2020年4月 - 2023年3月
疾患マウスモデルを用いた天然創傷治癒素材による腸内環境改善機構の解明
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
様々な腸の病気を含む炎症性腸疾患(IBD)患者は年々増加しており、特に腹痛や下痢、血便などを伴う潰瘍性大腸炎は、発症原因が不明な上、現在の治療法が副作用を伴うため、疾患の全体像の理解と治療法の確立が早急に求められている国の指定難病である。現在IBDに用いられている対症療法は副作用を伴い、腸管粘膜を治療させる薬剤はなく、医薬品以外の栄養学的介入が第一であると考えられている。卵殻膜(ESM)は、古くから創傷治癒材料として利用されており、近年は化粧品やサプリメントの原料に使用されて、生活の知恵を代表する安全な天然材料である。リゾチーム(LSZ)は卵白や卵殻膜に存在し、殺菌作用や炎症抑制の働きを持つため、近年、卵白から抽出したLSZが医薬品や化粧品などに応用されている。しかし、これらの科学的根拠やメカニズムの解明に関する報告は少ない。本年度はデキストラン硫酸(DSS)誘発大腸炎モデルマウスを用いて、1日1回の経口投与(人がサプリメントとして摂取する量相当)によるESMとLSZの効果を検証することにした。まず、正常C57BL/6マウスへのESMあるいはLSZ投与を2週間行ったところ、ESMでは直腸、LSZでは十二指腸・空腸・結腸・直腸において組織の柔軟さを担うIII型コラーゲン発現がこれらを与えない対照群と比較して有意に上昇し、抗炎症・線維化抑制が期待できたため、次に1週間のESMあるいはLSZ投与後にDSSで大腸の炎症を誘発する実験を行った。DSS投与中は毎日、体重変化・便の硬さ・血便の様子を記録し、疾患活動指数(DAI)を用いて疾患の臨床的進行を評価した(数値が高い方が病態が進行)。DSSモデルでは2日目以降にDAIが上昇したが、ESMとLSZ投与群で3日目に有意に(p<0.01)それが抑制された(n=8)。
- ID情報
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- 課題番号 : 20K11620
- 体系的課題番号 : JP20K11620