Motoo Tange's blog

数学リテラシー2(第1回)
2023/05/30

  [場所:3A308(火曜日15:15〜16:30, 16:45〜18:00)]数学リテラシー2のHP数学リテラシー2が始まりました。実数直線の部分集合今回は 実数直線上の部分集合 と数列の収束の定義について行いました。実数全体のことは ${\mathbb R}$ と書き表します。また、有理数全体のことは ${\mathbb Q}$ と書き表します。まず実数上の部分集合について考えます。まずは部分集合として区間というものを定義しておきましょう例1.3.1$\{x\in {\mathbb R}|a<x<b\}$ を開区間といい、$(a,b)$ と書き$\{x\in {\mathbb R}|a\le x\le b\}$ を閉区間といい、$[a,b]$ と書きそして半開区間として$\{x\in {\mathbb R}|a\le x<b\}$$\{x\in {\mathbb R}|a<x\le b\}$をそれぞれ $[a,b)$ と $(a,b]$ と表します。これらの記号を使っていきましょう。また、この記号は $a,b$ が $-\infty$ や $\infty$ であっても定義可能です。ただし、$\pm\infty$ は実数ではないので、$(-\infty, 2]$ のように使いますが、$[-\infty,2]$ のようにはならないので注意してください。次に実数の部分集合 $A$ が有界であるということについて定義して行きたいと思います定義1.3.1$A$ を ${\mathbb R}$ の部分集合とします。実数 $M$ に対して任意の実数 $a\in A$ に対して $a\le M$ が成り立つとき $A$ は上に有界といい、このような $M$ のことを $A$ の上界と言います。次に実数 $m$ に対してある $a\in A$ に対して $m\le a$ が成り立つとき $A$ は下に有界といい、このような $m$ のことを $A$ の下界と言います。集合 $A$ が上に有界かつ下に有界のとき $A$ は有界と言います。つまり $A$ が有界のとき上界と下界存在するので ある実数の有限の部分に収まっている部分集合と言うこともできます。集合の言葉で書けば、ある実数 $m,M$ が存在して$$A\subset \{x|m<x<M\}$$ということができます。もちろん十分大きい実数 $K$ を取れば、$$A\subset \{x|-K<x<K\}$$とすることもできます。例1.3.2(1) $A=(-\infty,2]$ は上に有界だが、下に有界ではない。(2) $A=\{x\in {\mathbb Q}|-2<x<3\}$ は有界な部分集合である。(2) の部分集合は $-2$ から $3$ までの有理数ではない数は全て入っていませんので${\mathbb R}$ の区間ではありませんが ${\mathbb R}$ の部分集合にはなっています。次に、${\mathbb R}$ の部分集合 $A$ に対して $A$ の上界全体を $U(A)$ とかき、${\mathbb R}$ の部分集合 $A$ に対して $A$ の下界全体を $L(A)$ とかきます。この時、$U(A)\neq\emptyset$ であることは $A$ が上に有界であること同値であり、 $L(A)\neq \emptyset$ であることは $A$ が下に有界であることと同値になります。ここで実数の連続性公理について説明します。実数の連続性公理$A$ が実数の部分集合として $U(A)\neq \emptyset$ ならば、つまり $A$ が上に有界であるならば $U(A)$ は最小値を持つ。また、もし $L(A)\neq \emptyset$ なら $L(A)$ は最大値を持つ。このことを実数の連続性公理という。このことは実数の性質、もしくは実数を定義づける性質の1つになるのですが、性質として認めておくことにします。有理数はもちろん実数とは違いますが、連続性公理の観点からもそれとは異なることを最後に説明します。例えばこの性質を使うことで どのような実数の性質が導かれるか見てみましょう。例えば $\sqrt{2}$ に近づくような数列 $1,1.4,1.41,\cdots$ を取りますこの時 $A$ を下のように取ります。$$A=\{1, 1.4, 1.41, 1.414, \cdots\}$$のようにとります。この集合 $A$ に対して $2$ が上界となるので上に有界、つまり 実数の連続性公理の最初の仮定を満たします。ですのでこの集合 $A$ に対して $U(A)$ は最小値を持ち、その最小値は実際に $\sqrt{2}$ になります。上の「最小値を持つ」について説明します。例えば集合 $(0,1)$ を考えてみます。この時、この集合の最大値をもちません。しかし、集合 $(0,1]$ を考えた場合、この集合には最大値をもち $1$ となります。 大事なことは、最大値というのは。その集合に含まれていないといけないということです。 最小値についても同じことです。最大値を持つというのは、最大値が存在する、と言うこともあります。$A$ の最大値のことを $\max A$ と書き、$A$ の最小値を $\min A$ と書きます。上限・下限ここで上限と下限について定義をしましょう。$A$ が空集合でなく、 $U(A)$ が空集合でないとき、$U(A)$ の最小値(つまり $\min U(A)$ )は連続性公理から必ず存在し、その最小値のことを $A$ の上限と言います。それを $\sup A$ と書きます。 $A$ が空集合でなく、 $L(A)$ が空集合でないとき、$L(A)$ の最大値(つまり $\max L(A)$ )は連続性公理から必ず存在し、その最大値のことを $A$ の下限と言います。それを $\inf A$ と書きます。$U(A)$ が存在しなければ、$\sup A=\infty$ と書いたり、$L(A)$ が存在しない場合、$\inf A=-\infty$ と書くことがあります。例$\max(0,1)$ は最大値はありませんでしたが、$\sup(0,1)$ は存在して $1$ となります。なぜなら、$U((0,1))=[1,\infty)$ であるから、$\sup (0,1)=\min([1,\infty))=1$ となるからです。つまり、集合が上に有界ではない状況で最大がない場合は $\sup$ も $\max$ も同じ意味で最大が存在しないか、$\infty$ になるかとなります。しかし、上に有界であるとき、最大値が存在しない場合でもその最大に当たる値が上限として定義されているということになります。それで上のような、上界の最小値というややこしい定義になってると言ってもよいかもしれません。下限についても同じです。また、$U([0,1])=[1,\infty)$ でもあるから、やはりこのときでも、$\sup[0,1]=1$ であり、最大値が存在するなら、上限はその最大値と一致します。補題1.3.1$A\subset{\mathbb R}$ とし、$A\neq \emptyset$ とする。$\sup A=\alpha$ なら任意の $\epsilon >0$ に対して、 ある $a\in A$ が存在して、$\alpha-\epsilon<a$ が成り立つ。(証明) 任意の $\epsilon>0$ に対して、$\alpha-\epsilon$ は $A$ の上界ではありません。なぜなら $\alpha$ が上界の最小値だからです。よって、$\alpha-\epsilon$ は上界の条件を満たさないことになります。$x$ が上界であるとは、任意の $a\in A$ に対して、$a\le x$ ですから、このことを否定することで、ある $a\in A$ が存在して、$\alpha-\epsilon<a$ を満たすことになります。          $\Box$${\mathbb Q}$ は連続性公理を満たさないこと上で ${\mathbb R}$ は連続性公理を満たさないと言いましたが、そうではない性質を持つ集合もあるので書いておきます。それで上に書いた有理数 ${\mathbb Q}$ は連続性公理を満たしません。先ほどの例を用います。$$A=\{1, 1.4, 1.41, 1.414, \cdots\}$$とします。このとき、もし ${\mathbb Q}$ が連続性公理を満たすなら、この $A$ は上に有界であるから上限が存在することになってしまいます。しかし、 $\sqrt{2}\not\in {\mathbb Q}$ ですから、これは矛盾するわけです。$\sqrt{2}$ が有理数ではない証明は省略します。よって、${\mathbb Q}$ は連続性公理を満たさないということになります。よって、連続性公理とは、実数のように途中に穴が開いていないびっしりと数が詰まっていることを表しています。

トポロジー入門(第15回)
2022/02/14

   [場所:オンライン(月曜日3限)]トポロジー入門のHP最終回は、完備距離空間についてやりました。完備距離空間定義15.1距離空間 $(X,d)$ において点列 $(x_x)$ が、$\forall \epsilon>0$ に対して、$\exists N\in {\mathbb N}$ と、$\forall m,n>N$ に対して、$d(x_n,x_m)<\epsilon$を満たすとき、$(x_n)$ をコーシー列という。この定義は ${\mathbb R}$ 上のコーシー列の一般化になっています。一般に、コーシー列は収束列とは限りません。たとえば、$a_n=1/n$ とすると、$(0,1)$ において、$a_n$ はコーシー列ですが、$(0,1)$ に収束先はありません。 つぎに、距離空間の完備性の定義をします。定義15.2$(X,d)$ を距離空間とする。任意のコーシー列が収束するとき、$(X,d)$ は完備という。先ほどの例 $(0,1)$ は完備距離空間ではないということになります。完備距離空間の例は以下のものがあります。定義15.1 ${\mathbb R}$ は完備距離空間である。定理15.2 コーシー列 $(a_n)$ は有界である。(証明) $\forall \epsilon>0$ に対して、$\exists N\in {\mathbb N}$ において、$n_0,m>N$ となる自然数で$n_0$ を固定しておきます。このとき、$d(a_{n_0},a_m)<\epsilon$ です。$\{d(a_{n_0},a_{n})|n\le N\}$ は高々有限集合なので、その最大が存在して、それを $\delta$ とします。よって、$d(a_{n_0},a_n)<\max\{\delta,\epsilon\}$となります。$n,m\in {\mathbb N}$ に対して、$d(a_n,a_m)\le d(a_n,a_{n_0})+d(a_{n_0},a_m)\le 2\max\{\delta,\epsilon\}$$\text{diam}(\{a_n|a\in {\mathbb N}\})\le 2\max\{\delta,\epsilon\}$よってコーシー列 $(a_n)$ は有界となります。$\Box$ 次の定義をしておきます。定義15.3$(a_n)$ を 位相空間 $X$ の点列 $(a_n)$に対して、$${\mathbb N}\ni k\mapsto n_k\in {\mathbb N}$$を単射とする。このとき、$(a_{n_k})$ を $(a_n)$ の部分列という。定理15.3(ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理)${\mathbb R}$ の任意の有界数列は収束する部分列をもつ。(証明) $(x_n)$ を${\mathbb R}$ の有界数列とします。このとき、$\{x_n|x\in {\mathbb N}\}\subset [-M,M]$ とします。拡大縮小、平行移動をして $\{x_n|n\in{\mathbb N}\}\subset [0,1]$ としておきます。定理13.8 (こちらのページ)と同様に、区間を半分にしていくことで、$$[0,1]\supset[a_1,b_1]\supset [a_2,b_2]\supset \cdots $$各 $n\in{\mathbb N}$ に対して、$[a_n,b_n]$ において、点列 $(x_n)$ が無限個入るようにしておきます。このとき、$x_{n_1}\in [a_1,b_1]$ とし、$n_1<n_2$かつ $x_{n_2}\in [a_2,b_2]$ となるようにします。同様に、$n_{k-1}<n_{k}$ であって、$x_{n_k}\in [a_k,b_k]$ を満たすようにします。 そうすると、上の区間の減少列において、$a_n,b_n\to x$ が成り立ち、$\{x\}=\cap_{n=1}^\infty [a_n,b_n]$ となります。$(x_n)$ の部分列 $(x_{n_k})$ であって $a_k\le x_{n_k}\le b_k$ を満たします。また、$a_k,b_k\to x$ を満たすので、$x_{n_k}\to x$ となります。よって、$(x_n)$ の部分列 $(x_{n_k})$ は $x$ に収束する部分列になります。$\Box$また、次の定理が成り立ちます。定理15.4 コーシー列 $(a_n)$ が収束する部分列をもつなら、$(a_n)$ は収束列である。この証明は $\epsilon$-$N$ 論法を使って簡単に証明できるので、ここでは省略します。この定理を用いることで、上の$ {\mathbb R}$ は完備距離空間であることがわかります。(定理15.1の証明)$(a_n)$ を任意の ${\mathbb R}$ のコーシー列とします。このとき、$(a_n)$ は有界数列なので、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理により、収束する部分列を持ちます。$(a_n)$ が収束する部分列をもつので、定理15.4から$(a_n)$ は収束列ということになります。よって、${\mathbb R}$ は完備距離空間になりました。$\Box$ここで以下を示しましょう。定理15.5距離空間において以下が同値である。・コンパクト空間・全有界かつ完備まず、上から下の条件を導きましょう。定理15.6コンパクト距離空間は全有界かつ完備である。(証明) コンパクト距離空間は全有界であることは既に示したので、完備性を示そう。$(a_n)$ を任意のコーシー列とします。$A=\{a_n|n\in {\mathbb N}\}$ とします。$A$ が集積点を持たないとします。このとき、$B_d(x,\epsilon_x)\cap A=\emptyset $ または $\{x\}$ であり、$\{B_d(x,\epsilon_x)|x\in X\}$ は $X$ の開被覆であり、コンパクト性から、$\{B_d(x_i,\epsilon_{x_i})|i=1,\cdots, n\}$ が部分開被覆となります。よって、$A=\cup_{i=1,\cdots,n}(B_d(x_i,\epsilon_{x_i}\cap A)\subset \{x_i|i=1,\cdots,n\}$より、$A$ は有限集合になります。そうすると、ある $p\in A$ に対して、無限個の $(a_n)$ が存在して、$a_n=p$ となります。よって、収束する部分列を持ちます。一方、$A$ に集積点を持つとします。それを $x\in X$ とします。このとき、$a_{n_1}\in B_d(x,1)\cap (A\setminus \{x\})$ とします。このとき、$\delta_1=d(a_{n_1},x)/2$ とします。条件から $\delta_1<\frac{1}{2}$ です。$a_{n_2}\in B_d(x,\delta_1)\cap (A\setminus\{x\})$として、$\delta_2=\frac{d(a_{n_2},x)}{2}$ とすると、$\delta_2<\frac{\delta_1}{2}<\frac{1}{4}$$a_{n_3}\in B_d(x,\delta_2)\cap(A\setminus \{x\})$より、これを続けることで、$\delta_n<\frac{1}{2^n}$ です。また、選び方から、$a_{n_1},a_{n_2}, a_{n_3},\cdots$ は全て違う点であるから、$a_{n_k}$ は部分列であることがわかります。また、$d(a_{n_k},x)<\delta_k<\frac{1}{2^k}$ であるから、$a_{n_k}\to x$ であることが分かります。どちらにしても、コーシー列 $(a_n)$ に対して 収束する部分列 $(a_{n_k})$ が存在します。よって、定理15.4から、$(a_n)$ は収束する列になります。よって、$(X,d)$ は完備になります。$\Box$次に上の逆を示しましょう。その前に次を示しておきます。定理15.7 全有界な距離空間は、任意の点列は、コーシー列となる部分列をもつ。(証明) $(X,d)$ を全有界な距離空間とします。今、$\forall n\in {\mathbb N}$ に対して、有限点 $\{x_1^n,\cdots, x_{m_n}^n\}$ が存在して、$$X=\cup_{k=1}^{m_n}B_d\left(x^n_k,\frac{1}{n}\right)$$が成り立ちます。ここで、$(a_n)$ を任意の点列とします。$B_1=B_d(x_{k_1}^1,1)$$B_2=B_d(x_{k_1}^1,1)\cap B_d(x_{k_2}^2,\frac{1}{2})$$B_3=B_d(x_{k_1}^1,1)\cap B_d(x_{k_2}^2,\frac{1}{2})\cap B_d(x_{k_3}^3,\frac{1}{3})$$\cdots$のようにして、$B_i$ には、$(a_n)$ のうち無限個の点列を含むようにすることができます。同じことですが、そのような $k_i$ を選ぶことができます。そうすると、$$B_1\supset B_2\supset B_3\cdots$$となることがわかります。こうすることで、$a_{n_1}\in B_1, a_{n_2}\in B_2,\cdots$ のように点列を選ぶことができて、$n_1<n_2<\cdots$ と仮定することができます。よって、部分列 $a_{n_k}$ をとることができます。今、$\epsilon>0$ に対して、$\frac{1}{2N}<\epsilon$ となる自然数 $N$ が存在して、$\forall k,l>N$ に対して、$d(a_{n_k},a_{n_l})\le d(a_{n_k},x^N_{n_k})+d(x^N_{n_k},a_{n_l})<\frac{1}{N}+\frac{1}{N}<\epsilon$ を満たします。よって、$a_{n_k}$ はコーシー列となります。$\Box$では、先ほどの定理15.5の下から上を示しましょう。定理15.8全有界かつ完備距離空間はコンパクト空間である。(証明) $(X,d)$ が全有界完備であるとします。このとき、$(X,\mathcal{O}_{d})$ は全有界かつ完備であるから、$X$ はリンデレフ空間になります。よって、任意の開被覆 $\mathcal{U}\subset \mathcal{O}_d$ に対して、高々可算部分被覆 $\mathcal{V}\subset \mathcal{U}$ が存在します。$\mathcal{V}$ が有限であれば、証明が終わるので、可算(無限)集合であるとします。$\mathcal{V}$ にどんな有限部分集合も $X$ を被覆しないと仮定しておきます。どんな $n\in {\mathbb N}$ に対しても、$x_n\not\in V_1\cup \cdots \cup V_n$ をとり、点列 $(x_n)$ を構成します。$\forall i\in {\mathbb N}$ に対しても $V_i$ には高々有限個の $x_n$ のみしか含みません。この点列 $(x_n)$ には定理15.7 から部分コーシー列 $(x_{n_k})$ が存在します。よって、完備性から $(x_{n_k})$ は収束し、その収束先を $x$ とおくと、$x\in V_n$ に対して、$V_n$ は $x$ の近傍であるから、$V_n$ に含まれる無限個の $x_{n_k}$ が存在することになります。これは、$V_n$ には高々有限個の $x_{n_k}$ しか存在しないことに矛盾します。よって、$\mathcal{V}$ は、有限部分被覆が存在します。これは $\mathcal{U}$ の有限部分被覆でもあるから、$X$ はコンパクトであることになります。$\Box$これにより、定理15.5のコンパクト距離空間が全有界かつ完備であることと同値であることが証明できました。ベールの定理ここで、完備距離空間の性質としてベールの定理を示しておきます。そのために以下の定義をしておきます。定義15.4位相空間 $(X,d)$ に対して、$A\subset X$ が$\text{Int}(\text{Cl}(A))=\emptyset$ であるとき、$A$ は疎集合であるという。また、疎集合の可算個の和集合のことを第1類という。また、第1類ではない集合を第2類という。疎集合であることは、上と同値な条件に、$\text{Cl}(\text{Int}(A^c))=X$ があります。これは、以前示した、$(\text{Int}(B))^c=\text{Cl}(B^c)$$(\text{Cl}(B))^c=\text{Int}(B^c)$により導けます。また、条件から、疎集合の部分集合は全て疎集合であることが分かります。注意すべきことは、疎集合というのは、入っている位相空間に依存しますし、どのように入っているかにも依存します。たとえば、$[0,1]\subset {\mathbb R}$ は疎集合ではありませんが、$[0,1]\subset [0,1]\times [0,1]$ は疎集合となります。特に、疎集合かどうかは位相的性質ではありません。例15.2疎集合の例としては、$({\mathbb R},\mathcal{O}_{d_1})$ 上の有限点集合は疎集合です。よって、${\mathbb R}$ 上の可算集合は全て第1類ということになります。例えば有理数全体の集合 ${\mathbb Q}\subset {\mathbb R}$ は通常のユークリッド距離位相空間において第1類となります。ただ、疎集合ではありません。ここで、疎集合を特徴づけましょう。命題15.1稠密開集合の補集合は疎集合である。(証明) $D$ を稠密開集合であるとします。条件から、$\text{Int}(D)=D$ かつ $\text{Cl}(D)=X$ であるから、$\text{Int}(\text{Cl}(D^c))=\text{Int}((\text{Int}(D))^c)=\text{Int}(D^c)=(\text{Cl}(D))^c=X^c=\emptyset$となります。よって、$D^c$ が疎集合ということになります。$\Box$ 次の命題を示しましょう。命題15.2$(X,\mathcal{O})$ を位相空間とするとき、以下は同値。・$A\subset X$ が疎集合である・稠密開集合 $D$ が存在して、$A\subset D^c$ となる。(証明) $(\Rightarrow)$ を示します。$A\subset X$ を疎集合とします。このとき、$D=(A^c)^\circ$ とおくと、$D$ は開集合であり、$\text{Cl}(D)=\overline{(A^c)^\circ}=X$ となります。よって、$D$ は稠密開集合となります。また、$D\subset A^c$ であるので条件を満たします。($\Leftarrow$) を示します。$D$ を稠密開集合とし、$A\subset D^c$ とします。このとき、命題15.1から、$D^c$ は疎集合であり、疎集合の部分集合は疎集合であるから$A$ が疎集合であることになります。$\Box$ここで、ベールの定理を書いておきます。定理15.9(ベールの定理)$(X,d)$ を完備距離空間とする。$D_i$ が可算個の稠密開集合のとき、$\cap_{i=1}^\infty D_i$ は $X$ で稠密集合になる。この証明を考える前に、いくつか説明をしておきます。まずこの定理が補集合では何を言っているか考えましょう。するとこうなります。完備距離空間において、$A_i$ を可算個の稠密開集合の補集合とする。このとき、$A=\cup_{i=1}^\infty A_i$ は、$A^\circ=\emptyset$ である。また、その部分集合を取ると、完備距離空間において、$A_i$ を可算個の疎集合とする。このとき、$A=\cup_{i=1}^\infty A_i$ は、$A^\circ=\emptyset$ である。つまり、ベールの定理は、完備距離空間において、$A\subset X$ が第1類ならば、 $A^\circ =\emptyset$ となる。さらに、対偶を取れば、$A$ が内点を持つとすると、$A$ は可算個の疎集合の和集合で書けない。つまり、第2類集合である。特に、$X$ が完備距離空間であれば、$A=X$ は可算個の疎集合の和によって書くことができない。評語的に言えば、「チリ(疎集合)もつもれど(可算和集合をとっても)山(内点を持つ集合)にならない」ということが言えます。例15.3 例えば、${\mathbb R}^2$ は完備距離空間ですが、可算個の直線によって覆うことができない。また、例15.4 有理数空間は、完備距離空間に同相ではない。なぜなら、もし同相なら、1点集合は、疎集合であるから、${\mathbb Q}$ は、疎集合の可算和集合になってしまうからです。また、一般化して、孤立点を含まなければ完備距離空間は非可算個の点を含みます。もちろん、離散距離空間は、可算個でも完備距離空間になります。ではここで、ベールの定理の証明をしておきます。(証明) $(X,d)$ を完備距離空間とします。$D_i$ を稠密開集合とします。($i=1,2,\cdots$)この時、$\cap_{i=1}^nD_i$ が $X$ において稠密であることを示します。$\forall x\in X$ として、$\forall \epsilon>0$ に対して、$\epsilon_0=\epsilon$ とし、$x_0=x$ とおきます。このとき、$B_d(x_0,\epsilon)\cap D_i\neq \emptyset$ であるから、$x_1\in B_d(x_0,\epsilon_0)\cap D_i$ を取ります。また、$0<\epsilon_1<\frac{1}{2}$ かつ、$$\text{Cl}(B_d(x_1,\epsilon_1))\subset B_d(x_0,\epsilon_0)\cap D_1$$とすることができます。それは、$B_d(x,\epsilon)$ かつ $D_i$ がどちらも開集合であり、距離空間が正則空間であることからわかります。また、$B_d(x_1,\epsilon_1)\cap D_2\neq \emptyset$ であることから、$x_2\in B_d(x_1,\epsilon_1)\cap D_2$ を取り、$0<\epsilon_2<\frac{1}{4}$ を取り、$$\text{Cl}(B_d(x_2,\epsilon_2))\subset B_d(x_1,\epsilon_1)\cap D_2$$とすることができます。このようにして、任意の $n\in {\mathbb N}$ に対して、$$\text{Cl}(B_d(x_n,\epsilon_n))\subset B_d(x_{n-1},\epsilon_{n-1})\cap D_n$$かつ $0<\epsilon_n<\frac{1}{2^n}$ を取ることができます。よって、$\forall m>n\in {\mathbb N}$ に対して、$B_d(x_m,\epsilon_m)\subset B_d(x_{m-1},\epsilon_{m-1})\subset \cdots\subset B_d(x_n,\epsilon_n)$となります。このことから、$d(x_m,x_n)<\epsilon_n<\frac{1}{2^n}$ より、$(x_n)$ はコーシー列であり、完備性から、ある $x_\infty$ に収束します。また、$\forall n\in {\mathbb N}$ に対して $\forall m>n$ に対して、$x_m\in B_d(x_n,\epsilon_n)$ であるから、$x_\infty\in \text{Cl}(B_d(x_n,\epsilon_n))$ となります。よって $x_\infty\in D_n$ かつ、$B_d(x_n,\epsilon)$ であることがわかります。特に、$x_\infty\in B_d(x,\epsilon)$ であるから、$x_\infty\in B_d(x,\epsilon)\cap_{n=1}^\infty  D_n$ であり、$x_\infty\in \overline{\cap_{n=1}^\infty D_n}$ であることがわかります。よって、$\cap_{n=1}^\infty D_n$ は $X$ で稠密であることがわかります。 $\Box$完備化最後に、完備化の話をして終わります。完備化の定義をしておきます。$(X,d)$ を距離空間とします。このとき、ある完備距離空間 $(\hat{X},\hat{d})$ が存在して、$h(X)\subset \hat{X}$ が稠密となる単射連続写像 $h:X\to \hat{X}$ が存在するとき、$(\hat{X},h)$ を $X$ の完備化と言います。例えば、以下の例ががあります。例15.6$({\mathbb R},d_1)$ における $({\mathbb Q},d_1)$ の通常の埋め込みは完備化である。また、次の例を考えます。$C^\ast(X)$ を $X$ 上の有界な実数値連続関数全体とします。$f,g\in C^\ast(X)$ に対して、$$d_{\sup}^X(f,g)=\sup\{|f(x)-g(x)||x\in X\}$$と定義すると、$(C^\ast(X),d_{\sup}^X)$ は完備距離空間となります。完備化についての定理を与えて証明することで終わります。 定理15.10 $(X,d)$ を距離空間とする。このとき、$X$ の完備化 $(\hat{X},h)$ が存在し、完備化は等長写像を除いて一意的である。(証明) $(X,d)$ を距離空間とします。$a,x\in X$ に対して、 $\varphi_x(z)=d(a,z)-d(x,z)$ とすることで、$\varphi_z\in C^\ast(X)$ が構成します。ここで、$\Phi(x)=\varphi_x$ とします。$\Phi$ が単射であることを示しておきます。$\Phi(x)=\Phi(y)$ であるとします。このとき、任意の $z\in X$ に対して、$d(x,z)=d(y,z)$ であり、特に $z=x$ とおくことで、$0=d(x,y)$ であるから、$x=y$ となります。よって、単射$$\Phi:X\to C^\ast(X)$$を得ます。このとき、$|\varphi_x(z)-\varphi_y(z)|=|d(a,z)-d(x,z)-(d(a,z)-d(y,z))|=|d(x,z)-d(y,z)|\le d(x,y)$より、$d_\sup^X(\varphi_x,\varphi_y)\le d(x,y)$ が成り立ちます。この不等式から $\Phi$ が連続であることがわかり、同様に、$d(x,y)\le d_\sup^X(\varphi_x,\varphi_y)$も成り立つことがわかります。$\Phi:X\to C^\ast(X)$ は距離を保つ連続写像であることがわかります$\hat{X}=\text{Cl}(\Phi(X))\subset C^\ast(X)$ とすることで、$\hat{X}$ は完備距離空間であり、$X\subset \hat{X}$は完備化となります。一意性に対してはここでは省略します。$\Box$ ここで使ったのは、完備距離空間の中の閉集合はまた完備距離空間であることでした。

トポロジー入門(第14回)
2022/02/11

  [場所:オンライン(月曜日3限)]トポロジー入門のHP今回は、コンパクト空間についての後半部分をやりました。コンパクト空間の前半はこちらを見てください。コンパクト空間まず、次の定理を示しました。定理14.1(チコノフの定理)$X,Y$ をコンパクト空間であれば、$X\times Y$ もコンパクト空間証明$\mathcal{U}$ を $X\times Y$ の開被覆とします。このとき、$(x,y)\in X\times Y$ に対して、$U_{(x,y)}\in \mathcal{U}$ を選んでおきます。また、$U_{(x,y)}$ に対して、$A_y(x)\times B_x(y)\subset U_{(x,y)}$となる$x$ の開近傍 $A_y(x)$ と $y$ の開近傍 $B_x(y)$ が存在します。この時、$\{B_x(y)|y\in Y\}$ は $Y$ の開被覆であり、コンパクト性から、$B_x(y_1^x),\cdots, B_x(y_{n_x}^x)$が存在して、それらは$Y$ の被覆になります。ここで、$x\in X$ を固定して、$\{A_{y_j^x}(x)\times B_x(y_j^x)|j=1,\cdots, n_x\}$は $\{y\}\times Y$ の被覆になっていて、$V(x)=\cap_{i=1}^{n_x}A_{y_j^x}(x)$は有限個の共通部分なので、$x$ の開近傍になります。また、$V(x)\times Y\subset \cup_{j=1}^{n_x}A_{y_j^x}(x)\times B_x(y_j^x)$となります。ここで、$\{V(x)|x\in X\}$ は $X$ の開被覆なので、$X$ のコンパクト性から$x_1,\cdots, x_s$ が存在して、$\{V(x_1),\cdots,V(x_s)\}$ は $X$ の開被覆となります。今、$\mathcal{V}=\{U_{(x_i,y_j^{x_i})}|1\le i\le s,1\le j\le n_{x_i}\}$ が $X\times Y$ の有限被覆であることを示します。$(x,y)\in X\times Y$ に対して、$x\in V(x_i)$ となる $x_i$ が存在して、$y\in B_{x_i}(y_j^{x_i})$ となる $1\le j\le n_{x_i}$ が存在して、$(x,y)\in V(x_i)\times B_{x_i}(y_j^{x_i})$ となります。つまり、$V(x_i)\times B_{x_i}(y_j^{x_i})\subset A_{y_j^{x_i}}(x_i)\times B_{x_i}(y_j^{x_i})\subset U_{(x_i,y_j^{x_i})}$ がなりたつので、$\mathcal{V}$ は有限開被覆になり、$\mathcal{V}\subset\mathcal{U}$ であるから、$X$ はコンパクトになります。$\Box$このことから、このチコノフの定理を有限回繰り返すことで、各 $X_i$ がコンパクトであるとき、有限直積位相 $X_i\times X_2\times \cdots\times X_n$ もまたコンパクトであることがわかります。例として、区間の直積 $(I^1,\mathcal{O}_{d_1})$ や $(I^n,\mathcal{O}_{d_n})$ はコンパクトであることがわかります。実は、このチコノフの定理は、有限だけではなく、任意個の直積に対しても、同じ主張が成り立ちます。ここでは証明はしません。定理14.2(チコノフの定理)$X_\lambda$ ($\lambda\in \Lambda$)$ がコンパクト空間である時、$$\prod_{\lambda\in \Lambda}X_\lambda$$もコンパクト空間。このことから、$(I^{\mathbb N},\mathcal{O}_{d_1}^{\mathbb N})$ がコンパクトとなります。この空間は、$d_{\infty}((x_n),(y_n))=\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{2^n}|x_n-y_n|$を距離関数として距離空間になり、その時、$\mathcal{O}_{d_1}^{\mathbb N}=\mathcal{O}_{d_\infty}$ が成り立ちます。また、直積空間 $\prod_{\lambda\in \Lambda}X_\lambda$ がコンパクトであれば、標準射影 $\text{pr}_\lambda$ が全射連続であることから、因子空間$\text{pr}_{\lambda}(\prod_{\lambda\in \Lambda}X_\lambda)=X_\lambda$ もコンパクトであることがわかります。これ以降、コンパクト空間の性質についてまとめておきます。まず、次の定理は今後よく使います。定理14.3コンパクト空間の閉集合はコンパクト。(証明) $(X,\mathcal{O})$ をコンパクト空間とします。$A\subset X$ を閉集合として、$A$ の開被覆を $\mathcal{U}\subset \mathcal{O}$ とします。この時、$\mathcal{U}\cup\{A^c\}$ は $X$ の開被覆であるから、$\mathcal{U}$ の有限部分集合 $\mathcal{V}$ が存在して、$\mathcal{V}\cup\{A^c\}$ は$X$ の被覆になります。このとき、$\mathcal{V}$ は $A$ の被覆になっていますので、$A$ の任意の開被覆に対して、有限部分被覆が存在したことになります。これは、$A$ がコンパクトであることを意味します。$\Box$次の定理を示しました。定理14.4$X$ をハウスドルフ空間とする。$A\subset X$ をコンパクト集合とし、$x\in X$ で、$x\not\in A$ となる $x$ に対してある開集合 $U,V$ が存在して、$x\in U$ かつ $A\subset V$ かつ $U\cap V=\emptyset$ を満たす。つまり、$x,A$ は開集合で分離できる。(証明) $\forall p\in A$ をとります。$x,p$ を分離する開集合 $U_p,V_p$ をとり、$x\in U_p, p\in V_p$ かつ $U_p\cap V_p=\emptyset$を満たします。 この時、$\mathcal{V}=\{V_p|p\in A\}$ は $A$ の開被覆となります。よって、$p_1,\cdots ,p_n\in A$ が存在して、$\{V_{p_1},V_{p_2},\cdots,V_{p_n}\}$は $A$ は開被覆となります。つまり、$A\subset \cup_{i=1}^{n}V_{p_i}=:V$ とする。$\cap_{i=1}^nU_{p_i}=:U\in \mathcal{O}$ とおくことで、$x\in U$ かつ、$U\cap V=\emptyset$ となります。もし、$U\cap V\neq \emptyset$ となるとすると、$y\in U\cap V$ に対して、 ある $i$ が存在して、$y\in U_{p_i}\cap V_{p_i}$となるので、これは、一般に、$U_p, V_p$ が共通部分を持たないことに反します。これにより、$U,V$ は、$x,A$ を分離する開集合となります。$\Box$さらに、この定理を使って、次の定理を示すことができます。定理14.5$X$ をハウスドルフ空間とする。互いに交わらないコンパクト集合 $A,B\subset X$ は開集合によって分離できる。(証明) $A,B\subset X$ を互いに交わらないコンパクト集合とします。この時、定理14.4に対して、$x\in A$ と $B$ に対して、交わらない開集合 $U_x,V_x$が存在して、$x\in U_x, B\subset V_x, U_x\cap V_x=\emptyset$ となります。ここで、$\{U_x|x\in A\}$ は $A$ の開被覆であり、$A$ はコンパクトであるから、$x_1,x_2,\cdots,x_m\in A$ が存在して$\{U_{x_i}|i=1,\cdots, m\}$ が $A$ の有限開被覆となります。ここで、$B\subset \cap \{V_{x_i}|i=1,\cdots, m\}\in \mathcal{O}$ となるので、$$U=\cup\{U_{x_i}|i=1,\cdots, m\}$$$$V=\cap\{V_{x_i}|i=1,\cdots, m\}$$ とすることで、$U,V$ は前と同じ議論により、$U,V $は $A,B$ を分離する開被覆となります。$\Box$この定理を用いると、コンパクトハウスドルフ空間は、正規空間であることがわかります。なぜなら、コンパクトハウスドルフ空間の任意の閉集合は定理14.3からコンパクトになり、それらは開集合によって分離できるからです。次の定理を示しました。定理14.6$X$ をハウスドルフ空間とする。この時、任意のコンパクト集合 $A\subset X$ は閉集合となる。(証明) $A$ をコンパクト集合します。$x\not\in A$ となる $x$ に対して、$x\in U, A\subset V, U\cap V=\emptyset$ となる開集合 $U,V$ が存在します。特に、$x\in U\in A^c$ となり、 $x$ は $A^c$ の内点であることがわかります。よって、$A$ は閉集合であることがわかります。$\Box$距離空間はハウスドルフ空間なので、距離空間のコンパクト集合は閉集合であることがわかりました。次に位相空間論で必ず習う次の定理を紹介しておきます。定理14.7コンパクト空間からハウスドルフ空間への連続写像は閉写像となる。(証明). $f:X\to Y$ をコンパクト空間からハウスドルフ空間への連続写像とします。この時、$F\subset X$ を閉集合とします。$X$ はコンパクトであるから、$F$ はコンパクト集合になります。よって、コンパクト集合の連続像はコンパクトであるから、$f(F)$ はコンパクトとなります。定理14.6からハウスドルフ空間の中のコンパクト集合は閉集合であったから、$f(F)$ は閉集合となります。$\Box$この定理を用いると、次を証明することができます。・コンパクト空間からハウスドルフ空間への全射連続写像は商写像となる。・コンパクト空間からハウスドルフ空間への全単射連続写像は同相写像となる。ここで、コンパクト空間を少し一般化しておきます。定理14.1位相空間 $X$ の任意の開被覆は高々可算個の部分被覆をもつとき、$X$ はリンデレフ空間という。この時、リンデレフ空間の例を与えます。定理14.8位相空間は第2可算公理を満たすならリンデレフ空間である。(証明) $(X,\mathcal{O})$ を $X$ の可算開基とします。この時、$\mathcal{U}$ を任意の開被覆とします。この時、$\forall U\in \mathcal{U}$ に対して、$\exists \mathcal{B}_U\subset \mathcal{B}(U=\cup\mathcal{B}_U)$となります。$$\mathcal{V}=\{B\in \mathcal{B}_U|U\in \mathcal{U}\}$$と置きます。このとき、$\mathcal{V}$ は $X$ の高々可算被覆となります。このとき、$B\in \mathcal{V}$ に対して、$B\subset U_B\in \mathcal{U}$をとると、$$X=\cup_{B\in \mathcal{V}}B\subset \cup_{B\in \mathcal{V}}U_B=X$$であるから、 $\{U_B\in\mathcal{U}|B\in \mathcal{V}\}$ は $\mathcal{U}$ の可算部分被覆。例14.5コンパクト空間は任意の開被覆は高々可算被覆をもつから、リンデレフ空間の例になります。また、可分距離空間は第2可算公理を満たしますので、リンでレフの例になります。リンデレフ空間の閉集合もリンデレフ(定理14.3と同様に証明できる)になります。 また、次の定理が成り立ちます。定理14.9第2可算公理を満たすコンパクトハウスドルフ空間は距離空間となる。(証明) $X$ を第2可算公理を満たすコンパクトハウスドルフ空間とすると、先ほど書いたことから、正規空間となります。第2可算公理を満たし、正規空間であるなら、ウリゾーンの距離化定理から、$X$ は距離空間になります。$\Box$コンパクト距離空間距離空間のコンパクト集合についての性質について考えます。すぐわかることは、以下の定理です。定理14.10コンパクト距離空間は有界$(X,d)$ をコンパクトな距離空間とします。このとき、$x\in X$ をとると、$\cup_{n=1}^\infty B_d(x,n)=X$ であるから、コンパクト性より、$\cup_{n=1}^mB_d(x,n)=B_d(x,m)=X$ であるから、$\text{diam}(X)=\sup\{d(x,y)|x,y\in X\}\le 2m$となり、$X$ が有界であることがわかります。また、コンパクト性は、有界より強い性質を持ちます。まず、以下の定義をしておきます。定義14.2 距離空間 $(X,d)$ は、任意の $\epsilon>0$ に対して、ある有限集合$\{x_1,\cdots,x_n\}\subset X$ が存在して、$$X=\cup_{i=1}^nB_d(x_i,\epsilon)$$を満たすとき、$(X,d)$ は全有界と言う。実は次の定理が成り立ちます。定理14.11コンパクト距離空間は全有界である。(証明) $(X,d)$ をコンパクト距離空間とします。この時、$\epsilon>0$ に対して、$\mathcal{U}=\{B_d(x,\epsilon)|x\in X\}$ は $X$ の開被覆であるから、有限部分集合 $\{B_d(x_i,\epsilon)|i=1,\cdots, n\}$ が $X$ の被覆となります。よって、これは $X$ が全有界であることを意味しています。実際、全有界であることと、有界であることは違っていて、一般に、全有界なら有界ですが、逆は成り立ちません。(全有界 $\Rightarrow$ 有界)全有界性から、$\forall \epsilon>0$ より、$X=\cup_{i=1}^nB_d(x_i,\epsilon)$ が成り立ちます。ここで、$\epsilon$ を固定しておきます。このとき、$\{x_1,\cdots, x_n\}$ は $\{d(x_i,x_j)|i,j=1\cdots, n\}$ が最大値を持つので、有界です。それを $K$ としておきます。このとき、$\epsilon$ は固定された実数なので $K$ も固定された実数です。このとき、$p,q\in X$ に対して、$p\in B_d(x_i,\epsilon), q\in B_d(x_j,\epsilon)$ となる $x_i,x_j$ が存在するから、$d(p,q)\le d(p,x_i)+d(x_i,x_j)+d(x_j,q)\le \epsilon +K+\epsilon=K+2\epsilon$ が成り立つから$X$ は有界となります。 また全有界性は位相的性質ではありません。$(0,1)$ は全有界ですが、それと同相な ${\mathbb R}$ は全有界ではありません。よって距離空間において、コンパクト集合は全有界閉集合ということになります。もちろん全有界閉集合は有界閉集合になります。${\mathbb R}$ ではこの逆が成り立ちます。それを示していきます。それをハイネボレルの被覆定理と言います。定理14.12(ハイネボレルの被覆定理)${\mathbb R}$ において $A\subset {\mathbb R}$ がコンパクトであることと有界閉集合であることは同値である。(証明) ${\mathbb R}$ において、コンパクトなら有界閉集合であることはこれまで示していました。なので、今回は逆の、有界閉集合ならコンパクトであることを示していきます。$A\subset {\mathbb R}$ が有界閉集合であるとします。このとき、$\exists M>0(A\subset[-M,M])$ となります。$[-M,M]$ は ${\mathbb R}$ においてコンパクトであるから、$A$ はコンパクトかつ閉集合であるから、定理14.3 から $A$ はコンパクトであることがわかりました。$\Box$ この証明は、${\mathbb R}^n$ においても同様にすることができるので、この定理を一般化して、以下のようにいうことができます。定理14.13(ハイネボレルの被覆定理)${\mathbb R}^n$ において $A\subset {\mathbb R}^n$ がコンパクトであることと、有界閉集合であることは同値である。一般の距離空間の場合には、この同値性は成り立ちません。つまり、コンパクトではないが、有界閉集合のものは存在します。例14.8$({\mathbb R},d)$ を通常のユークリッド距離位相空間ではなく、離散距離位相空間とします。つまり、$$d(x,y)=\begin{cases}1&x\neq y\\0&x=y\end{cases}$$となる距離を入れておきます。このとき、${\mathbb R}$ の全ての部分集合が閉集合であり、さらに、全てのことなる点の距離は1なので、${\mathbb R}$ の直径は1です。 ${\mathbb N}\subset{\mathbb R}$ をとれば、${\mathbb N}$ も有界で、閉集合となります。一方、$\{\{n\}|n\in {\mathbb N}\}$ は ${\mathbb N}$ の開被覆ですが、どの有限部分集合も被覆にはなりません。よって、この距離空間において、コンパクトではないが、有界閉集合になっています。 次に、全有界である距離位相空間の性質を述べておきます。定理14.14全有界な距離空間は可分である。(証明) $(X,d)$ を全有界であるとします。この時、$n\in {\mathbb N}$ に対して、$$X=\underset{k=1,\cdots,n}{\cup }B_d\left(x_k^n,\frac{1}{n}\right)$$ となり、$D=\{x^n_k|n\in {\mathbb N},1\le k\le m_n\}$とおくことで、$D$ が $X$ の可算稠密集合になっています。まず、可算であることはすぐわかります。稠密であることを以下示します。$\forall x\in X$ を取ります。この時、任意の近傍 $\forall V\in \mathcal{N}(x)$ に対して、$B_d(x,\frac{1}{n})\subset V$ となる $n\in {\mathbb N}$ が存在します。上記の被覆性から、$x\in B_d(x^n_k,\frac{1}{n})$ となる $x^n_k$ が存在します。また、$x^n_k\in B_d(x,\frac{1}{n})$ であることから、$x^n_k\in V\cap D$ であることから、$V\cap D=\emptyset$ であることがわかります。よって、$D$ は稠密集合であることがわかります。$\Box$定理14.15コンパクト距離位相空間は第2可算公理を満たす。(証明) コンパクト距離空間であれば、可分であり、可分距離空間ならば第2可算公理を満たします。$\Box$最後に以下を示して終わりました。定理14.16次は同値になります。コンパクト距離空間であること$I^{\mathbb N}$ の閉集合であること(証明) $X$ がコンパクト距離空間であるとします。このとき、第2可算公理を満たす正規空間であるから、ウリゾーンの距離化定理により$I^{\mathbb N}$ に埋め込み可能になります。よって、$I^{\mathbb N}$ のコンパクト集合なので、閉集合なります。逆に、$I^{\mathbb N}$ の閉集合とすると、$I^{\mathbb N}$ は距離空間であるからその部分集合も距離化可能であり、コンパクト空間の中の閉集合だからコンパクト集合になります。$\Box$

