基本情報

所属
早稲田大学 文学学術院 教授
学位
博士(文学)(東京大学)

研究者番号
20272750
J-GLOBAL ID
200901017507476218

中世ロシア文学の研究を行うことを決めたのは、大学院修士課程進学時であった。一番初めに取り組んだ研究は、12世紀キエフ時代にテキストが成立した『キエフ・ペチェルスキイ修道院聖者列伝』であり、当作品の説話構造とそれを成立させた文体を中心に修士論文から博士課程の業績はこのテーマによるものであった。
その後、博士課程在学中1992年9月から1993年12月まで、中世ロシア文学研究の中心地ロシア共和国サンクト・ペテルブルグ市に留学したことが研究上の大きな転機となった。サンクト・ペテルブルグはテキスト学研究の中心地である。テキスト学とは、あるテキスト(作品)につき、種々の写本に収められた様々なヴァリエーションを厚め、それらの異同に一字一句厳密な検討を加えてあらゆる情報を総合し、ヴァリエーション相互の影響関係を確定した上で信頼に足る刊行テキストを作成する仕事であり、研究者の総合的な実力が最も問われる研究ジャンルである。筆者がテキスト学的な研究対象として選んだのは、『聖グレゴリウス講話』であった。この講話はビザンツ教父神学者グレゴリオスの原典に遡るが、テキストの大部分が中世ロシアでの挿入からなる。異教的風習を論難しつつその儀礼を百科辞典的に詳細に記述して「研究」した東スラヴ版『聖グレゴリオス講話』の成立過程は、キリスト教と異教が接触、交流、同化してゆくプロセスでもあった。この研究テーマは、科学研究費奨励研究(A)のテーマ、1996年度「『聖グレゴリオス講話』伝承の歴史をめぐるテキスト学的考察」に引き継がれ、『聖グレゴリオス講話』伝承史が明らかになった。
概して筆者は、スラヴの異教的伝統と普遍性をもつキリスト教の融合のプロセスに特別の関心を抱いて研究を行ってきた。1997-1998年度「民族の記憶としてのモスクワ公国揺籃期研究」では教会と国家との関係において、1999-2000年度「中世ロシア精神史の羅針盤としてのプスコフ文化研究」では、当時のロシア全体がその縮図として先鋭的にあらわれたプスコフの文化を包括的に扱うことによって、異文化融合のプロセスを考察した。この研究成果は、その後、『ロシアの源流』(講談社叢書メチエ、2003年)となって高い評価を得た。
大学院時代の研究は、文体研究(ことに『キエフ・ペチェルスキイ修道院聖者列伝』)を通じてキリスト教文学における異教的伝統を主なる関心事としていたが、当時大学院学生であった筆者は研究経験が浅かったため、本研究テーマの十分な意識化が出来なかった。その後、上記の研究をおこなって、写本を含む一次資料の学問的取り扱いに習熟し、中世ロシアの歴史全般への見通しを獲得したのちに、ふたたび文体研究にもどり、若手研究(B)2002-2004年度「中世ロシア教会文学における異教起源口承モチーフの研究(異文化融合過程の考察)」では、本来キリスト教文化と異教文化の緊張的対立性が集約的に現れるはずの聖者伝文学に属する『キエフ・ペチェルスキイ修道院聖者列伝』の物語のいくつかがロシア・フォークロアに典型的な魔法昔話の構造をとっていることを明らかにした。概して、筆者は、公式的な文化(ロシア国家とロシア正教)と非公式的な文化(異教的民衆文化)のあいだで生じた緊張、対立、葛藤、無関心を装った許容、

研究キーワード

  7

論文

  60

MISC

  5

書籍等出版物

  25

講演・口頭発表等

  31

所属学協会

  3

共同研究・競争的資金等の研究課題

  16