞は-echしかないので、これが動作主だ(実は動詞の形からこれが主格人称代名詞であることが特定できるのだが、この説明は後回しにしよう)。これに対して7番の文章ではA代名詞のinとB代名詞の-echがある。しかも、他動詞のマーカーである-ikがあるので、この文の動詞は他動詞であることが分かる。つまり、inの方がこの文の主語である。では、B代名詞の-echは何か。これは他動詞の直接目的語である。B代名詞は自動詞の主語であるだけでなく、他動詞の直接目的語でもある。マヤ語は、冒頭で述べた能格言語なのである。

(2)逆受動態
「養う」という動詞は、意味論的にはその行為の対象物が存在するはずである。実際、7番の文章ではその対象物(直接目的語)が-echという形で現れている。つまり、「養う」は意味論的には他動詞であるはずなのに、1から6番の文章では他動詞のマーカーである-ah(現在時制ならば-ik)が見あたらない。しかも、他動詞は主語にはA代名詞を使うはずなのに、B代名詞が使われている。このねじれ現象は一体何なのか。

この動詞のタイプ(自動詞・他動詞の区別)と人称代名詞の組み合わせが捻れている動詞あるいは態は逆受動態(antipassive)動詞と呼ばれる。他動詞の観点からすれば、目的語を省略した形の文章を作るときにこの逆受動態が用いられる。他動詞の主語を省略した文が受動態と呼ばれることは誰でも知っているだろう。他動詞の主語を省略するのは目的語を焦点化するためだ。それと同じで、逆受動態で他動詞の目的語を省略するのは主語を焦点化するためだ。英語の他動詞は原則として目的語を省略することはできない。しかし、マヤ語ではできる。何故か。それは目的語が省略されると同時に、主語がA代名詞からB代名詞に変更されるからである。英語の場合は目的語を省略するだけでは、主語は変えられない。つまり、変形操作をしたかどうかが分からない。端から見れば、文が終わらずに、尻切れトンボになってしまうだけだ。

マヤ語の逆受動態は他動詞から派生させるだけでなく、逆受動態が本来の形である動詞がたくさん存在する。「養う」もその一つだが、そうした逆受動態動詞に接尾辞-tを付けることによって、他動詞(能動態)として使用することが可能となる。これで7番の文章の構造が理解できただろうか。
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第4課 SVC構文

前回まではSVおよびSVO構文の事例を見てきた。マヤ語の語順で言えば、VSおよびVOS構文だ。さて、今回はSVC構文だ。中でも、英語のbe動詞を用いる場合の文を見てみよう。

驚くなかれ、マヤ語には英語のbe動詞(スペイン語のser動詞)に相当する単語は存在しない。日本語だってbe動詞に相当する単語はないのだから、実は驚くには当たらない。日本語には「~だ」「~です」といったれっきとしたbe動詞があるではないか、と思ってはいけない。そんなあなたは英語中毒だ。「だ」「です」は国語文法では断定の助動詞と呼ばれるものだ。たとえば、「あたし(は)綺麗?」で日本語として正しい文であり、英語のbe動詞に相当する単語は不要だ。と言うより、文のどこかに含まれている。マヤ語でも事情は全く同じだ。

■例文
1. Bix a beel? ご機嫌(beel)いかが(bix)ですか?
2. Bix a k'aaba a kiik? あなたなお姉さんの名前(k'aaba)は何ですか?
3. Bix u boonil a nook'? あなたの服(nook')は何色(boonil)ですか?
4. Ya'ax. 緑です。
5. U boonil in nook'e' chak. 私の服の色は赤(chak)です。
6. Le múunyalo' bah hats'uts'. 雲(múunyal)がとても(bah)美しい(hats'uts')だ。
7. Tu'ux a taal? あなたはどちら(tu'ux)のご出身(taal)ですか?
8. Hach báah k'aas a nook. お前の服は本当に(hach)みっともない(k'aas)な。
9. Seenkech k'aas le bak'o. その肉(bak')はとっても(seenkech)傷んで(k'aas)いる。
10. La'ah buka'ah ki'ichpamil le xch'úupalo'. あの女の子(xch'úupal)はなんと美しい(ki'ichpam)のだろう。

■文法解説
いずれの文章にも動詞は存在しない。主語に相当する名詞と述語に当たる形容詞もしくは名詞だけだ。極めつけは「服は何色ですか」と聞かれて、「緑色です」と答えるのに、「緑」を意味するya'axという単語一つで済んでいる。日本語だって、「緑だ」「緑よ」「緑さ」「緑ね」「緑ちゃ」という風にニュアンスを変えるために色んな終助詞を付けることができるが、実は「緑」だけで十分だ。

ただ日本語と違って、マヤ語では人称表示が必要だ。ここに上げてある例文では主語は全て3人称単数だ。どはどの人称代名詞を使えば、いいか。思い出していただきたい。今まで出てきた人称代名詞は二つある。in/a/u系列のA代名詞と-en/-ech/-系列のB代名詞だ。ここまで言えば、もう分かるだろう。B代名詞は3人称単数では無標だった。ここに上げた文の主語はすべて3人称単数だから、もし主語が1人称だったら、形容詞には-enが付くし、2人称だったら、-echが付かねばならない。

だから、マヤ語にはbe動詞を使ったSVC文は存在しない。英語のbe動詞構文に相当するマヤ語は(日本語でも)CSなのだ。なお、Cの部分には形容詞もしくは名詞が入る。そのCにB代名詞がくっつくのだ。

■練習問題
次の日本語をマヤ語にしなさい。
1.今日(behlae')、君はとっても綺麗(ki'ichpam)だよ。
2.私は日本人(japonil)です。    ■解答例
1. Behlae' hach ki'ichpamech.
2. Tene' japonilen.
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