トポロジー入門(第13回)
2022/02/07

 [場所:オンライン(月曜日3限)]トポロジー入門のHP今回は、分離公理の後半と、コンパクト空間についての説明を行いました。前回は分離公理としてハウスドルフ空間を行いました。基本的に分離公理とは、2つの交わらない部分集合が開集合を使って分離できるかどうかについての公理でした。分離するとは、$A,B$ を部分集合として、$A\subset U$ のような開集合 $U$ が存在して、$A\subset U$ かつ $U\cap B=\emptyset$となることをいいます。場合によっては、$B$ の方にも同じように開集合 $V$ が取れ、$B\subset V$ となり、 $A\cap V=\emptyset$ となります。この場合、さらに強い分離公理を満たすことになります。また、さらに、$U,V$ に共通部分が内容に取れることもあり、このことを、$A,B$ を開集合で分離するともいいます。分離公理(正則空間・正規空間)ハウスドルフ空間 ($T_2$ 公理) の次に行う分離公理は、$T_3, T_4$ 公理です。定義13.1, 13.3($T_3$-公理、$T_4$-公理) 「$x\in X$ と $x\not\in F$ となる閉集合 $F$ に対して、開集合 $U,V$ が存在して、$$x\in U,\ F\subset V,\ U\cap V=\emptyset$$を満たす」を $T_3$-公理という。「$A\cap B=\emptyset$ を満たす閉集合 $A,B \subset X$に対して、開集合 $U,V$ が存在して、$$A\subset U,\ B\subset V,\ U\cap V=\emptyset$$を満たす」を $T_4$-公理という。定義13.2,13.4$T_1$ かつ $T_3$ 公理を満たす空間を正則空間といい、$T_1$ かつ $T_4$ 公理を満たす空間を正規空間という。ここで、正則空間の言い換えを与えておきます。定理13.1$X$ が $T_3$空間であることと、以下が同値、$\forall x\in X$ と、$x\in U$ となる開集合 $U$ に対して、$x\in V\subset \overline{V}\subset U$ となる開集合 $V$ が存在する。(証明) ($\Rightarrow$)$X$ が $T_3$空間とする。このとき、$x\in U$ となる開集合 $U$ に対して$x,F=U^c$ は1点とそれを含まない閉集合となるから、$T_3$公理から$x\in V,F\subset W$ が存在して、$V\cap W=\emptyset$ を満たします。よって、$x\in V\subset W^c\subset U$ を満たします。ここで、$W^c$ は閉集合であるから、$x\in V\subset \overline{V}\subset W^c\subset U$ となります。つまり、条件が成立することになります。($\Leftarrow$)下の条件が成り立ったとします。このとき、$x\not \in F$ となる閉集合 $F$ に対して、$x\in F^c=U$ は開集合であり、条件から、$x\in V\subset \overline{V}\subset U$ を満たす開集合 $V$ が存在します。このとき、$x\in V$ かつ、$F\subset (\overline{V})^c$ は$V\cap (\overline{V})^c=\emptyset$ であるから$x,F$ を開集合によって分離していることになります。つまり $X$ は $T_3$ 空間であることがわかりました。$\Box$同じように、以下の定理も成り立ちます。定理13.2$T_4$ 空間であることと以下は同値.$X$ の互いに交わらない閉集合 $F$ と$F\subset G$ を満たす開集合 $G$ に対して、$F\subset V\subset\overline{V}\subset G$となる開集合 $V$ が存在する。このことから、以下の関係が成り立つことがすぐにわかります。正規空間 $\Rightarrow$ 正則空間 $\Rightarrow$ ハウスドルフ空間この関係のどの逆も成り立ちません。まず、次の例があります。定理13.3距離位相空間は正規空間。(証明) $A,B$ を交わらない閉集合とします。このとき、$U=\{x|d(x,A)<d(x,B)\}$$V=\{x|d(x,A)>d(x,B)\}$とすると、$A\subset U$ かつ $B\subset V$ であり、定義から $U\cap V=\emptyset$ となります。$\forall x\in A$ とすると、$d(x,A)=0$ であり$d(x,B)>0$ となります。もし $d(x,B)=0$ なら、$x\in \overline{B}=B$ となり矛盾するからです。また、$U,V$ が開集合であることは、$\varphi(x)=d(x,B)-d(x,A)$ は $\varphi:X\to{\mathbb R}$となる連続関数となる。よって $U=\varphi^{-1}((0,\infty))$ となるので、$U,V$ は開集合となる。よって、$U,V$ は $A,B$ を分離する開集合となります。$\Box$よって、距離空間 $\Rightarrow $ 正規空間となります。この、逆は成り立ちません。反例は、ゾルゲンフライ直線です。また、正規空間が成り立つ性質についてまとめておきます。証明はしません。定理13.4(ウリゾーンの補題)位相空間 $X$ において以下は同値。$T_4$ 空間である。互いに交わらない閉集合 $F,G$ に対して、連続関数 $f:X\to I$ が存在して $f(F)=0$ かつ $f(G)=1$ を満たす。定理13.5(ウリゾーンの距離化定理)正規かつ第2可算公理を満たす空間は距離化可能定理13.6(ティーチェの拡張定理)$X$ を正規空間とする。このとき、閉集合 $A\subset X$ に対して任意の連続関数 $f:A\to X$ に対して連続関数$\tilde{f}:X\to [0,1]$ が存在して、$\tilde{f}|_A=f$ となる。ゾルゲンフライ平面 ${\mathbb R}^2_l$を考えましょう。こちら にてゾルゲンフライ直線、平面についての解説を書いたことがあったのでリンクをはりました。ゾルゲンフライ直線の2つの直積としてゾルゲンフライ平面を定義します。ティーチェの拡張定理を使うと、${\mathbb R}^2_l$ は正規空間ではないことが分かります。また、正則空間の2つの直積空間も正則空間であるから、${\mathbb R}^2_l$ は正則空間となります。よって、${\mathbb R}^2_l$ は正則だが、正規な位相空間ということになります。他にも、ハウスドルフだが、正則空間ではない空間も存在しますがここでは紹介しません。コンパクト空間次にコンパクト空間について解説します。$\mathcal{U}\subset \mathcal{P}(X)$ が被覆であるとは、$\forall x\in X$ に対して、$\exists U\in \mathcal{U}$ となるときをいう。つまり、$X=\cup \mathcal{U}$ のことと同値。$\mathcal{U}$ が被覆かつ $\mathcal{U}\subset \mathcal{O}$ となるとき、$\mathcal{U}$ は開被覆という。$\mathcal{U}$ が被覆かつ $\mathcal{U}\subset \mathcal{C}$ となるとき、$\mathcal{U}$ は閉被覆という。また、$\mathcal{U}$ が被覆かつ $|\mathcal{U}|<\infty$ を満たすとき、有限被覆という。また、被覆 $\mathcal{U}$ が $\mathcal{V}\subset \mathcal{U}$を満たす $\mathcal{V}$ が被覆であるとき、部分被覆という。$\mathcal{V}\subset\mathcal{U}$ が部分被覆かつ有限被覆であるとき、有限部分被覆という。ここでコンパクト空間の定義をしましょう。定理13.5位相空間 $(X,\mathcal{O})$ に対して、$X$ の任意の開被覆 $\mathcal{U}$ に対して、有限部分被覆が存在するとき、$(X,\mathcal{O})$ はコンパクト空間という。同様に、 $A\subset X$ がコンパクト集合であることは、$A$ が部分空間としてコンパクト空間であることである。言い換えれば、位相空間 $(X,\mathcal{O})$ において、$\mathcal{U}\subset \mathcal{O}$ が$A\subset \cup\mathcal{U}$ を満たすとき、有限部分集合 $\mathcal{V}\subset \mathcal{U}$ が存在して、$A\subset \cup\mathcal{V}$ を満たすことをいいます。コンパクト空間 $X$ に対して、以下の定理が成り立ちます。定理13.7$X$ がコンパクト空間であり、$f:X\to Y$ が連続写像であるとき、$f(X)$ もコンパクトである。(証明) $\mathcal{U}$ を $f(X)$ の開被覆とする。$f(X)\subset \cup\mathcal{U}$ を満たすとする。$\{f^{-1}(U)|U\in \mathcal{U}\}=\mathcal{A}$ は $X$ の開被覆となります。$X$ のコンパクトであるから、有限集合 $\mathcal{V}\subset\mathcal{U}$  が存在して、$\cup\{f^{-1}(V)|V\in \mathcal{V}\}$ は $X$ の開被覆となります。よって、$\mathcal{V}$ は $f(X)$ の開被覆となります。つまり、$f(X)$ はコンパクトとなります。$\Box$ この定理から、$X$ の任意のコンパクト集合の連続写像による像(つまり連続像)もコンパクト集合ということになります。例として、${\mathbb R}$ のコンパクト集合を考えます。例13.7$({\mathbb R},\mathcal{O}_{d_1})$ のコンパクト集合は有界である。(証明) $A$ を有界でない集合とします。$\forall n$ に対して、$U_n=(-n,n)$ とします。このとき、$\mathcal{U}=\{U_n|n\in {\mathbb N}\}$ は $A$ の開被覆である。$\mathcal{U}$ の任意の有限集合 $\mathcal{V}\subset \mathcal{U}$ の和集合は、ある開区間$(-M,M)$ に包まれ、$\cup\mathcal{V}=(-M,M)$ となる。$A$ は有界ではないから、$A\not\subset\cup\mathcal{V}$ となります。これは $\mathcal{V}$ は $A$ の被覆ではない。つまり、$\mathcal{U}$ には有限部分被覆が存在しないことになります。よって、$A$ はコンパクトではありません。この対偶をとることで、$A$ がコンパクト集合なら有界ではないということが成り立ちます。$\Box$例13.8$({\mathbb R},\mathcal{O}_{d_1})$ のコンパクト集合は閉集合である。$A\subset {\mathbb R}$ をコンパクト集合とする。$A$ が閉集合でないとする。$x\in \overline{A}\setminus A$ をとる。このとき、$\forall \epsilon >0(Cl(B_{d_1}(x,\epsilon))\cap A\neq\emptyset))$とする。このとき、$U_\epsilon=[Cl(B_{d_1}(x,\epsilon))]^c$とする。このとき、$\{x\}=\cap_{\epsilon\in {\mathbb R}_{>0}}Cl(B_{d_1}(x,\epsilon))$($X$ がハウスドルフ空間であることと同値の主張になります。こちらを見てください。)であるから、${\mathbb R}\setminus\{x\}=\cup_{x\in {\mathbb R}_{>0}}U_\epsilon$となる。よって、$\mathcal{U}=\{U_\epsilon|\epsilon>0\}$は $A$ の開被覆となります。$\mathcal{V}=\{U_{\epsilon_i}|i=1,2,\cdots, n\}$ は $\mathcal{U}$ の任意の有限部分集合とする。$\epsilon=\min\{\epsilon_i|i=1,\cdots, n\}$ とする。このとき、$$(\cup\mathcal{V})^c=\cap_{i=1}^nCl(B_{d_1}(x,\epsilon_i))=Cl(B_{d_1}(x,\epsilon))$$よって、$\cup\mathcal{V}=U_\epsilon$ となります。$Cl(B_{d_1}(x,\epsilon))\cap A\neq \emptyset$ であり、$A\setminus U_\epsilon\neq\emptyset$ つまり、$A\not\subset\cup\mathcal{V}$ であるから、$\mathcal{V}$ は $A$ の開被覆にならないので、$\mathcal{U}$ は有限部分被覆をもたないことになります。ゆえに $A$ はコンパクトではありません。$\Box$${\mathbb R}$ のコンパクト集合はどんなものがあるでしょうか。最後に次の定理を示します。定理13.8閉区間 $[0,1]$ はコンパクト集合(証明) $[0,1]$ がコンパクトでないとする。$\mathcal{U}$ が $[0,1]$ の開被覆で、どんな有限部分集合も被覆にならないとする。$[0,1/2],[1/2,1]$ のうち、どちらかは、有限部分被覆を持ちません。もし、両方とも部分被覆を持つとすると、それらを合わせて、$[0,1]$ の有限部分被覆を持つからです。よって、それを $[a_1,b_1]$ とします。また、$[a_1,\frac{a_1+b_1}{2}],[\frac{a_1+b_1}{2},b_1]$ のうち、どちらかは有限部分被覆を持たないことになります。もし持つとすると、それらを合わせて、$[a_1,b_1]$ の有限部分被覆をもちます。それを $[a_2,b_2]$ とします。このようにして、$[a_1,b_1]\supset [a_2,a_2]\supset [a_3,b_3]\supset \cdots $を作っていきます。$[a_n,b_n]\supset[a_{n+1},b_{n+1}]$ は、有限部分被覆を持ちません。このとき、$a_n$ は単調増加であり、$b_n$ は単調減少です。$0\le a_n\le b_n\le 1$ であるから、数列 $a_n,b_n$ は実数列の条件から収束します。$\text{diam}([a_n,b_n])=|a_n-b_n|=\frac{1}{2^n}\to 0$ であるから、$a_n,b_n$ は同じ実数 $x$ に収束します。このとき、$x\in U\in \mathcal{U}$ となる開集合 $U$ が存在して、$x\in B_{d_1}(x,\epsilon)\subset U$ となる $\epsilon$ も存在します。また、$1/2^n\to 0$ であるから、$1/2^{n}<\epsilon$ となる自然数 $n$ が存在するから、$[a_n,b_n]\subset B_{d_1}(x,\epsilon)\subset U$ です。しかし、$[a_n,b_n]$ は $\mathcal{U}$ の有限部分被覆 $\{U\}$ が存在することになります。これは、$[a_n,b_n]$ が有限部分被覆が存在しないことに反します。ゆえに、$\mathcal{U}$ は有限部分被覆を持つということになり、$[0,1]$ はコンパクト集合ということになります。$\Box$

トポロジー入門(第12回)
2022/01/27

[場所:オンライン(月曜日3限)] トポロジー入門のHP 今回は、連結性の残りと分離公理についてやりました。連結性連結に対して、連結成分があったように、弧状連結に対しても弧状連結成分があります。位相空間に対して、$a\in X$ に対して弧 $f:[0,1]=I\to X$ で $f(0)=a$ となるもので、$f(1)$ を集めたもの $\{f(1)|f:I\to X,f(0)=a\}$ を$a$ の弧状連結成分といい、$C_{\text{path}}(a)$ とかきます。例えば、前回の定理11.8で構成した$I\cup J$ は$I, J$ がそれぞれが弧状連結成分になります。ゆえに、弧状連結成分は閉集合になるとは限らず、開集合になるとも限りません。また、$a$ の弧状連結成分は、$a$ を含む弧状連結集合の中で最大のものとなります。また、次の連結性についても解説しました。定義12.3位相空間$(X,\mathcal{O})$ が $\forall x\in X$ と、任意の近傍 $\forall V\in \mathcal{N}(x)$ に対して、ある連結な近傍 $U\in \mathcal{N}(x)$ が存在して、$U\subset V$ を満たすとき、$(X,\mathcal{O})$ は局所連結であるという。局所連結であることは、基本近傍系として連結なものが取れることと同値になります。特に、近傍として連結なものが取れる必要があります。同様に、以下の定義をすることもできます。定義12.4位相空間$(X,\mathcal{O})$ が $\forall x\in X$ と、任意の近傍 $\forall V\in \mathcal{N}(x)$ に対して、ある弧状連結な近傍 $U\in \mathcal{N}(x)$ が存在して、$U\subset V$ を満たすとき、$(X,\mathcal{O})$ は局所弧状連結であるという。連結ならば弧状連結であり、局所連結ならば局所弧状連結になることも同様です。また、同様に、各点において弧状連結な近傍が取れます。これ以外に関係がないのかと思われるかもしれませんが以下の定理があります。 定理12.1 連結かつ局所弧状連結なら弧状連結である。 証明 $a\in X$ に対して、$C_{\text{path}}(a)$ が開かつ閉集合であることを示せば、連結性から $C_{\text{path}}(a)=X$ となり $X$ が弧状連結であることがわかります。 $\forall x\in C_{\text{path}}(a)$ に対して、弧状連結な近傍が取れるので、それを $V$ とすると、最大性から、$V\subset C_{\text{path}}(x)$ であることがわかります。よって、$x\in C_{\text{path}}(a)$ は内点であるから、$C_{\text{path}}(a)$ は開集合となります。$x\in\overline{ C_{\text{path}}(a)}$ とします。任意の近傍 $V\in \mathcal{N}(x)$ に対して、弧状連結な近傍 $U\in \mathcal{N}(x)$ が存在して、$U\subset V$ であることがわかります。ここで、$U\cap C_{\text{path}}(a)\neq \emptyset$であり、$U\cup C_{\text{path}}(a)$ も弧状連結であるから、弧状連結成分の最大性から、$U\subset C_{\text{path}}(a)$ が成り立ちます。特に、$x\in C_{\text{path}}(a)$ が成り立ちます。よって、$\overline{C_{\text{path}}(a)}\subset C_{\text{path}}(a)$ であることがわかります。また、$C_{\text{path}}(a)\subset \overline{C_{\text{path}}(a)}$ であることから、$\overline{C_{\text{path}}(a)}=C_{\text{path}}(a)$ であることがわかります。よって、$C_{\text{path}}(a)$ が閉集合であることがわかります。よって、$C_{\text{path}}(a)$ が開かつ閉集合であることがわかりました。$\Box$以上より、連結性を4つ紹介して、その間に成り立つ定理についてまとめましたが、実際、以下のようにそれらが成り立つ位相空間が存在します。以下にそのような位相空間の例を挙げておきます。  連結局所連結弧状連結局所弧状連結 1点 ◯◯◯◯ (※) ◯ ◯ ◯ × ワルシャワ円◯×◯× ${\mathbb L}’$◯◯×× 定理11.8◯××× 連結性を満たさない例については、各例に1点を加えれば実現できますので省略しています。ワルシャワ円(ワルシャワサークル)とは、定理11.8(トポロジストのサインカーブ)の $I,J$ をつなげて連結にしたものを言います。こちらにその絵があります。(※) の空間は ${\mathbb R}$ 上の補可算位相空間の cone があります。位相空間 $X$ のcone $C(X)$とは $X\times I$ に $X\times \{1\}$ を1点に潰して得られる商位相空間です。また、補可算位相空間とは、開集合として補集合が高々可算個の点集合のものとする位相空間で、${\mathbb R}$ 上で考えたものは、連結かつ局所連結だが、弧状連結ではなく局所弧状連結ではない空間になります。そのconeをとることで弧状連結だけが満たされて、この条件を満たす空間ということになります。また、${\mathbb L}$ は長い直線と呼ばれ、$[0,1)$ を非可算無限個つなげてできる位相空間です。可算無限個つなげてできる位相空間は${\mathbb R}$ と同相になります。それもこちらに解説があります。ここで、 ${\mathbb L}'$ は無限遠点 $\{\infty\}$ を付け加えてできる空間になります。付け加える(コンパクト化と言います)ことはまだ習っていませんが、$(0,1)$ に1を加えて $(0,1]$ を作る操作だと考えてください。分離公理後半はハウスドルフ空間についておこないました。位相空間の部分集合 $A,B$ が開集合によって分離されるとは、$U,V$ を開集合として、$A\subset U$, $V\subset B$ を満たし、$U\cap V=\emptyset$を満たすことを言います。定義12.5位相空間 $(X,\mathcal{O})$ の任意の相異なる点 $p,q\in X$ に対して、開集合 $U,V$ が存在して、$p\in U,q\in V$ かつ $U\cap V=\emptyset$を満たす時、 $X$ はハウスドルフ空間という。つまり、任意の相異なる2点が開集合によって分離される時にハウスドルフ空間と言うのです。公理「任意の相異なる2点が開集合によって分離される」を $T_2$ 公理ともいうので、ハウスドルフ空間のことを $T_2$ 空間ということもあります。例12.4距離空間はハウスドルフ空間になります。距離空間の相異なる点 $p,q\in X$ に対して、$2\delta=d(p,q)$ とすることで、$p,q$ には、$B_d(p,\delta)$ と $B_d(q,\delta)$が $p,q$ を分離することがわかります。例12.5$n$ 点集合が離散位相を持つならそれはハウスドルフ空間であることもすぐわかります。逆に、有限点集合がハウスドルフなら離散位相空間になります。よって、有限点集合上の離散位相ではないものは皆 $T_2$ 公理を満たさないことになります。また、ハウスドルフ空間は位相的性質であることは簡単にわかります。定理12.3 ハウスドルフ性は位相的性質である。また、ハウスドルフ空間の同値な言い換えがsいくつかあります。定理12.3, 12.4ハウスドルフ空間であることは以下のそれぞれと同値$\Delta=\{(x,x)|x\in X\}$ が閉集合である。$\{x\}=\cap \{\overline{W}|W\in \mathcal{N}(x)\}$ である。(証明)ハウスドルフ空間であれば、$(p,q)\in \Delta^c$ は、$p\neq q$ であるから、開集合 $U,V$ が存在して、$p\in U,q\in V$ を満たし、$U\cap V=\emptyset$ を満たす。よって、$U\times V\subset \Delta^c$ であるから、$(p,q)\in \Delta^c$ は内点。つまり$\Delta^c$ は閉集合。逆に$\Delta^c$が閉集合であれば、$p\neq q\in X$ に対して、$(p,q)\in W\subset \Delta^c$ となる開集合 $W$ が存在して、直積位相から、$(p,q)\subset  U\times V\subset W$ が成り立ちます。$U\times U\cap \Delta^c=\emptyset$ であるから、$U\cap V=\emptyset$ となり、$X$ はハウスドルフ空間であることがわかります。$X$ がハウスドルフ空間であるとします。このとき、$x\in X$ に対して $x\neq y$ となる $y$ を取ります。この時、開集合$U,V$ が存在して、$x\in U,y\in V$ とし、$U\cap V=\emptyset$ となります。$x\in U\subset V^c$ であり、$V^c$ は閉集合であるから、$x\in U\subset \overline{U}\subset V^c$ であるから、$y\not\in \overline{U}$ であるから特に、$y\not\in \{\overline{W}|W\in \mathcal{N}(x)\}$となる。逆に、$\forall x\in X$ に対して、$\{x\}=\cap\{\overline{W}|W\in \mathcal{N}(x)\}$が成り立つとすると、$y\neq y$ とすると、$W\in \mathcal{N}(x)$ が存在して、$y\not\in \overline{W}$ となります。$V=(\overline{W})^c$ また、$x\in U\subset W$ となる開集合 $U$ が存在するので、$x\in U$ かつ $y\in V$ かつ $U\cap V=\emptyset$ となります。よって$X$ がハウスドルフ空間となります。$\Box$また、次の定理を示しました。定理12.5$X$ を位相空間、$Y$ ハウスドルフ空間とする。$F:G:X\to Y$ を連続写像とする。今、$D\subset X$ を稠密集合とする。$F|_{D}=G|_{D}$ であるとすると、$F=G$ が成り立つ。関数 $F,G$ が等しいというのは、$\forall x\in X$ に対して、$F(x)=G(x)$ となることを意味します。(証明) $F,G:X\to Y$ に対して、ハウスドルフ空間 $Y$ に対して、$F\neq G$であるとします。この時、$F(x)\neq G(x)$ となる $x\in X$ が存在します。ハウスドルフ性から、$Y$ の開集合 $U,V$ が存在して、$F(x)\in U$, $G(x)\in V$かつ $U\cap V=\emptyset$ となります。$x\in F^{-1}(U)\cap G^{-1}(V)$ であり、$F,G$ が連続であることから、$F^{-1}(U)\cap G^{-1}(V)$ は $X$ の開集合となります。よって、$F^{-1}(U)\cap G^{-1}(V)\cap D\neq \emptyset$ ですから、$d\in D$ であって、$d\in F^{-1}(U)\cap G^{-1}(V)$ を満たします。よって、$F(d)\in U$ かつ $G(d)\in V$ となります。$U\cap V=\emptyset$ であることから少なくとも、$F(d)\neq G(d)$ であるから $F|_D\neq G|_D$ となります。$\Box$この定理から、$X$ 上の ${\mathbb R}$ に値をもつ連続関数の集合 $C(X)$の濃度を決定することができます。$X={\mathbb R}$ とすると、可算集合 ${\mathbb Q}$ からの連続関数によって一意的に決定されるから、$$|C({\mathbb R})|\le |{\mathbb R}^{\mathbb Q}|= (2^{\aleph_0})^{\aleph_0}\le 2^{\aleph_0\times \aleph_0}\le 2^{\aleph_0}$$となります。一方、$C({\mathbb R})$ には定数関数が ${\mathbb R}$ の分だけ存在するので、$|C({\mathbb R})|\ge |{\mathbb R}|=2^{\aleph_0}$ となり、$|C({\mathbb R})|=2^{\aleph_0}=|{\mathbb R}|$ が成り立ちます。つまり、$C({\mathbb R})$ は 連続体濃度存在することがわかります。又、ハウスドルフ空間に対して以下の性質が成り立ちます。定理12.6ハウスドルフ空間の任意の部分空間もハウスドルフ空間である。定理12.7全ての因子空間がハウスドルフ空間であるような任意の直積位相空間もハウスドルフ空間である。これらの証明はそれほど難しくないので、証明はここでは省略します。また、$T_2$ 公理を弱くした次の $T_1$ 公理もあります。定義12.6位相空間 $(X,\mathcal{O})$ が相異なる $x,y$ に対して、$\exists U,V\in \mathcal{O}((x\in U,y\not\in U)\wedge(x\not\in V,y\in V))$を$T_1$ 公理と言う。$T_1$ 公理を満たす空間を$T_1$ 空間という。$T_1$ 公理は、$\exists U,V\in \mathcal{O}(x\in U,y\not\in U))$というだけで同じことです。というのも、$x,y$ を $y,x$ にするだけで、もう一つの条件も満たすからです。ここで $T_1$ 空間には次の性質があります。定理12.8$(X,\mathcal{O})$ が $T_1$ 空間であることと、 $X$ の各点が閉集合であることは同値である。(証明) $X$ が$T_1$ 空間であるとします。$\forall x\in  X$ に対して、$y\in\{x\}^c$ をとります。この時、$\exists U\in\mathcal{O}$ が存在して、$y\in U$ かつ$x\not\in U$ つまり、$U\subset \{x\}^c$ となる。つまり、$y$ は $\{x\}^c$ の内点。よって、$\{x\}^c$ は開集合であるから、$x$ は閉集合となります。$\forall x\in X$ に対して $\{x\}$ が閉集合であるとします。このとき、$x,y\in X $を $x\neq y$ とします。$U=\{y\}^c$ と $V=\{x\}^c$ とおきます。この時、$U,V$ は開集合であり、$x\in U,y\not\in U$ かつ $y\in V,x\not\in V$となります。つまり、$X$ は $T_1$ 空間となります。 $\Box$例12.8$T_1$ 空間であってハウスドルフ空間ではないものが存在します。例えば、無限集合上の補有限位相 $(X,\mathcal{O}_{\text{cf}})$ を取りますと、$(X,\mathcal{O}_{\text{cf}})$ は $T_1$ 空間にはなりますが、ハウスドルフ空間にはなりません。実際、空ではない任意の開集合が交わりを持つことがわかります。

トポロジー入門(第11回)
2022/01/05

[場所オンライン(月曜日3限)] トポロジー入門のHP 今回は、連結性と弧状連結性についてやりました。連結性位相空間が連結であることは前回定義しました。定義10.3位相空間 $X$ が空でも $X$ でもない開集合 $U,V$ を用いて、$X=U\sqcup V$ と表せないとき、 $X$ は連結といい、$X$ が連結ではないとき$X$ は不連結という。この定義を次のように言い換えることができます。定理10.6$X$ が連結であることは、$X$ の開かつ閉集合は $X$ もしくは $\emptyset$ のみであることと同値である。となる。連結集合について定義しておきます。定義11.1$(X,\mathcal{O})$ を位相空間とする。$A\subset X$ が連結集合であるとは、相対位相$(A,\mathcal{O}_A)$ が連結空間であることとして定義する。つまり、このことは言い換えれば、任意の開集合 $U,V\in \mathcal{O}$ に対して、$A\subset U\cup V$ かつ$A\cap U\cap V=\emptyset$ なら、$A\subset U$ もしくは $A\subset V$ということになります。これは、$(A\cap U)\cup(A\cap V)=A$ であることは、$A\subset U\cup V$ と同値$(A\cap U)\cap (A\cap V)=\emptyset$ であることは $A\cap U\cap V=\emptyset$ と同値$A\cap U=A$ であることは $A\subset U$ と同値$A\cap V=A$であることは $A\subset V$ と同値であることからわかります。最終的に、$A\subset U$ もしくは $A\subset V$ が成り立つのですが、このうちどちらかしか成り立ちません。いくつかの例の前に以下を示しておきます。定理11.1$({\mathbb R},\mathcal{O}_{d_1})$ は連結である。(証明) ${\mathbb R}$ が連結でないとします。${\mathbb R}=U\sqcup V$ となる空ではない開集合 $U,V$ が存在することになります。$a\in U$ かつ $b\in V$ をとり、$a<b$ としておきます。もしそうでなかったら、$U,V$ の役目を入れ替えれば実現出来ます。$c=\sup\{x\in U|x\le b\}$とおきましょう。このとき、$\epsilon >0$ が存在して、$B_{d_1}(c,2\epsilon )\subset U$ となります。しかし、$c+\epsilon\in U$ であり、$c+\epsilon<b$ であることから、$c=\sup\{x\in U|x\le b\}$ であることに反します。よって、$c\in V$ ということになります。同様に、$\delta>0$ が存在して、$B_{d_1}(c,\delta)\subset V$  となり$(c-\delta,c]\subset V$ が成り立ちます。これは、$c$ が$\{x\in U|x\le b\}$ の上限であることに反します。もし上限であるなら、$\forall \epsilon>0$ に対して、$c-\epsilon <x\le c$となる$x\in U$ が存在するからです。よって $c$ は $U,V$ のどちらも含まれないので ${\mathbb R}=U\cup V$であることに反します。よって、${\mathbb R}$ が連結になるということになります。$\Box$ここで次の定理を示しておきましょう。定理11.2$X,Y$ を位相空間とする。$f:X\to Y$ を全射連続写像とする。$X$ が連結なら $Y$ も連結である。(証明) $U\subset Y$ を開かつ閉集合とします。このとき、$f^{-1}(U)$ も開かつ閉集合です。$X$ は連結なので $f^{-1}(U)=\emptyset$ か $f^{-1}(U)=X$ となります。$Y$ が全射であることから、$U=\emptyset$ もしくは $Y$ となります。これは $Y$ が連結であることを意味します。$\Box$このことから、$f$ が全射でなくても、$X$ が連結なら$f(X)$ も連結であることが分かります。また、$A\subset X$ が連結集合であるなら、$f(A)$ は連結ということになります。つまり、連結集合の連続写像による像(連続像といいます)は連結ということになります。このことから、連結性は位相的性質になることも分かります。なぜなら$f:X\to Y$ が同相であるとします。このとき、$X$ が連結とすると、定理11.2から $Y$ も連結になります。よって、連結性は位相的性質になるからです。次の定義をしましょう。定義11.2$a\in X$ に対して、$a$ を含む連結集合の内最大のものを$a$ の連結成分といい、$C_X(a)$ と書く。また簡単に $C(a)$ と書くこともある。$a\sim x$ は同じ連結成分に属するとして $X$ 上に同値関係を定めることができます。そうすると、$X$ のこの同値関係の同値類によって、分解$$X=\sqcup_{\lambda\in \Lambda}C_X(a_\lambda)$$を与えることができます。これを連結成分分解といいます。$X$ が連結であることは、$X=C_X(a)$のように$X$ の任意の元がただ1つの連結成分に属することと同値になります。ここで次の定理を示しておきます。命題11.2$A\subset X$ が開かつ閉集合であれば、$A$ は $X$ の連結成分のいくつかの和集合となる。(証明) $A$ が開かつ閉集合とします。このとき、$\forall a\in A$ に対して、$A\cap C_X(a)\subset C_X(a)$より、$A\cap C_X(a)$ は $C_X(a)$ の開かつ閉集合になります。$C_X(a)$ は連結であり、$a\in A\cap C_X(a)$ は空ではないから$A\cap C_X(a)=C_X(a)$ となります。よって、$C_X(a)\subset A$ ととなり、よって、$\forall a\in A$ に対して、$C_X(a)\subset A$ であるから$\cup_{a\in A}C_X(a)\subset A$ また、$A\subset \cup_{a\in A}C_X(a)$であるから$$A=\cup_{a\in A}C_X(a)$$となり、$A$ はいくつかの連結成分の和集合となります。$\Box$この証明の途中で用いたことを復習しておきます。相対位相の閉集合について$A\subset X$ での相対位相において、$A$ における開集合は $X$ の開集合 $U$ を用いて $A\cap U$ と書き表されます。(証明) $A$ における閉集合 $F$ は、$A-F=A\cap F^c$ より $A$ における開集合だから、$A\cap F^c=A\cap U$ となる $X$ の開集合 $U$ が存在します。よって、この補集合を取ると、$A^c\cup F=A^c\cup U^c$$A^c\cap F=\emptyset$ であるから、$A^c$ の部分を取ると、$F=(A^c\cup U^c)\cap A=(A^c\cap A)\cup (U^c\cap A)=A\cap U^c$よって、$A$ 上の閉集合は、$X$ のある閉集合 $G$ を用いて、$A\cap G$ とかけることがわかります。次の定理を示しましょう。定理11.4連結集合 $A$ に対して、$A\subset B\subset \overline{A}$ を満たす任意の集合 $B$ は連結である。(証明) $B\subset U\cup V$ を満たす $X$ の開集合が $B\cap U\cap V=\emptyset$ を満たすとします。このとき、$B\cap U\neq \emptyset$ を満たすと仮定します。このとき、 $B\subset \overline{A}$ であるから$\overline{A}\cap U\neq \emptyset$ です。$x\in\overline{A}\cap U$ をとります。このとき、$U$ は開集合だから $U\in \mathcal{N}(x)$ となります。よって、$A\cap U\neq \emptyset$ を満たします。$A$ は連結だから、$A\subset U\cup V$ かつ $A\cap U\cap V=\emptyset$ より$A\subset U$ もしくは $A\subset V$ です。しかし、$A\cap U\neq \emptyset$ であるから $A\subset U$ です。よって、$A\cap V=\emptyset$ であるから $\overline{A}\cap V=\emptyset$である。つまり、$B\cap V=\emptyset$ です。このことから、$B\subset U$ が分かります。また、$B\cap V\neq \emptyset$ である場合からも、同じように $B\subset V$ が証明することができます。$\Box$この定理から次が成り立ちます。定理11.5任意の $a\in X$ に対して、連結成分 $C(a)$ は閉集合である。(証明) $C(a)\subset \overline{C(a)}$ が成り立つ。また定理11.4から $\overline{C(a)}$ は連結になります。連結成分の最大性により、$\overline{C(a)}\subset C(a)$ が成り立ちます。この包含関係から、$C(a)=\overline{C(a)}$ が成り立つ、つまり $C(a)$ が閉集合になります。例$(a,b)\subset {\mathbb R}$ は ${\mathbb R}$ と同相であるから、連結は位相的性質なので、$(a,b)$ も連結性になります。この閉包 $[a,b]$ も同相になります。命題11.3$\forall r\in {\mathbb Q}$ に対して、$r$ の連結成分 $C(r)$ について$C(r)=\{r\}$ が成り立ちます。(証明) $\forall r,s\in {\mathbb Q}$ に対して、$r<s$ に対して、$r<q<s$ となる無理数 $q$ が存在して、${\mathbb Q}\cap (-\infty,q)={\mathbb Q}\cap (-\infty,q]$は開かつ閉集合であるから、${\mathbb Q}\cap (-\infty,q]$ は連結成分の和集合つまり、$C(r)\subset {\mathbb Q}\cap (-\infty,q]$であり、同様に、$C(s)\subset {\mathbb Q}\cap [q,\infty)$であるから、$C(r)\cap C(s)=\emptyset$ であるから、$\forall r\in{\mathbb Q}$ の連結成分は $r$ のみとなります。$\Box$このように、$\forall a\in X$ に対して、$C_X(a)=\{a\}$であるとき、$X$ は完全不連結であるという。よって、$({\mathbb Q},\mathcal{O}_{d_1})$ は完全不連結であり、ゾルゲンフライ直線 $({\mathbb R},\mathcal{O}_{l})$ も完全不連結となります。また、連結性の最後に中間値の定理を示しました。定理11.6位相空間 $X$ と連続関数 $f:X\to {\mathbb R}$ をとる。$X$ の連結な部分集合 $A$ に対して、$a,b\in A$ が $f(a)<f(b)$ を満たすとする。このとき、$f(a)<\forall  c <f(b)$ となる $c$ に対して、$f(x)=c$ となる $x\in A$ が存在する。(証明)$A$ は連結なので、$f(A)\subset {\mathbb R}$ も連結であり、$f(a),f(b)\in f(A)$ が成り立ちます。よって、このとき、$f(a)<c<f(b)$ が $f(x)=c$ となる $x$ が存在しないとする。このとき、$B=f(A)\cap (-\infty, c)=f(A)\cap (-\infty ,c]$ より、$B$ は空でも全体でもない $f(A)$ の開かつ閉集合であるから矛盾する。よって、$f(x)=c$ となる $x\in A$ が存在する。$\Box$弧状連結性弧状連結の定理をしましょう。定義11.4位相空間 $X$ が弧状連結であるとは以下を満たすことを意味します。$\forall a,b\in X$ に対して、ある連続写像 $f:I\to X$ が存在して、$f(0)=a$ かつ $f(1)=b$ を満たす。ここで、$I$ は閉区間 $[0,1]$ です。すぐにわかるのは次の定理です。定理11.7弧状連結なら連結である。(証明)$X$ が弧状連結であるとします。このとき、$\forall a,b \in X$ に対して、連続写像 $f:I\to X$ が存在して$f(0)=a$ かつ $f(1)=b$ を満たし、つまり、$a,b\in f(I)\subset X$ を満たします。$I$ が連結であるから、$f(I)$ も連結になり、$f(I)\subset C(b)$ であるから$a$ は $b$ の連結成分に属します。つまり、$a\in C(b)$ であり、つまり $X\subset C(b)$ より$X=C(b)$ となります。つまり $X$ は連結となります。$\Box$この定理の逆は一般には成り立ちません。つまり、連結だが、弧状連結であるものが存在します。定理11.8$J=\left\{\left(x,\sin\frac{1}{x}\right)|x\in {\mathbb R}_{>0}\right\}$とし、$I=\{(0,t)|-1\le t\le 1\}$とする。このとき $X=I\cup J$ は連結であるが、弧状連結ではない。$J$ は下の図のようなグラフになっており、$I$ はこの $y$ -軸の $[-1,1]$ の区間です。(証明)連結性について$J$ は ${\mathbb R}_{>0}$ 上の連続関数 $\sin \frac{1}{x}$ のグラフであり連続像になります。よって、定理11.2から $J$ は連結。また、$\forall (0,t)\in I$ に対して、数列 $\left(\frac{1}{2n\pi+\text{arcsin}t},t\right)$は、$J$ 上の点列であり、$n\to \infty$ において $(0,t)$ に収束するので、$(0,t)\in \overline{J}$ となります。これは、$I\cup J\subset \overline{J}$ であることを示しており、$$I\subset I\cup J\subset \overline{J}$$から、定理11.4 から $X=I\cup J$ も連結ということになります。非弧状連結について$O\in X$ を ${\mathbb R}^2$ の原点とし $A=(\frac{1}{\pi},0)$ がある連続写像$f:I\to X$ によって $f(0)=O$ かつ $f(1)=A$ とならないことを示します。もし結べるとすると、連続写像 $f:[0,1]\to X$ が存在して、$f(0)=O$かつ $f(1)=A$ を満たします。そうすると、今、$f^{-1}(O)=0$ と仮定しておきます。このとき、$B_{d_2}(O,\frac{1}{2})$をとり、$0\in f^{-1}(B_{d_2}(O,\frac{1}{2}))$ の近傍$[0,\delta)$ が存在して、$[0,\delta)\subset f^{-1}(B_{d_2}(O,\frac{1}{2}))$を満たします。ここで、$B$ は下の円の内側になります。そうすると $f^{-1}(O)=0$ と仮定したことから $\text{pr}_1(f([0,\delta)))=[0,a)$ となる$a>0$ が存在します。よって、$\frac{2}{(4n+1)\pi}<a$ を満たす$n$ が存在し、$(\frac{2}{(4n+1)\pi},1)\in f([0,\delta))\subset B$ を満たします。しかし、$(\frac{2}{(4n+1)\pi},1)\not\in B$ であるので、矛盾します。よって、$X$ は弧状連結ではないということになります。$\Box$ 途中で、$f^{-1}(O)=0$ と仮定しましたが、これは簡単に証明できます。$\{t\in I|f(t)=O\}$ となるものの$\sup$ を $t_0$ を取り、$[t_0,1]$ を $[0,1]$ に線形に引き伸ばしたものを$f$ に合成したものを再び $f$ とおけば良いです。

