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2023年3月23日

仏教から見る脳オルガノイド研究

第22回日本再生医療学会総会・特別企画3「脳オルガノイド研究の倫理」
  • 師 茂樹

記述言語
日本語
会議種別
シンポジウム・ワークショップ パネル(指名)
主催者
日本再生医療学会
開催地
国立京都国際会館
国・地域
日本

生命科学の倫理的問題をめぐる議論においては、応用倫理学からの貢献と比較すると、宗教研究からの貢献が少ないことが指摘されている(澤井努)。本報告では、アジアの生命観や自然観、そしてそれらに対する倫理観の基盤となってきた仏教の視点から、幹細胞研究などの倫理的問題について検討することを試みる。

仏教は(植物を除いた)命あるものをすべて「衆生」と考え、「不害」(傷つけるべきではない)などの倫理的対象と考える。ただし、衆生には倫理的な上下関係があると考えられ、倫理的に低位な存在とされる動物の苦痛に対する関心は薄い。

また、仏教では「心の相続」が生命だと考えられ、それが受精卵(羯剌藍; kalala)などに入る(転生する)ことで衆生になると考える。したがって、受精卵は衆生である可能性があり、それを傷つけることは倫理的な問題となる可能性がある。

生命(心の相続)を新たに作り出すことはできないが、心の相続が入る(転生する)対象には、コンピュータなども含めた人工物が含まれる可能性がある。したがって、人工的に作られた脳オルガノイドも衆生である可能性があると考え、倫理的な対象(準-被行為者)とみなすこともあり得る。

一方で、日本仏教にみられる鯨供養、草木供養、実験動物慰霊祭などの「供養」の文化は、自然と共生するアニミズム的心性であると肯定的に評価される反面、「自然資源を奪取し利用する行為を正当化するための文化的・思想的方法」(中村生雄)であるとも指摘されている。
このように仏教は、幹細胞研究などを倫理的に批判する生命観を持つ反面、生命科学の推進を後押しするような思想も形成してきた。仏教を含めた諸伝統を生命倫理などの議論に応用する際には、恣意的な議論にならないように注意する必要がある。