研究ブログ

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第12回創元SF短編賞ファイナリスト改稿について

 「神の豚」で第12回創元SF短編賞の優秀賞をいただきました溝渕です。

 現在、創元SF短編賞ではファイナリストに選出された段階で改稿の機会が設けられており、わたしも第12回のファイナリスト改稿を行いました。

 第12回の選評が出たあと、次の方のために改稿について書いておくのはわたしの役目だといったん思ったのですが、おせっかいかもとかどれくらい明らかにしていいものかわからんしな……とか考えて、書かずじまいになっていました。ですが、第13回の選評を読んでみて、ファイナリストのみなさんが改稿に苦労されたような雰囲気を感じ、わたしも最終選考のときに心細かったことを思い出したので、やっぱりわたしが何か残しておいたほうがいいなと判断しました。問題があったら削除します。

 主に記憶に頼っているので、細部は忘れてしまったところもあるのですが、だいたいは以下のようなかんじです。

 

 応募段階の原稿と改稿後の原稿で最も異なる点は、主人公(語り手)と血縁関係にある家族との関係、時代設定、全体の構成です。

 最初、主人公、父親、叔父(父の弟)という人物設定で、今から約30年後という時代設定でした。全体の構成は、

①叔父から父が豚に変わったと連絡がある。

②主人公が実家に帰る。

③友人の店で働くようになる。

④友人が祭で豚を出したいが、どうしていいかわからなくて悩む。

⑤祭の準備のためのディスカッションをするが結論が出ない。

⑥食用3Dプリンタのメーカーから営業の人が友人の店に来て、主人公たちが「これだ」と思う。

⑦3Dプリンタをレンタルして大豆ミートの豚を作りはじめる。

⑧父の失踪に関して叔父と話す。

⑨豚が完成して、捌いて飾りつけをする。

⑩祭の成功と、父が死体で発見されたという報告。

⑪父の葬儀(ロボットのストリッパーが来る)、叔父がこれからも豚を飼うことを宣言する。

⑫主人公と友人が豚の寿命や名前、自分たちの未来のことを話す。

でした。

 

 最終選考に残った時に、創元の編集部からコメントをいただき、その中でも主に3点から改稿の方針を立てていきました。※その3点のコメントの内容をざっくり書いていたのですが、あまりよくないかもしれないので消しました。応募時の原稿の構成と、改稿後の原稿の構成との違いから、どういうコメントがあったのか推測していただければ。

 加えて、それまでわたしは一人で書いて一人で応募するというのを繰り返していたのですが、ここにきて「今後最終選考に残ることはないだろうから、今回絶対に賞を取る」という気持ちが強くなり、一人でやるのはもう限界だと思って、初めて他の人に原稿を読んでもらいました。作品に対するディスカッションを行ううちに、その人から「なぜ友人は本物の豚にこだわるのか」という疑問を提示され、せっかくの改稿のチャンスなので、編集部からのコメントに関係するところだけではなく、友人の動機や心情を中心に物語を全面的に見直すことにしました(個人的にはこれが「勝因」になったと思っています)。本作はSF要素が薄い作品なので、無理にSF要素を上げていくよりも、「文芸作品」としての質を高めることに全振りしようと決めました。

 ただ、「コンペ」というものの性質上、公平性は保持しなければならないので、

①募集要項の規定枚数は厳守する。

②このプロットでここまで残ったので、プロットそのものの大幅な変更はしない。

という2点に気をつけました。

 

 その結果、今から約15年後くらいの時代設定の兄妹の物語にして、以下のような構成に変更しました。下線部分が物語の構成上の変更部分です。

①下の兄から上の兄が豚になったと連絡を受ける。

②主人公が実家に帰る。

③主人公が友人の店で働くようになる。

④友人が祭で豚を出したいが、どうしていいかわからなくて悩む。

祭の準備のためのディスカッションをして、友人が豚にこだわる理由や、疫病流行後の台湾での食肉産業の実態が明らかになる。その流れでメンバーの一人が培養肉の3Dプリンタを使うことを提案する。

⑥3Dプリンタをレンタルして豚を作りはじめる。友人が祭や食肉に対する思いを吐き出す。

⑦上の兄の失踪に関して下の兄と話す。

⑧豚が完成して、捌いて飾りつけをする。

⑨祭の成功と、上の兄が死体で発見されたという報告。

⑩下の兄の喪失感。豚の正体が判明して、下の兄がこれからも豚を飼うことを宣言する

⑪主人公と友人が豚の寿命や名前、自分たちの未来のことを話す。

 営業さんが3Dプリンタを売りに来るシーンと、葬儀のシーンを完全になくしました。

 ディスカッションのシーンでは、作品を読んでもらった人から提示された「なぜ友人は豚にこだわるのか」という疑問から会話を膨らませて友人の動機を描きました(読んでもらった人から出てきた疑問を物語上の問いの一つにしていくのは良い方法だと思いました)。また、上の⑥のシーンでの主人公と友人との会話は、物語上の要請に加えて、こういう小休止的に登場人物の悩みや思いを語らせる場面がないと、作劇としてちょっと座りが悪いかんじがしたのもあって書き加えました。

 その他、改稿に伴って発生した細部の調整、編集部からの細かな要素に関する指摘に基づいた修正(最終的にコメントすべてには対応できていません)、応募段階で書き洩らしていた台湾を描く上で必要なこと(原住民の人々が歴史的に様々な不利益を被ってきたこと、葬式に知人でも何でもない政治家が来ること等)や、改稿しているうちに思いついたこと(この段階で豚をかわいく描くのがだいじだと気づきました……)の追加を行いました。

 結局、応募時の3分の1くらい削って、そのぶん上記した内容の追加・修正をしました。改稿後に再提出した原稿は40字×40字で25枚ジャストでした。

 2021年10月末に刊行されたものは、この段階から構成に関してはほぼ変更がありません。受賞後の改稿でいろいろつけくわえたりもしたのですが、けっきょくこの形におちつきました。

 

 だいたいこういうかんじです。今後、創元SF短編賞に限らず、何かのお役に立つとうれしいです。

 最後に、ファイナリスト改稿時のコメントを下さった創元の編集部のみなさま(?)には、改めて感謝いたします。

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