トポロジー入門(第10回)
2021/12/24

[場所オンライン(月曜日3限)] トポロジー入門のHP今回は商位相空間と連結性について解説しました。商位相まず、次の定義をします。定義10.1$(X,\mathcal{O}_X)$、$(Y,\mathcal{O}_Y)$ を位相空間とし、$f:X\to Y$ を全射とする。$$f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X\Leftrightarrow U\in \mathcal{O}_X$$が成り立つとき、$f$ は商写像という。すぐわかることは、商写像なら連続ということです。上の⇐が $f$ の連続性を意味するからです。しかし、商写像は全射連続だけではありません。その条件をまずは見ていきます。商写像の例として、連続で開な全射があります。定理10.1$f:(X,\mathcal{O}_X)\to (Y,\mathcal{O}_Y)$ が連続な全射な開写像なら、$f$ は商写像。(証明) 連続性は仮定されているから、写像であることの$\Rightarrow$ を示せばよいです。$U\in \mathcal{P}(Y)$ に対して、$f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$なら、$f$ が開写像であることから $f(f^{-1}(U))=U\in\mathcal{O}_Y$分かります。よって、写像の条件の$\Rightarrow$ が分かります。このことから $f$ は商写像であることがわかります。 $\Box$商写像の特徴付けをここで与えます。定理10.3全射 $f:(X,\mathcal{O}_X)\to (Y,\mathcal{O}_Y)$が商写像であることとは、$\mathcal{O}_Y$ が $f$ を連続にする最大の位相であることの必要十分条件である。$\mathcal{O}_Y$ が $f$ を連続にする最大の位相であるとは、$\mathcal{O}$ が $f:(X,\mathcal{O}_X)\to (Y,\mathcal{O})$ を連続とする任意の位相なら $\mathcal{O}\subset\mathcal{O}_Y$ であることを意味します。(定理10.3の証明) (十分性) $f$ が商写像であるとします。このとき、$\mathcal{O}$ を $f:(X,\mathcal{O}_X)\to (Y,\mathcal{O})$ を連続にする任意の位相なら$\forall U\in \mathcal{O}$ に対して、$f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$であることから、商写像の定義から $U\in\mathcal{O}_Y$ が分かります。ゆえに、$\mathcal{O}\subset\mathcal{O}_Y$ となります。このことから$\mathcal{O}_Y$ は $f$ を連続にする最大の位相であることが分かります。(必要性) $\mathcal{O}_Y$ が $f$ を連続にする最大の位相とする。まず $f$ が連続であることから、商写像の条件の$\Leftarrow$ が成り立つ。商写像の条件の $\Rightarrow$ を示す。任意の $f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$ に対して、$\mathcal{O}=\{\emptyset,U,Y\}$ は $Y$ 上の位相であり、$f:(X,\mathcal{O}_X)\to (Y,\mathcal{O})$ は連続である。ここで、$\mathcal{O}_Y$ は $f$ を連続にする最大の位相であったから $\mathcal{O}\subset \mathcal{O}_Y$ が分かる。特に、$U\in\mathcal{O}_Y$ である。よって、これは、$f:(X,\mathcal{O}_X)\to (Y,\mathcal{O}_Y)$ が商写像であることを意味します。$\Box$ここで、 次の定義をしましょう。位相空間 $(X,\mathcal{O})$ と全射 $f:X\to Y$ が存在したとき、$Y$ 上の $f$ の最小にする位相を $\mathcal{O}_f$ と書くことにします。このとき、直前の定理から $\mathcal{O}_f$ は $(X,\mathcal{O})\to (Y,\mathcal{O}_f)$ が商写像となるような $Y$ 上の位相ということになります。そのような位相の一意性もわかることになります。このとき、$\mathcal{O}_f$は、$$\{U\subset Y|f^{-1}(U)\in\mathcal{O}_X\}$$としても定義されます。このようにして、全射 $f:X\to Y$ を通して、$X$ 上の位相から$f$ の連続性を通して $Y$ 上の位相を"標準的に"作る唯一の方法があることになります。この方法を通して、商集合 $X/\sim$ を位相空間にすることができます。商集合とは、集合 $X$ 上に導入された同値関係$\sim$ によって作られる同値類全体の集合のことです。$\sim$ が同値関係であるとは、$\forall a,b,c\in X$ に対して、(i) $a\sim a$(ii) $a\sim b\rightarrow b\sim a$(iii) $a\sim b$ かつ $b\sim c$ ならば $a\sim c$を満たす2項関係のことです。このとき、$C(a)=\{x\in X|a\sim x\}$ として同値類を表します。この同値類全体の集合 $\{C(a)|a\in X\}$ を商集合といい、$X/\sim$ と書くのでした。写像 $p:X\to X/\sim$ を$a\mapsto C(a)$ として定めたとき、$p$ を自然な射影といいます。記号の使い方として、$C(a)$ のことを $[a]$ とかぎかっこを使って書くことがあります。今、$X$ 上に位相 $\mathcal{O}$ が入っていたとき、自然な射影 $p:X\to X/\sim$ を通して、$X/\sim$ に位相を入れることができます。この時できる $(X/\sim,\mathcal{O}_p)$ を$X/\sim$ 上の商位相空間($\mathcal{O}_p$ を商位相)といいます。つまり、$p$ が商写像となるような位相空間を $X/\sim$ 上に導入したことになります。例10.4$({\mathbb R}^2,\mathcal{O}_{d_2})$ に、同値関係として、$(x_1,y_1)\sim(x_2,y_2)\leftrightarrow x_1=x_2$として導入する。自然な射影を $p$ とします。$(x,y)$ を含む同値類を $[x,y]$ と表すことにします。このとき、構成される商位相空間 $({\mathbb R}^2/\sim,\mathcal{O}_{d_2,p})$は $({\mathbb R},\mathcal{O}_{d_1})$ と同相になります。実際、$\varphi([x,y])=f(x)$ として定義すると$\varphi:{\mathbb R}^2/\sim\to {\mathbb R}$ は同相になります。まず写像になることは、$[x,y]=[x',y']$ なら、$\varphi([x,y])=x=x'=\varphi([x',y'])$であるからです。単射性は、$\varphi([x,y])=\varphi([x',y'])$ なら、$x=x'$ が成り立ち、同値関係の定義から $(x,y)\sim (x',y')$ が成り立つので、$[x,y]=[x',y']$が成り立ちます。全射性は、$\forall x\in {\mathbb R}$ に対して $z\in {\mathbb R}$ を任意に選ぶと、$\varphi([x,z])=x$ が得られることからわかります。同相であることは次の定理の証明に一般化して証明します。定理10.4$f:(X,\mathcal{O}_X)\to (Y,\mathcal{O}_Y)$ を商写像とする。このとき、$f(x)=f(x')\leftrightarrow x\sim x'$ として $X$ に同値関係 $\sim$ を導入する。その自然な射影を $p$ とする。このとき、商位相空間 $(X/\sim,\mathcal{O}_p)$ は $(Y,\mathcal{O}_Y)$ と同相である。(証明) $\varphi:X/\sim\to Y$ を $\varphi([x])=f(x)$ として定義すると$\varphi$ が写像であることや、全単射であることは上記の例10.4と同様の証明をすることでわかります。また、$\varphi([x])=\varphi(p(x))=\varphi\circ p(x)=f(x)$であることから、$\varphi\circ p=f$ であることもわかります。$\varphi$ が同相写像であることを示そう。(連続性)  $U\in \mathcal{O}_Y$ とすると、$p^{-1}(\varphi^{-1}(U))=(\varphi\circ p)^{-1}(U)=f^{-1}(U)$より、$f$ の連続性から $p^{-1}(\varphi^{-1}(U))\in \mathcal{O}_X$ であることがわかり、$p$ が商写像であることから$\varphi^{-1}(U)\in \mathcal{O}_{X,p}$であることが分かります。これは、$\varphi$ が連続であることを意味します。(開写像性) $V\in \mathcal{O}_{X,p}$ に対して、$p^{-1}(V)=p^{-1}(\varphi^{-1}(\varphi(V)))=(\varphi\circ p)^{-1}(\varphi(V))=f^{-1}(\varphi(V))$であり、$p$ が連続であることと $f$ が商写像であることから、$\varphi(V)\in \mathcal{O}_{Y}$であることがわかります。これは$\varphi$ が開写像であることを意味します。全単射な連続な開写像は同相写像であるから、$f$ は同相写像となります。$\Box$これらのことから、例10.4の写像$({\mathbb R}^2/\sim,\mathcal{O}_{d_2,p})\to ({\mathbb R},\mathcal{O}_{d_1})$は同相写像であることがわかります。ここで次の定理を用意します。定理10.5$f:X\to Y$ を連続写像とする。このとき、$\tilde{f}:X\to f(X)$ を $\tilde{f}(x)=f(x)$ とするとき、$\tilde{f}$ も連続である。この定理は、連続写像の終域を像に縮めた写像も連続であることを主張しています。ここで、$f(X)$ の位相は $Y$ からくる相対位相と考えます。証明は易しいのでここでは省略します。例10.5${\mathbb S}^1=\{(x,y)\in {\mathbb R}^2|x^2+y^2=1\}$ とおきます。$f:{\mathbb R}\to {\mathbb S}^1$ を$f(\theta)=(\cos\theta,\sin\theta)$ とします。${\mathbb S}^1\subset{\mathbb R}^2$ の相対位相は、${\mathbb R}$ 上の同値関係 $\theta\sim \theta'\leftrightarrow \theta_1-\theta_2\in 2\pi{\mathbb Z}$によって得られる商位相空間と同相となります。(証明)$\tilde{f}:{\mathbb R}\to {\mathbb R}^2$ を$\tilde{f}(\theta)=f(\theta)$として得られるものとします。$\tilde{f}$ は連続となります。$\mathcal{O}_{d_2}$ は $\mathcal{O}_{d_1}$の2つの直積位相になるので、$\tilde{f}:{\mathbb R}\to {\mathbb R}^2$ が連続であるためには、$\text{pr}_1\circ \tilde{f}(\theta)=\cos\theta$$\text{pr}_2\circ \tilde{f}(\theta)=\sin\theta$が連続であることが必要十分ですが、$\cos\theta$ や $\sin\theta$ は連続関数なので $\tilde{f}$ は連続写像であることが分かります。上の定理10.5から $f$ は連続となることがわかります。$U\in \mathcal{O}_{d_1}$ とすると、$U=\cup_{\lambda\in \Lambda}(a_\lambda,b_\lambda)$のように開区間の和集合になります。$f(U)=\cup_{\lambda\in \Lambda}f((a_\lambda,b_\lambda))=\cup_{\lambda\in \Lambda}(f(a_{\lambda}),f(b_{\lambda}))$$\{(\cos\theta,\sin\theta)|a<\theta<b\}$ が ${\mathbb S}^1$の相対位相の開基となるので、$f(U)\in \mathcal{O}_{d_2,{\mathbb S}^1}$ となります。よって、$f$ は全射連続開写像であるから$f$ は商写像になります。よって、$f$ によって得られる同値関係は、$f(\theta)=f(\theta')\leftrightarrow (\cos\theta,\sin\theta)=(\cos\theta',\sin\theta')\leftrightarrow \theta_1-\theta_2\in 2\pi{\mathbb Z}$が成り立ちます。ゆえに、${\mathbb R}$ に $\theta_1\sim\theta_2\leftrightarrow \theta_1-\theta_2\in 2\pi{\mathbb Z}$ であるようにいれた同値関係による商位相空間 $({\mathbb R}/\sim,\mathcal{O}_p)$は相対位相空間 $({\mathbb S}^1,\mathcal{O}_{d_2,{\mathbb S}^1})$ に$\varphi$ を介して同相になります。つまり、$$\varphi:({\mathbb R}/\sim,\mathcal{O}_p)\to ({\mathbb S}^1,\mathcal{O}_{d_2,{\mathbb S}^1})$$は同相になります。$\Box$連結性次に連結性に入りましたが、定義のみで終わりました。定義10.3位相空間 $(X,\mathcal{O})$ が空でも $X$ でもない開集合 $U,V$ を用いて $X= U\sqcup V$ と表せないとき$X$ は連結という。$X$ が連結ではないとき、$X$ は非連結という。ここで、$\sqcup$ は交わりのない和集合を意味します。連結性は、「表せないとき」ということを条件としており、理解がしずらいです。ですので少し次のように言い換えましょう。定理10.6$X$ が連結であるとは、$X$ の開かつ閉集合は $X$ もしくは $\emptyset$ のみであることと同値である。(証明) $X$ が不連結であるとすると、空でも、$X$ でもない 開集合$U,V\subset X$が存在して$X=U\cup V$ が成り立ちます。このとき、$U^c=V$ は開集合であるから$U$ は開かつ閉集合となります。よって、空でも $X$ でもない開かつ閉集合が存在します。空集合と $X$ は開かつ閉集合であるから、この否定は、空もしくは $X$ ではない開かつ閉集合が存在しないとき連結性を意味することになります。$\Box$

トポロジー入門(第9回)
2021/12/14

[場所:オンライン(月曜日3限)] トポロジー入門のHP今回は、点列の収束性と、直積位相についてやりました。その前に、誘導位相について残っていた部分を片付けました誘導位相・相対位相定理9.1位相空間$(X,\mathcal{O})$ の開基を$\mathcal{B}$ とするとき、$A\subset X$ の相対位相$(A,\mathcal{O}_A)$ の開基は、$$\mathcal{B}_A=\{A\cap B|B\in \mathcal{B}\}$$である。(証明) $\mathcal{O}_A$ の開集合 $A\cap U$ をとります。$p\in A\cap U$ に対して、$p\in B\subset U$となる $B\in \mathcal{B}$ が存在します。よって$$p\in A\cap B\subset A\cap U$$となり、$A\cap B\in \mathcal{B}_A$ となるので$\mathcal{B}_A$ は $\mathcal{O}_A$ の開基となります。$\Box$先週は誘導位相ついてやったのですが その時は写像が1つだけの場合にやりました。しかし今回は複数の写像について誘導位相を定義しました。定義9.1(誘導される位相2)$(Y_\lambda,\mathcal{O}_\lambda)$ 位相空間の族写像 $f_\lambda:X\to Y_\lambda$ ($\lambda\in \Lambda)$$\mathcal{F}=\{f_\lambda|\lambda\in \Lambda\}$ とする。$\langle \mathcal{F}\rangle$ を $\{f_\lambda^{-1}(U_\lambda)|U_\lambda\in \mathcal{O}_\lambda,\lambda\in \Lambda\}$を準開基とする開集合系。つまり、$$\langle \mathcal{F}\rangle:=\langle \{f_\lambda^{-1}(U_\lambda)|U_\lambda\in\mathcal{O}_\lambda,\lambda\in \Lambda\}\rangle$$とする。これを $\mathcal{F}$ によって誘導される位相(誘導位相)という。このとき、$\langle \mathcal{F}\rangle$ は、$\mathcal{F}$ の任意の写像を連続にするような $X$ 上の最小の位相ということになります。点列の収束について説明をしました。そもそも点列というものは、$x_1,x_2,\cdots $ であって、それらは、$(x_n)\in X^{\mathbb N}$ と考えられます。点列が収束することについての定義をしておきます。定義9.3点列が収束するというのは、$x\in X$ が存在して、$$\forall U\in \mathcal{N}(x)\exists N>0\forall n>N(x_n\in U)$$を満たすことをいう。距離空間の場合には、$$\forall U\in \mathcal{N}_d(x)\exists N>0\forall n>N(x_n\in U)$$となりますが、これは、$$\forall \epsilon>0\exists N>0\forall n>N(x_n\in B_d(x,\epsilon))$$と同値になります。というのも、$\Rightarrow$ は、$\forall B_d(x,\epsilon)\in \mathcal{N}(x)$ に対して成り立つことから、直ちにわかり、$\Leftarrow$ は、$\forall U\in \mathcal{N}(x)$ に対して、$\exists \epsilon >0(B_d(x,\epsilon )\subset U)$が成り立つので、条件から、$\exists N>0\forall n>N$ に対して、$x_n\in B_d(x,\epsilon )\subset U$ がなりたちます。また、閉集合であることから、点列の性質としてつぎのようなことが言えます。定理9.2$(X,\mathcal{O})$ を位相空間とするとき、$F\subset X$ が閉集合なら、任意の $n$ に対して $x_n\in F$ を満たす点列 $(x_n)$ に対して、ですので、$x\in X$ に収束するなら、$x\in F$である。つまり、閉集合 $F$ 上の任意の点列で、$X$ に収束するものがあれば、その収束先も $F$ の中に入るということです。このような性質を点列閉という言い方をします。上の定理は、部分集合は閉ならば、点列閉となります。逆に、点列閉ならば、閉であることは一般には成り立ちません。(定理9.2の証明) 条件を満たす点列の収束先が $x\in F^c$ を満たすとしますこのとき、$F^c$ は開集合だから、$\exists U\in \mathcal{N}(x)$ であって、$U\subset F^c$ を満たします。また、収束点列であることから、$\exists N>0\forall n>N(x_n\in U)$  となりますがそのような $x_n\in F^c$  であり、$x_n\in F$  であることに反します。よって、$x\in F$  となります。(証明終了)直積位相直積位相について定義しました。位相空間 $(X_i,\mathcal{O}_i)$ $i=1,2,\cdots,n$ に対して、直積集合$X_1\times X_2\times\cdots\times  X_n$の上に、直積位相を次のように定めます。定義9.3$U_i\in\mathcal{O}_i$ に対して、$U_1\times U_2\times \cdots \times U_n$ を開基とする位相を$X_1\times X_2\times \cdots\times X_n$ に入れたものを直積位相といい、$$\mathcal{O}_1\times \mathcal{O}_2\times \cdots \times \mathcal{O}_n$$とかく。これを直積位相(直積位相空間)という。上の $\mathcal{O}_1\times \mathcal{O}_2\times \cdots \times \mathcal{O}_n$ の部分に使われている記号 $\times $ は集合の直積とは意味合いが異なるので注意をしてください。もし、任意の $i$  に対して $\mathcal{O}_i=\mathcal{O}$ であるなら、この直積は $\mathcal{O}^n$として書くことにします。標準射影 $\text{pr}_i:X_1\times \cdots\times X_n\to X_i$を $\text{pr}_i(x_1,x_2,\cdots, x_n)=x_i$とします。この写像を標準射影と言います。このとき、直積位相は、標準射影 $\text{pr}_i$ の全てが連続になるための最弱な位相になります。つまり、$$\mathcal{O}_1\times \mathcal{O}_2\times \cdots\times \mathcal{O}_n=\langle \text{pr}_1,\text{pr}_2,\cdots,\text{pr}_n\rangle$$となります。左辺の開基は $U_1\times \cdots \times U_n$ の形ですが、これは、右辺において、$\text{pr}_1^{-1}(U_1)\cap\cdots\cap \text{pr}_n^{-1}(U_n)$ と表されるので、同じ開基を用いていることから両者は同じ位相ということになります。例9.8$({\mathbb R}^2,\mathcal{O}_{d_1}^2)$, $({\mathbb R}^2,\mathcal{O}_{d_2})$ は同値である。$\mathcal{O}_{d_1}^2=\mathcal{O}_{d_1}\times \mathcal{O}_{d_1}$ は2つのユークリッド距離位相の直積であり、$\mathcal{O}_{d_2}$ は2次元のユークリッド位相です。前者は、長方形からなる開集合を開基とする位相であって後者は、円からなる開集合を開基とする位相です。これらは、位相として同値になります。これは、$x=(x_1,x_2)$ として、$$B_{d_2}(x,\epsilon)\subset B_{d_1}(x_1,\epsilon)\times B_{d_1}(x_2,\epsilon)$$であること、また、$$B_{d_1}\left(x_1,\frac{\epsilon}{\sqrt{2}}\right)\times B_{d_1}\left(x_2,\frac{\epsilon}{\sqrt{2}}\right)\subset B_{d_2}(x,\epsilon)$$が成り立つことから直ちに導かれます。ここに証明を書くのは面倒なので、詳しくは拙著「例題形式で探求する集合・位相」の方を読んでください。このことから、$\mathcal{O}_M$ を ${\mathbb R}^2$ 上のマンハッタン距離による距離位相空間とすると、$\mathcal{O}_{d_2}=\mathcal{O}_M=\mathcal{O}_{d_1}^2$が成り立ちます。また、よく使う定理としては、以下があります。定理9.6直積位相空間 $(X_1\times  \cdots\times X_n,\mathcal{O}_1\times \cdots\times \mathcal{O}_n)$と位相空間 $(Y,\mathcal{O})$ に対して、$f:Y\to X_1\times  \cdots\times X_n$ が連続であるための必要十分条件は、任意の $i$ に対して、$\text{pr}_i\circ f$ が連続であることである。。必要性は、$\text{pr}_i$ と $f$ が連続であることから、その合成写像も連続であることから成り立ちます。十分性は、直積位相空間の任意の開基 $U_1\times \cdots\times U_n$ に対して、その逆像は、$$f^{-1}(U_1\times \cdots \times U_n)=f^{-1}(\text{pr}_1^{-1}(U_1)\cap \cdots\cap \text{pr}_n^{-1}(U_n))$$$$=f^{-1}(\text{pr}_1^{-1}(U_1))\cap \cdots\cap f^{-1}(\text{pr}_n^{-1}(U_n))$$$$=(\text{pr}_1\circ f)^{-1}(U_1)\cap \cdots\cap (\text{pr}_n\circ f)^{-1}(U_n)$$よって、この各成分は開集合であり、位相の条件(II)からこれらは、$\mathcal{O}$ の開集合になります。よって十分性が成り立ちます。    $\Box$最後に無限直積の直積位相を導入しました。$(X_\lambda,\mathcal{O}_\lambda)$ $\lambda\in\Lambda$を位相空間の族とします。$\prod_{\lambda\in \Lambda}X_\lambda$ 上に直積位相を誘導位相$\langle \{\text{pr}_\lambda|\lambda\in \Lambda\}\rangle$として定義します。このとき、直積集合 $\prod_{\lambda\in \Lambda}X_\lambda$上に位相を導入することができました。このような位相空間は開基として、$\{\lambda_1,\cdots,\lambda_n\}\subset \Lambda$ に対して、$\text{pr}_{\lambda_1}^{-1}(U_{\lambda_1})\cap \cdots\cap \text{pr}_{\lambda_n}^{-1}(U_{\lambda_n})$となるものを集めたものになります。ここで、$U_{\lambda_i}\in \mathcal{O}_{\lambda_i}$ が成り立つ任意の開集合になります。つまり、直積位相の開集合において、$(x_\lambda)\in \prod_{\lambda\in \Lambda}X_\lambda$の各成分 $x_\lambda\in X_\lambda$ は、有限個の$\lambda_{i}\in \Lambda$ 以外の $j$ は全て $X_j$ とるような開集合となります。 

トポロジー入門(第8回)
2021/12/08

[場所:オンライン(月曜日3限)] トポロジー入門のHP 一昨年(2019年度)トポロジー入門の講義の内容をまとめていましたが、7回目を残したまま更新しませんでした。2021年度と去年は2019年度とほぼ同じ速度で進んでいます。後半の8回以降のトポロジー入門のブログを再開します。また、勝手な都合でまた休止するかもしれません。 今回は、開基についての解説の続きと生成される位相と相対位相について説明をしました。 定理8.1 $(𝑋,\mathcal{O}_X),(Y,\mathcal{O}_Y)$ を位相空間とする。$\mathcal{B}\subset O_Y$ を開基とする。$f:X\to Y$ が連続であるためには、$\forall V\in \mathcal{B}\to f^{-1}(V)\in \mathcal{O}_X$ であることが必要十分である。 (証明)𝑓が連続であれば、$U\in \mathcal{O}_Y$ であるの、とくに $\mathcal{B}$ に対して正しい。逆に、 $\forall 𝑉\in \mathcal{B}\to f^{-1}(V)\in \mathcal{O}_X$ が成り立 つとする。$\forall \in  \mathcal{O}_Y$ に対して、 $\mathcal{B}'\subset \mathcal{B}$ が存在して、 $U=\cup_{B\in \mathcal{B}'}B$ と書ける。$f^{-1}(U)=f^{-1}(\cup_{B\in \mathcal{B}'}B)=\cup_{B\in \mathcal{B}'}f^{-1}(B)$  よって $f$ が連続である。$\Box$講義では言いませんでしたが、次の定理も示しておきます。$\mathcal{B}\subset \mathcal{P}(X)$ がある位相の開基となるためには以下の条件が必要です。 定理8.$1\frac{1}{2}$ $X$を集合とし、$\mathcal{B}\subset \mathcal{P}(X)$ とするとき、 $\mathcal{B}$ が $X$ 上のある位相の開基となるための条件は 以下の2つを満たすことであり、その位相は$\mathcal{O}_B=\{\cup \mathcal{B}'|\mathcal{B}'\subset \mathcal{B}\}$ となる。 (i) $\cup\mathcal{B}=X$ (ii) $\forall B_1\in B_2\in \mathcal{B}$ と $\forall p\in B_1\cap B_2$ に対して、 $\exists B\in \mathcal{B}(B\subset B_1\cap B_2)$ を満たす。 (証明) $\mathcal{O}$が$\mathcal{B}$ を開基とする位相とします。 このとき、$\mathcal{O}$は$\mathcal{O}_\mathcal{B}=\{\cup\mathcal{B}'|\mathcal{B}'\subset \mathcal{B}\}$ となります。 (i),(ii)は、位相の条件(I)の$X\in \mathcal{O}$ から、 $\forall p\in X$ に対して、$V_p\in \mathcal{B}$ が存在して、$p\in V_p$ となります。 よって 、そのような$V_p$ に対して $X=\cup_{p\in X}V_p\subset \cup \mathcal{B}$ となります。 よって、(i)が成り立ちます。 つぎに、(ii)をみます。 $\forall B_1,B_2\in \mathcal{B}\subset\mathcal{O}$ に対して、 $B_1\cap B_2\in\mathcal{O}$ であるので、$p\in B\in \mathcal{B}$ が存在して、$B\subset B_1\cap B_2$ となります。よって(ii)が成り立ちます。 つぎに、(i)と(ii)が成り立つと仮定します。 このとき、$\mathcal{O}_\mathcal{B}=\{\cup\mathcal{B}'|\mathcal{B}'\subset \mathcal{B}\}$ が開集合系となることを示します。 開集合系の(I)が成り立つことを示します。 $\emptyset$は、$\mathcal{B}'=\emptyset$ とすればよく成り立ちます。 (i)は$X\in \mathcal{O}$を意味します。 (II)が成り立つことを示します。 $U,V\in \mathcal{O}_\mathcal{B}$ とすると、 $U=\cup\mathcal{B}_U$かつ $V=\cup\mathcal{B}_V$ となります。 ただし、$\mathcal{B}_U\subset\mathcal{B}$ かつ $\mathcal{B}_V\subset \mathcal{B}$ です。 このとき、$U\cap V=\cup_{B_U\in\mathcal{B}_U,B_V\in \mathcal{B}_V}B_U\cap B_V$ が成り立ちます。 よって、$\forall p\in B_U\cap B_V$に対して、$p\in B\in \mathcal{B}$ となる$B$が存在します。 よって、$\mathcal{B}_{U,V}\subset \mathcal{B}$に対して、 $\cup \mathcal{B}_{U,V}=B_U\cap B_V$ となります。 よって、$\cup \{\mathcal{B}_{U,V}|U\in \mathcal{B}_U,V\in \mathcal{B}_V\}\subset \mathcal{B}$ であり、この和集合は、 $U\cap V$ となります。 つまり、位相の条件の(II)が成り立つことになります。 (III)が成り立つことをしめします。 また、$\mathcal{U}=\{U_\lambda\in \mathcal{O}_{\mathcal{B}}|\lambda\in \Lambda\}$ とすると、$U_\lambda\in \mathcal{U}$ に対して、ある$\mathcal{B}_\lambda\subset \mathcal{B}$ が存在して、$U_\lambda=\cup \mathcal{B}_\lambda$となります。 $\cup\mathcal{U}=\cup_{\lambda\in \Lambda}(\cup \mathcal{B}_\lambda)$ですから、 $\mathcal{B}_\mathcal{U}=\cup \{\mathcal{B}_\lambda|\lambda\in\Lambda\}$とすると、 $\cup\mathcal{U}=\cup \mathcal{B}_\mathcal{U}$ が成り立つ。 よって、$\mathcal{O}_\mathcal{B}$ は開集合系であり、 構成から、$\mathcal{B}$ は $\mathcal{O}$  の開基となります。 また、以下の定理を示しました。定理8.2.$({\mathbb R},\mathcal{O}_l)$ は可分であるが、第2可算公理を満たさない。(証明の概略)可分であることは、下限位相においても ${\mathbb Q}$ が稠密部分集合であることから成り立ちます。また、逆に、任意に開基 $\mathcal{B}$ を取った時に、任意の半開区間 $[p,p+1)$ において、$p\in V_p\subset [p,p+1)$ となる $V_p\in \mathcal{B}$ が存在します。ここで、$\{V_p|p\in {\mathbb R}\}\subset \mathcal{B}$であり、この右辺は非可算集合であるので、第2可算公理を満たしません。$\Box$このことから、下限位相は距離化可能でないことがわかります。これは距離化可能であれば、可分であることと第2可算公理を満たすことが同値となるからです。 生成される位相 を定義します。 定義8.1  $X$ を集合とする。$\mathcal{S}\subset\mathcal{P}(X)$ とする、 $\mathcal{S}$ の全ての元を開集合として含む $X$ 上の最弱の位相を  $\langle \mathcal{S}\rangle$ とかいて、$\mathcal{S}$ によって生成される位相という。 そのような位相はただ一つ存在し、 $\langle \mathcal{S}\rangle=\underset{\mathcal{S}\subset \mathcal{O}:\text{位相}}{\cap}\mathcal{O}$ となります。 生成される位相の例として、$\mathcal{O}$ を開集合系とすると、$\mathcal{O}=\langle \mathcal{O}\rangle$ となります。 例8.1 $\mathcal{S}=\{\{0,1\},\{1,2\}\}$ としたとき、$\langle \mathcal{S}\rangle=\{\emptyset,\{1\},\{0,1\},\{1,2\},\{0,1,2\}\}$となります。また、次のように定義します。 定義8.2 位相空間 $(X,\mathcal{O})$ に対して $\langle \mathcal{S}\rangle=\mathcal{O}$ とするとき、$\mathcal{S}$ は $\mathcal{O}$ の準開基と言う。 ここで、次を示します。 定理8.3. $\langle \mathcal{S}\rangle$ は、$\mathcal{B}=\{U_1\cap\cdots\cap U_n|n\in{\mathbb N}_0,0\le \forall i\le n(U_i\in S)\}$ としたとき、$\langle \mathcal{S}\rangle$ は $\mathcal{B}$ を開基とする位相になる。ここで${\mathbb N}_0={\mathbb N}\cup \{0\}$ です。 これを証明をします。 (証明)まず、$\mathcal{B}$ が位相の開基となることを証明します。 つまり、定理8.$1\frac{1}{2}$ の(i),(ii)が成り立つことを示します。 (i) $X\in \mathcal{B}$ であるから、あきらかに $X=\cup\mathcal{B}$です。 (ii) $U_1,\cdots, U_n,V_1,\cdots ,V_m\in \mathcal{B}$ として、 $B_1=U_1\cap \cdots \cap U_n\in \mathcal{B}$ かつ $B_2=V_1\cap \cdots \cap V_m\in  \mathcal{B}$ $B_1\cap B_2=U_1\cap \cdots \cap U_n\cap V_1\cap \cdots \cap V_m\in \mathcal{B}$ ですから、 (ii) は明らかに成り立ちます。 よって、$\mathcal{B}$ は $X$ 上のある位相の開基となります。 その位相を$\mathcal{O}_{\mathcal{S}}$ とすると、生成される位相の定義から$\mathcal{S}\subset \mathcal{O}_{\mathcal{S}}$ であり、その最小性から、$\langle \mathcal{S}\rangle \subset \mathcal{O}_{\mathcal{S}}$ となります。 また、任意に $U\in \mathcal{O}_{\mathcal{S}}$ をとると、$\mathcal{B}'\subset \mathcal{B}$ が存在して、$U=\cup \mathcal{B}'$となり、任意の $U_1\cap U_2\cap \cdots\cap U_n\in \mathcal{B}'$に対して、開集合系の条件(II)から $U_1\cap U_2\cap \cdots\cap U_n\in \langle \mathcal{S}\rangle$であり、開集合系の条件(III)から $\cup \mathcal{B}'\in  \langle \mathcal{S}\rangle$が成り立ちます。つまり $\mathcal{O}_{\mathcal{S}}\subset \langle \mathcal{S}\rangle$ であることから$\langle \mathcal{S}\rangle =\mathcal{O}_{\mathcal{S}} $となります。$\Box$ 例8.4$\mathcal{O}_{d_1}$ の時、$\mathcal{S}=\{(-\infty,a)|a\in {\mathbb R}\}\cap\{(b,\infty)|b\in{\mathbb R}\}$とすると、$\mathcal{S}$ は$\mathcal{O}_{d_1}$ の準開基となります。というのも、$(-\infty,a),(b,\infty)$ が $\mathcal{S}$ に入るので、そのような位相は、必ず $(b,a)$ も入るので、任意の開区間を含む位相ということになります。$\mathcal{B}=\{(a,b)|a,b\in {\mathbb R}\}$ としておくと、このような位相は$\mathcal{B}$ を開基とする位相空間ということになります。そのような位相は、$\mathcal{O}_{d_1}$ ということになります。$\mathcal{S}$ の有限共通部分をとると、$n=0$ の場合には ${\mathbb R}$が成り立ち、$n=1$ の場合には、$\mathcal{S}$ となります。また、$n=2$ の場合、$\{(-\infty,a)|a\in {\mathbb R}\}$ と $\{(b,\infty)|b\in{\mathbb R}\}$のそれぞれから選んで共通部分を取ると、有限開区間 $(a,b)$ もしくは空集合が作られます。同じ側から選ぶと、$(-\infty,a)$ の形の開集合か、$(b,\infty)$ の形の開集合のどちらかです。結果的に $\mathcal{S}$ の形に戻ります。3こ選んできたときも同様に考えると、$\mathcal{S}$ の形の開集合か、空集合か、$(a,b)$ と $(-\infty,c)$ もしくは $(d,\infty)$ の共通部分となります。それらは開区間か空集合なのでそれらを合わせても $\mathcal{B}\cup \{\emptyset\}$ から外に出ることはありません。 定義8.3 $(Y,\mathcal{O})$ を位相空間とし、 $f:X\to Y$ を連続写像とします。 このとき、 $S=\{f^{-1}(U)|U\in \mathcal{O}\}$ $\langle S\rangle$ を $\langle f\rangle$と書き、$f$ によって 誘導された位相(誘導位相)ということにする。 命題 $f:X\to Y$を写像とする。 $\langle f\rangle =\{f^{-1}(U)|U\in \mathcal{O}_{Y}\}$ である。 (証明)$\mathcal{B}=\{f^{-1}(U_1)\cap \cdots \cap f^{-1}(U_n)|U_i\in \mathcal{O}_Y\}$ とすると、$\langle f\rangle$ は $\mathcal{B}$ を開基とする位相となります。$f^{-1}(U_1)\cap \cdots \cap f^{-1}(U_n)=f^{-1}(U_1\cap \cdots\cap U_n)$ですから、$\mathcal{B}=\{f^{-1}(U)|U\in \mathcal{O}_Y\}$ となります。また、$\cup_{U\in \mathcal{B}'\subset\mathcal{B}}f^{-1}(U)=f^{-1}(\cup \mathcal{B}')$が成り立つので、 $\langle f\rangle=\langle \{f^{-1}(U)|U\in \mathcal{O}_Y\}\rangle=\mathcal{O}_\mathcal{B}=\mathcal{B}$ がなりたちます。    $\Box$ 誘導位相で重要な性質は以下です。定理8.3$Y$ を位相空間とする。$f:X\to Y$ を写像とすると、誘導位相 $\langle f\rangle$ は$f$ を連続にする $X$ の最小の位相である。(証明略) 次に、相対位相の定義をします。 定義8.4 $(X,\mathcal{O})$ を位相空間とし、$A\subset X$ とする。 このとき、$\mathcal{O}_A=\{A\cap U|U\in \mathcal{O}\}$ として 定義すると、$(A,\mathcal{O}_A)$ は、$A$ の位相空間を与えており、 それを部分位相空間という。また、$\mathcal{O}_A$ を相対位相ともいう。 つまり、開集合を $A$ に制限して得られるような開集合全体を$A$ の相対位相ということになります。 定理8.5 $A\subset X$ を部分集合とする。 $i:A\hookrightarrow X$ を包含写像とする。 このとき、$(A,\langle i\rangle)$ は相対位相 $(A,\mathcal{O}_A)$ と一致する。 (証明)$i^{-1}(U))=A\cap U$ であることを示されればよいです。 $\forall a\in i^{-1}(U)$ とすると、$i(a)=a\in U$ であるから、$a\in A\cap U$ であり、 $a\in A\cap U$ とすると、$i(a)=a\in U$ であるから、$a\in i^{-1}(U)$  ですから、$i^{-1}(U)=A\cap U$ が成り立ちます。$\Box$ 例8.5${\mathbb R}$ の通常の距離位相空間において、$A=(0,1)$ 上の相対位相は ${\mathbb R}$ の開集合 $U$ を用いて$(0,1)\cap U$ となる開集合ですが、$(0,1)$ は ${\mathbb R}$ の開集合なので、$(0,1)\cap U$ も$A$での開集合となります。例8.6${\mathbb R}$ の通常の距離位相空間において、$A=[0,1]$ 上の相対位相は ${\mathbb R}$ の開集合 $U$ を用いて$[0,1]\cap U$ となる開集合ですが、$[0,1]$ は ${\mathbb R}$ の開集合ではないので、$[0,1]\cap U$は $A$ での開集合ですが、一般には ${\mathbb R}$ での開集合になりません。例えば、$U=(-1/2,1/2)$ としたときには、$A\cap U=[0,1/2)$ となって、これは ${\mathbb R}$ での開集合ではありませんが、$A$ の開集合となります。例8.7$A={\mathbb Z}\subset {\mathbb R}$ を選んでやると、$A$ 上で制限してできる開集合は、$A$ 上の離散位相空間になります。例8.8$A=\{1/n|n\in {\mathbb N}\}$ を選んでやると、やはり$A$ 上の離散位相空間が得られますが、$\overline{A}=A\cup\{0\}$ となり、$\overline{A}$ 上の相対位相は、$\overline{A}$ 上の離散位相とは異なる位相空間になります。離散位相空間には、集積点は含まれませんが、$\overline{A}$上の位相は集積点 $0$ が含まれます。

積分と極限の順序交換定理(アルゼラの定理)
2020/07/20

積分と極限の交換定理について書きます。 積分と極限の交換とは $$\lim_{n\to\infty}\int_a^bf_n(x)dx=\int_a^b\lim_{n\to\infty}f_n(x)dx$$ が成り立つことを言います。 微積分で最初に習う積分と極限の交換のための(十分)条件は、 おそらく、その関数列が一様収束する場合だと思いますが、 関数列が一様収束しなくても積分と極限の交換が成り立つ場合がありますので 下で紹介し、証明します。 一様収束する関数列の積分と極限の順序交換については、 このブログの2016年の微積分II演習のページ(リンク) に書いていますのでそちらを参照してください。 一様収束の定義もそちらを参照してください。 このページでは基本、大学1年生向け微積分を扱いますので ルベーグ積分は仮定せずに、リーマン積分の範疇だけで話を進めます。 ルベーグ積分を学んだあとであれば、これらの積分と極限の交換定理は ルベーグの収束定理から直ちに導かれます。 具体的には下の定理を証明します。 この証明は、小平邦彦著の「解析入門」(岩波基礎数学)の第5章にあり、 「解析入門」によると、Hausdorffの1927年の論文(Beweis eines Satzes von Arzelà) が元だそうです。(私は論文を読んだわけではありません。) また、この定理は、解析学のアスコリ=アルゼラの定理(wikipedia)としても一般化されます。 アルゼラの定理 定理(積分と極限の順序交換定理(アルゼラの定理)) $f_n$ を区間 $I=[a,b]$ で定義された連続関数列とし、ある実数 $M>0$ が存在して、任意の $n\in {\mathbb N}$ と $x\in I$ に対して、$|f_n(x)|\le M$ が成り立つとする。この関数列は $I$ 上で $f(x)$ に各点収束し、$(a,b)$ で連続であるとする。このとき以下の積分と極限の順序交換が成り立つ。 $$\lim_{n\to \infty}\int_a^bf_n(x)dx=\int_a^b\lim_{n\to \infty}f_n(x)dx$$ 「解析入門」の本文では、$f(x)$ の連続性は、$(a,b)$ ではなく、$[a,b]$ となっていますが 下の証明にあるように、$(a,b)$ でだけの連続であれば成り立ちます。 リーマン積分可能であれば、連続である必要もないのですが、 リーマン可積分の条件などを証明途中で使うのは面倒なので連続関数の積分のみを用いて証明します。もし、不連続点をさらに多く含むような場合を考えたい場合は、上に書いたようにルベーグ積分を勉強して理解することで全て解決されます。 定理の中に記述されている 「ある実数 $M>0$ が存在して、任意の $n\in {\mathbb N}$ と $x\in I$に対して、 $|f_n(x)|\le M$ が成り立つ」ことを一様有界といいます。 では証明していきます。 (「解析入門」とは、文字など適宜変えた部分がありますのでご了承ください。) また、証明は少々ですが長いので読む覚悟のある人以外は証明の内容は理解せず、 定理の内容だけ理解して、下の方にある例にまでスキップして使い方だけ 学んでもよいかと思います。 (証明) $|\int_a^bf_n(x)dx-\int_a^bf(x)dx|\le \int_a^b|f_n(x)-f(x)|dx$ から、$g_n(x)=|f_n(x)-f(x)|$ とおいたとき、 $$\lim_{n\to\infty}\int_a^bg_n(x)dx=0\cdots (\ast)$$ であることを証明すればよいことになります。 $f_n(x)$は一様有界なので、ある$M$が存在して、$|f_n(x)|<M$ が成り立ちます。 また、各点の極限をとることで、$|f(x)|\le M$が成り立つので、 $|g_n(x)|\le |f_n(x)|+|f(x)|\le  2M$ が成り立ちます。 $f_n(x)$ は各点収束するので、任意の $x$ に対して $g_n(x)\to 0$ となります。 各点$a\le x\le b$ に対して、数列 $g_n(x),g_{n+1}(x),\cdots $ の上限を $s_n(x)$ とします。つまり、 $$s_n(x)=\underset{m\ge n}{\sup}g_m(x)$$ であり、$a\le x\le b$ に対して $$2M\ge s_1(x)\ge s_2(x)\cdots s_n(x)\ge \cdots$$ したがって、$g_n(x)\to 0$であるから、 $$\lim_{n\to \infty}s_n(x)=\limsup_{n\to \infty}g_n(x)=0\cdots(\dagger)$$ が成り立ちます。 ここで、$s_n(x)$ が連続である場合には下のDiniの定理により、 $s_n(x)\to 0$は、$a\le x\le b$ で $0$を与える関数に 一様収束し、$\lim_{n\to\infty}\int_a^bs_n(x)dx=0$ となります。 そこで、$s_n(x)$ が連続とは限らない場合を考えます。 ここで、 $$S_n=\underset{h\le s_n}{\sup}\int_a^bh(x)dx$$ とします。 この上限は、任意の$x\in I$ に対して、$h(x)\le s_n(x)$ を満たすような 連続関数全体に対して上限を取ることを意味します。 そのような $h(x)$ に対して、 $\int_a^bh(x)dx\le \int_a^b2Mdx=2M(b-a)$ であるから、 $$2M(b-a)\ge S_1\ge S_2\ge \cdots \cdots \ge S_n\ge \cdots$$ であり、$g_n(x)\le s_n(x)$ であるから、 $$0\le \int_a^bg_n(x)dx\le S_n$$ よって、$S_n\to 0$であることを示せば $(\ast)$ が成り立つことになります。 任意の正数 $\epsilon>0$ に対して、$\epsilon_n=\epsilon/2^n$と定義します。 このとき、 $$\int_a^bh_n(x)dx> S_n-\epsilon_n\cdots (\ast\ast)$$ となる連続関数 $h_n(x)$ で $h_n\le s_n$ となるものが存在します。 ここで、$k_n(x)=\min\{h_1(x),\cdots ,h_n(x)\}$ とおきます。このとき、下の補題を用いれば、$k_n(x)$ も連続関数になります。 そして、明らかに、$k_1(x)\ge k_2(x)\ge \cdots \ge k_n(x)\ge \cdots$ かつ $k_n(x)\le h_n(x)\le s_n(x)$ が成り立ち、これから、 $$\int_a^bk_n(x)dx>S_n-\epsilon_1-\epsilon_2-\cdots-\epsilon_n$$ が成り立ちます。 実際、 $\mu_n(x)=\max\{k_{n-1}(x),h_n(x)\}$ と定義します。 このとき、$\mu_n(x)$ は $I$上で連続であり、 ($\max$や$\min$が連続性を保持すること、つまり、$f_1(x)$ と $f_2(x)$ が 連続なら、$\max\{f_1(x),f_2(x)\}$ や $\min\{f_1(x),f_2(x)\}$ が連続であること は、このページの下の方にある補題からわかります) $\min\{\xi,\eta\}+\max\{\xi,\eta\}=\xi+\eta$ であるから、 $k_n(x)+\mu_n(x)=k_{n-1}(x)+h_n(x)$ であり、 $$\int_a^bk_n(x)dx=\int_a^bk_{n-1}(x)dx+\int_a^bh_n(x)dx-\int_a^b\mu_n(x)dx$$ ここで、 $k_{n-1}(x)\le s_{n-1}(x)$ かつ $h_n(x)\le s_n(x)\le s_{n-1}(x)$ であるから、 $\mu_n(x)\le s_{n-1}(x)$ であり、したがって、 $\int_a^b\mu_n(x)dx\le S_{n-1}$ となります。 よって、この不等式と不等式 $(\ast\ast)$ を用いれば、 $$\int_a^bk_n(x)dx>\int_a^bk_{n-1}(x)dx+S_n-\epsilon_n-S_{n-1}$$ が成り立ちます。 $\int_a^bk_1(x)dx=\int_a^bh_1(x)dx>S_1-\epsilon_1$であるから、 この不等式を繰り返すことで、 $$\int_a^bk_n(x)dx>(S_n-\epsilon_n-S_{n-1})+(S_{n-1}-\epsilon_{n-1}-S_{n-2})+\cdots+(S_{2}-\epsilon_2-S_{1})+\int_a^bk_1(x)dx>S_n-\epsilon_1-\epsilon_2-\cdots-\epsilon_n$$ となります。 よって、$\epsilon_1+\epsilon_2+\cdots+\epsilon_n<\epsilon$であるから、 $\int_a^bk_n(x)dx>S_n-\epsilon$ が成り立ちます。 ここで、$k_n(x)$ は連続関数列であり、 $$k_1(x)\ge k_2(x)\ge k_2(x)\ge \cdots \ge k_n(x)\ge\cdots $$ であり、$0\le k_n(x)\le s_n(x)$ であるから、 $(\dagger)$ において各 $a\le x\le b$ に対して、$k_n(x)\to 0$ となります。 つまり、$k_n(x)$ は単調非増加な連続関数であり、恒等的に $0$ となる関数に 各点収束するから、Diniの定理から、$k_n(x)$ は 一様収束し、 $\lim_{n\to \infty}\int_a^bk_n(x)dx=0$ となります。 よって、$\lim_{n\to\infty}S_n\le \epsilon$ が成り立つので、 $$\lim_{n\to\infty}S_n=0$$ が成り立ちます。$\Box$ Diniの定理 定理(Diniの定理) 閉区間 $[a,b]$ において、連続な関数 $f_n(x)$ を項とする単調非増加な 関数列とする。つまり、$a\le x\le b$ において、 $$f_1(x)\ge f_2(x)\ge \cdots \ge f_n(x)\ge\cdots $$ となる関数列とし、連続関数 $f(x)$ に収束するとする。 このとき、$f_n(x)$ は $[a,b]$ で $f(x)$ に一様収束する。 (証明) $g_n(x)=|f_n(x)-f(x)|$ とするとき、$g_n(x)$ が一様に $0$ に収束することを 示せばよいことになります。 仮定から、$g_n(x)\le g_{n-1}(x)$ より、$g_n(x)$ は単調非増加で $0$ に収束します。 この関数列が一様収束ではないとします。 このとき、ある正の実数 $\epsilon_0$ に対して、どんな自然数 $n$ に対しても $m>n$ と$ c_n\in [a,b]$ が存在して、$g_m(c_n)>\epsilon_0$ が存在します。 ここで、$g_n(c_n)\ge g_m(c_n)>\epsilon_0$ が成り立つことがわかります。 つまり、$g_n(c_n)>\epsilon_0$ が成り立ちます。 ここで、ボルツァーノ-ワイエルシュトラスの定理により、 $c_n$ には $[a,b]$ において収束する部分列が存在します。 そのような部分列は自然数の単調増加列 $n_1<n_2<n_3<\cdots$ を用いて $c_{n_1},c_{n_2},\cdots, c_{n_j}\cdots $ であるとし、その極限を $c\in[a,b]$ とすると、 $g_n$ は連続であるから、$g_n(c_{n_j})\to g_n(c)$ となります。 ここで、$n_j\ge n$ なる任意の$j$ に対して $g_n(c_{n_j})\ge g_{n_j}(c_{n_j})\ge \epsilon_0$ が成り立ちます。$g_n$ の連続性から $g_n(c)\ge \epsilon_0>0$ が成り立ち、これは、$g_n(x)$ が $0$ に 収束することに矛盾します。(特に$g_n(c)$ は $0$  に収束しない。) ゆえに、$g_n(x)$ は、一様に $0$ に収束します。$\Box$ Diniの定理についての話は、 2015年度の微積分II演習のページ(リンク) にも書いていますのでご参照ください。 補題 アルゼラの定理の中で出てきている等式をひとつ示しておきます。 補題 実数 $\xi,\eta$ に対して、 $\min\{\xi,\eta\}=\frac{1}{2}(\xi+\eta-|\xi-\eta|)$である。 (証明) もし$\xi\ge \eta$ なら、 $\frac{1}{2}(\xi+\eta-(\xi-\eta))=\eta$ となり もし$\xi\le \eta$ なら、 $\frac{1}{2}(\xi+\eta-(-\xi+\eta))=\xi$ となり この等式が成り立つ。$\Box$ 同様に、 $\max\{\xi,\eta\}=\frac{1}{2}(\xi+\eta+|\xi-\eta|)$ となります。 とくに、$a(x)$ と $b(x)$ が連続関数であるとすると、 $\min\{a(x),b(x)\}$ や $\min\{a(x),b(x)\}$ も連続関数である。$\Box$ 例 一様収束しないが、一様有界で極限と積分の交換が成り立つ例をいくつか与えます。 (といっても挙げた例はアルゼラの定理を使わなくても交換が成り立つことがわかる ものばかりでした。何か他に良い例があると思いますが、私は思いつきませんでした。) 例1 $[0,1]$ 閉区間において、 $$f_n(x)=\begin{cases}2nx&0\le x\le \frac{1}{2n}\\-2nx+2&\frac{1}{2n}\le x\le\frac{1}{n}\\0&\frac{1}{n}\le x\le 1\end{cases}$$ として定義しますと、この関数列は、恒等的に $0$ となる関数に 一様収束しませんが、各点収束します。 また、一様有界な関数列で、$[0,1]$ で連続な関数に収束しますので、 積分と極限の順序交換が成り立ち、 $$\lim_{n\to\infty}\int_0^1f_n(x)dx=0$$ が成り立ちます。 例2 $[0,1]$ による関数として $f_n(x)=x^n$ とします。 このとき、$f_n(x)$ は一様収束しませんが、一様有界で $(0,1)$ で連続な関数に収束するので、 $$\lim_{n\to\infty}\int_0^1x^ndx=0$$ となります。 閉区間に不連続点が有限個あったととき、その関数の積分は その点を除いて積分してやることで計算したものになります。 なので、例2の関数の各点収束先は、 $$f(x)=\begin{cases}0&1\le x<1\\1&x=1\end{cases}$$ ですが、この積分は、$f(x)\equiv 0$ の積分と等しくなります。 ただ、この例だと、具体的に積分が計算できてしまい、 $\int_0^1x^ndx=\frac{1}{n+1}$ なので、上のアルゼラの定理を 使うまでもないということになります。 積分が計算できるという点では例1もそうですが。 例3 $[0,\frac{\pi}{2}]$において、 $f_n(x)=\sin^nx$ とすると、 この場合も、一様収束せず、一様有界で、 $[0,\frac{\pi}{2})$ で0で、$x=\frac{\pi}{2}$ のときに1 となる関数に各点収束します。 よって、この場合も $\lim_{n\to\infty}\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^nxdx=0$ となります。 この積分は、部分積分を繰り返すことで $$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^nxdx=\begin{cases}\frac{(n-1)!!}{n!!}&n\text{奇数}\\\frac{(n-1)!!}{n!!}\frac{\pi}{2}&n\text{偶数}\end{cases}$$ と計算できます。 つまり、アルゼラの定理を使えば、偶奇のどちらにしても $\frac{(n-1)!!}{n!!}\to 0$がわかるということになります。

数学リテラシー1(第10回)
2020/06/09

[場所:manaba上(水曜日12:00〜)] 数学リテラシー1のHP 今回の授業では、置換を用いて 行列式を定義しました。 符号 まず符号  $$\text{sgn}:S_n\to \{1,-1\}$$ の定義をします。  置換 $\sigma$ を $m$ 個の互換 $\tau_1\cdots, \tau_m$ の積で $$\sigma=\tau_1\cdots \tau_m$$ と書けたとするとき、 $$\text{sgn}(\sigma)=(-1)^m$$ と定義します。 この数 1 or -1 を置換 $\sigma$ の符号といいます。 この定義は、ある置換の互換の積が偶数である場合は、$1$ または、奇数である場合は $-1$ ということと同じです。 符号をきちんと定義するためには置換を互換の積で書いた時に、それが偶数個の 互換の積であるか、奇数個の互換の積であるかはその表示の仕方によらないことを 示す必要があります。 例えば1から3までの数を並べ替える方法は6個になります そのうちで 以下の置換 $e$, $(1,2,3)$, $(1,3,2)$ は、必ず偶数個の互換の積に書くことができます。 置換をあみだくじ、もしくは、上のような数字を結ぶ線を描いたものと 考えることもできます。つまり、線には、1から3までの数が割り当てられている ことになります。 これらの置換の交わった点の個数が互換の個数ということになります。 たとえば、恒等置換の場合を考えます。 1の線分を描きます。その上に2の線を描いたときに、必ず、偶数個で交わります。 というのも、1,2は、上と下とで順番同じなので、必ず、1に交わったら、もう1回まじわらないと、この順番にたどり着くことができません。 また、3の線をかいたときも同じで、3の線が1の線と交わったら、もう一回 交わらないと、この順番でたどり着きません。 3の線が2の線と交わったときも同様です。 よって、このとき、交わった点の数は、必ず偶数個になります。 $(1,2,3)$ や $(1,3,2)$ の場合の置換も同じことを表します。 (実は、このようにあみだを使って説明をしてもしても置換の全ての 互換の積がいつでも偶数ということの証明にはならないのですが..... というのも、このように、あみだによって書かれる互換の積の分解は、 隣り合った数の互換の積によってかけているだけです。) おなじように、次の3つの 置換は 奇数個の互換の積によってかけます。 行列式の定義 では、符号を使って行列式を定義しましょう。 $(n,n)$ 行列 $A=(a_{ij})$ の行列式を以下のように定義します $$\det(A)=\sum_{\sigma\in S_n}\text{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots a_{n\sigma(n)}$$ ここで、Σの記号の下に$\sigma\in S_n$ が書かれているのは、 $S_n$ の元に従って足し合わせるということです。 ですので、特に、$n!$ 個の和であるということになります。  例えば$(2,2)$ 行列の場合に行列式の定義に従って計算します。 $S_2=\{e,(1,2)\}$ですから、 以下のようになります。 $$\det(A)=a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}$$ ということになります。 $A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ の場合、$\det(A)=ad-bc$ と定義したわけですから確からこの定義と合っています。 次に、$(3,3)$ 行列の行列式を計算をします。 $$A=\begin{pmatrix}a_{11}&a_{12}&a_{13}\\a_{21}&a_{22}&a_{23}\\a_{31}&a_{32}&a_{33}\end{pmatrix}$$ として、6個の和を書き下してみると、以下のようになります。 この項の順番は、上に登場した置換の順番に沿ってかきました。 $$\det(A)=a_{11}a_{22}a_{33}+a_{12}a_{23}a_{31}+a_{13}a_{21}a_{32}-a_{12}a_{21}a_{33}-a_{11}a_{23}a_{32}-a_{13}a_{22}a_{31}$$ この公式を覚えるのに役に立つのが、サラスの公式です。 $(3,3)$ 行列に、下のような6本の線をかいてやります。 そのとき、その線にぶつかった成分をかけて符号をつけて足し上げることによって 行列式が計算できます。 ただし、黒いほうを正の符号とし、赤いほうを負の符号とするのです。 転置行列と行列式 転置行列の行列式は元の行列の行列式と同じになります。 $\sigma$に対して、転置行列の行列式は、 $$\det(^tA)=\sum_{\sigma\in S_n}\text{sgn}(\sigma)a_{\sigma(1)1}\cdots a_{\sigma(n)n}$$ ですが、$\sigma$に対して、$\sigma^{-1}$ はその符号を変えず、 これは、積の順番を入れ替えれば、 $$=\sum_{\sigma\in S_n}\text{sng}(\sigma)a_{1\sigma^{-1}(1)}\cdots a_{n\sigma^{-1}(n)}$$ となりますが、$\sigma\mapsto \sigma^{-1}$ は一対一ですから、 $\sigma^{-1}$ を再び $\sigma$ に置きなおすことで、 $$=\sum_{\sigma\in S_n}\text{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots a_{n\sigma(n)}$$ となるので、これは$\det(A)$ となります。 よって、転置行列の行列式はもとの行列の行列式と同じになります。 行列式の交代性 2つの行を交換して得られる行列と、2つの列を交換して得られる行列の行列式は ちょうど元の行列式の $-1$ 倍になります。 例えば、$i$ 列と $j$ 列を入れ替えた行列を$A'$ とする。$i<j$ であると仮定します。 $$\det(A')=\sum_{\sigma\in S_n}\text{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}\cdots a_{j\sigma(i)}\cdots a_{i\sigma(j)}\cdots a_{n\sigma(n)}$$ ここで、$\tau=(i,j)$とすると、 $$=\sum_{\sigma\in S_n}\text{sgn}(\sigma\tau)\text{sgn}(\tau)a_{1\sigma\tau(1)}\cdots a_{i\sigma\tau(i)}\cdots a_{j\sigma\tau(j)}\cdots a_{n\sigma\tau(n)}$$ $$=\sum_{\sigma\in S_n}\text{sng}(\tau)\text{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}\cdots a_{i\sigma(i)}\cdots a_{j\sigma(j)}\cdots a_{n\sigma(n)}$$ $$=-\sum_{\sigma\in S_n}\text{sng}(\sigma)a_{1\sigma(1)}\cdots a_{n\sigma(n)}=-\det(A)$$ 2つの行を交換して得られる行列式が$-1$になることも、 上の転置をとることによって行列式が変わらないことから 従います。 この交代性から、 $A$の第 $i$ 列 ${\bf a}_i$ と第 $j$ 列 ${\bf a}_j$ が、${\bf a}_i={\bf a}_j$ であるとするとき、その第 $i$ 列と $j$ を交換した行列を $A'$ とすると、$A$ と $A'$ は同じ行列であるから、 $\det(A)=-\det(A)$ である。 よって、$\det(A)=0$ となります。 多重線形性 $n$ 個の $n$ 次元ユークリッド空間の元のペアから実数への写像 $$f:{\mathbb R}^n\times \cdots \times {\mathbb R}^n\to {\mathbb R}$$ が、任意の$i$ 個目のベクトルに対して、 $$f({\bf v_1},\cdots,{\bf v}_i+{\bf v}_i',\cdots, {\bf v}_n)=f({\bf v}_1,\cdots, {\bf v}_i,\cdots, {\bf v}_n)+f({\bf v}_1,\cdots, {\bf v}_i',\cdots, {\bf v}_n)$$ かつ、実数 $c$ に対して $$f({\bf v}_1,\cdots, c{\bf v}_i,\cdots {\bf v}_n)=cf({\bf v}_1,\cdots, {\bf v}_i,\cdots, {\bf v}_n)$$ を満たすとき、$f$ は多重線形性を満たすといいます。 $\det$ は多重線形写像であることを示します。 $A''$ の第 $i$ 列が $\begin{pmatrix}a_{1i}+a_{1i}'\\a_{2i}+a_{2i}\\\vdots \\a_{ni}+a_{ni}'\end{pmatrix}$ であり、他の第 $(k,j)$ 成分は、$a_{kj}$ であるとします。 また、$A=(a_{ij})$とし、$A'$ の第$i$列は、 $\begin{pmatrix}a_{1i}'\\a_{2i}'\\\vdots \\a_{ni}'\end{pmatrix}$ であるとします。 このとき、 $$\det(A'')=\sum_{\sigma\in S_n}\text{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}\cdots (a_{i\sigma(i)}+a_{i\sigma(i)}')\cdots a_{n\sigma(n)}$$ $$=\sum_{\sigma\in S_n}\text{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}\cdots a_{i\sigma(i)}\cdots a_{n\sigma(n)}$$ $$+\sum_{\sigma\in S_n}\text{sng}(\sigma)a_{1\sigma(1)}\cdots a_{i\sigma(i)}'\cdots a_{n\sigma(n)}$$ $$=\det(A)+\det(A')$$ となり、実数倍の方も同様にやることにより、$\det$ の多重線形性が満たされました。 $A({\bf x})$ を第 $i$ 列が ${\bf x}$ となる行列であるとすると、 $A$ の第 $k$ 列を ${\bf a}_k$ であるとする。 このとき、多重線形性を用いると、 $$\det(A({\bf a}_i+c{\bf a}_j))=\det(A({\bf a}_i))+\det(A(c{\bf a}_j))$$ $$=\det(A({\bf a}_i)+c\det(A({\bf a}_j))=\det(A({\bf a}_i))=\det(A)$$ まとめ 行列式を写像 $\det:{\mathbb R}^n\times \cdots \times {\mathbb R}^n\to {\mathbb R}$と思うと、交代的な多重線形性を持つ写像。 行列 $A$ の第 $j$ 列を他の第 $i$ 列に定数倍をして足してやったものは、 元の行列式を変えない。 また、単位行列 $E$ に対して、 $\det(E)=1$ であることも定義から従います。

数学リテラシー1(第9回)
2020/06/02

[場所:manaba上(火曜日12:00〜)] 数学リテラシー1のHP 今回と次回で、行列式を定義します。 最終的に、次回において行列式を定義しますが、今回は 行列式を定義するために用いる置換について解説しました。 行列式は、$(2,2)$ 行列のときに $\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ のときに $ad-bc$ として定義していますが、 ここでは、一般の $(n,n)$ 行列のときの行列式を定義します。 $n$ 文字の集合の間の全単射の集合と置換 まず、 $\Omega$ を $n$ 個の数字からなる集合 $\{1,2,\cdots, n\}$ とし、 $S_n=\{\sigma:\Omega\to \Omega|\sigma:\text{全単射}\}$ とおきます。 つまり、$\sigma\in S_n$ は $\Omega$ 上の写像で、全単射なものということです。 ここで全単射というのは、全射かつ単射な写像であったこと思い出してください。 つまり 写像で、逆写像が存在するようなもののことでした。 この集合は$n$ 個の数字をちょうど入れ替えており、 つまり$n$ 個の数字を並べ替える方法全体と一致しています。 この並び替え、つまり、置換が、$S_n$ の元ということです。 つまり、$S_n$ は $n$ 個の文字の並び替えの全体の集合といってもよいわけです。 よって $S_n$ に含まれる要素は $n$ 個の数字の順列の数と同じということで、 $S_n$ には、$n!$ 個の元が 含まれることになります。 よって、$S_n$ の元のことをこれから単に置換ということにします。 置換の書き方 置換は、$(2,n)$ 行列を用いて、 $$\begin{pmatrix}1&2&\cdots&n\\\sigma(1)&\sigma(2)&\cdots&\sigma(n)\end{pmatrix}$$ として書き表すことが一般的です。 つまり、置換を写像として考えたとき、縦ベクトルとして、 $i$ とその行先(像)の関係を書いたものということになります。 ですので、 この行列のある縦ベクトルを他の縦ベクトルと入れ替えてできる $(2,n)$ 行列が表す置換も同じ置換を表すことになります。 例えば、$n=3$ の場合であれば、$S_3$ の元は $$\begin{pmatrix}1&2&3\\1&2&3\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1&2&3\\2&1&3\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1&2&3\\1&3&2\end{pmatrix}$$ $$\begin{pmatrix}1&2&3\\3&2&1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1&2&3\\2&3&1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1&2&3\\3&1&2\end{pmatrix}$$ の3!=6通りとなります。 また、$n$ 個の数字を並び替える集合とは、次のように $n$ 個の数字をあみだくじによって入れ替えを行ったものと考えることもできます。 これは、上の $S_3$ の置換をあみだくじで書いたものです。 最も左上のあみだくじに対応するものを 恒等置換といいます。恒等置換というのは何も置き換えない置換のことをいいます。 写像でいえば、恒等写像に対応します。 ただし、置換に対して、あみだくじで書く方法はさまざまあります。 これは考えればすぐにわかることですが、たとえば、 のようなあみだを考えれば、このあみだが恒等置換を表すことがわかるでしょう。 置換の積 置換には、積を定義することができます。 あみだくじで言えばあみだくじを縦に並べたもの、 写像の言葉で言えば写像の合成のことです。 例えば、 $$\sigma=\begin{pmatrix}1&2&3\\2&1&3\end{pmatrix}$$ と $$\tau=\begin{pmatrix}1&2&3\\3&2&1\end{pmatrix}$$ の積を考えると、 $$\begin{pmatrix}1&2&3\\2&3&1\end{pmatrix}$$ のようになります。できた置換は、$\tau\sigma$ と書きます。 この順番は、写像の合成の意味が込められており、この順番に なっています。 このことをあみだの言葉で言えば、 上に $\tau$、下に $\sigma$ を並べてやることで、 のようになります。このように絵を使ってこの計算をすることができます。 なんとなく、$\tau$ を下に置くのかと勘違いするかもしれませんが、 逆ですので注意してください。 逆置換 逆置換というのは写像の逆写像を取ったものつまり あみだくじの鏡像をとったものとして定義できます。 鏡像というのは水平な線を鏡として得られるようなあみだくじのことです。 例えば、 $$\begin{pmatrix}1&2&3\\3&1&2\end{pmatrix}$$ の場合ですと、この置換の上と下を入れ替えて、 $$\begin{pmatrix}3&1&2\\1&2&3\end{pmatrix}$$ となり、また、上の行を1,2,3の順にあるように、縦ベクトルを 入れ替えると、 $$\begin{pmatrix}1&2&3\\2&3&1\end{pmatrix}$$ のようになります。 置換の性質をここで おさらいしておきます。 2つの置換の積を取ることができる。 任意の置換に対して逆置換が必ず存在すること。 恒等置換が存在すること。 ということになります。  実は、この性質は、数学における群論の初歩をやっていることに相当します。 群論というのは、大学では3年生くらいで習う、何かの変換全体の集合を 考える理論です。 置換全体は群の例の一つですが、 群論においては置換全体の集合は $n$ 次対称群と呼ばれます。 数学全般はもちろんのこと、物理や化学でも群論の考えかたを応用した 理論は多いです。 ちなみに、群論を初めて応用したのは、エヴァリスト・ガロア(19世紀の数学者) で、群論を用いて5次以上の方程式の解に、 その係数の四則演算べき乗根で解けないものが存在することを証明しました。 巡回置換と互換 次に置換 $\sigma\in S_n$ を $\{i_1,\cdots, i_r\}\subset \Omega$ に対して、 $$i_1\mapsto i_2,\ i_2\mapsto i_3\cdots, i_{r}\mapsto i_1$$ と写し、それ以外では数を変えないものを巡回置換といいます。 そのような巡回置換を $(i_1,i_2,\cdots, i_r)$ のように書きます。 この巡回の長さ $r$ を巡回置換の長さといいます。 特に長さが2の巡回置換のことを互換といいます。 任意の置換 $\sigma\in S_n$ に対して、任意の $i\in \Omega$ に対して、その行先を 順次たどっていけば、必ずもとの $i$ に戻ってくる巡回置換をなしています。 よって、すべての置換は 互いに交わらない巡回置換の積に書くことができます。 また巡回置換は いくつかの互換を使って $$(i_1,\cdots, i_r)=(i_1,i_{r})\cdots (i_1,i_3)(i_1,i_2)$$ のように書くことができます。 他の書き方として、 $$(i_1,\cdots, i_r)=(i_1,i_{2})(i_2,i_3)\cdots (i_{r-1},i_r)$$ もあります。 これらのことから、全ての置換はいくつかの互換の積によって書き表すことができる ことになります。 これは、あみだくじを考えれば明らかで、任意の置換はあみだくじですから、 置換をあみだくじによって描いたとき、線を少々ずらすことで、交わりを全て二重点だけにしておくことができます。 各交差点において、数字が互換のようにして 入れ替わり、その合成によって全ての置換を互換の 積に書くことができるということになります。 (このとき、全ての線は上から下に、途中で止まらずに流れていくものとします。) この横線の数が表示した互換の数に相当します。 例として教科書やスライドにあった次の置換を用いて考えます $$\begin{pmatrix}1&2&3&4&5&6&7\\4&5&6&7&2&3&1\end{pmatrix}$$ 個々の数字をたどっていくことで、 この置換は長さが3の巡回置換 $(1,4,7)$ と長さが2の2つの巡回置換 $(2,5)$ と $(,6)$ の積に書かれることがわかるでしょう。

数学リテラシー1(第8回)
2020/05/28

[場所:manaba上(土曜日12:00〜)] 数学リテラシー1のHP 第6回では、直交行列によって対角化できる行列は 対称行列であることを証明しましたが、 その逆が成り立つことを今回は示します。 つまり、 定理 実対称行列は固有値は実数であり、 さらに、ある直交行列によって対角化できる。 です。 今回も、$(2,2)$ 行列しか扱いません。 まず、最初の主張は、$\begin{pmatrix}a&b\\b&c\end{pmatrix}$ の固有多項式を求めると、 $t^2-(a+d)t+ad-b^2$ となり、 この判別式を求めると、 $D=(a+d)^2-4(ad-b^2)=(a-d)^2+4b^2$ となり この値は正の数または0です。 よって、固有多項式は、2つの実数を解に持つということになります。 (重解を含む。) もし、重解をもつとすると、$a=d$ かつ $b=0$ であるから、 そのような行列は、スカラー行列 $aE$ ということになります。 ここで、$a$ はある実数で、$aE$ は行列 $\begin{pmatrix}a&0\\0&a\end{pmatrix}$ のことです。 実対称行列の実固有値は $\lambda_1,\lambda_2$ の2つ存在します。 ただし、$\lambda_1=\lambda_2$ の場合も存在します。 そのうちの一つの固有値を $\lambda_1$ とします。 その固有ベクトルは存在し、${\bf v}_1$ とします。 ここで、${\bf v}_1$ は長さが1であるとしておきます。 このとき、$A{\bf v}_1=\lambda_1{\bf v}_1$ となります。 また、${\bf v}_1$ に直交するベクトルを ${\bf v}_2$ とします。 ${\bf v}_2$ も長さが1のベクトルであるとしておきます。 このとき、${\bf v}_1,{\bf v}_2$ は、正規直交基底とよばれ、それを 並べてできる $(2,2)$ 行列 $R=({\bf v}_1{\bf v}_2)$ は 直交行列になります。つまり、$^tRR=E$ を満たします。 (ここで注意として、固有ベクトルを取るときには、 長さを1にしたり、直交ベクトルを取る必要はありません。 この話では、直交行列によって行列を対角化するために このような操作をしています。) このとき、 $A{\bf v}_2=p{\bf v}_1+q{\bf v}_2$ のように、${\bf v}_1$ と ${\bf v}_2$ の 一次結合で表されます。ここで、$p,q$ は、何か実数です。 そうすると、$A({\bf v}_1{\bf v}_2)=({\bf v}_1{\bf v}_2)\begin{pmatrix}\lambda_1&p\\0&q\end{pmatrix}$ のようにあらわされます。 よって、 このとき、$R=({\bf v}_1{\bf v}_2)$ とすると、 $AR=R\begin{pmatrix}\lambda_1&p\\0&q\end{pmatrix}=RS$ とします。 このとき、$A=RSR^{-1}$ となり、 $A$ が対称行列であることから、全体に転置行列を取ることによって、 $A={}^tA={}^t(RSR^{-1})=R{}^tSR^{-1}$ となり、$AR=R{}^tS=RS$ ですから、$R$ を左からかけて、$S={}^tS$ となります。 つまり、$S$ は対称行列にならなければならないから、$p=0$ ということです。 つまり、$A{\bf v}_2=q{\bf v}_2$ であることから、 ${\bf v}_2$ は固有ベクトルであり、$q=\lambda_1$ であるなら ${\bf v}_2$ は$\lambda_1$ の固有ベクトルであり、 $q\neq \lambda_2$ であるなら、${\bf v}_2$ は相異なる固有値を もち、${\bf v}_2$ はその固有ベクトルということになります。 ゆえに、実対称行列 $A$ は、直交行列 $R$ を用いて、 $R^{-1}AR$ を対角行列にすることができます。 例1 $A=\begin{pmatrix}1&-3\\-3&1\end{pmatrix}$ とすると、 $A$ は実対称行列であることから、直交行列によって対角化されます。 固有値を計算すると、$-2,4$ であり、 それぞれのこゆうベクトルを求めます。 $-2E-A=\begin{pmatrix}-3&3\\3&-3\end{pmatrix}$ ですから、連立一次方程式 $(-2E-A){\bf x}={\bf 0}$ の解として、 $\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}$ を選べます。 また、 $4E-A=\begin{pmatrix}3&3\\3&3\end{pmatrix}$ ですから、連立一次方程式 $(4E-A){\bf x}={\bf 0}$ の解として $\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}$ を選べます。 このとき、$\tilde{{\bf v}}_1=\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}$ とし、 $\tilde{\bf v}_2=\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}$ とすると、 それらは直交していますね。 さらにそれから直交行列を作る場合、長さでわって ${\bf v}_1=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}$ ${\bf v}_2=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}$ とすることで、直交行列 $P=({\bf v}_1{\bf v}_2)$ を得る。 例2 ここで、簡単な例で、実対称行列で対角化可能だが、 直交行列でなくても対角化できることを見てみます。 $A$ として単位行列 $E$ を考えれば、 任意の逆行列をもつ行列 $P$ に対して、$P^{-1}AP=E$ ですから 対角化ができています。一般に、逆行列をもつ $P$ といっても 直交行列とは限りません。 次の例をみましょう。 例3 $\begin{pmatrix}3&-1\\2&0\end{pmatrix}$ この行列は、実対称行列ではないので、直交行列によって対角化はできませんが、 対角化は可能です。 この固有値は、$1,2$ であり、それぞれの固有ベクトルは、 $E-A=\begin{pmatrix}-2&1\\-2&1\end{pmatrix}$ ですから、 連立方程式 $(E-A){\bf v}={\bf 0}$ の解として、 ${\bf v}_1=\begin{pmatrix}1\\2\end{pmatrix}$が選べます。 また、 $2E-A=\begin{pmatrix}-1&1\\-2&2\end{pmatrix}$ ですから、 連立一次方程式 $(2E-A){\bf x}={\bf 0}$ の解として、 ${\bf v}_2=\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}$ をとることができる。 たしかに${\bf v}_1$ と ${\bf v}_2$ は直交しません。 この行列 $A$ は、 $P=\begin{pmatrix}1&1\\2&1\end{pmatrix}$ によって 対角化することはできます。 例4 次に、連立漸化式から数列の一般項を出す方法を考えます。 $$x_1=3,y_1=1$$ $$\begin{cases}x_{n+1}=4x_n+10y_n\\y_{n+1}=-3x_n-7y_n\end{cases}$$ このとき、この漸化式を以下のように行列を用いて考えることができます。 $$\begin{pmatrix}x_{n+1}\\y_{n+1}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}4&10\\-3&-7\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x_n\\y_y\end{pmatrix}$$ ここにでてきた $(2,2)$ 行列を $A=\begin{pmatrix}4&10\\-3&-7\end{pmatrix}$ とすると、この式を $\begin{pmatrix}x_{n+1}\\y_{n+1}\end{pmatrix}=A\begin{pmatrix}x_n\\y_n\end{pmatrix}$ とすることができて、この式を繰り返し使うことで、 $$\begin{pmatrix}x_n\\y_n\end{pmatrix}=A^{n-1}\begin{pmatrix}x_1\\y_1\end{pmatrix}$$ をえることができます。 ここで、$A^n$ の求め方は、前回やりましたから、ここで応用できますね。 実際、この行列の固有値は、$-1,-2$ ですから、 固有ベクトルを求めると、 $-E-A=\begin{pmatrix}-5&-10\\3&6\end{pmatrix}$ となりますから、この固有ベクトルは、$\begin{pmatrix}2\\-1\end{pmatrix}$ であり、 $-2E-A=\begin{pmatrix}-6&-10\\3&5\end{pmatrix}$ となりますから、この固有ベクトルは、$\begin{pmatrix}5\\-3\end{pmatrix}$ となります。 よって、$P=\begin{pmatrix}2&5\\-1&-3\end{pmatrix}$ とすると、 $P^{-1}AP=\begin{pmatrix}-1&0\\0&-2\end{pmatrix}$ となり、 $$A^n=P\begin{pmatrix}(-1)^n&0\\0&(-2)^n\end{pmatrix}P^{-1}=\begin{pmatrix}6(-1)^n-5(-2)^n&10(-1)^n+5(-2)^{n+1}\\3(-1)^{n+1}+3(-2)^n&5(-1)^{n+1}-3(-2)^{n+1}\end{pmatrix}$$ となります。 よって、 $$\begin{pmatrix}x_n\\y_n\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}6(-1)^{n-1}-5(-2)^{n-1}&10(-1)^{n-1}+5(-2)^{n}\\3(-1)^{n}+3(-2)^{n-1}&5(-1)^{n}-3(-2)^{n}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}3\\1\end{pmatrix}$$ $$=\begin{pmatrix}28(-1)^{n-1}-25(-2)^{n-1}\\14(-1)^n+15(-2)^{n-1}\end{pmatrix}$$ のように求めることができます。 まとめと対角化可能性について 実対称行列であることは、 行列が対角化可能であるための十分条件を 与えます。(さらに、直交行列によっても対角化できますが...) 他に、対角化可能であるためのわかりやすい条件として、 固有値が $n$ 個ある(今の場合、$2$個ある場合です。 つまり、$(2,2)$ 行列の固有値がちょうど2個ある場合、対角化可能です。 どうしてかというと、固有値に対して必ず、固有ベクトルが存在するので、 この場合、2個の固有ベクトルが存在します。 もちろんそれらは平行ではありません。もし平行なら、同じ固有値を持つはずです。 よって、固有ベクトルで作られる行列 $P$ は逆行列をもち、 $P^{-1}AP$ は対角行列になるからです。 よって、$(2,2)$ 行列で対角化されるかどうかわからないのは、固有多項式が重解をもつ場合、つまり、固有多項式が $(t-\lambda)^2$ の形にかける場合ということになります。 もちろん固有多項式が重解だからといって、行列が対角化可能である場合も存在します。 極端な例として単位行列 $E$ を考えてみてください。 この行列の行列式は、$(t-1)^2$ です。 ですから、固有多項式だけみて、最終的に対角化可能であるかどかわかるのは、 それが重解をもたない場合のみです。 しかし、$(2,2)$ 行列で、固有多項式が重解をもち、対角化可能である場合は、 その行列がスカラー行列である場合に限られます。 ですので、 この場合、対角化可能ではない場合というのは、固有多項式が重解をもち、 スカラー行列ではない場合ということになります。 例えば、 $\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ は対角化可能ではありません。 3次以上の正方行列の場合はもう少し複雑です。

数学リテラシー1(第7回)
2020/05/27

[場所:manaba上(水曜日12:00〜)] 数学リテラシー1のHP 今回は固有値、固有ベクトル、行列の対角化、行列の $n$ 乗についての内容でした。 固有値・固有ベクトル 固有値と固有ベクトルについてまとめておきます。 固有値と固有ベクトルというのは次のように定義されます。 ${\bf v}$が固有ベクトルであるというのは、行列 $A$ を左からかけたもの $A{\bf v}$ が ${\bf v}$ の定数倍になっているような ゼロではないベクトルのことを言います。 つまり、ある数 $\lambda$ を使って、 $A{\bf v}=\lambda{\bf v}$ をみたす(ゼロではない)ベクトルのことです。 ここで、$\lambda$ はある複素数になります。 行列 $A$ が実数であっても、固有値が複素数になることはあります。 この $\lambda$ のことを $A$ の固有値といいます。 また固有ベクトルはかならず零ベクトルではないということに注意をしてください。 もし零ベクトル を許すと、任意の複素数も固有値になってしまいます。 $A{\bf 0}=\lambda{\bf 0}$ の関係式は任意の複素数$\lambda$ が満たすからです。 このとき行列$A$に対して固有ベクトルは以下の方程式を満たすことわかります。 $A{\bf v}=\lambda{\bf v}\Leftrightarrow (\lambda E-A){\bf v}={\bf 0}$ つまり $\lambda E-A$ という行列は 逆行列を持たないということになります。 なぜならば もし逆行列を持てば、$(\lambda E-A){\bf v}={\bf 0}$ という関係式に $\lambda E-A$ の逆行列を左からかけることで ${\bf v}={\bf 0}$という式が出てしまい、 ${\bf v}\neq {\bf 0}$ であることに矛盾するからです。 よってわかったことは、$\lambda E-A$  という行列が逆行列をもたないこと、 同値なことに、 $\lambda E-A$ の行列式が零であるということ です。 つまり、行列 $A$の固有値$\lambda$ は、$\det(t E-A)=0$ を満たす解ということになります。 この式 $\det(t E-A)=0$ は多項式です。この多項式のことを固有多項式といいます。 $A$ が $n$ 次正方行列であるなら、$\det(t E-A)$ は、$n$ 次固有多項式です。 $A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ のときに、固有多項式を求めてみると、 $$\det(tE-A)=\det\begin{pmatrix}t-a&-b\\-c&t-d\end{pmatrix}$$ $$=(t-a)(t-d)-bc=t^2-(a+d)t+ad-bc$$ $$=t^2-\text{tr}(A)t+\det(A)$$ となります。 この多項式の根を、$\lambda_1,\lambda_2$ とします。 $a,b,c,d$ が実数、つまり $A$ が実行列であるとすると、 2つの異なる実数解の場合、 2つの異なる複素解の場合、 重解 の3パターンあります。 では次の行列 $$A=\begin{pmatrix}0&-1\\2&3\end{pmatrix}$$ の固有ベクトルを考えましょう まずこの行列の固有値を求めましょう。 最初に固有ベクトルを求めようとしてはいけません。  そのために固有多項式を求めます。 $\text{tr}(A)=3$, $\text{det}(A)=2$ ですから、$t^2-3t+2$ です。 固有値は 固有多項式の根のですから この二次方程式を解いて、 固有値は全部で、$1,2$ の2つあります。 まず、 固有値が $1$ の場合の 固有ベクトル求めましょう。 このとき、$tE-A=E-A\begin{pmatrix}1&1\\-2&-2\end{pmatrix}$  固有ベクトルは 次のような 連立方程式の解です。 $\begin{pmatrix}1&1\\-2&-2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}={\bf 0}$ この連立方程式は、$x+y=0$と同じですから、この方程式を として、$c$ を任意の実数として、 $\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}$ とします。 ここで、固有ベクトルは ${\bf v}_1=\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}$ なります 。 ここで、固有ベクトルは ゼロでないベクトルであれば何でもいいです。 というのも、ある固有値 に対する固有ベクトルというのは定数倍をしても その固有値の固有ベクトルですから、本来その方向しか決まりません。 ですので、固有ベクトルを与えるときは 連立方程式 を満たす。 適当なゼロではないベクトルを選ぶことになります 同様に固有値が $2$ の場合の 固有ベクトル求めましょう。  そのとき、固有ベクトルが満たす連立方程式は $(2E-A)\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}2&1\\-2&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}={\bf 0}$ であるから、 ゼロではないベクトル求めると ${\bf v}_2=\begin{pmatrix}-1\\2\end{pmatrix}$ となります。この場合も、連立方程式を満たすゼロではないベクトルを選びました。 行列の対角化 ここでは、行列の対角化について考えます。 行列の対角化というのは 行列 $A$ に対して 行列 $P$ とその逆行列 $P^{-1}$ を挟むことによって行列を対角行列にするということです。 つまり、$P^{-1}AP$ を対角行列にするのです。 ここで先ほどの例を考えます。行列 $P$ として 固有ベクトルを並べたものを考えましょう。 つまり、$P=({\bf v}_1{\bf v}_2)=\begin{pmatrix}1&-1\\-1&2\end{pmatrix}$ です。 このとき、$AP=A({\bf v}_1{\bf v}_2)=(A{\bf v}_1A{\bf v}_2)$ となります。 最後の行列は、$AP=({\bf v}_12{\bf v}_2)=\begin{pmatrix}1&0\\0&2\end{pmatrix}({\bf v}_1{\bf v}_2)=\begin{pmatrix}1&0\\0&2\end{pmatrix}P$ となります。 よって、$P$ の逆行列 $P^{-1}$ を左からかけることで、 $$P^{-1}AP=\begin{pmatrix}2&0\\0&1\end{pmatrix}$$ となるので、このとき、$A$ は $P$ によって対角行列にすることができたことになります。 つまり、$P=\begin{pmatrix}1&-1\\-1&2\end{pmatrix}$ とするとき、 $P^{-1}AP=\begin{pmatrix}1&0\\0&2\end{pmatrix}$ となります。 固有ベクトルの順番を入れ替えて、$Q=\begin{pmatrix}-1&1\\2&-1\end{pmatrix}$ としてやると、 $Q^{-1}AQ=\begin{pmatrix}2&0\\0&1\end{pmatrix}$ が得られます。 また、固有ベクトルを定数倍してやってやっても、対角化する行列($P$のこと) は違うものになるかもしれませんが、最終的な対角行列は同じものになります。 ここで、対角化したときの対角行列は、固有値を対角成分に並べた行列になります。 この計算は、この時だけうまくいったわけではなく、一般の行列 $A$ に対しても 固有ベクトルを並べてできる行列 $P$ とその逆行列 $P^{-1}$ を持ってくると 対角成分に固有値を並べた対角行列を求めることがわかります。 ただし、対角化できるためには条件があって、 固有ベクトルを並べて正方行列を作らなければならないということです。 つまり、固有ベクトルが $n$ 個、この場合は、2個存在しないといけません。 しかし、固有ベクトルは、定数倍をしても固有ベクトルですから、 正確に言えば、固有ベクトルとして、一次独立な $n$ 個のベクトルを取る必要があります。 そして、一次独立な固有ベクトルが $n$ 個(今は2個)とることができれば、 $AP=PD$ となります。ここで、$D$ は対角行列です。 今、$P$ 一次独立な $n$ 個のベクトル(今は2個のベクトル)から成っていたので、 行列式がゼロではない、つまり、$P$ は逆行列を持つことになります。 よって、行列 $A$ は $P^{-1}AP=D$ のように対角化することができます。 行列の$n$ 乗 行列の対角化を利用して 行列の $n$ 乗を計算しましょう。 正方行列 $A$ に対して、その $n$ 乗を求めてみます。 $A^n$ は $A$ を $n$ 回かけて得られる行列ですが、対角化を求めることができます。 $A$ は行列 $P=\begin{pmatrix}1&-1\\-1&2\end{pmatrix}$ とおくことで、 $P^{-1}AP=\begin{pmatrix}1&0\\0&2\end{pmatrix}$ となります。 ここで、$A^n$ をする代わりに、この行列の $n$ 乗を考えます。 そうすると、$P^{-1}AP$ の $n$ 乗は、 $(P^{-1}AP)^n=P^{-1}APP^{-1}AP\cdots P^{-1}AP=P^{-1}A^nP$ となり、 $A^n$ が出現しました。 一方、対角行列の $n$乗は、$\begin{pmatrix}1^n&0\\0&2^n\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&0\\0&2^n\end{pmatrix}$ となりますから、再び対角行列です。 よって、$P^{-1}A^nP=\begin{pmatrix}1&0\\0&2^n\end{pmatrix}$ となります、これはちょうど、$A^n$の対角化をしていることになります。 この式から、両側から $P$ と $P^{-1}$ で挟むことで、 $$A^n=P\begin{pmatrix}1&0\\0&2^n\end{pmatrix}P^{-1}$$ $$=\begin{pmatrix}1&-1\\-1&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&0\\0&2^n\end{pmatrix}\begin{pmatrix}2&1\\1&1\end{pmatrix}$$ $$=\begin{pmatrix}2-2^n&1-2^n\\-2+2^{n+1}&-1+2^n\end{pmatrix}$$ となります。これが、$A^n$ の一般公式ということになります。 このように行列の $n$ 乗を求めるのに、 まず、行列を対角化 $P^{-1}AP=D$ をしておきます。 この対角行列 $D$ には、その対角成分に固有値が並びます。 この行列の $n$ 乗を求めることで、 $P^{-1}A^nP=D^n$ を得ることができます。$D^n$ は再び対角行列になっています。 (このことから、すぐわかることは、$A$ が対角化できるのなら、$A^n$ も対角化を することができます。対角化をいつすることができるのかについては、上の 行列の対角化の部分の最後を見てください。) この式に $P$ と $P^{-1}$ を両側からかけることによって、 $A^n=PD^nP^{-1}$ を計算することができます。 この式行列 $A$ の $n$ 乗の公式ということになります。 このように、固有値は、行列の $n$ 乗を計算するのに大変役に立っている ということになります。

数学リテラシー1(第6回)
2020/05/25

[場所:manaba上(火曜日12:00〜)] 数学リテラシー1のHP まずは正射影が表す線形変換について考えます。 正射影とその表す行列 まず次の問題を解いてみましょう。 問題 平面上の正射影の表す線形写像を行列 $A$ をもって表示せよ。 まず、平面上の正射影というのは次のような写像 $f:{\mathbb R}^2\to {\mathbb R}^2$ のことです まず平面上の直線 $L$ を用意します 。 平面上に点 ${\bf x}$ を取ります。この点 ${\bf x}$ から 直線 $L$ への垂線を考え, その垂線と $L$ の交わったところ (つまり垂線の足)を $f({\bf x})$ とするのです。 正射影というのは、ある直線へのベクトルの影を求める操作ということになります。 この場合、直線 $L$ は原点を通る場合のみであることに注意しましょう。 (一般に正射影といった場合、原点を通るとは限りません。) 今、2通りのやり方で行列 $A$ を求めてみます。 (1つ目のやり方) 1つ目の設定は正射影が何らかの方法で線形写像であることが分かったします。 その仮定の下で解いてみます まず直線 $L$ を $y=ax$ として与えておきます。  線形写像というのは行列の左から積で表されていたことは前回やりました。 また、行列 $A$ は標準基底(基本ベクトル)と像となるベクトルを並べた行列でした。 平面上の標準基底というのは、 ${\bf e}_1=\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}$, ${\bf e}_2=\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}$ でした。 つまり、$f({\bf e}_i)={\bf a}_i$ ($i=1,2$) としたとき、 $({\bf a}_1{\bf a}_2)$ が求める行列 $A$ ということになります。 あとは、$f({\bf e}_1)$ と $f({\bf e}_2)$ を求めればよいのですが、 それをここでは三角比を用いて求めてみます。  ここで、$y=ax$ の傾きは正の数であるとします。 $f({\bf e}_1)$ の像は、ベクトル $\vec{OA}$ なのですが、 その $x$ 座標は、$OH$ ですが 、長さ $OA$ は、$a=\tan\theta$ としたときの、 $\cos\theta$ に対応するから、$\cos $ を $\tan$ で表す式 $\cos\theta=\frac{1}{\sqrt{1+\tan^2\theta}}$ を用いて、$OA=\frac{1}{\sqrt{1+a^2}}$ となります。 また $\sin$ の方を求めておけば、 $\sin\theta=\tan\theta\cos\theta=\frac{a}{\sqrt{1+a^2}}$ となります。 ここで、平方根はプラスの方向を取っている。つまり、 $\cos$ のうち、正の方を取っていますが、それは、 $a>0$ であることを暗に仮定しているからで、 $a<0$ であるときは、 $\cos\theta=-\frac{1}{\sqrt{1+\tan^2\theta}}$ となります。 話を元に戻します。 これにより、$OH=OA\cos\theta=\frac{1}{1+a^2}$ となります。 また、$f({\bf e}_1)$ の $y$ 座標は、$AH$ ですから、 $AH=OA\sin\theta=\frac{a}{1+a^2}$ となり、 $f({\bf e}_1)=\begin{pmatrix}\frac{1}{1+a^2}\\\frac{a}{1+a^2}\end{pmatrix}$ となります。 同様に、$f({\bf e}_2)$ を求めてみると、 まず、$f({\bf e}_2)$ の $x$ 座標は、ちょうど $AH$ ですから、$\frac{a}{1+a^2}$  と一致します。 $y$ 座標は、$OB-OH$ ですから、$1-\frac{1}{1+a^2}=\frac{a^2}{1+a^2}$  となります。 ゆえに、$f({\bf e}_2)=\begin{pmatrix}\frac{a}{1+a^2}\\\frac{a^2}{1+a^2}\end{pmatrix}$ となります。  この2つのベクトル $f({\bf e}_1)$ と $f({\bf e}_2)$ を並べることで得られる行列 $$\begin{pmatrix}\frac{1}{1+a^2}&\frac{a}{1+a^2}\\\frac{a}{1+a^2}&\frac{a^2}{1+a^2}\end{pmatrix}$$ は求める行列ということになります。 $a=\tan\theta$ を用いると、この行列は、 $$\begin{pmatrix}\cos^2\theta&\cos\theta\sin\theta\\\cos\theta\sin\theta&\sin^2\theta\end{pmatrix}$$ となります。 (2つ目) 正射影が線形変換であるということを 用いないで  $A$ を計算してみます。   しかし この計算途中で正射影は線形変換であるということがわかります 正射影というのを3つ基本的な写像の合成だと考えます。 3つの写像は順番に、 $-\theta$ 回転、 $x$ 軸への射影、$\theta$ 回転です。 この写像の合成は正射影を実現しています。 この分解は 前回の鏡映を3つの行列の積で変えたことに少し似ていますね。 回転はわかりますが、 $x$ 軸への正射影は、 $f(\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix})=\begin{pmatrix}x\\0\end{pmatrix}$ で、線形変換を行列を用いて  $f(\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix})=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}$ とあらわすことができるので、 $x$ 軸への正射影は線形変換であることがわかります。 よって、この3つはそれぞれ線形変換ですから その合成も線形変換になります。 これにより正射影変換は線形変換であるということがわかりました  この行列の積を求めると以下のようになります。 $$\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix} \begin{pmatrix}\cos\theta&\sin\theta\\-\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix}$$ $$=\begin{pmatrix}\cos^2\theta&\cos\theta\sin\theta\\\cos\theta\sin\theta&\sin^2\theta\end{pmatrix}$$ となり、確かに上の計算と合いました。 直交行列によって対角化できる行列 これまで ある線形変換 $A$ をある直交行列 $R$ を用いて  $$RAR^{-1}$$ のように 得られる線形変換について考えていました。 $A$ に当たる行列は、簡単な行列、例えば、$\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}$ や、$\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}$ など、対角行列(対角成分以外はすべて $0$ ) のような行列を考えていました。 一般に、対角行列 $A$ は、$\begin{pmatrix}\lambda_1&0\\0&\lambda_2\end{pmatrix}$ とすることができますが、 このような $A$  に対して、$RAR^{-1}$ はどのような性質を持つのでしょうか? $RAR^{-1}$ の転置行列を取ってみます。 ここで、$^t(XY)=^tY^tX$ となることに注意しましょう。 そうすると、$^t(RR^{-1})=^t(R^{-1})^tR=E$ ですから、 $^t(R^{-1})=(^tR)^{-1}$ となります。 つまり、逆行列を取る操作と転置行列を取る操作はどちらをさきに行っても同じということです。 そういうわけで、$(^tR)^{-1}$ や $^t(R^{-1})$ も区別はなく、$^tR^{-1}$ と書いても 差支えないということになります。 また、$R$ が直交行列であるとすれば、$R^{-1}=^tR$ ですから、 $^tR^{-1}=R$ ということにもなります。 そうすると、 $$^t(RAR^{-1})=^t(RA^tR)=R^t(RA)=R^tA^tR=RAR^{-1}$$ となります。途中、行列 $A$ が対角行列であるから、$^tA=A$ であることを用いました。 このことからわかることは、$X=RAR^{-1}$ という行列は、 $^tX=X$ であることです。 このように、転置行列を施すと、もとの行列に戻る行列を対称行列といいます。 たしかに、さっき求めた行列は、$(1,2)$ 成分と $(2,1)$ 成分は一致していましたね。 先週の鏡映変換も、$(1,2)$ 成分と $(2,1)$ 成分はどちらも $\sin2\theta$ でした。 まとめると、対角行列 $A$ に対して、直交行列 $R$ を用いて $RAR^{-1}$ を求めると、対称行列になるということがわかりました。 実は、この逆も成り立ちます。 定理 任意の対称行列は、ある直交行列 $R$ と対角行列 $A$ を用いて、 $RAR^{-1}$ と書き表される。 この定理は次回以降どこかで現れます。 行列式は符号付面積であること これは行列式っていうのは、ある意味、符号付面積であると 言うことを考えたいと思います。 ここで符号付面積というのは平面上の2つのベクトル ${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ によって作られるようなで平行四辺形の符号付面積という意味です この2つが一致するということをここで見て行きます $A$ を $2\times 2$ 行列であるとし、その行列を縦ベクトルとして $A=({\bf a}_1{\bf a}_2)$ としてあらわされるとします。 このとき、 ${\bf a}_1=\begin{pmatrix}r_1\cos\theta_1\\r_1\sin\theta_1\end{pmatrix}$ ${\bf a}_2=\begin{pmatrix}r_2\cos\theta_2\\r_2\sin\theta_2\end{pmatrix}$ のようにあらわしたとします。ここで、平面上の極座標表示を用いました。 ここで、${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ のうちどちらかが0ベクトルであるとすると、 行列式はゼロなり、そのとき、符号付面積は0になりますので この2つは一致しているということになります。 では、どちらもゼロベクトルではないときを考えます。そのとき、 $\det({\bf a}_1{\bf a}_2)=r_1r_2(\cos\theta_1\sin\theta_2-\cos\theta_2\sin\theta_1)=r_1r_2\sin(\theta_2-\theta_1)$ となります。 ここで、$r_2|\sin(\theta_2-\theta_1)|$ は、${\bf a}_2 $を ${\bf a}_1$ に垂線を おろしたときにできる平行四辺形の高さになります。 つまり、このとき、$\det(A)$ は、${\bf a}_1$ を底辺とする高さ $r_2|\sin(\theta_2-\theta_1)|$ となる、${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ によって作られる平行四辺形の面積ということになります。 また、符号付面積というのはどういうことかというと、$\sin(\theta_2-\theta_1)$ が負の数になることも考慮する必要があるということに対応します。 つまり、$0<\theta_2-\theta_1<\pi$のときは、その値は正の数になりますが、 $\pi<\theta_2-\theta_1<2\pi$ となると、負の数になります。 つまり、ベクトル ${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ がこの順番に角度が180度より小さく なるのなら、面積は正の数であり、${\bf a}_2$ と ${\bf a}_1$ の順に角度が180度 より小さくなる時、面積は負の数になります。 ということは、行列式が0になるのは、2つのベクトルが0度をなすとき、もしくは 180度をなすときということになります。 つまり、それは、いいかえれば、2つのベクトルが ちょうど平行になっているときです。 行列式がゼロでないとき 上で行列式がゼロでないとき、 2つのベクトルは平行ではないということを意味していました。 ここで、ベクトル ${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2 $が一次独立であるということを 実数 $c_1,c_2$ が $c_1{\bf a}_1+c_2{\bf a}_2={\bf 0}$ を満たすとき、$c_1=c_2=0$ である と定義します。 一次独立でないことを一次従属といいます。 ベクトル ${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ が一次独立であることと、 それらのベクトルが平行であることは同値です。 もし、${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2 $ が平行とすると、${\bf a}_1=k{\bf a}_2$ もしくは、${\bf a}_2=k{\bf a}_1$ を満たす実数$k$ が存在することと同値です。 また、ベクトル${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ が一次従属であるとすると、 $c_1{\bf a}_1+c_2{\bf a}_2={\bf 0}$ となる $(c_1,c_2)\neq (0,0)$が 存在することと同値ですが、$c_1\neq 0$ であるとすると、 $c_1$ で割ることで、 ${\bf a}_1=k{\bf a}_2$ の形になります。 同じように、 $c_2\neq 0 $であるときは、${\bf a}_2=k{\bf a}_1$ が成り立ちます。 よって、ベクトル ${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ が一次従属であるということは、 それらが、平行であるということと同値となります。 言いかえれば、ベクトルと一次が独立であることと、 2つのベクトル${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ が平行ではないことが同値であることがわかります。 まとめますと、以下のようになります。 $\det(A)\neq 0$ であることは、2つのベクトル${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ が 平行ではないとき、つまり、${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ が一次独立であるときを意味します。 また、第4回でもやったように、行列式 $\det(A)$ が0ではないということは、 行列$A$ に逆行列が存在することと同値になります。 よって、以下が同値であるということになります。 行列 $A$ が逆行列をもつ $\det(A)\neq 0$ である。 $A=({\bf a}_1{\bf a}_2)$ としたとき、${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ は一次独立である。 ${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ は平行ではない。 また、この否定をとると、 行列 $A$ が逆行列を持たない $\det(A)=0$ である。 $A=({\bf a}_1{\bf a}_2)$ としたとき、${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ は一次従属である。 ${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ は平行である。 ということになります。

数学リテラシー1(第5回)
2020/05/19

[場所:manaba上(水曜日12:00〜)] 数学リテラシー1のHP 前回は行列の一般論を行いました。 今回からを用いて、一次変換(線形変換)の扱い方を学びます。 $(2,2)$ 行列に一次変換の本質が詰まっています。 ですので、$(2,2)$ 行列をプロトタイプとし、その後一般のサイズの一次変換に出あった ときにも同じように扱えるようにしたいと思います。 前回で重要だったことは、 線形写像 $f:{\mathbb R}^n\to {\mathbb R}^m$ (任意のベクトル${\bf x},{\bf y}$ と任意の実数 $\lambda$ に対して、 $f({\bf x}+{\bf y})=f({\bf x})+f({\bf y})$ かつ $f(\lambda {\bf x})=\lambda f({\bf x})$ が成り立つ写像のこと) は、必ずある行列 $(m,n)$ 行列を用いて、 $f({\bf x})=A{\bf x}$ としてあらわされるということでした。 (2,2) 行列による一次変換 線形写像が $f:{\mathbb R}^2\to {\mathbb R}^2$ の場合には、ある $(2,2)$ 行列を用いて $f({\bf x})=A\cdot {\bf x}$ としてあらわされることになります。 この行列 $A$ はどのようにして計算できるか考えてみましょう。 ベクトル ${\bf x}=\begin{pmatrix}x_1\\x_2\end{pmatrix}$ は、 ${\bf e}_1=\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}$, ${\bf e}_2=\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}$ を用いて、 ${\bf x}=x_1{\bf e}_1+x_2{\bf e}_2$ のように書くことができます。 このとき、$f$ の線形性から、 $f({\bf x})=f(x_1{\bf e}_1+x_2{\bf e}_2)=x_1f({\bf e}_1)+x_2f({\bf e}_2)$ のようになり、$f({\bf e}_1)={\bf a}_1$ かつ $f({\bf e}_2)={\bf a}_2$ のように置きます。ここで、${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ は 2次元のユークリッド空間のベクトルです。 そうすると、$f({\bf x})$ は、$x_1{\bf a}_1+x_2{\bf a}_2=({\bf a}_1{\bf a}_2)\begin{pmatrix}x_1\\x_2\end{pmatrix}$ となり、$A=({\bf a}_1{\bf a}_2)$ とすれば、 $$f({\bf x})=A{\bf x}$$ ということになります。つまり、線形写像 $f$ に対して求めようと思っていた 左からかける行列 $A$ は、$({\bf a}_1{\bf a}_2)$ と計算できることになります。 この行列 $A$ は、2つの縦ベクトル ${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ を並べてできる $(2,2)$ 行列です。 もともと、${\bf a}_1$ と ${\bf a}_2$ が何だったかというと、 ${\bf e}_1$ と ${\bf e}_2$ の $f$ による行先でした。 $A$ を求めたければ、この2つの単位ベクトル ${\bf e}_1$ と ${\bf e}_2$ の像を並べてできる行列を求めればよいことになります。 ベクトル  ${\bf e}_1, {\bf e}_2$ のことを、2次元の標準ベクトル(基底)といいます。 $x$ 方向と $y$ 方向への変倍の定数倍、回転、鏡映 例3.2.1 平面上、 $x$ 方向に $\lambda_1$ 倍し、 $y$ 方向に $\lambda_2$ 倍するような線形写像は、 $$\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}\mapsto\begin{pmatrix}\lambda_1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}\mapsto \begin{pmatrix}0\\\lambda_2\end{pmatrix}$$ ですから、 $${\bf e}_1\mapsto \lambda_1{\bf e}_1$$ であり、 $${\bf e}_2\mapsto \lambda_2{\bf e}_2$$ ということですから、$A=({\bf a}_1{\bf a}_2)=\begin{pmatrix}\lambda_1&0\\0&\lambda_2\end{pmatrix}$ となります。 例3.2.2 次は、平面上の原点 $O$ を中心とした回転を考えましょう。 回転運動が一次変換であることは次のようにしてわかります。 $f_\theta$ を原点中心の $\theta$ 回転の写像とします。 このとき、$O$ と ${\bf x}$ と ${\bf y}$ と ${\bf x}+{\bf y}$ は、ある平行四辺形をなします。 このとき、この平行四辺形を原点 $O$ を中心として 一斉に $\theta$ 回転をしたとすると、 平行四辺形の各点は、 $O$ と $f_\theta({\bf x})$, $f_\theta({\bf y})$, $f_\theta({\bf x}+{\bf y})$ に移ります。 平行四辺形は、回転しても平行四辺形ですから、 $f_\theta({\bf x}+{\bf y})=f_\theta({\bf x})+f_{\theta}({\bf y})$ が成り立ちます。 また、${\bf x}$ と ${\bf y}$ が平行で、平行四辺形が作れない場合は、 つぶれた平行四辺形と考えれば同じことが言えます。 また、$\lambda$ を実数として、${\bf x}$ と $\lambda{\bf x}$ は、$\theta$ 回転しても してもその関係は変わりません。 というのも、回転というのは、長さと角度を変えないからです。 よって、 $$f_\theta(\lambda {\bf x})=\lambda f_\theta({\bf x})$$ となります。 つまり、回転というのは、一次変換ということになります。 $f_\theta$ から定まる $(2,2)$ 行列 $R_\theta$ を求めていきます。 上で求めた方法をとります。 標準基底 ${\bf e}_1$ と ${\bf e}_2$ の像がどうなるかを調べれば よいことになります。 ${\bf e}_1$ の $f_\theta$ による行き先は、$\begin{pmatrix}\cos\theta\\\sin\theta\end{pmatrix}$であり、 ${\bf e}_2$ の $f_\theta$ による行き先は、$\begin{pmatrix}-\sin\theta\\\cos\theta\end{pmatrix}$ となります。 ${\bf a}_1=f_\theta({\bf e}_1)=\begin{pmatrix}\cos\theta\\\sin\theta\end{pmatrix}$ ${\bf a}_2=f_\theta({\bf e}_2)=\begin{pmatrix}-\sin\theta\\\cos\theta\end{pmatrix}$ ですから、$R_\theta$ は、 $$R_\theta=\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix}$$ となります。 つまり、$\theta$ 回転を表す行列は $$f_\theta({\bf x})=\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix}{\bf x}$$ となります。 一次変換の合成に対応する、行列は、行列の積となります。 前回やったように、$f_B\circ f_A=f_{BA}$ ですから、 $f_{R_{\theta_2}}\circ f_{R_{\theta_1}}=f_{R_{\theta_1}R_{\theta_2}}$ また、$\theta_1$ 回転をして、$\theta_2$ 回転をしてできる一次変換は $\theta_1+\theta_2$ 回転した一次変換ですから、 $f_{R_{\theta_2}}\circ f_{R_{\theta_1}}=f_{\theta_1+\theta_2}=f_{R_{\theta_1+\theta_2}}$ となります。 よって、この2つから、 $$R_{\theta_1+\theta_2}=R_{\theta_2}R_{\theta_1}$$ が成り立ちます。 よって、 $$\begin{pmatrix}\cos\theta_2&-\sin\theta_2\\\sin\theta_2&\cos\theta_2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\cos\theta_1&-\sin\theta_1\\\sin\theta_1&\cos\theta_1 \end{pmatrix}= \begin{pmatrix}\cos(\theta_1+\theta_2)&-\sin(\theta_1+\theta_2)\\\sin(\theta_1+\theta_2)&\cos(\theta_1+\theta_2) \end{pmatrix} $$ が成り立ちますが、この式の各成分は、三角関数の加法定理を意味しています。 例3.2.3 直線 $y=(\tan\theta)x $ に沿った鏡映変換を考えましょう。 鏡映変換とは、ある直線による線対称変換を意味します。 この直線 $y=(\tan\theta)x$ による鏡映変換は、 (1) 原点での $-\theta$ 回転、 (2) $x$ 軸による線対称変換、 (3) 原点での $\theta$ 回転 のこの順番による合成になります。 これらは、上の例ですでに見たものばかりです。 $x$ 軸による線対称変換は、$x$ 方向は変わらず (1倍)、$y$ 方向に $-1$ 倍 をする一次変換です。 一次変換の合成も一次変換ですから、 鏡映もやはり一次変換です。 この3つの一次変換を合成することで得られる一次変換を $g_\theta$ とし、 そのときの行列を $S_\theta$ とすると、 $$S_\theta=R_\theta\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}R_{-\theta}$$ となります。 ここで、かける順番に気を付けましょう。 わからなくなったら、$f_B\circ f_A=f_{BA}$であることと、 一次変換は、左から行列をかけることであったことを思い出しましょう。 よって、$S_\theta$ を実際計算をすると、 $$S_\theta=\begin{pmatrix}\cos 2\theta&\sin2\theta\\\sin2\theta&-\cos2\theta\end{pmatrix}$$ となります。 鏡映変換は、線対称変換ですから、2回同じ変換を行うと 元に戻ります。 これは、 $$g_\theta\circ g_\theta=\text{id}_{{\mathbb R}^2}$$ であることを示せばよいですが、行列の言葉に直せば、 $$S_\theta^2=(R_{-\theta}\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}R_\theta)^2=R_{-\theta}\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}R_{\theta}R_{-\theta}\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}R_{\theta}$$ $$R_{-\theta}\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}R_{\theta}=R_{-\theta}R_\theta=E$$ よって、$g_\theta\circ g_\theta=\text{id}_{{\mathbb R}^2}$ が示せました。 これらの行列の可換性 これまで、定数倍($x$方向と$y$方向に変倍する)の変換、 回転、鏡映変換などを考えました。 これらの変換やその合成も一次変換です。 回転による変換同士は可換であることはわかります。 足し算の可換性が成り立つから、 $$R_{\theta_1}R_{\theta_2}=R_{\theta_1+\theta_2}=R_{\theta_2+\theta_1}=R_{\theta_2}R_{\theta_1}$$ となり可換です。 $x$ 方向に $\lambda_1$ 倍、 $y$ 方向に $\lambda_2$ 倍する一次変換を する行列を $T_{\lambda_1,\lambda_2}$ としますと、 $$T_{\lambda_1,\lambda_2}R_{\theta}=\begin{pmatrix}\lambda_1\cos\theta&-\lambda_1\sin\theta\\\lambda_2\sin\theta&\lambda_2\cos\theta\end{pmatrix}$$ $$R_{\theta}T_{\lambda_1,\lambda_2} =\begin{pmatrix}\lambda_1\cos\theta&-\lambda_2\sin\theta\\\lambda_1\sin\theta&\lambda_2\cos\theta\end{pmatrix}$$ よって、$(2,1)$ 成分を比べることによって、 $T_{\lambda_1,\lambda_2}R_\theta=R_\theta T_{\lambda_1,\lambda_2}$ が成り立つためには、$\lambda_1=\lambda_2$ でなければなりません。 また、$\lambda_1=\lambda_2=\lambda$ であれば、 つまり、$T_{\lambda,\lambda}$ は原点 $O$ を中心とした、$\lambda$ 拡大を表します。 また、$T_{\lambda,\lambda}=\lambda E$ であり、 スカラー倍は $R_{\theta}$ などあらゆる一次変換と可換ですから、 $T_{\lambda,\lambda}$ と $R_{\theta}$ は可換となります。 直交変換 ここで、直交変換を定義し、対応する行列の性質を考察して終わります。 直交変換とは、長さを変えない一次変換ことを言います。 $f$ を直交変換とし、${\bf e}_1$ と ${\bf e}_2$ を上記の標準基底とします。 このとき、${\bf e}_1$ と ${\bf e}_2$ の長さは $1$ ですから、 $f({\bf e}_1)=\begin{pmatrix}a\\b\end{pmatrix}$ $f({\bf e}_2)=\begin{pmatrix}c\\d\end{pmatrix}$ としますと、 $a^2+b^2=1$ かつ $c^2+d^2=1$ が成り立ちます。 また、長さを変えないということは、角度(の絶対値)も変えないということです。 どうしてかというと、 三角形 $OAB$ を考えます。$O$ は原点、$A,B$ はそれ以外の点とします。 そうすると、直交変換は長さを変えないのだから、この三角形 $OAB$ は $OAB$ と合同な三角形 $OA'B'$ に移ります。 ここで、一次変換であることから、原点は原点に移ります。 (なぜなら $O$ の表すベクトルを ${\bf 0}$ とすると  $f({\bf 0})=f(2{\bf 0})=2f({\bf 0})$より、$f({\bf 0})={\bf 0}$ となるからです。) よって、角 $AOB$ は $A'OB'$ に移ります。 ただし、三角形 $OAB$ が裏返るかもしれないので、角度の絶対値 は変わりません。 よって、$\begin{pmatrix}a\\b\end{pmatrix}$ と  $\begin{pmatrix}c\\d\end{pmatrix}$ は直交しなければなりません。 つまり、内積は0なので、$ac+bd=0$ となります。 ここで、$R=\begin{pmatrix}a&c\\b&d\end{pmatrix}$ とすると、 $$^tRR=\begin{pmatrix}a^2+b^2&ac+bd\\ac+bd&c^2+d^2\end{pmatrix}$$ が成り立ち、この右辺はちょうど単位行列 $E$ となります。 つまり、直交変換 $f$ の表す行列 $R$ は、$^tRR=E$ となります。 このような行列 $R$ のことを直交行列といいます。

数学リテラシー1(第4回)
2020/05/16

[場所:manaba上(水曜日12:00〜)] 数学リテラシー1のHP 前回は行列とその四則演算について行いましたが、 今回は、行列の除法と一次変換について行いました。 行列とは、縦に$m$個、横に$n$個、長方形の形に数を並べて、 さらにカッコで括ったものを考えます。 例えば、 $$\begin{pmatrix}1&-1&3&3\\4&2&-10&2\\3&1&0&-2\end{pmatrix}$$ などです。 行列の加法と減法はその成分ごとに行い、積 $AB$ は、 $A\in M(m,n,{\mathbb R})$ と $B\in M(n,k,{\mathbb R})$ のとき定義されて、 $$AB=(a_{ij})(b_{ij})=(\sum_{p=1}^na_{ip}b_{pj})\in M(m,k,{\mathbb R})$$ のようにして行います。 このように、積は、$A$ の列数と $B$ の行数が一致している場合のみ定義されます。 ここでは、その数($A$ の列数、$B$ の行数)は $n$ です。 行列の定数倍 行列を定数倍するということを前回では書かなかったので、ここで 書いておきます。 $\alpha$ を実数とし、$A$ を $(m,n)$ 行列とします。ここでは、 行列 $A$ を $(a_{ij})$ とします。このとき、$A$ に実数 $\alpha$ をかける という操作を $\alpha\cdot A$ と書き、$(\alpha\cdot a_{ij})$ と定義します。 これが意味することは、$A$ の $mn$ 個の成分を一斉に$\alpha$ 倍するということです。 $A$ を $mn$ 個の成分を持つベクトルと考えれば、ベクトルを $\alpha$ する という操作と同じです。 例えば、 $2\cdot\begin{pmatrix}2&-1\\-1&2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}4&-2\\-2&4\end{pmatrix}$ となります。もちろん、この逆操作で、共通する因子があれば、その数を括り出して $\begin{pmatrix}4&-2\\-2&4\end{pmatrix}=2\cdot\begin{pmatrix}2&-1\\-1&2\end{pmatrix}$ とすることと同値です。くれぐれも、 $\begin{pmatrix}4&-2\\-2&4\end{pmatrix}=2\cdot\begin{pmatrix}2&-2\\-1&4\end{pmatrix}$ などと、一部の列や行だけ取り出すことは出来ませんので気をつけてください。 この定数倍のことをスカラー倍という言葉で書かれることもあります。 行列の単位元 これまで、行列の四則演算のうち、加減乗まで習ったわけですが、 今回は除法について説明したいと思います。 まず、行列の乗法の単位元 $1$ の役目をもつ行列を考えます。 $$E=\begin{pmatrix}1&0&\cdots &\cdots&0\\0&1&0&\cdots &0\\\vdots&\ddots&\ddots&\ddots&\vdots\\0&\cdots&0&1&0\\0&\cdots &\cdots&0&1\end{pmatrix}$$ としましょう。この行列は、対角成分、つまり、全ての $(i,i)$ 成分が $1$ で、 それ以外の全ての成分で 0 となる行列です。 このような行列を任意の行列 $A$ にかけてみると、$AE=EA=A$ となることがわかります。 行列の単位元は、全ての成分が 1 の行列だと思った人あるかかもしれませんが、 そうではありません。 $2\times 2$行列でやってみます。 $$\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a+b&a+b\\c+d&c+d\end{pmatrix}$$ となり、確かにこの場合、単位元の役割を果たしていませんね。一方、 $$\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$$ となります。$EA=A$ も同様です。 この行列を乗法の単位元と言います。 逆行列 次に行列における実数の逆数に対応する概念を定義します。 $n\times n$ 行列 $A$ の逆行列とは、 $AB=E$ かつ $BA=E$ を満たす $n\times n$ 行列 $B$ が 存在することとして定義します。 ここで、$AB=E$ となる $B$ を右逆行列、$CA=E$ となる 行列を左逆行列と呼ぶことにします。 $A$ に逆行列が存在することは、右逆行列と左逆行列がともに存在し、 それらが一致するという条件と同値なわけなんですが、 実は、もし、$A$ に対して右逆行列と左逆行列が存在するなら、 右逆行列と左逆行列は一致します。 (証明) $AB=E$ かつ、$CA=E$ となるとします。 このとき、$B=(CA)B=C(AB)=C$ となりますので、両者は一致します。(証明終了) ここで本質的に用いているのは、積の結合法則です。 また、実は、 $A$ に右逆行列が存在するならば、左逆行列が存在することは 正しいです。 同じように、左逆行列が存在するならば、右逆行列が存在します。 ここではこれらのことのみを言及しますが、証明はしません。 この行列のことを勉強するうちにわかってくると思います。 まとめますと、 正方行列 $A$ に逆行列が存在するとは、 $AB=BA=E$ となる正方行列 $B$ が存在することを意味します。 このような $B$ は $A$ から一意的に定まり、それを、$A^{-1}$ と書きます。 なぜ一意的に定まるかというと、 $AB=BA=E$ となる $B$ として、$B_1,B_2$ が取れたとすると、 $B_1=B_1AB_2=EB_2=B_2$ となるからです。 逆行列を持たない行列の例 一方、正方行列 $A$ が逆行列が存在しない場合もあります。例えば、 $$\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}$$ となり、$\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}$ に逆行列 $B$ が存在するとすると、 $B\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}=E$ となり、 $$B\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}=E\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}$$ $$B\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}=B\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}$$ となり、矛盾します。 また、等式 $\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}=O$ が成り立つこともあり、両方 $O$ ではない行列 $A,B$ をかけて、$O$ になることがある ということになります。 このようなことは、実数や複素数の時にはなかったことに注意しましょう。 この等式からも、$\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}$ や $\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}$ には逆行列が存在しないことを証明できます。 $A=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}$ と $B=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}$ とすると、$AB=O$ が成り立ちますが、 $A$ に逆元が存在するとすると、$CA=E$ となる左逆元が存在し、 $$CAB=O$$  が成り立ちます。一方、 $$CAB=EB=B$$ にもなります。しかし、明らかに $B\neq O$ ですから、 $A$ に逆行列が存在しないことになります。 $B$ に逆行列が存在しないことも証明できます。 $2\times 2$ 行列の逆行列と行列式 ここでは $2\times 2$ 行列の逆行列を求めてみます。 $A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ とし、$X=\begin{pmatrix}x&\ast\\y&\ast\end{pmatrix}$ とします。 $\ast$ は、何かの実数が入ると思ってください。 もし、$AX=E$ を満たすとすると、 $$\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x&\ast\\y&\ast\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}ax+by&\ast\\cx+dy&\ast\end{pmatrix}$$ よって、$ax+by=1$ かつ、$cx+dy=0$ を満たします。 この連立一次方程式を加減法によって解きます。 $adx+bdy=d$ $bcx+bdy=0$  ですから、 $(ad-bc)x=d$ となります。 よって、$ad-bc\neq 0$ であれば、$x=\frac{d}{ad-bc}$ と 同様に、$x$ を消すことによって、$y=\frac{-c}{ad-bc}$ 同様に、$X=\begin{pmatrix}\ast&x\\\ast&y\end{pmatrix}$ として、 $AX=E$ を満たすとします。 同様に $$\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\ast&x\\\ast&y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\ast&ax+by\\\ast&cx+dy\end{pmatrix}$$ を満たすので、$ax+by=0$ かつ $cx+dy=1$ となります。 これを加減法によって解きます。 $adx+bdy=0$ $bcx+bdy=b$  となりますから、$(ad-bc)x=-b$ となります。 よって、$x=\frac{-b}{ad-bc}$ が成り立ち、 $y$  を消すことによって、$y=\frac{a}{ad-bc}$ が成り立ちます。 これにより、共通して、$ad-bc\neq 0$ であるなら、 $$X=\frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix}d&-b\\-c&a\end{pmatrix}$$ が得られます。 よって、$A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ の逆行列 を作るには、まず、$ad-bc$ が $0$ でなければ、 $A$ には逆行列が存在して、 $\tilde{A}=\begin{pmatrix}d&-b\\-c&a\end{pmatrix}$ を作り、$\frac{1}{ad-bc}\tilde{A}$ を計算することで、$A$ の逆行列を計算することが できます。ここで、$\frac{1}{ad-bc}\tilde{A}$ は、$\tilde{A}$ に $\frac{1}{ad-bc}$ のスカラー倍をすることです。 本当にこの$\frac{1}{ad-bc}\tilde{A}$ が $A$ の逆行列となるかはご自分で確かめてください。 また、$(2,2)$ 行列 $A$ の $ad-bc$ のことを $\det(A)$ とかいて、 行列式と言います。英語では、determinant(ディターミナント)とも言います。 略して、デットなど言ったりもします。 (逆行列が存在するかどうかの判別をするので判別式とでも 言いたいところですが、判別式というと、もうすでに多項式の重解を持つかどうか の式として先取されていますので、通常行列式と言います。) 直訳すれば、決定式とも言えますが、日本語ではそれもやはり使われません。 また、$a+d$ も、$(2,2)$ 行列を調べる上で重要なので、この数を  $(2,2)$ 行列 $A$ のトレース、跡などと言い、tr$(A)$ などと書きます。 これまでのところでわかったことは、 $$det(A)\neq 0\Rightarrow A\text{ は逆行列が存在する}$$ でした。実は、この逆が成り立ちます。 これは簡単に示すことができます。 ここで、次を示しておく必要があります。 問3.1.6 $A,B\in M(2,{\mathbb R})$ であるとすると、 $$\det(AB)=\det(A)\det(B)$$ が成り立つ。 これは、$A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ や $B=\begin{pmatrix}x&z\\y&w\end{pmatrix}$ を入れて計算することで直接示すことができます。 ここでは省略しておきます。 今、$A$ が逆行列を持つとすると、 $AA^{-1}=E$ となります。 そこで、この等式の両辺に行列式 $\det$ を取ってみると、 $$\det(AA^{-1})=\det(A)\det(A^{-1})=\det(E)=1$$ となりますので、特に、$\det(A)\neq 0$ であることがわかります。 この等式から、$\det(A^{-1})=\frac{1}{\det(A))}$ であることもわかりますね。 $n$ 次元ユークリッド空間 2つの集合 $X,Y$ のペアの空間、 $$X\times Y=\{(x,y)|x\in X,y\in Y\}$$ を直積集合と定義します。 ${\mathbb R}\times {\mathbb R}$ を ${\mathbb R}^2$ と書く ことにすれば、これは $\{(x,y)|x,y\in {\mathbb R}\}$ のことですので 平面の集合を表します。 ${\mathbb R}\times {\mathbb R}\times {\mathbb R}={\mathbb R}^3$ は、 $\{(x,y,z)|x,y,z\in {\mathbb R}\}$ のことですので、 空間の集合を表します。 次に、$n=4$ の場合はあまり想像ができませんが、 ${\mathbb R}^4$ は、$\{(x,y,z,w)|x,y,z,w\in {\mathbb R}\}$ のことであり、4次元空間のことを指します。 これ以上はさらに想像を超えるので、想像することを諦めて、実数が $n$ 個並んだもの を全て集めた集合として一般に、${\mathbb R}^n={\mathbb R}\times {\mathbb R}\times \cdots\times {\mathbb R}$ として定義することで、 ${\mathbb R}^n$ を、$n$ この実数のペアを集めたものを考えます。 つまり、$\{(x_1,x_2,\cdots, x_n)|x_i\in {\mathbb R}\}$ となる集合です。 今、$(x_1,x_2,\cdots, x_n)$ のことを、${\mathbb R}^n$ の元として、縦に $$\begin{pmatrix}x_1\\x_2\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}$$ のように並べて書くことにします。 これは、横に書いていたものと本質的に同じものです。 つまり今は、 $${\mathbb R}^n=\left\{\begin{pmatrix}x_1\\x_2\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}|x_i\in {\mathbb R}\right\}$$ となるわけです。 この空間 ${\mathbb R}^n$ を平面ベクトルや空間ベクトルの一般化として考えたいです。 つまり、${\mathbb R}^n$ の元をベクトルと考えたいのです。 そのために、 $${\bf x}=\begin{pmatrix}x_1\\x_2\\\vdots\\x_n\end{pmatrix},{\bf y}=\begin{pmatrix}y_1\\y_2\\\vdots\\y_n\end{pmatrix}\in {\mathbb R}^n$$ に対して、その和を $${\bf x}+{\bf y}=\begin{pmatrix}x_1+y_1\\x_2+y_2\\\vdots\\x_n+y_n\end{pmatrix}$$ のように定義します。 また、定数倍(スカラー倍)を $$\alpha\cdot \begin{pmatrix}x_1\\x_2\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\alpha x_1\\\alpha x_2\\\vdots\\\alpha  x_n\end{pmatrix}$$ として定義します。 この和とスカラー倍は、$(n,1)$ 行列としての和とスカラー倍と考えることもできます。 このように、和とスカラー倍が定義された直積集合 ${\mathbb R}^n$ を $n$ 次元ユークリッド空間といいます。 $n$ 次元数ベクトル空間ともいいます。 このように縦に並んだ形の ${\mathbb R}^n$ の元のことを(縦)ベクトルと言います。 次を定義しましょう。 定義3.1.1 $n$ 次元ユークリッド空間 ${\mathbb R}^n,{\mathbb R}^m$ に 対して、写像 $f:{\mathbb R}^n\to {\mathbb R}^m$ が 以下を満たすとき、$f$ を線形写像と言います。 ${\bf x},{\bf y}$ を ${\mathbb R}^n$ の任意のベクトルとし、 $\alpha$ を任意の実数とします。 (1) $f({\bf x})+{\bf y})=f({\bf x})+f({\bf y})$ (2) $f(\alpha \cdot {\bf x})=\alpha\cdot f({\bf x})$ ここで、行列を用いた、線形写像を考えます。 $A\in M(m,n,{\mathbb R})$ とします。 このとき、 ${\bf x}\in {\mathbb R}^n$ とすると、 $f_A:{\mathbb R}^n\to {\mathbb R}^m$ を ${\bf x}\mapsto A\cdot {\bf x}$ として定義します。 ここで、$A\cdot {\bf x}$ は、$(m,n)$ 行列と $(n,1)$ 行列の行列の積として 考えてください。 このとき、$A\cdot {\bf x}$ は、$M(m,1,{\mathbb R})$ つまり、${\mathbb R}^m$ となります。 このとき、実は $f_A$ は線形写像となります。 というのも、行列の分配法則を用いて、 $f_A({\bf x}+{\bf y})=A({\bf x}+{\bf y})=A{\bf x}+A{\bf y}=f({\bf x})+f({\bf y})$ また、 $f_A(\alpha\cdot {\bf x})=A(\alpha{\bf x})=\alpha\cdot A{\bf x}=\alpha f({\bf x})$ となります。 このとき、次が成り立ちます。 命題3.1.1 $f:{\mathbb R}^n\to {\mathbb R}^m$ が線形写像であるとすると、 ある $(m,n)$ 行列 $A$ が存在して、$f=f_A$ が成り立つ。 このことの証明は教科書にありますが、 簡単に説明しますと ベクトル ${\bf e}_i\in {\mathbb R}^n$ をその $i$ 番目が $1$ で、それ以外は $0$ となる ベクトルとします。このとき、 $$f({\bf e}_i)=\begin{pmatrix}a_{1i}\\\vdots\\a_{ni}\end{pmatrix}$$ とします。そうすると、 $${\bf x}=\begin{pmatrix}x_{1}\\\vdots\\x_{n}\end{pmatrix}=x_1{\bf e}_1+\cdots+x_n{\bf e}_n$$ となり、$f$ の線形性から、 $$f({\bf x})=f(x_1{\bf e}_1+\cdots+x_n{\bf e}_n)=x_1f({\bf e}_1)+\cdots+x_nf({\bf e}_n)$$ $$=\begin{pmatrix}a_{11}&\cdots &a_{1n}\\\cdots&\cdots&\cdots\\a_{n1}&\cdots&a_{nn}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}$$ $$=A{\bf x}=f_A({\bf x})$$ となります。ここで、$A$ は $A=(a_{ij})$ となる $(m,n)$ 行列となります。(証明終了) よって、$f$ が線形写像であることと、それがある行列を用いて  ${\bf x}\mapsto A{\bf x}$ のように書かれることは同値であるということになります。 つまり、それらは全く同じものを考えているということを意味します。 線形写像 $f:{\mathbb R}^n\to {\mathbb R}^m$ と $g:{\mathbb R}^m\to {\mathbb R}^k$ があるときに、合成写像 $g\circ f:{\mathbb R}^n\to {\mathbb R}^k$ が得られます。 $f=f_A$ であり、$g=f_B$ となる行列 $A\in M(m,n,{\mathbb R})$ かつ $B\in M(k,m,{\mathbb R})$ となります。$f$ と $g$ の合成も線形写像になります。(証明してみてください。) なので、命題3.1.1を用いることで、$f_B\circ f_A$ はある行列 $C\in M(k,n,{\mathbb R})$ が存在して、$f_B\circ f_A=f_{C}$ となります。 ${\bf x}\in {\mathbb R}^n$ に対して、 $$f_{B}\circ f_A({\bf x})=f_B(A{\bf x})=B(A{\bf x})=(BA){\bf x}$$ となるので、$f_B\circ f_A=f_{BA}$ となります。 つまり、行列の積は自然に線形写像の合成を意味するのです。 $n=m$ のとき、線形写像 $g:{\mathbb R}^n\to {\mathbb R}^n$ を線形変換もしくは一次変換 といいます。 この時、命題3.1.1を使い、正方行列 $A$ が存在して、 $f({\bf x})=A{\bf x}$ が成り立ちます。 線形変換 $f_A$ と $f_B$ の合成は、$f_B\circ f_A=f_{BA}$ が成り立ちます。 単位行列 $E$ に対して、$f_E=\text{id}_{{\mathbb R}^n}$ が成り立つことに 注意しておきます。 $A$ が逆行列 $A^{-1}$ が存在するとき、 $$f_A\circ f_{A^{-1}}=f_{AA^{-1}}=f_E=\text{id}_{{\mathbb R}^n}$$ $$f_{A^{-1}}\circ f_A=f_{A^{-1}A}=f_E=\text{id}_{{\mathbb R}^n}$$ よって、$f_{A^{-1}}$ は $f_A$ の逆写像となります。 逆写像に関しては、第2回を見てください。 つまり、 次は同値となります。 (i) $f_A$ は逆写像を持つ (ii) $A$ が逆行列を持つ (iii) $f_A$ が全単射である。 ちなみに、(i) と(iii)の同値性は、第2回で証明をしました。

数学リテラシー1(第3回)
2020/05/13

[場所:manaba上(水曜日12:00〜)] 数学リテラシー1のHP 数学リテラシー3回目です。 今日から行列や一次変換についての説明に入ります。 行列というのは、高校では習わなかった対象だと思います。 (一部の高等学校では教育課程を逸脱して教えているところもあるようですが...) しかし、行列は大学では線形代数の話でさらっと登場し、 その後の数学の学習にはなくてはならない対象になります。 数学に限らず、科学の基礎の部分でどの分野に進んでも そのテクニックを使うことになるでしょう。 私が受験生のころは行列も高校までの範囲に入っていましたので 「代数・幾何」という授業のなかで行列や一次変換を 勉強をしたことを鮮明に覚えています。ちょっと変わった代数だなと思っただけで、 その意味まではよくわかっていませんでした。 しかし、大学に入って線形代数を系統的に学び、連立一次方程式を解いたり、 固有値を用いて、いとも簡単に線形常微分方程式が解けたりなど 様々な応用があることが分かってその奥深さに面白さを感じました。 2次関数を平行移動したりすることは今でも高校で習うと思いますが、 一方、行列を使えば、図形を回転させた時にそれがどのように移るか? ということも調べることができます。 なので、これからの講義を聞いた後であれば、 例えば、$y=x^2$ という2次関数を30度回転させたときに 図形がどのような方程式を満たすかなど計算できるようになります。 今日は、行列の四則演算について学びますが、 今日以降の学習のどこかで、図形を変形させる変換として考え たりもします。 そのような変換のことを一次変換といいます。 行列を使うことによって、図形を拡大させたり、回転させたり、 相似拡大をしたりするのも一次変換です。 また、ある方向に歪ませたりする操作、 たとえば、正方形を平行四辺形に歪ませるようなことですが、 これも一次変換です。 これらの変換を組み合わせたり、合成したりしたものも一次変換です。 (実は逆に、行列とは、上のような操作を合成したものと考えることもできるのですが それはどこかでおいおいと...) どのように変換するかを記述するために行列が必要となります。 今回は行列についての最初の基本的な知識についてです。 全体で7つに分かれています。 では、はじめていきましょう。 Part 1: 行列の定義、行列の成分 行列とは縦に $m$ 個、横に $n$ 個だけ長方形状に数を並べたものをいいます。 そのような行列のことを$m$ 行 $n$ 列の行列といったり、 $m\times n$ 行列といったり、$(m,n)$ 行列と言ったりします。 下の例では、縦に3 個、横に4個の数を長方形の形に並べたものですから、 $(3,4)$ 行列の例です。 $$\begin{pmatrix}1&2&3&4\\5&6&7&8\\9&10&11&12\end{pmatrix}$$ このとき、第1行目とは、 $$\begin{pmatrix}1&2&3&4\end{pmatrix}$$ をさし、 第2行目とは、 $$\begin{pmatrix}5&6&7&8\end{pmatrix}$$ のことをさします。第 $3$ 行目はも同様に考えれば もうわかりますね。 また、第1列目といえば、 $$\begin{pmatrix}1\\5\\9\end{pmatrix}$$ のことであり、第3列目といえば、 $$\begin{pmatrix}3\\7\\11\end{pmatrix}$$ のことを指します。 このように、行といえば、横に並んだ数のことをいい、 列といえば、縦に並んだ数のことをいいます。 また、とりわけ、$m=n$ のときは、正方形的に数が並ぶため、 正方行列といいます。この場合、$n$ 次正方行列ともいいます。 行列に並んでいる、$mn$ 個のそれぞれの数のことを成分と言います。 $m$ 行 $n$ 列の行列の場合、上から数えて $i$ 番目、左から数えて $j$ 番目にいる成分を、$(i,j)$ 成分といいます。 例えば、上の $3\times 4$ 行列の $(1,3)$ 成分は $3$ ということになります。 同じように考えることで、$(3,4)$ 成分は、$12$ということになります。 まずは、このような言い方に慣れてください。 例えば、以下はうちにある衣装ケースですが、これは、$3\times 2$ 行列 と考えられます。 黄色いシールは成分の名前(例えば $(1,2)$ を書いており、貼り付けています。 あなたのうちにもこのようなケースやタンスがあれば、一つ一つ指をさして、 ここが、$(1,2)$ 成分、ここが、$(2,3)$ 成分などと確認しながら 言ってみるのもよいでしょう。 また、$A$ という行列の $(i,j)$ 成分を $a_{ij}$ のように書くことがあります。 $3\times 4$ 行列の場合、 $$\begin{pmatrix}a_{11}&a_{12}&a_{13}&a_{14}\\a_{21}&a_{22}&a_{23}&a_{24}\\a_{31}&a_{32}&a_{33}&a_{34}\end{pmatrix}$$ となります。この並びを見ながら、2つの数字の組み合わせ $(i,j)$ がどのように 移り変わっているかを追ってみると、数え方がわかるようになるかもしれません。 このような行列 $A$ を、$(a_{ij})$ のように書くことがあります。 Part 2: 行列の略記、行列全体の集合 さきほど、最後に書いたように、$A$ の $(i,j)$ 成分が $a_{ij}$ となる行列 を $(a_{ij})$ のように書きました。 他の書き方として、$(a_{ij})_{1\le i,j\le n}$ のように書くこともあります。 また、$i$ と $j$ の間にコンマを入れて、$a_{i,j}$ のように書くこともあります。 これは、例えば、$a_{121}$ と書いてしまったとき、$(12,1)$ 成分なのか、$(1,21)$ 成分なのかわからないからですが、数字が2つまでしか並ばないのなら コンマはなくてもわかります。 また、$n=1$ のとき、$m\times 1$ 行列は、縦に並んだ一直線の行列 $$\begin{pmatrix}a_{11}\\\vdots\\a_{m1}\end{pmatrix}$$ ですが、このような行列をベクトルということがあります。 とりわけ、この場合は縦ベクトルといいます。 また、$m=1$ のとき、$1\times n$ 行列とは、横に並んだベクトル $$\begin{pmatrix}a_{11}&\cdots&a_{1n}\end{pmatrix}$$  を表すことになります。 こちらは横ベクトルともいいます。 また、普通の数 $1$ や $\sqrt{2}$ なども、カッコをつけて、 $(1)$ や $(\sqrt{2})$ のように表しておくことで $(1,1)$ 行列ということもあります。 この場合、カッコをつけているだけで、実数を考えていることと 何ら変わりはありません。 $(m,n)$ 行列を全て集めることで、集合を作ることができます。 この集合、つまり、 $$\{A|A\text{ は全ての成分が実数となる $m\times n$ 行列}\}$$ を $M(m,n,{\mathbb R})$ と書きます。成分が全て実数の行列の集合ですのでこのように 書きますが、成分が複素数であれば、${\mathbb C}$ を用いて、$M(m,n,{\mathbb C})$ となります。 正方行列の場合は、$M(n,n,{\mathbb R})$ のように $n$ を2回続けて書く必要もない と感ずれば、$M(n,{\mathbb R})$ と書くこともあります。 Part 3: 行列の相等・行列の加法、零行列 次に、行列の四則演算について行います。 これ以降、行列の成分は全て実数として扱います。 複素数や他の数体を用いてもよいですが、本質的には違いはありません。 実数の次の四則演算(加法、減法、乗法、除法)を思い出しましょう。 四則演算とは、 $$a+b,\ a-b,\ a\times b,\ a\div b$$ のことでした。これらの法則は、 $a+b=b+a$  (加法の交換法則) $(a+b)+c=a+(b+c)$ (分配法則) $a\times (b+c)=a\times b+a\times c$ (加法の結合法則) を満たします。 また、実数 $0$ は、$0+a=a+0=a$ などの性質を満たします。 このような性質をもつ $0$ のことを零元もしくは加法の単位元と言います。 そのような単位元が存在することを、加法の単位元の存在といいます。 また、実数 $a$ に対して、 $-a$ とは、$a+(-a)=0$ を満たす実数を表します。 たとえば、$a=3$ に対しては、$-a$ とは、$3$ のことを表し、 $a=-2$ に対して、$-a=2$ とし、$a=0$ に対しては、$-a=0$ とすると、 上の関係 $a+(-a)=0$ が成り立ちます。 $a$ に対して、$-a$ が存在することになりますが、 $a$ に対する $-a$ のことを $a$ の逆元といいます。 このように各 $a$ に対して $-a$ が存在することを 加法の逆元の存在 といいます。 今、$A,B\in M(m,n,{\mathbb R})$ に対して、$A$ と $B$ の加法を定義します。 $A=(a_{ij})$ と $B=(b_{ij})$ とします。 この記号は、$(i,j)$ 成分がそれぞれ、$a_{ij}$ であり、$b_{ij}$ となる 行列ということでした。 このとき、$(m,n)$ 行列 $A+B$ を $(a_{ij}+b_{ij})$ と定義します。 つまり、成分ごとに和を取るということです。 例えば、 $$A=\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\end{pmatrix},\ B=\begin{pmatrix}7&8&9\\10&11&12\end{pmatrix}$$ とすると、 $$A+B=\begin{pmatrix}1+7&2+8&3+9\\4+10&5+11&6+12\end{pmatrix}$$ $$=\begin{pmatrix}8&10&12\\14&16&18\end{pmatrix}$$ となります。 このような成分同士足して得られる和は、ベクトルと同じですね。 2つのベクトル $(a,b,c)$ と $(d,e,f)$ の和は、$(a+d,b+e,c+f)$ のように 成分同士たすのでした。 つまり、行列は、$mn$ 個の実数の集まりをあたかもベクトルだと思って 和をとったものが行列の和ということになります。 ですので、2つの行列の和ができるためには、 その行列の2つのサイズが一致していないといけません。 つまり、$A,B$ がどちらも $m\times n$ 行列でないと、$A+B$ ができません。 上でいう、実数は加法の単位元が存在することから、 行列も加法の逆元が存在します。 全ての成分が0になる行列を $$O=\begin{pmatrix}0&0&\cdots& 0\\\cdots &\cdots&\cdots&\cdots \\0&0&\cdots  &0\end{pmatrix}$$ として定義してやると、これは、ベクトルでいう零ベクトルであることに対応し、 $A+O=O+A=A$ が成り立ちます。 この行列のことを $O$ と零行列といいます。 このように単に $O$ として書くと、サイズがどのような零行列かわからないと思う かもしれませんが、$A$ と同じサイズの全ての成分が $0$ の行列ということになります。 ややこしくなる場合なら、$O_{m,n}$ のように、しておけば、$(m,n)$ 行列の 零行列とするのが良いかもしれません。 また、$A\in M(m,n,{\mathbb R})$ に対して、$-A$ を全ての成分が$A$ の成分の マイナス1倍として定義しておきます。 つまり、$A=(a_{ij})$ としたときに、$-A$ を $(-a_{ij})$ として定義するのです。 このとき、成分同士の和をとることで、$A+(-A)=O$ が成り立ちます。 このようにすると、実数の加法、減法について以下が成り立つことがわかりました。 $A+B=B+A$,  $A+(B+C)=(A+B)+C$,  $A+O=O+A=A$, $A+(-A)=O$ また、行列の相等というのは、2つの行列が等しい時はいつか? という問題ですが、$A=(a_{ij})$ と$B=(b_{ij})$ が 等しいということは、各成分が等しいということ、 つまり、任意の $i,j$ に対して、$a_{ij}=b_{ij}$ が成り立つこと として定義します。 Part 4: 行列の乗法 次に行列の乗法について説明をします。 ベクトルには、行列の加法と乗法がありましたが、乗法は ありませんでした。 しかし、行列には乗法を考えることができます。 ただし、しかるべき条件が必要です。 $A\in M(m,n,{\mathbb R})$ と、$B\in M(n,k,{\mathbb R})$ に対して、 その積 $A\cdot B$ を定義することができます。 この積を表すドット $\cdot$  は以下しばしば省略されることがあります。 ここで、$A$ の列の数と $B$ の行の数が一致していることが条件です。 ここで得られる $A\cdot B=C$ は、$(m,k)$ 行列とになります。 丁度、2つの行列のサイズでかぶっていた $n$ が消去されて、 $C$ の行数は $A$ の行数であり、$C$ の列数は $B$ の列数となります。 $(m,n)$ 行列 $A$ と $(n,k)$ 行列 $B$ に対して、$(m,k)$ 行列 $C=A\cdot B$ の、$(i,j)$ 成分を $$\sum_{p=1}^na_{ip}b_{pj}$$ として定義します。つまり、公式として書くならば $$C=(\sum_{p=1}^na_{ip}b_{pj})$$ ということになります。 積の公式はこれですが、実際理解するには、何回か 積の練習をする必要があります。 例えば、$m=n=k=3$ の時を考えてみましょう。 $A=(a_{ij})$ とし、$B=(b_{ij})$ とします。 このとき、 $$C=A\cdot B=\begin{pmatrix}a_{11}&a_{12}&a_{13}\\a_{21}&a_{22}&a_{23}\\a_{31}&a_{32}&a_{33}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}b_{11}&b_{12}&b_{13}\\b_{21}&b_{22}&b_{23}\\b_{31}&b_{32}&b_{33}\end{pmatrix}$$ を計算します。 $C$ もまた、$(3,3)$ 行列となるのですが、 その、$(i,j)$ 成分がどのようになるかをみてみましょう。 例えば、$(1,2)$ 成分ですが、 $A$ の第1行目、 $B$ の第2列目をとります。 それぞれ $\begin{pmatrix}a_{11}&a_{12}&a_{13}\end{pmatrix}$ と$\begin{pmatrix}b_{21}\\b_{22}\\b_{23}\end{pmatrix}$ となりますが、 これらの内積を考えます。 つまり、対応する成分同士の積をとり、足し上げるのです。 結果的に、 $$a_{11}b_{21}+a_{12}b_{22}+a_{13}b_{32}$$ となります。 これが、$C$ の $(1,2)$ 成分となります。 同じように続けます。 他にも、例えば、$C$ の $(2,3)$ 成分を計算するには、 $A$ の第2行目と $B$ の第3列目をとります。 このとき、それぞれ $\begin{pmatrix}a_{21}&a_{22}&a_{23}\end{pmatrix}$ と $\begin{pmatrix}b_{13}\\b_{23}\\b_{33}\end{pmatrix}$ となりますが、 この対応する成分同士の積を考えてそれらを全て足すと、 $C$ の第 $(2,3)$ 成分は、 $$a_{21}b_{13}+a_{22}b_{23}+a_{23}b_{33}$$ となります。つまり、$(i,j)$ 成分は、 $$a_{i1}b_{1j}+a_{i2}b_{2j}+ a_{i3}b_{3j}=\sum_{k=1}^3a_{ik}b_{kj}$$ となるわけです。 講義の方にも、教科書の方でも問題がいくつかあるので自分で練習してみてください。 例えば、 $$\begin{pmatrix}1&2&-1\\2&-4&3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}3&2\\3&4\\2&3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}7&7\\0&-3\end{pmatrix}$$ などとなります。この計算も自分で確かめてみてください。 また、この行列の積の順番を入れ替えたとき、 $$\begin{pmatrix}3&2\\3&4\\2&3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&2&-1\\2&-4&3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}7&-2&3\\11&-10&9\\8&-8&7\end{pmatrix}$$ となります。この例から分かる通り、積に関して $AB=BA$ が成り立ちません。 そもそも行列のサイズさえ合っていません。 通常の実数は積は入れ替えても答えは同じですからそのことを 実数の積は可換であるといいます。 可換ではないような積をもつ場合は非可換といいます。 上で見た通り、行列の積は非可換です。 しかし、その理由が行列のサイズの問題だけであるとすれば、 行も列の一致している正方行列のときを考えるとどうでしょうか? ところが、たとえ、$A,B$ が正方行列であっても可換ではありません。 例えば、 $A=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix},\ B=\begin{pmatrix}1&0\\1&1\end{pmatrix}$ とすると、 $$AB=\begin{pmatrix}2&1\\1&1\end{pmatrix}$$ $$BA=\begin{pmatrix}1&1\\1&2\end{pmatrix}$$ となり、やはり、$AB\neq BA$ となります。 よって、正方行列だけに制限したとしても、行列は積に関して非可換である ということになります。 しかし、全ての $A,B$ に対していつでも $AB\neq BA$ というわけではありません。 たとえば、次のような例を $A=\begin{pmatrix}1&2\\2&1\end{pmatrix}$ $B=\begin{pmatrix}1&-1\\-1&1\end{pmatrix}$ とすると $$AB=BA=\begin{pmatrix}-1&1\\1&-1\end{pmatrix}$$ となり、この場合は2つの行列は可換となります。 ある積の演算を持った集合(例えば整数や実数や正方行列など) が積において可換であるというのは、 そのような集合の全ての元 $A,B$ に対していつでも可換、つまり $AB=BA$ を 満たさなければならないということに注意してください。 非可換であるということは、つまり可換を否定しているワケだから、 最初の論理の時にもやりましたが、 一つでも非可換な $A,B$ があれば、その集合は非可換であるということになります。 なので、上で非可換な $A,B$ の例を挙げたことから、 行列 $M(2,{\mathbb R})$ は非可換な積をもつ集合であるということになります。 実際、$n>1$ であれば、$M(n,{\mathbb R})$ は可換ではありません。 Part 5: 行列の結合法則、分配法則 行列は、実数の加法の性質から、自然に行列の加法に関するいくつかの法則が 導かれました。 加法の可換性や、加法の結合法則や加法の単位元の存在などです。 今、上で行列の積を定義しましたが、実数の積の法則で、 行列の積でも同じ法則が成り立つ部分がありますのでそれを説明しておきます。 上では実数では成り立つ、積の可換性は行列では成り立たない ことも示しました。 それ以外の法則をみてみますと、 $a,b,c$ を実数とするとき、 $(ab)c=a(bc)$ (積の結合法則) $(a+b)c=ac+bc$ (分配法則1) $a(b+c)=ab+ac$ (分配法則2) が成り立ちますが、実は、行列でも、 $A\in M(m,n,{\mathbb R})$ かつ $B\in M(n,l,{\mathbb R})$ かつ $C\in M(l,p,{\mathbb R})$  であるとすると、 $A(BC)=(AB)C$ (積の結合法則) $A,B\in M(m,n,{\mathbb R})$ かつ $C\in M(n,l,{\mathbb R})$ であるとすると、 $(A+B)C=AC+BC$ (分配法則1) が成り立ちます。 $A\in M(m,n,{\mathbb R})$ かつ $B,C\in M(n,l,{\mathbb R})$ であるとすると、 $A(B+C)=AB+AC$ (分配法則2) が成り立ちます。 この証明はそれぞれに行うことができますが、とりあえず 最初の結合法則だけ証明しておきます。 基本的に、実数の場合の証明がそのまま受け継がれるというものです。 $A=(a_{ij})\in M(m,n,{\mathbb R}),\ B=(b_{ij})\in M(n,l,{\mathbb R}),\ C=(c_{ij})\in M(l,p,{\mathbb R})$ とします。 このとき、 $$A(BC)=(a_{ij})(\sum_{k=1}^lb_{ik}c_{kj})=(\sum_{q=1}^na_{iq}\sum_{k=1}^lb_{qk}c_{kj})$$ $$=(\sum_{q=1}^n\sum_{k=1}^la_{iq}b_{qk}c_{kj})=(\sum_{q=1}^na_{iq}b_{qk}\sum_{k=1}^lc_{kj})$$ $$=(\sum_{q=1}^na_{iq}b_{qj})(c_{ij})=((a_{ij})(b_{ij}))(c_{ij})$$ $$=(AB)C$$ となります。 Part 6:  行列の分配法則の証明 分配法則について証明しておきます。 ここでは、分配法則の2について示しておきます。 講義の方では1の方を示しています。 $A\in M(m,n,{\mathbb R})$ かつ $B,C\in M(n,l,{\mathbb R})$ であるとき、 $A(B+C)=AB+AC$ を示します。 $A=(a_{ij})$, $B=(b_{ij})$, $C=(c_{ij})$ とします。 $$A(B+C)=A(b_{ij}+c_{ij})=(\sum_{k=1}^na_{ik}(b_{kj}+c_{kj}))$$ $$=(\sum_{k=1}^na_{ik}b_{kj}+\sum_{k=1}^na_{ik}c_{kj})$$ $$=(\sum_{k=1}^na_{ik}b_{kj})+(\sum_{k=1}^na_{ik}b_{kj})$$ $$=AB+AC$$ となります。 これらの証明を読む時に気をつけて欲しいことは、 なんとなく読み飛ばすのではなく、一つ一つ何を適用したのかを 考えていくことが大切です。 一つ一つのステップは、実数の演算の法則や行列の和や積の定義や 単なる並び替えなどしか使っていません。 Part 7: 行列の転置 $(m,n)$ 行列 $A=(a_{ij})$ に対して、$(i,j)$ 成分を、$A$ の $(j,i)$ 成分 $a_{ji}$ であるような行列 $(a_{ji})$ をその転置行列といい、 $^tA$ (もしくは $A^T$) と書きます。 このとき、転置行列 $^tA$ は $(n,m)$ 行列になります。 例えば、$A=\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\end{pmatrix}$ ならば、 $^tA=\begin{pmatrix}1&4\\2&5\\3&6\end{pmatrix}$ となります。

数学リテラシー1(第2回)
2020/04/30

[場所:manaba上(水曜日12:00〜)] 数学リテラシー1のHP 写像の一般論 今日は写像についての講義でした。 以下文字ばかりですいません。 本当は図を載せるべきなのでしょうけれど、 ここに図をのっけることはできるのですが、少々面倒なのでご勘弁を。 できる限り、紙を用意して図を描きながら進めるとよいかもしれません。 さぁて本題に入りましょう。 まずは皆さんをのっけからこまらせた写像の説明からです。 $A, B$ を集合とします。$f:A\to B$ が写像であるとは、 $A$ の任意の元 $a$ に対して、ただ一つの $B$ の元 $f(a)$ を定める 規則のことを写像といいます。 このとき、$a\mapsto f(a)$ とかくことで、その写像を定義することができます。 このように言われてもよくわからないかもしれませんね。 皆さんがこれからずっと実践してほしいことは、 抽象的なことは、より具体的に考え、 具体的なことは、より抽象的に考える。 言われた通りに理解しようとしない。 ちょっと穿った見方というか、1つのことを多角的に見ることを考えましょう。 研究者でも、理解しにくいことは多々ありますが、 そんなとき、以下のことを試しています。 もっといい理解の仕方があるのではないか? 別の見方があるのではないか? それを満たす条件は何か? 具体例が作れるか? 条件を外したとき成り立つのか成り立たないか? なぜこのようなことを考えなければならないか? 極端な例を考えてみる。(その概念を満たすぎりぎりのところの例) そのため、定義やルールを決めたときに、大抵例を書くのが普通です。 実践していきましょう。 例1 三角関数 $\sin x$ を用いて、$x\mapsto f(x)=\sin x$ のように定めることで 実数から$[-1,1]$ への写像を作ることができます。 $[-1,1]$ とは、$-1$ 以上 $1$ 以下の実数を表します。 このとき、写像 $f$ は $f:{\mathbb R}\to [-1,1]$ であることになります。 また、 例2 整数 ${\mathbb Z}$ から、$1$ と $-1$ からなる集合 $\{1,-1\}$ への 写像 $f:{\mathbb Z}\to \{1,-1\}$ を $n\mapsto f(n)=(-1)^n$ のように定めることができます。 つまり、写像とは関数のようなものだと考えることができますが、 高校までの関数と違って、値となるものが数とは限らず、何かの集合 であったり、数字の組み合わせであったり、平面上の点であったりします。 そういうのも含めた”関数”を写像といいます。 例えば、少々難しい写像としては、 例3 実数 $m$ に対して、方程式 $y=mx+1$ を満たす $xy$-平面上の直線 $L_m= \{(x,y)|y=mx+1\}$ を与える規則も写像となります。 そのような写像を $F$ とすると、 $$F:{\mathbb R}\to \{L|L\text{は平面上の直線}\}$$ となり、$F$ は $m\mapsto L_m$ という定義ということになります。 すいません、この例3が理解できなければ無視して先に行ってください。 この例にしても、上の2つの例にしても思想は、関数と同じです。 何か与えられた集合 $A$ の任意の元に対して、何か $B$ の値が出てくるということです。 しかし、注意して欲しいことは、 $A$ のどの元に対しても定義しなければならず、 $B$ のある元の一つだけに対応しなければならない ということです。 例えば、$x\mapsto f(x)=\frac{1}{x}$ という対応を考えても、これは 写像 $f:{\mathbb R}\to {\mathbb R}$ とは呼びません。 $0$ の行き先 $f(0)$ が定義されていないからです。 ${\mathbb R}\setminus \{0\}$ から ${\mathbb R}$ への写像としては定義されています。 また、$A=B={\mathbb R}$ として、$x\mapsto \pm \sqrt{x}$ という 対応も写像ではありません。まず、$x$ が負の数であれば、$\sqrt{x}$ は実数では ありませんし、符号がどちらか決められていないので、${\mathbb R}$ の ただ一つの値としても決まってはいません。 もう少しイメージしやすい例を考えましょう。 小学生全体を $A$ として、学年の集合 $\{1,2,3,4,5,6\}$ を $B$ とします。 今、写像 $f:A\to B$ をその小学生の属する学年に写す規則を考えます。 つまり、$a\in A$ という人には、$a$ の所属する学年を $n$ としたとき、 $a\mapsto n$ という規則で写像を作るのです。 この規則は、全ての小学生に、ただ一つ学年が決められているわけですから、 写像となります。 これを学年写像と呼ぶことにしましょう。 下でもこの名前を使います。 例えば、小学生全員に、「あなたの弟の学年のところまでいきなさい!」 という指令を出してしまうと、場合によっては弟がそもそも存在しない場合もあるし、 小学生の弟は在籍するのだが2人以上違う学年におり1つに決まらないなどの場合は、 児童は路頭に迷い、逆に「変な指令をだすんじゃない!」と怒られてしまうわけです。 もしかしたらこのような変な指令をだしたらほとんどの児童は動けないかもしれません。 つまり写像とは自動的に1つに行き先が決まらないといけないわけです。 学年写像 $f$ は、運動会での全体演技後「自分の学年の場所に戻りなさい」 でも同様なことが起こるわけです。 このように言われるととすると、 (素直な小学校の子供たちなら、)自動的に自分の元の持ち場 $\{1,2,3,4,5,6\}$ に戻れるわけですよね。(児童なだけに...) 単射と全射 次は単射と全射です。 単射と全射を教えるとき、いつもわからない人が続出する部分です。 twitterでも何人かの学生がわからなかったと言っていたようにみえました。 単射と全射は初めてきく概念ですので、一度聞いてすぐわかることは難しいと思います。 もう一度書いておきましょう。 単射の定義 写像 $f:A\to B$ が単射であるとは、 $a,a’\in A$ に対して、 もし、$a\neq a’$ であれば、$f(a)\neq f(a’)$ を満たす ことをいう。 まず、$f$ が写像であることが仮定として必要です。 写像でないと単射かどうかの議論さえできません。 結論を言えば写像でないものは単射になり得ません。 これ以降、$f$ は写像であることを仮定します。 そのとき、単射であることは、文字通り読めば、 違う元同士は違う元に写るということです。 しかし、写像によっては、違う元なのに同じ元に行ってしまうことがあります。 例えば、一番簡単な例は、 $f:{\mathbb R}\to {\mathbb R},x\mapsto x^2$ ですが、$1$ の行き先も $-1$ の行き先もどちらも $1$ です。 しかし、$g:{\mathbb R}\to {\mathbb R}$ として、$x\mapsto x^3$ であれば、 これは単射です。 $x,x’\in {\mathbb R}$ のとき、$x\neq x’$ ならば、$x<x’$ と 仮定してやると、$x^3<(x’)^3$ であるから、とくに、$x^3\neq (x’)^3$ が成り立ちます。$x’<x$ としても同様です。 なので、写像によって単射であったり、単射でなかったりします。 たとえば、 $f:{\mathbb Z}\to {\mathbb Z}$ として、$n\mapsto f(n)=n+1$ という写像 とすると、$n\neq n’\in {\mathbb Z}$ に対して、$f(n)=n+1\neq n’+1=f(n’)$ が成り立つので、この $f$ も単射になります。 最後に、単射性を対偶を使って言い換えておきます。 $p\Rightarrow q$ の対偶は、$\bar{q}\Rightarrow \bar{p}$ ですから、 単射性の条件は $f(a)=f(a’)$ なら、$a=a’$ となります。 この関係は下で何度もでてきます。 次は全射です。 全射の定義 写像 $f:A\to B$ が全射であるとは、$B$ の任意の元 $b$ に 対して、$A$ の元 $a$ が存在して、$f(a)=b$ を満たす ポイントは、$B$ の任意の元(つまり全ての元)というところです。 $B$ のありとあらゆる元をとっても、その元に写ってくる $A$ の元がいる ということです。 今、学年写像 $f$ を用いて小学生全体 $A$ に対して学年 $B=\{1,2,3,4,5,6\}$ を割り当てるとき、 $f$ が全射であるということは、 どの学年にも一人以上は児童がいるという状況 これが全射ということです。 例えば、4年生だけ一人もいないという状況もどこかの小学校でも 起こり得るかもしれませんが、このような小学校における 学年写像 $f$ は全射ではないということになります。 上の写像の定義を小学生を用いて言い換えると、次のようになります。 全射の定義(学年写像版) 学年写像 $f:A\to B$ が全射であるとは、任意の学年 $b\in \{1,2,3,4,5,6\}$ に 対して、ある小学生 $a$ が存在して、$a$ の学年は $b$ になる。 少し言い方は堅苦しいかもしれませんが、意味はわかるのではないでしょうか? この定義から上の全射の定義まで目を平行移動させて、もう一度全射の定義を 読んでみてください。 (この行為を抽象化といいます。) 数学を用いた全射の例は以下のものがあります。 例4 $f:{\mathbb Z}\to \{1,-1\}$ を、$n\mapsto f(n)=(-1)^n$ とします。 このとき、$1\mapsto -1$ であり、 $2\mapsto 1$ であるので、 $1,-1$ のどちらにも、それぞれその数に写ってくる整数が存在します。 全単射の定義 写像 $f:A\to B$ が全射かつ単射であるとき、$f$ は全単射という。 全単射というのは、$A$ と $B$ が完全に対応関係が定まる ことを表します。 例えば、上の写像 $f:{\mathbb Z}\to {\mathbb Z}, n\mapsto f(n)=n+1$ とするとすると、$n$ に対してただ一つだけ $f(n)$ が 定まり、$m\in {\mathbb Z}$ に対して、$m=f(n)$ となる $n$ はただ一つ しか定まりません。 実は、$f$ が全単射であることと、逆写像(逆向きの写像で $f$ の逆の割り当てをするもの)が定まることは同じことです。 これは下の補題で証明します。この説明は中途半端ですが、やめておきます。 このように、全ての元に自動的に答えが定まるようなものは全て写像です。 そういうわけで、ある意味身の回りには写像であふれていると言っても良いです。 家の中を見回してみると写像となっているものはすぐに見つかるの ではないでしょうか? また、意外なところに写像が存在してハッとなるかもしれません。 例えば人間のパーソナリティに関係するデータは全て写像を与えます。 人間の集合から血液型全体 $\{A,B,O,AB\}$ への写像、年齢をとる規則も写像となるし、 生まれ落ちた場所を与える規則も写像になります。 人間全体の集合から地球上のある点 $p$ への写像。 また、役所にデータ化されている住所だって一人一人に与えられた 写像です。大学に入って一人暮らしを始めたとすると、 日本に住む日本人全員を $A$ として、その住所を割り当てる写像を $f:A\to B$ とする ($B$ は日本の住所全体)自分 $a$ の行き先が去年より少しずれることになります。 人間がその日に何を食べたかだって食べ物全体の部分集合全体への写像をなします。 何も食べない日があったとしても、空集合への写像となります。 (この例は少々むずかしいか...) 単射の例をとしては、マイナンバー制度があります。 日本人全体を $A$、12桁の数全体を $B$ とすると、 $A\to B$ として、その人のマイナンバーを与える写像とします。 このとき、違う人に同じ番号を割り当てることはないわけなので、 単射ということになります。 しかし、全射ではありません。12桁の数すべてに対して どなたか日本人が存在したとすると、 日本人の数は12桁の数字の分だけあるということになってしまいます。 12桁の数全体は、$10^{12}$ で、現在の日本の人口はおよそ $1.2\times 10^8$  くらいですからそういうことは起こりません。 などなど、日常みてみると、値が数となるような関数より、何か点だったり、 集合だったりで数ではないようなバリエーションがある写像に溢れています。 用途に応じて単射、全射もいくつかあります。 次に、像と逆像の定義をしましょう。 像 写像 $f:A\to B$ に対して、$C\subset A$ を考える。 $f(C)=\{f(c)|c\in C\}$ を $C$ の $f$ による像という。 逆像 写像 $f:A\to B$ に対して、$D\subset B$ を考える。 $f^{-1}(D)=\{a|f(a)\in D\}$ を $D$ の $f$ による逆像という。 像というのは、$c\in C$ に対して、$f(c)$ となる元全体ということです。 先ほど小学生の例を考えたので、その例を用いましょうか。 $A,B,f$ は先ほどと同じで、$f$ は学年写像とします。 まず $C=A$ の場合は $f(C)=f(A)$ はその小学校の在籍する学年の集合ということに なります。 次に、$C\subset A$ として $A$ より小さい集合をとります。 例えば、$A$ の中で女子児童だけの集合を $C$ としましょうか。 このとき、$f(C)$ とは、女子児童のいる学年の集合 ということになります。そうすると、$f(C)$ はもしかしたら $f(A)$ より 小さいかもしれません。 仮に、ある学年には女子がおらず男子だけの学年があったとすると、 真に、$f(C)\subset f(A)$ が成り立ち、そのような(女子なし)学年を除いた 集合が $f(C)$ ということになります。 逆像というのは、$f$ で写したときに、$D$ に入るような$A$ の集合ということです。 これも上の例を出しましょうか。 例えば、$D\subset B$ として偶数学年とするとします。 $D=\{2,4,6\}$ ということです。 そのとき、$f^{-1}(D)=\{a\in A|f(a)\in D\}$ は学年を聞いたときに偶数であるような 児童全体ということですから、もちろん偶数学年の児童全体を表します。 補集合を取れば、$f^{-1}(D^c)$ は奇数学年全体です。 ここまでで像と逆像という概念の説明を終わります。 合成 写像 $f:A\to B$ と $g:B\to C$ とすると、$a\in A$ に対して、$g(f(a))$ を 与える写像を $g\circ f:A\to C$ と書くことにし、 $f$ と $g$ の合成という。 関数でいえば、合成関数のことですね。 あまりここでは問題はないかと思いますので素通りします。 ここでは、スライド通り補題の説明を試みましょう。 補題 写像 $f:A\to B$ が全単射とする。 このとき、ある写像 $g:B\to A$が存在して、$g\circ f=\text{id}_A$ および $f\circ g=\text{id}_B$ となる。 この補題が意味することは、 「$f$ が全単射であること」は、 「$f$ の逆写像 (逆向きの写像 $g:B\to A$ で、$f$ との合成が恒等写像となるもの)  が存在すること」 であるということを意味します。 なぜ、単射と全射が成り立てば、逆の対応関係があることを意味するのか ということを証明するわけです。 $\text{id}_A$ は $A$ 上の恒等写像 $a\mapsto a$ を意味します。 では、証明しましょう。 (証明) 仮定は、$f:A\to B$ が全単射であるということです。 結論は、逆写像 $g$ が構成できるということです。 つまり、写像 $f:A\to B$ が全単射とします。 逆写像 $g:B\to A$ を作りたいのだから、$B$ の元 $b$ をとって、 $g$ による $b$ の行き先となる$A$ の元を決めてやれば良いことになります。 ここで$f$の全射性を用いましょう。 全射はすべての $B$ の元 $b$ に対して $f(a)=b$ となる $a$ が存在するのだから、 なにかしら $a$ が定まります。 しかし、実は、$f(a)=b$ を満たす $a$ は一意に決まることを証明します。 なぜなら、$f(a’)=f(a)=b$ となる$a’$ がもしあったとしたら、 $f$ の単射性から、$a=a’$ が成り立ちます。 つまり、$b$ に対して $f(a)=b$ を満たす $a$ を対応させること $b\mapsto a$ は写像になるということを言っています。 この対応、$b\mapsto a$ は、写像となり、 この写像を $g$ と書くことにすると、 $g:B\to A$ を与えたことになります。 このとき、$f\circ g(b)=f(a)=b$ であるから、$f\circ g$ は恒等写像であり、 $g\circ f(a)=g(b)=a$ であるから、$g\circ f$ も恒等写像となります。(証明終了) このとき、$f$ が逆写像をもつなら、$f$ が全単射であるのか? ということが気になるかもしれませんが、これは実際以下のようにして 証明することができます。 (証明) $f:A\to B$ が逆写像 $g$ を持つとします。 このとき、$f$ が全射で単射であることを示しましょう。 $f$ が全射であることは、 任意の$b\in B$ に対して、$g(b)=a$ であるとき、$f\circ g(b)=f(a)=b$ ですから、$f(a)=b$ となる $a$ が見つかるということは $f$ が全射であるということ になります。 また、$f$ が単射であることは、次のようにして証明します。 $f(a)=f(a’)$ が成り立つとします。 そうすると、$g(f(a))=g(f(a’))$ も成り立ち、 $g\circ f$ は恒等写像であるから、$a=a’$ となります。 よって、$f$ は単射です。(証明終了) このことから、 「$f$ が全単射であること」$\Leftrightarrow$ 「$f$ が逆写像をもつこと」 ことがわかりました。 つまり、$f$ が逆写像を持つかどうかを確かめるには、$f$ が全射で単射であることを 確かめればよいということにもなります。 次の補題は、 合成に関する話です。 補題 写像 $f:A\to B$ と $g:B\to C$ に対して、次が成り立つ。 (1) $f$ と $g$ が単射ならば、$g\circ f$ も単射である。 (2) $f$ と $g$ が全射ならば、$g\circ f$ も全射である。 (3) $f$ と $g$ が全単射ならば、$g\circ f$ も全単射である。 証明をしておきましょう。 (1) $f,g$ が単射であるとします。このとき、$a,a’\in A$ に対して、 $g\circ f(a)=g\circ f(a’)$ が成り立つとする。(結論として$a=a’$ であることがわかればよい) このとき、$g$ の単射性から $f(a)=f(a’)$ が成り立ち、$f$ の単射性から $a=a’$ となります。 (2) $f,g$ が全射であるとします。 $g\circ f$ が全射であることを示します。 任意の $c\in C$ に対して、$g(b)=c$ となる $b\in B$ が存在します。 $f$ が全射であることから、$f(a)=b$ となる $a\in A$ が存在します。 よって、$g\circ f(a)=g(b)=c$ となるので、$a\in A$ となります。 (3) $f,g$ が全単射であるとすると、$g\circ f$ は(1) と(2) を用いて 全射かつ単射になります。よって$g\circ f$ は全単射となります。(証明終了) 一言で言って仕舞えば、 写像が単射であれば、違うものは違うものに写るので それが2回合成されても違うものは違うものに行くということと、 写像が全射であれば、集合全部に向けて写っている写像を2回 合成しても、全体に向けてうつされるということです。 (3) は(1)と(2) を合わせただけとなります。 次の命題はこれまでと違ってさほど簡単ではないかもしれません。 なので命題となっています。 これまでの内容(特に定義)がわかればわかると思います。 命題 2つの写像 $f:A\to B$ と $g:B\to C$ に対して次がなりたつ。 (1) $g\circ f:A\to C$ が単射ならば $f$ も単射 (2) $g\circ f:A\to C$ が全射ならば $g$ も全射 もう一度証明をしておきます。 (1) $g\circ f$ を単射であるとします。 このとき、$a,a’\in A$ をとります。$f(a)=f(a’)$ が が成り立つとする。(目標は、$a=a’$ となることなのですが...) このとき、$g\circ  f(a)=g\circ f(a’)$ が成り立ちます。 今、$g\circ f$ が単射であることから、$a=a’$ がわかります。 よって、$f$ が単射であることがわかります。 (2) $g\circ f$ が全射であるとします。 このとき、示すことは、任意の$c\in C$ に対して $g(b)=c$ となる$b$ が 存在することです。 しかし、今 $g\circ f$ は全射であるので、$g\circ f(a)=c$ となる$a$ が存在します。よって、$b=f(a)$ とすることで、$g(b)=c$ となる$b\in B$ が存在することがわかります。(証明終了) 最後に次の問題をときます。 これはある意味集合の問題です。 問題 写像 $f:A\to B$ を考える。このとき、部分集合 $C_1,C_2\subset A$ に 対して、 (1) $f(C_1\cap C_2)\subset f(C_1)\cap f(C_2)$ (2) $f(C_1\cup C_2)=f(C_1)\cup f(C_2)$ が成り立つ。 $X,Y$ が集合であるとします。$X\subset Y$ が成り立つということを証明するには、 $X$ の任意の元 $x\in X$ が $x\in Y$ であることを証明をすれば良い です。 また、集合 $X,Y$ に対して、$X=Y$ であることは、$X\subset Y$ かつ $Y\subset X$ が成り立つことです。 つまり、$x\in X$ ならば $x\in Y$ であり、$y\in Y$ ならば $y\in X$  が成り立つことを示せば良いです。 (1) の証明 $b\in f(C_1\cap C_2)$ であるとします。 このとき、$b=f(a)$ となる $a\in C_1\cap C_2$ が存在します。 よって、$a\in C_1$ かつ $x\in C_2$ が成り立ちます。 よって、像の定義から、$f(a)\in f(C_1)$ であり、$f(a)\in f(C_2)$  が成り立ちます。よって、$b=f(a)\in f(C_1)\cap f(C_2)$ が成り立ちます。 これで、$f(C_1\cap C_2)\subset f(C_1\cap C_2)$ が成り立ちます。 (2) の証明 これはレポート問題なのですが、 方針のみ書いておきます。 まず、$b\in f(C_1\cup C_2)$ ならば、$b\in f(C_1)\cup f(C_2)$  を示します。上と同じように、像の定義から、$b=f(a)$ となる $a\in C_1\cup C_2$ が存在します。そして..... 今度は逆に、$b’\in f(C_1)\cup f(C_2)$ とすると、$b\in f(C_1\cup C_2)$ が成り立つことを示します。 $b'\in f(C_1)\cup f(C_2)$ とすると、$b’\in f(C_1)$ または、$b’\in f(C_2)$ が成りたちます。 前者であれば、$b’=f(a’)$ となる $a’\in C_1$ が存在し、 後者であれば、..... ---------------- このように、 $f(C_1\cup C_2)\subset f(C_1\cup C_2)$ と $f(C_1)\cup f(C_2)\subset f(C_1\cup C_2)$ を両方示すことによって 証明を行います。 この内容でわからないことがありましたら、下のコメント欄か、 いつでも連絡いただければと思います。 連絡先は、数学リテラシー1の下部にあります。

数学リテラシー1(第1回)
2020/04/29

[場所:manaba上(火曜日12:00〜)] 数学リテラシー1のHP 集合の基礎 まずは数学は集合からやっていかなくちゃならんのですが、 そこで最初に躓くことは、この集合という抽象的な概念です。 しかし、集合はわかってしまえばなんてことはありません。 考え方をみにつけてしまえばたとえ小学生だって理解できます。 抽象的な概念をやわらかくするには、 頭の中によい例を思い描くことです。 理解のためには具体的なイメージを持つことが大切です。 まず、集合がどういうものか述べます。 集合とはものの集まりをいいます。 ものというのは、数字や論理式を用いて定義された対象を 集めたもののことをいいます。 集合に入っている要素を元といいます。 集合というと、「集合!!整列!!前ならえ!!」 という体育の時間かと思いますがそうではないですね。 確かに筑波は体育学群もありスポーツは盛んですが、 数学だってやっています。ノーベル賞だって獲っています。 魔法使いもいます。 それはさておき、 集合とは、物があつまった状態、そのものたち 自身のことをいいます。 イメージするものは、 例えば、りんごがバスケットの中にいくつか入っているイメージでしょうか。 りんごが一つの場所に集まっています。ものが集まっていますから この状態を集合といいます。 大事なことは、ものというのは、りんごのように一つ一つがちゃんと 区別されている必要があります。 おばけのように、考えているうちに消えてしまったりするようなものは 集合とはなりません。 なのでおばけの集合というものは考えることはできません。 このへんは考え方次第かもしれませんが.... 少なくとも、みんながそれ!と確認ができるものでないといけません。 そのほか、ある幼稚園にいる園児だって一人一人を元とした集合をなします。 目まぐるしくうごきまわってなかなか判別することは難しいかもしれませんが、 カリスマ保育士がひとたび声をかけて、絵本を読みだせば、みんな静まり返って その絵本の読み聞かせに耳を傾けます。 どちらにしても、そこに、一つ一つ区別できる対象が存在することが大事です。 数学でよく扱う例をみましょう。 例 よく数学で使われるのは次の集合たちです。 ${\mathbb N}$ 自然数の集合 ${\mathbb R}$ 実数の集合 ${\mathbb Q}$ 有理数の集合 ${\mathbb Z}$ 整数の集合 この集合たちにはこのさき同じ記号を使っていくことになります。 集合$X,Y$ に対して、$X$ の全ての元が $Y$ の元であるとき、 $X\subset Y$ と表します。 つまり、$X$ の全ての元が $Y$の元であるということです。 $X\subset Y$ のような関係を包含関係といいます。 $X$ のことを $Y$ の部分集合ということもあります。 上の例ですと、 $${\mathbb N}\subset {\mathbb Z}\subset {\mathbb Q}\subset {\mathbb R}$$ のような包含関係になります。 何も元を含まないものを空集合といいます。 空集合も集合の一つです。$\emptyset$ と書きます。 $\{x|x\not\in A\}$ のことを$A^c$ のように書いて、$A$ の補集合といいます。 c とは、補集合を表すcomplementの頭文字です。 集合の書き方 $A$ の集合で、命題 $P(x)$ を満たす集合を $$\{x\in A|P(x)\}$$ のように書きます。 命題については、のちに解説されます。 例えば、1より大きい整数の集合は、 $$\{x\in {\mathbb Z}|x>1\}$$ となります。 集合の演算 集合同士の演算を以下のように定義します。 $A\cup B=\{x|x\in A\text{または}x\in B\}$ (和集合) $A\cap B=\{x|x\in A\text{かつ}x\in B\}$ (共通集合) $A\setminus B=\{x|x\in A\text{かつ}x\not\in B\}$ (差集合) $A\setminus B=A\cap B^c$ と書くこともできることに注意しておきます。 ド・モルガンの法則 次が成り立ちます。 $$(A\cap B)^c=A^c\cup B^c$$ $$(A\cup B)^c=A^c\cap B^c$$ 補集合と集合の演算の間の分配法則ですが、 $\cap$ と $\cup$ が互いに入れ替わることに注意をしてください。 問題 $$U=\{1,2,3,4,....20\}$$ とする。 $A=\{x\in U|x\text{は素数}\}$ $B=\{x\in U|x\text{は60の約数}\}$ $A\cup B$, $A\cap B$, $A\setminus B$ $(B\setminus A)^c$ はどうなるか? とすると、以下の集合となります。 $$A\cup B=\{1,2,3,4,5,6,7,10,11,12,13,15,17,19,20\}$$ $$A\cap B=\{8,9,14,16,18\}$$ $$A\setminus B=\{7,11,13,17,19\}$$ $$(B\setminus A)^c=(B\cap A^c)^c=B^c\cup A=\{2,3,5,7,8,9,11,13,14,16,17,18,19\}$$ 問題 (1) 3つの元からなる集合 $\{a,b,c\}$ の部分集合を全て書け。 (2) また、元の数が $N$ 個の場合、その部分集合はいくつ作られるか? (解答) (1) $\emptyset$, $\{a\}$. $\{b\}$, $\{c\}$, $\{a,b\}$, $\{a,c\}$, $\{b,c\}$, $\{a,b,c\}$ (解答終了) となります。ここで空集合も部分集合であることに注意しましょう。 (2) $N$ この元からなる集合の部分集合を数える。 $\{a_1,a_2,\cdots, a_N\}$ の部分集合は、それぞれの元についてそれが 含まれるか含まれないかの 2通りずつパターンがあるから、全部で、$2^N$ 通りあります。 つまり部分集合は全部で $2^N$ 個作れる。(解答終了) 命題 命題・・・真偽が判定できるもの。 $p,q$ をそれぞれ何かの命題とする。 例えば、$p=$「$a$ は $-1$ 以下である」などである。 この場合、$a$ に何か入れて成り立つので、 $p(a)$ ということもあります。 「$p$ かつ $q$」 を $p\land q$ とかきます。 「$p$ または $q$」 を $p\lor q$ とかきます。 「$p$ ならば $q$」 を $p\Rightarrow  q$ とかく $p$ の否定命題を $\bar{p}$ とかく。 よって、$p\Rightarrow q$ の対偶は、$\bar{q}\Rightarrow \bar{p}$ とかける。 全体集合 $U$ を決めておきます。 このとき、 $P=\{x\in U|p(x)\}$ を命題 $p$ の真理集合という。 命題$q$ の真理集合を $Q$ と書くと、 $p\land q$ の真理集合は、$P\cap Q$ となり、 $p\lor q$ の真理集合は、$P\cup Q$ となり、 $\bar{p}$ の真理集合は、$P^c$ となります。 また、 $p\Rightarrow q$ であることは、 $P\subset Q$ とかけます。 ド・モルガンの法則は、命題を次のように書き換えることができます。 $\overline{p\land q}=\bar{p}\lor \bar{q}$ $\overline{p\lor q}=\bar{p}\land \bar{q}$ ここでのイコールは、命題の真偽がこの両辺においていつでも一致する ことを表しています。 また、対偶が等しい命題であることは、 $p\Rightarrow q=\bar{q}\Rightarrow \bar{p}$ と書くことができます。

トポロジー入門(第7回)
2019/12/12

[場所1E303,203(月曜日3,4限)] トポロジー入門のHP トポロジー入門演習のHP 前回は開基を定義しました。 開基とは開集合の集合ですが、 任意の開集合が開基に属する開集合を使って覆えるものをいいます。 今回は 可算公理 についてやりました。 定義7.1 $(X,\mathcal{O})$ が第2可算公理を満たすとは、 $X$のある開基として、可算個のものが取れるときをいう。 定義7.2 $(X,\mathcal{O})$ が可分であるとは、ある可算部分集合 $D\subset X$ が存在して、 $X=\overline{D}$ となることをいう。 このような部分集合 $\overline{D}=X$ となる部分集合のことを稠密部分集合といいます。 まず、次の定理を示しました。 定理7.1 $(X,\mathcal{O})$ が第2可算公理をみたすとき、$X$ は 第1可算公理を満たし、可分である。 (証明) $\mathcal{B}$ を $X$ の可算開基とします。 $\mathcal{N}^\ast(x)=\{U\in \mathcal{B}|x\in U\}$ とします。 このとき、$\mathcal{N}^\ast(x)$ が $x$ の基本近傍系であることを示します。 $\forall U\in \mathcal{N}(x)$ とします。 このとき、$x\in V\subset U$ となる開集合$V$ が存在して、さらに開基の定義から $x\in W\subset V$ となる $W\in \mathcal{B}$ がなりたち、 $\mathcal{N}^\ast(x)$ の定義から、$W\in \mathcal{N}^\ast(x)$ が成り立ちます。 ゆえに、$\mathcal{N}^\ast(x)$ は基本近傍系です。 $\mathcal{N}^\ast(x)$ は可算集合の部分集合なので、高々可算集合です。 つまり、$X$ は第1可算公理を満たします。 $\forall U\in \mathcal{B}$ に対して、$a_U\in U$ を選んでおきます。 このとき、$D=\{a_U|U\in \mathcal{B}\}$ とすると、$D$ は可算集合です。 $\forall x\in X $ と$\forall U\in\mathcal{N}(x)$ を取ると、$x\in V\in \mathcal{B}$ が存在して、 $V\subset U$ となります。よって、$a_V\in V$ を満たし、$\emptyset\neq V\cap D\subset U\cap D$ ですので、とくに$U\cap D\neq \emptyset$ となります。 よって、$D$ は $X$ の稠密部分集合ですので、$X$ は可分空間となります。$\Box$ さらに次の定理を示します。 定理7.2 距離位相空間 $(X,\mathcal{O}_d)$ は、可分であることと第2可算であることは 同値である。 (証明)定理7.1から可分であるなら、第2可算であることをしめせばよい。 $A\subset X$ を可算稠密集合とします。 $\mathcal{B}=\{B_d(x,\frac{1}{n}|x\in A,n\in\mathcal{N}\}$  は可算集合なので、$\mathcal{B}$ が開基であることを示せばよいことになります。 $\forall U\in \mathcal{O}$ と $\forall x\in U$ に対して、 $B_d(x,\frac{1}{n})\subset U$ となるような$n\in {\mathbb N}$ が存在します。 また、$A$ は稠密なので、$a\in B_d(x,\frac{1}{2n})$ となる $a$ が存在します。 よって、$x\in B_d(a,\frac{1}{2n})$ がなりたち、 $B_d(a,\frac{1}{2n})\subset B_d(x,\frac{1}{n})$ がなりたちます。 なぜなら、$z\in B_d(a,\frac{1}{2n})$ なら、 $d(z,x)\le d(z,a)+d(a,x)<\frac{1}{2n}+\frac{1}{2n}=\frac{1}{n}$ となるからです。 よって、$x\in B_d(x,\frac{1}{2n})\subset B_d(x,\frac{1}{n})\subset U$ となるので $\mathcal{B}$ が開基であることがわかります。$\Box$ 例を考えましょう。 例1 $({\mathbb R},\mathcal{O}_{d^1})$ を考えると、距離位相空間なので、${\mathbb Q}$ が可算稠密集合なので、可分空間になります。 よって、第2可算公理を満たし、かつ第1可算公理も満たします。 開基として $\mathcal{B}=\{B_d(q,\frac{1}{n})|q\in {\mathbb Q},n\in{\mathbb N}\}$ を とれますが、実際、$\{(a,b)|a,b\in {\mathbb R}\}$を取っておいても 開基となります。つまり、開区間が開基となる位相空間です。 例2 $({\mathbb R},\mathcal{O}_l)$ を以下のように定義します。 $\mathcal{O}_l$ を $\mathcal{B}_l=\{[a,b)|a,b\in {\mathbb R}\}$ を開基とする 位相空間とし、下限位相もしくはゾルゲンフライ直線といいます。 このときも、${\mathbb Q}$ が可算稠密集合になるので可分な位相空間です。 しかし、第2可算を満たしません。 なぜなら、$\mathcal{B}$ を可算開基として矛盾を導きます。 開集合 $[x,x+1)$ に対して $x\in U_x\subset [x,x+1)$ となる開基 $U_x\in \mathcal{B}$  が存在します。よって、$\{U_x|x\in{\mathbb R}\}$ は $\mathcal{B}$ の 部分集合ですが、可算濃度ではありません。 というのも、$x\neq x’$ に対して $\min(U_x)=x$ であり、$\min(U_{x’})=x’$ であり $U_x\neq U_{x’}$ であるからです。 よって、可分で第2可算公理を満たさないので、$({\mathbb R},\mathcal{O}_l)$  は距離化できない位相空間ということになります。 ここで次の定義をします。 定義7.3 $X$ 上の位相 $\mathcal{O}_1$ と $\mathcal{O}_2$ が 集合として $\mathcal{O}_1\subset \mathcal{O}_2$ を満たすとき、 $\mathcal{O}_2$ は $\mathcal{O}_1$ より強い位相、また、 $\mathcal{O}_1$ は $\mathcal{O}_2$ より弱い位相といいます。 そのとき、$(X,\mathcal{O}_1)\le (X,\mathcal{O}_2)$ とかいたり、 単に、$\mathcal{O}_1\le \mathcal{O}_2$ と書いたりします。 $\mathcal{O}_1\subset \mathcal{O}_2$ かつ $\mathcal{O}_1\neq \mathcal{O}_2$ が成り立つとき、$\mathcal{O}_2$ は $\mathcal{O}_1$ より真に強い 位相といい、$\mathcal{O}_1<\mathcal{O}_2$ と書きます。 $X$ 上の位相はこの $<$ および $\le$ によって順序集合となります。 一番強い位相は離散位相空間で、一番弱い位相は、密着位相空間です。 実は、$\mathcal{O}_{d^1}<\mathcal{O}_l$ がなりたちます。 これはレポート問題に出したので解いてみてください。 最後に次の例を挙げて終わります。 例3 $(X,\mathcal{O}_{cf})$ を $\mathcal{O}_{cf}=\{U\subset X||U^c|<\aleph_0\}$ とします。 この位相を補有限位相といいます。 $X={\mathbb R}$ として考えます。 この位相空間 $({\mathbb R},\mathcal{O}_{cf})$ は第1可算でないことがわかります。 このとき、$\forall x\in {\mathbb R}$ に対して、基本近傍系 $\mathcal{N}^\ast(x)$  が可算集合であるとします。 このとき、 $\{x\}=\cap_{U\in \mathcal{N}(x)}U$ であることを示します。 $\subset $ は明らかです。$y\neq x$ を取ると、 $X\setminus\{y\}\in \mathcal{N}(x)$ であるから、$y\not\in \cap_{U\in\mathcal{N}(x)}U$ となります。よって、$\supset$ がなりたちます。 また、$\{x\}=\cap_{U\in\mathcal{N}(x)}U=\cap_{U\in\mathcal{N}^\ast(x)}U$  がなりたちます。最後の等式は $\subset$ であることは、基本近傍系が 近傍系の部分集合であることからわかります。 $\supset$ であることは、$y\in \cap_{U\in\mathcal{N}(x)}U$ に対して、 $\forall U\in \mathcal{N}(x)$ に対して、ある $V\in \mathcal{N}^\ast(x)$ が 存在して、$z\in V\subset U$ であるから、$z\in U$ となります。 つまり、$z\in \cap_{U\in\mathcal{N}(x)}U$ であることになります。 よって、 $$\{x\}=\cap_{U\in\mathcal{N}(x)}U=\cap_{U\in\mathcal{N}^\ast(x)}U$$ であり、この補集合をとると、 $$\{x\}^c=\cup_{U\in \mathcal{N}(x)}U^c=\cup_{U\in\mathcal{N}^\ast(x)}U^c$$ となります。ここで、$X$ が実数の場合、最左辺は非可算集合であり、 最右辺は、高々可算集合であり、矛盾します。 よって、$({\mathbb R},\mathcal{O}_{cf})$ は第1可算ではないということになります。 つまり、距離化可能でもありません。

トポロジー入門(第6回)
2019/12/12

[場所1E303,203(月曜日3,4限)] トポロジー入門のHP トポロジー入門演習のHP 今回は近傍系を元に位相空間を構成することを行いました。 前回最後に以下を定義しました。 定義5.5 $X$ を集合とする。$\forall x\in X$ に対して $\mathcal{N}(x)\subset \mathcal{P}(X)$ を次を満たすものとする。 (1) $\mathcal{N}(x)\neq \emptyset\land (V\in \mathcal{N}(x)\to x\in V)$ (2) $\forall V_1,V_2\in \mathcal{N}(x)(V_1\cap V_2\in \mathcal{N}(x))$ (3) $\forall V\in \mathcal{N}(x)(V\subset W\to W\in \mathcal{N}(x))$ (4) $\forall V\in \mathcal{N}(x)\exists W\in \mathcal{N}(x)(y\in W\to V\in \mathcal{N}(y))$ このとき、$\mathcal{N}(x)$ を$x$ の近傍系といい、$\mathcal{N}(x)$ の元を $x$ の近傍という。 また、近傍系を集めた集合 $\mathcal{N}=\{\mathcal{N}(x)|x\in X\}$ を$X$ の近傍系という ことにします。 ここでの話題は 近傍系と開集合系の同値性 です。 開集合系をもつ位相空間 $(X,\mathcal{O})$ から、 ある近傍系を定義することができます。 定義6.1 $(X,\mathcal{O})$ を位相空間とする。$\mathcal{N}_{\mathcal{O}}(x)$ を $$\{V\in \mathcal{P}(X)|\exists U\in \mathcal{O}(x\in U\subset  V)\}$$ として定義する。 このとき、以下を証明をしました。 定理6.1 $(X,\mathcal{O})$ を位相空間とする。$\forall x\in X$ に対して $\mathcal{N}_{\mathcal{O}}(x)$ は $x$ の近傍系である。 (証明) まず、開集合 $U\in \mathcal{O}$ と $x\in U$ に対して $U\in \mathcal{N}_{\mathcal{O}}(x)$ であることは簡単にわかります。 近傍系の条件(1)から(4)を満たすことを示します。 (1) $X\in \mathcal{N}_{\mathcal{O}}(x)$ を満たすので、成り立ちます。 (2) $V_1,V_2\in \mathcal{N}_{\mathcal{O}}(x)$ とすると、 $x\in U_1\subset V_1$ かつ $x\in U_2\subset V_2$ を満たす $U_i\in \mathcal{O}$ を が存在します。よって $x\in U_1\cap U_2\subset V_1\cap V_2$ かつ $U_1\cap U_2\in \mathcal{O}$ を満たすので、$V_1\cap V_2\in \mathcal{N}_{\mathcal{O}}(x)$ となります。 (3) $V\in \mathcal{N}_{\mathcal{O}}(x)$ に対して、$U\in \mathcal{O}$ が存在して、 $x\in U\subset V$ が存在します。$V\subset W$ とすると、 $U\subset V\subset W$ が成り立ち、とくに、$x\in U\subset W$ となるので、 $W\in \mathcal{N}_{\mathcal{O}}(x)$ となります。 (4) $\forall V\in\mathcal{N}_{\mathcal{O}}(x)$ に対して $x\in W\subset V$ を満たす $W\in \mathcal{O}$ が存在します。 証明の最初の記述から $\forall y\in W$ に対して、 $W\in \mathcal{N}_{\mathcal{O}}(y)$ となります。 よって、$W\subset V$ であるから、$V\in \mathcal{N}_{\mathcal{O}}(y)$ となります。 $\Box$ 各点 $x$ に対して $x$ の近傍系 $\mathcal{N}(x)$ を 定義したとき、逆に $X$ に位相を定義することができます。 定義6.2   各点 $x$ に対して $\mathcal{N}(x)$ を近傍系とすると、 $\mathcal{O}_{\mathcal{N}}$を $\{U\subset X|\forall x\in U(U\in\mathcal{N}(x))\}$ と定義する。  そのとき、以下を示しました。 定理6.2 $\mathcal{O}_{\mathcal{N}}$ は開集合系である。 (証明) (I) の成立は省略します。 (II) を証明をします。$U_1,U_2\in \mathcal{O}_{\mathcal{N}}$ とします。 $\forall x\in U_1\cap U_2$ とすると、$x\in U_1$ かつ $x\in U_2$ が成り立ち、 $U_1\in \mathcal{N}(x)$ かつ  $U_2\in \mathcal{N}(x)$ を満たします。 よって、近傍系の定義の(2)から $U_1\cap U_2\in \mathcal{N}(x)$ を満たすので、 $U_1\cap U_2\in \mathcal{O}_{\mathcal{N}}$ が成り立ちます。 (III) を証明します。$\{U_\lambda\in \mathcal{O}_{\mathcal{N}}|\lambda\in \Lambda\}$ とします。 このとき、$x\in \cup_{\lambda\in \Lambda}U_\lambda$ とすると、 $\exists \lambda\in \Lambda(x\in U_\lambda)$ となり、$U_\lambda\in \mathcal{N}(x)$ となります。よって 近傍の条件(3) から$\cup_{\lambda\in\Lambda}U_\lambda\in \mathcal{N}(x)$ ですから、 $\cup_{\lambda\in \Lambda}U_\lambda\in \mathcal{O}_{\mathcal{N}}$ が成り立ちます。 よって、位相の条件が満たされるので、$\mathcal{O}_{\mathcal{N}}$ は開集合系となります。$\Box$ まとめると $X$ を集合としたとき、写像 $$\{\mathcal{O}|\mathcal{O}\text{は $X$ 上の開集合系}\}\to \{\mathcal{N}|\mathcal{N}\text{は$X$ の近傍系}\}$$ $$\mathcal{O}\mapsto \mathcal{N}_{\mathcal{O}}$$ を定義しました。また、この逆向きの写像 $\mathcal{N}\mapsto \mathcal{O}_{\mathcal{N}}$ も定義できました。 実際、これらの写像が逆写像の関係であることを示しましょう。 定理6.3 $\mathcal{O}_{\mathcal{N}_{\mathcal{O}}}=\mathcal{O}$ である。 (証明) $U\in \mathcal{O}_{\mathcal{N}_{\mathcal{O}}}$ とします。 このとき、$\forall x\in U$ に対して $U\in \mathcal{N}_{\mathcal{O}}(x)$ が成り立ちます。 よって $x\in V_x\subset U$ となる $V_x\in \mathcal{O}$ が存在して、 $U=\cup_{x\in U}V_x$ が成り立ちます。 (このイコールの証明は省略します。) 位相の条件 (III) より、$U\in \mathcal{O}$ となります。 逆に、$U\in \mathcal{O}$ が成り立つとすると、$\forall x\in U$ に対して $U\in \mathcal{N}_{\mathcal{O}}(x)$  が成り立ちます。これは、$U\in \mathcal{O}_{\mathcal{N}_{\mathcal{O}}}$  が成り立つことを意味します。$\Box$ また、次が示されます。 定理6.4 $\mathcal{N}_{\mathcal{O}_{\mathcal{N}}}=\mathcal{N}$ である。 $\forall x$ に対して、$V\in \mathcal{N}_{\mathcal{O}_{\mathcal{N}}}(x)$ とします。 このとき、$\exists U\in \mathcal{O}_{\mathcal{N}}(x\in U\subset V)$ が成り立ちます。 また、$U\in \mathcal{N}(x)$ ですから、(3)から $V\in \mathcal{N}(x)$ が成り立ちます。 逆に、$V\in\mathcal{N}(x)$ とします。 $V’=\{y\in X|V\in \mathcal{N}(y)\}$ と定義します。 このとき、$z\in V’$ に対して $V\in \mathcal{N}(z)$ であるから、とくに $z\in V$ であり、 $V’\subset V$ が成り立ちます。 また、$\forall y\in V’$ とすると、$V\in \mathcal{N}(y)$ が成りたち、(4)から $\exists W\in \mathcal{N}(y)$ かつ $z\in W\to V\in \mathcal{N}(z)$ が成り立ちます。 よって、$z\in V’$ であるから、 $W\subset V’$ が成り立ちます。(3) より、$V’\in \mathcal{N}(y)$ が成り立ちます。 これは、$V’\in \mathcal{O}_{\mathcal{N}}$ であることがわかります。 よって、$V\in \mathcal{N}_{\mathcal{O}_{\mathcal{O}}}$ がわかりました。$\Box$ ここで以下を示します。 定理6.5 $O=\{\mathcal{O}|\mathcal{O}\text{は $X$ 上の開集合系}\}$ とし、 $M=\{\mathcal{N}|\mathcal{N}\text{は$X$ の近傍系}\}$ としたとき、$\phi:O\to M\ \ (\mathcal{O}\mapsto \mathcal{N}_{\mathcal{O}})$ としたとき $\phi$ は全単射である。 (証明) $\forall \mathcal{O}_1, \mathcal{O}_2\in O$ を取ります。 このとき、$\phi(\mathcal{O}_1)=\phi(\mathcal{O}_2)$ であるとすると、 $\mathcal{N}_{\mathcal{O}_1}=\mathcal{N}_{\mathcal{O}_2}$ であるから、$\mathcal{O}_{\mathcal{N}_{\mathcal{O}_1}}=\mathcal{O}_{\mathcal{N}_{\mathcal{O}_2}}$  であり、定理6.3から $\mathcal{O}_1=\mathcal{O}_2$ が成り立ちます。 よって $\phi$ は単射であることがわかります。$\phi$ が全射であることは 定理6.4からわかります。 $\Box$ 定理6.6  $(X,\mathcal{N}_X)$ と $(Y,\mathcal{N}_Y)$ を $X,Y$ 上の位相空間とする。 このとき、$f:X\to Y$ が連続であることの必要十分条件は、$\forall x\in X$ において、$\forall V\in \mathcal{N}_Y(f(x))\to \forall f^{-1}(V)\in \mathcal{N}_X(x)$ が成り立つことである。 (証明)  $f$ が連続であるとします。 このとき、$\forall V\in \mathcal{N}(f(x))$ とすると、 $f(x)\in U\subset V$ となる $U\in \mathcal{O}_{\mathcal{N}_Y}(f(x))$ が存在して、 $x\in f^{-1}(U)\subset f^{-1}(V)$ が成り立ち、連続性から $f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$ となります。 $f^{-1}(V)\in \mathcal{N}(x)$ が成り立ちます。 逆を示します。$\forall U\in \mathcal{O}_Y$ とします。 このとき、$\forall x\in f^{-1}(U)$ に対して $U\in \mathcal{N}_Y(f(x))$ ですから条件より、$f^{-1}(U)\in \mathcal{N}_X(x)$ となるので、 $f^{-1}(U)\in \mathcal{O}$ が成り立ちます。 よって $f$ は連続となります。$\Box$ 次に 基本近傍系 について言及しました。 定義6.3 $\mathcal{N}(x)$ を $x$ の近傍系とする。 $\mathcal{N}^\ast(x)\subset \mathcal{N}(x)$ が基本近傍系であるとは、 $\forall V\in \mathcal{N}(x)$ に対して $\exists V’\in \mathcal{N}^\ast(x)(V’\subset V)$ を 満たすものをいう。 つまり、基本近傍系とは、近傍系の部分集合で近傍として基本的なものを 含んでいるものです。基本的というのは、いくらでも小さい近傍が含まれるということを意味します。 例 例えば、$X$ 上の距離位相空間 $\mathcal{O}_d$ において、 $\mathcal{N}_d=\mathcal{N}_{\mathcal{O}_d}$ と定義します。 $\mathcal{N}^\ast_d(x)=\{B_d(x,\epsilon)\subset X|\epsilon>0\}$ としますと、 $\mathcal{N}^\ast_d(x)$ は$\mathcal{N}_d$ の基本近傍系となります。 定義6.3.5 $(X,\mathcal{O})$ が第1可算空間であるとは $\forall x\in X$ に 対して高々可算個の基本近傍系をもつことをいう。 例 例えば、任意の距離位相空間 $\mathcal{O}_d$ は第1可算空間です。 基本近傍系 $\mathcal{N}^\ast(x)$ として、$\mathcal{N}^\ast(x)=\{B_d(x,\frac{1}{n})|n\in\mathcal{N}\}$ とすると $\mathcal{N}^\ast(x)$ は基本近傍系になります。 というのは、$U\mathcal{N}(x)$ に対して、$B_d(x,\epsilon)\subset U$ となる$\epsilon>0$ が存在しますが、$\frac{1}{n}<\epsilon$ を取れば、$B_d(x,\frac{1}{n})\subset B_d(x,\epsilon)\subset U$ となるからです。 開基を定義します。 定義6.4 $(X,\mathcal{O})$ を位相空間とし、$\mathcal{B}\subset \mathcal{O}$ が開基 であるとは、$\forall U\in \mathcal{O}$ と $\forall x\in U$ に対して、$B\in \mathcal{B}$ が存在して、$x\in B\subset U$ となることをいう。 最後に次の定理を示して終わりました。 定理6.7 $(X,\mathcal{O})$ を位相空間とする。$\mathcal{B}\subset \mathcal{O}$ が開基であることは、$\forall U\in \mathcal{O}$ に対してある $\mathcal{B}’\subset \mathcal{B}$ が存在して、$U=\cup\mathcal{B}’$ とできることをいう。 証明 $\mathcal{B}\subset \mathcal{O}$ を開基とします。 このとき $\forall U\in \mathcal{O}$ に対して、$\mathcal{B}’=\{V\subset X|V\in \mathcal{B},x\in V\subset U\}$ とすると、$\cup\mathcal{B}’=U$ となります。 というのは、$\subset$ は、$\forall V\in \mathcal{B}’$ に対して、$V\subset U$ となり、$\supset$ は、$\forall x\in U$ に対して$x\in V\in \mathcal{B}’$ からです。 逆を示します。$\forall U\in \mathcal{B}$ に対して $U=\cup\mathcal{B}’$ かつ $\mathcal{B}’\subset \mathcal{B}$ となる$\mathcal{B}’$ が存在するので、 $\forall x\in U$ に対して、$V\in \mathcal{B}’$ が存在して、$x\in V$ となるので、 $x\in V\subset U$ となります。$\Box$

トポロジー入門(第5回)
2019/11/23

[場所1E303,203(月曜日3,4限)] トポロジー入門のHP トポロジー入門演習のHP 前回残した定義があったのでそれを説明をしました。 定義5.1 $(X,\mathcal{O})$ を位相空間とする。 $F\subset X$ が $F^c\in\mathcal{O}$ であるとき、$F$ を閉集合という。 定義5.2 閉集合全体からなる集合を閉集合系という。 閉集合系とは、$\mathcal{C}=\{F\subset X|F^c\in \mathcal{O}\}$ であり、 以下を満たす。 (I) $X,\emptyset\in \mathcal{C}$ (II) $F_1\cdots, F_n$ が有限個の閉集合とすると、$F_1\cup\cdots \cup F_n\in \mathcal{C}$ を満たす。 (III) $\{F_\lambda\in \mathcal{C}|\lambda\in \Lambda\}$ を閉集合族とすると$\cup_{\lambda\in \Lambda}F_\lambda\cap \in \mathcal{C}$を満たす。 定義5.3 $(X,\mathcal{O}_X)$ と $(Y,\mathcal{O}_Y)$ を位相空間とする。 $\mathcal{C}_X,\mathcal{C}_Y$ を $X,Y$ の閉集合系とする。 写像 $f:X\to Y$ が  $\forall U\in \mathcal{O}_X\Rightarrow f(U)\in \mathcal{O}_Y$ を満たすとき$f$ は開写像という。 また、 $\forall F\in \mathcal{C}_X\Rightarrow f(F)\in \mathcal{C}_Y$ を満たすとき $f$ は閉写像という。 また、$f$ が全単射であり、$\forall U\in \mathcal{O}_X\Leftrightarrow f(U)\in \mathcal{O}_Y$ が成り立つとき、$f$ は同相写像という。 例 $(0,1)\to {\mathbb R}_{>0}$ を $x\mapsto \tan(x)$ は $(0,1)$ と ${\mathbb R}_{>0}$ の間の同相写像を与えます。 全単射であることはすぐわかります。 また、連続であることは、$\tan (x)$ が連続関数であることからわかります。 (連続関数であることは位相空間同士の連続写像であることと同値であるから) また、$\text{Arctan}(x)$ が連続であることから、 $\tan(x)$ の逆写像も連続となります。 このようにして$(0,1)$ と ${\mathbb R}_{>0}$ が連続であることがわかります。 また、${\mathbb R}\to {\mathbb S}^1=\{(x,y)\in{\mathbb R}^2|x^2+y^2=1\}$  が全射な連続な開写像であることがわかるのですが、 これはまた後日行います。 例 $(X,\mathcal{O})$ を密着位相ではない位相空間とします。 このとき、 $i:(X,\mathcal{O})\to (X,\{\emptyset,X\})$ を恒等写像とすると、 $i$ は連続な全単射で、同相写像ではありません。 もし同相なら、開集合系の濃度は特に等しくなります。 次の定理を示しました。 定理5.1 $(X,\mathcal{O}_X)$ と $(Y,\mathcal{O}_Y)$ $(Z,\mathcal{O}_Z)$ を位相空間とする。 $f:X\to Y$ と $g:Y\to Z$ が連続写像とする。 このとき、$g\circ f$ も連続写像となる。 (証明) $\forall U\in \mathcal{O}_Z$ とすると、$f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_Y$ が成り立ち、 さらに、$g^{-1}(f^{-1}(U))=(f\circ g)^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$ が成り立つので、 $g\circ f$ は連続写像となります。 今回は、 位相空間の内部、閉包、境界 についてやりました。 まずは、内部と閉包と境界を定義します。 定義5.4 $(X,\mathcal{O})$ を位相空間とする。 $A^\circ$ を $A$ に包まれる最大の開集合と定義する。 $\bar{A}$ を $A$ を包む最小の閉集合と定義する。 $\partial A=\bar{A}\setminus A^\circ$ と定義する。 とくに、$A^\circ$ は開集合であり、$\bar{A}$ は閉集合になります。 ここで次の定理を示しておきます。 定理5.2 (1) $A^\circ=\{a\in X|\exists U\in \mathcal{O}(a\in U\subset A)\}$ (2) $\bar{A}=\{a\in X|\forall U\in\mathcal{O}(a\in U\to A\cap U\neq \emptyset\}$ (3) $\partial A=\{a\in X|\forall U\in \mathcal{O}(a\in U\to (A\cap U\neq \emptyset\land A^c\cap U\neq \emptyset)\}$ (証明) (1) まず、(1) の右辺を $A’$ とします。 $A’=\cup_{U\subset A,U\in \mathcal{O}}U$ となることを示します。 $x\in  A’$ ならば、$U\in \mathcal{O}$ が存在して $x\in U\subset A$ を満たします。 とくに、$x\in \cup_{U\subset A,U\in \mathcal{O}}U$ が成り立ちます。 一方、$x\in \cup_{U\subset A,U\in \mathcal{O}}U$とすると、$\exists U\in \mathcal{O}$ であり、$x\in U$ であるが、$U\subset A$ であることから $x\in A’$ となり、 合わせて、$A’=\cup_{U\subset A,U\in \mathcal{O}}U$ が示せました。 最後に、$A’$ が $A$ に包まれる最大の開集合であることを証明をします。 まず、$A’$ は開集合の和集合なので、開集合です。 もし、$A'\subset A''\subset A$ となる開集合 $A’’$ が存在したとすると、 $A’’$ は $A’’\subset A$ かつ $A\in \mathcal{O}$ を満たすので、 $A’’\subset \cup_{U\subset A,U\in \mathcal{O}}U=A'$ であるから、 $A’’=A’$ となります。 つまり、$A’’$ は$A$ に包まれる最大の開集合ということになります。 (2) この(2) の右辺を $B’$ とすると、 $B’=\cap_{A\subset F,F\in \mathcal{C}}F$ となることを示します。 $(B’)^c=\{a\in X|\exists U\in \mathcal{O}(a\in U\to A\cap U=\emptyset)\}=\{a\in X|\exists U\in \mathcal{O}(a\in U\subset A^c)\}=\cup_{U\subset A^c,U\in\mathcal{O}}U$ よって、 $B’=\cap_{U\subset A^c,U\in\mathcal{O}}U^c=\cap_{A\subset F,F\in\mathcal{C}}F$ となります。 ここで、$A\subset B’’\subset B’$ となる閉集合とすると、 $B’’\supset \cap_{A\subset F,F\in \mathcal{C}}F=B’$ となるので、 $B’=B’’$ となります。 よって、$B’$ は $A$ を包む最小の閉集合ですので、$B’=\bar{A}$ となります。 ゆえに(2) が成り立ちます。 (3) は省略します。 このとき、 $A^\circ$ を $A$ の内部といい、$A^\circ$ の点を $A$ の内点といい、 $\bar{A}$ を $A$ の閉包といい、$\bar{A}$ の点を $A$ の触点といいます。 また、$\partial A$ を $A$ の境界といい、$\partial A$ の点を $A$ の境界点といいます。 次を証明をしました。 定理5.3 $A\in \mathcal{O}\Leftrightarrow A=A^\circ$ $A\in \mathcal{C}\Leftrightarrow A=\bar{A}$ (証明) $A\in \mathcal{O}$ であるとすると、$A$ に包まれる開集合の最大は $A$ 自身であり、 $A^\circ =A$ がなりたち、逆に $A=A^\circ$ であるなら $A^\circ$ は開集合であるから $A\in \mathcal{O}$ が成り立ちます。 $A\in\mathcal{C}$ であるなら、$A$ を包む最小の閉集合は $A$ 自身が 存在するので、$\bar{A}=A$ となります。逆に、 $\bar{A}=A$ であるなら、$\bar{A}$ は閉集合であるから $A\in \mathcal{C}$ です。 定理5.4 $f:X\to Y$ が連続であることは以下とそれぞれ同値である。 (i) $\forall V\in \mathcal{C}_Y$ ならば $f^{-1}(V)\in \mathcal{C}_X$ である。 (ii) $A\subset X\Rightarrow f(\bar{A})\subset \overline{f(A)}$ である。 (証明) (i) と同値であることはすぐわかるので省略します。 (ii) と同値であることを示します。 もし $f$ が連続であるとします。$A\subset X$ に対して $f^{-1}(\overline{f(A)})$ は閉集合であり、$A$ を包むので、 $\bar{A}\subset f^{-1}(\overline{f(A)})$ となります。 よって、$f(\bar{A})\subset \overline{f(A)}$ となります。 もし、$f(\bar{A})\subset \overline{f(A)}$ を満たすとします。  $\forall F\in \mathcal{C}_Y$ とします。 $f(\overline{f^{-1}(F)})\subset\overline{f(f^{-1}(F))}=\overline{F}=F$ よって、$\overline{f^{-1}(F)}\subset f^{-1}(F)\subset \overline{f^{-1}(F)}$ となりますので $f^{-1}(F)$ は閉集合となります。 よって $f$ は連続となります。$\Box$ 最後に近傍系を定義しました。 定義5.5 $X$ を集合とする。$\forall x\in X$ に対して $\mathcal{N}(x)\subset \mathcal{P}(X)$ を次を満たすものとする。 (1) $\mathcal{N}(x)\neq \emptyset\land (V\in \mathcal{N}(x)\to x\in V)$ (2) $\forall V_1,V_2\in \mathcal{N}(x)(V_1\cap V_2\in \mathcal{N}(x))$ (3) $\forall V\in \mathcal{N}(x)(V\subset W\to W\in \mathcal{N}(x))$ (4) $\forall V\in \mathcal{N}(x)\exists W\in \mathcal{N}(x)(y\in W\to V\in \mathcal{N}(y))$ このとき、$\mathcal{N}(x)$ を $x$ の近傍系といい、$\mathcal{N}(x)$ の元を $x$ の近傍という。

トポロジー入門(第4回)
2019/11/22

[場所1E303,203(月曜日3,4限)] トポロジー入門のHP トポロジー入門演習のHP 今日は位相空間に入ったのですが、その前に 前回で残されていた部分をやりました。 定理4.1 $(X,d)$ を距離空間とする。 $A\subset X$ を部分集合とする。 $\bar{A}=\{x|d(x,A)=0\}$である。 (証明) $A’=\{x|d(x,A)=0\}$ と定義します。$\bar{A}=A’$ であることを 示します。 $x\in \bar{A}$ ならば、$\forall \epsilon>0(B_d(x,\epsilon)\cap A\neq \emptyset)$ ですから、$a\in B_d(x,\epsilon)\cap A$ とすると、 $0\le d(x,a)<\epsilon$ が成り立ちます。 よって、$0\le \inf\{d(x,a)|a\in A\}\le d(x,a)<\epsilon$ であり、$\epsilon>0$ は 任意にとることにより、 $\inf\{d(x,a)|a\in A\}=0$ でなければならない。 よって、$x\in A’$ である。 逆に、$x\in A’$ であるとすると、$\forall \epsilon>0$ に対して、 $\epsilon$ は、$\{d(x,a)|a\in A\}$ の下界にはならないから ある $a\in A$ が存在して、 $0\le d(x,a)<\epsilon$ となります。 (もし任意の $a\in A$ に対して、$\epsilon\le d(x,a)$ なら、$\epsilon$ は、$\{d(x,a)|a\in A\}$ の下界ということになって $\epsilon>0$ が下界でないということに矛盾します。) よって、$a\in B_d(x,\epsilon)\cap A$ であるから、$B_d(x,\epsilon)\cap A\neq \emptyset$ となる。よって、$a\in \bar{A}$ であることがわかります。 よって、$\bar{A}=A’$ であることがわかりました。$\Box$ ここからいよいよ位相空間を始めます。 位相空間 定理3.2では距離空間の間の連続写像を定義しました。 そのとき、距離を用いて定義されましたが そのあと、連続性の条件を、距離を直接使うのではなく、開集合系についての条件として 書き直しました(定理3.2)。 つまり連続性というのは、距離ではなく、開集合が大事だということになります。 このことから、なんらかの開集合の定義があれば、 連続性というのは定義できるのだということが わかります。 距離空間の定義からくる開集合の性質(I),(II),(III)をもつ集合の 集まりを開集合として定義できないか? となるのです。そして、次の定義に至ります。 定義4.1 $X$ を集合とする。$\mathcal{O}\subset \mathcal{P}(X)$ が開集合系であるとは 以下を満たすものをいう。 (I) $\emptyset\in \mathcal{O}$ かつ $X\in \mathcal{O}$ (II) $n\in {\mathbb N}$ に対して、$U_1,\cdots,\cap U_n\in \mathcal{O}$ であるとき、$U_1\cap \cdots U_n\in \mathcal{O}$である。 (III) $\{U_\lambda\in \mathcal{O}|\lambda\in \Lambda\}$ であるなら、$\cup_{\lambda\in \Lambda}U_\lambda\in \mathcal{O}$である。 $\mathcal{O}$ を開集合系としたとき、空間と開集合系のペア $(X,\mathcal{O})$ を位相空間という。 定義4.2 $(X,\mathcal{O}_X)$, $(Y,\mathcal{O}_Y)$ が位相空間とします。 写像 $f:X\to Y$ が連続であるとは、 $\forall U\in \mathcal{O}_Y$ に対して $f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$ を満たすものをいう。 次の定理を示しましょう。 定理4.2 $A\in \mathcal{O}\Leftrightarrow \forall a\in A\exists U\in \mathcal{O}(a\in U\subset A)$ この定理は、距離空間の開集合の定義、 $U\subset X\Leftrightarrow \forall x\in U\exists\epsilon>0(B_d(x,\epsilon)\subset U)$  を一般の位相空間に拡張したものと考えられます。 (証明) $\Rightarrow$ ですが、$U$ として $A$ 自信をとればよい。 $\Leftarrow$ は、$A\subset X$ が $x\in A\exists U\in \mathcal{O}(x\in U\subset A)$ を満たす $U$ を $U_x$ としておきます。 このとき、$A=\underset{x\in A}\cup U_x$ が成り立ちます。 $A\supset \underset{x\in A}\cup U_x$ かつ $A\subset \underset{x\in A}\cup U_x$  が成り立つことを示します。 (というのも、$U_x\subset A$  であることから $\supset$  が成り立ち、 $\forall x\in A$ に対して、$x\in U_x$ であることから、$\subset$ が成り立ちます。 よって、$A=\underset{x\in A}{\cup}U_x$ であり、$A$ は開集合のいくつかの 和集合によって得られるから、$A\in \mathcal{O}$  が 成り立ちます。$\Box$ ここで位相空間の例を与えます。 例1 $X$ を集合とし、$(X,\mathcal{P}(X))$ は位相の条件を満たすので位相空間です。 このような位相空間を離散位相空間といいます。 例2 $X$ を集合とし、$(X,\{\emptyset,X\})$ は位相の条件を満たすので位相空間です。 このような位相空間を密着位相空間といいます。 例3 $(X,d)$ を距離空間とします。$\mathcal{O}_d$ を距離空間の開集合とします。 距離空間の開集合の定義は前回を見てください。 このとき、$(X,\mathcal{O}_d)$ は位相空間としての開集合系の条件を満たすので、 位相空間となります。 このような位相空間を距離位相空間といいます。 ある位相空間 $(X,\mathcal{O})$ がこのように $X$ 上の何かの距離 $d$ からくる 距離位相空間と一致するつまり、$\mathcal{O}=\mathcal{O}_d$ となるとき、 $(X,\mathcal{O})$ は距離化可能であるといいます。 距離の性質をもつ空間を考えたのだから、距離空間が自然に位相空間になることは わかりますが、距離化可能ではない空間が構成できるのでしょうか。 実際、距離化可能ではない例が存在することを証明します。 例4 $X=\{1,2\}$ とします。$X$ の上に位相空間を考えます。 $\mathcal{P}(X)=\{\emptyset,\{1\},\{2\},X\}$ ですから、この部分集合として 位相を与えるものを考えることで位相空間が構成できます。 まず、(I)から、$\mathcal{O}$ には $\emptyset$ と $X$ は必ずふくまれるので、 $\{1\}$ が含まれるか含まれないか、$\{2\}$ が含まれるか含まれないか 4パターンあります。 そのうち、どちらも含む場合が離散位相空間で、 どちらも含まない場合は密着位相空間です。 $\mathcal{O}=\{\emptyset,\{1\},X\}$ としてやると、これも位相の条件を満たします。 この位相空間は、離散位相空間でも密着位相空間でもないですが、 実際距離化可能ではありません。 定理4.3 $X$ を有限集合とする。$X$ 上の開集合 $\mathcal{O}$ が距離位相空間であるなら、$X$ は離散位相空間である。 そのために次の命題を用意します。 命題 $X$ が離散位相空間であることの必要十分条件は、 $\forall x\in X(\{x\}\in \mathcal{O})$ であることである。  (証明)$\Rightarrow$ は、離散位相は、$\mathcal{O}=\mathcal{P}(X)$ ですから 当然 $\forall \{x\}\in \mathcal{O}$ が成り立ちます。 $\Leftarrow$ は、$\forall U\in \mathcal{P}(X)$ に対して、 $U=\underset{x\in U}{\cup}\{x\}$ であり、位相の条件(III)から $U\in \mathcal{O}$ が成り立ちます。 上の定理4.2を証明をしましょう。 (証明)$X$ が有限集合とし、その上の距離空間を考えます。 $\delta=\min\{d(x,y)|x,y\in X,x\neq y\}$ をとります。 $X$ の有限性から$\delta>0$ が成り立ちます。 このとき、$B_d(x,\delta/2)=\{x\}$ であることがわかります。 故に、任意の1点は開集合ですから、上の命題から、$X$ 上のこの位相は 離散位相空間となります。 よって例4の位相空間 $(\{1,2\},\{\emptyset,\{1\},\{1,2\}\})$ は 距離空間とは一致しないことになります。 このようにして、距離空間を見本にして距離空間を一般化した位相空間 を定義しましたが、距離空間とは違う空間を位相空間として取り入れることが できたことになります。 最後に次の例を考えます。 例5 距離空間 $({\mathbb R}^2,d_M)$ と $({\mathbb R}^2,d_2)$ を $d_2({\bf x},{\bf y})=\sqrt{(x_1-y_1)^2+(x_2-y_2)^2}$ と定義し一方、 $d_M({\bf x},{\bf y})=\sum_{i=1}^2|x_i-y_i|$ と定義します。 ここで、${\bf x}=(x_1,x_2)$, ${\bf y}=(y_1,y_2)$ です。 このとき、この2つの距離が決める距離位相空間は一致します。 つまり、$\mathcal{O}_{d_M}=\mathcal{O}_{d_2}$ となります。 (証明) $U\in \mathcal{O}_{d_M}$ とします。 $\forall x\in U$ に対して $x\in B_{d^2}(x,\epsilon)\subset U$ となる $\epsilon>0$ が 存在します。また、$x\in B_{d_M}(x,\epsilon)\subset B_{d_2}(x,\epsilon)$ が成り立ちます。 なぜなら、$\forall z\in B_{d_M}(x,\epsilon)$ とし、$z=(z_1,z_2)$ とすると、 $(|z_1-x_1|+|z_2-x_2|)^2-((z_1-x_1)^2+(z_2-x_2)^2)=2|z_1-x_1||z_2-x_2|\ge 0$ が成りたつからです。 よって、 $$\epsilon\ge |z_1-x_1|+|x_2-x_2|\ge \sqrt{(z_1-x_1)^2+(z_2-x_2)^2}$$ が成り立ち、$z\in B_{d_2}(x,\epsilon)$ となり、$B_{d_M}(x,\epsilon)\subset B_{d_2}(x,\epsilon)$ となります。 よって、$\mathcal{O}_{d_2}\subset \mathcal{O}_{d_M}$ が成り立ちます。 一方、$U\in \mathcal{O}_{d_M}$ に対して、 $\forall x\in U$ に対して $B_{d_M}(x,\epsilon)$ となる$\epsilon>0$ が存在し、 $B_{d_M}(x,\epsilon)\subset U$ が成り立ちます。 このとき、$B_{d_2}(x,\frac{\epsilon}{\sqrt{2}})\subset B_{d_M}(x,\epsilon)$ が成り立ちます。 なぜなら、$\forall z\in B_{d_2}(x,\epsilon)$ とすると、 $$2((z_1-x_1)^2+(z_2-x_2)^2)-(|z_1-x_1|+|z_2-x_2|)^2$$ $$=(z_1-x_1)^2+(z_2-x_2)^2-2|z_1-x_1||z_2-x_2|$$ $$\ge (|z_1-x_1|-|z_2-x_2|)^2\ge 0$$ が成りたつからです。 よって、 $$\frac{\epsilon}{\sqrt{2}}\ge \sqrt{(z_1-x_1)^2+(z_2-x_2)^2}\ge\frac{1}{\sqrt{2}}(|z_1-x_1|+|z_2-x_2|)$$ が成り立つので、$z\in B_{d_M}(x,\epsilon)$ よって、$U\in \mathcal{O}_{d_M}$ が成り立ちます。 つまり、$\mathcal{O}_{d_2}\subset \mathcal{O}_{d_M}$ となり、 $\mathcal{O}_{d_2}=\mathcal{O}_{d_M}$ が成り立ちます。$\Box$ このようにして、違う距離でも同じ距離位相空間になってしまう例があります。

微積分演習F(第2回)
2019/11/22

[場所1E102(水曜日5限)] 微積分演習FのHP 今回はガンマ関数とベータ関数についてやりました。 ガンマ関数とベータ関数の定義 $s>0$を満たす実数とし、$p,q>0$を満たす実数とします。 このとき、ガンマ関数とベータ関数を広義積分 $$\Gamma(s)=\int_0^\infty e^{-x}x^{s-1}dx$$ $$B(p,q)=\int_0^1t^{p-1}(1-t)^{q-1}dt$$ として定義します。 まず、この広義積分ですが、条件 $s>0$ $p,q>0$ において これらの広義積分は収束します。 まずガンマ関数の方からいきます。 $x=\infty$ で広義積分を考えます。 $\int_1^\infty e^{-x}x^{s-1}dx$ が収束するかどうか考えます。 $s+1<n$ となる自然数 $n$ を取ります。 そのとき、指数関数のテイラー展開から、$e^x\ge \frac{x^{n}}{n!}$ が成り立つので、 $|e^{-x}x^{s+1}|\le |e^{-x}x^n|\le \frac{x^n}{\frac{x^{n}}{n!}}\le n!$ が成り立ちます。 よって、$|e^{-x}x^{s-1}|\le \frac{n!}{x^2}$ であり、広義積分 $\int_1^{\infty}\frac{n!}{x^2}dx$ は収束するので、 優関数法から $\int_1^\infty e^{-x}x^{s-1}dx$ は収束します。 $x=0$ での広義積分を考えます。 $\int_0^1e^{-x}x^{s-1}dx$ を考えますが、 $s\ge 1$ であれば、$e^{-x}x^{s-1}$ は有限な値ですから広義積分ではなく 通常の積分となり、値は求まります。 $0<s<1$ の場合は $|e^{-x}x^{s-1}|\le \frac{1}{x^{1-s}}$ であり、広義積分 $\int_0^1\frac{1}{x^{1-s}}dx$ は収束するので やはりこのときも広義積分は収束します。 ベータ関数についてもやってみます。 $p,q\ge 1$ であれば、 $$\int_0^1t^{p-1}(1-t)^{q-1}dt$$ の被積分関数は $x=0,1$ でも有限な値を持つので、 広義積分ではありません。 つまり、通常の積分として求めることができます。 よって、$0<p,q<1$ であると仮定しておきます。 例えば、$t= 0$ のときの広義積分を考えましょう。 $\int_0^{\frac{1}{2}}t^{p-1}(1-t)^{q-1}dt$ を考えますと、$|\frac{1}{t^{1-p}}(1-t)^{q-1}|\le \frac{1}{2^{q-1}t^{1-p}}$ となり、この積分 $$\int_0^{\frac{1}{2}}\frac{1}{2^{q-1}t^{1-p}}dt=\frac{1}{2^{q-1}}\int_0^{\frac{1}{2}}\frac{1}{t^{1-p}}dt$$ は前回書いたように収束する広義積分でした。 よって、広義積分 $\int_0^{\frac{1}{2}}t^{p-1}(1-t)^{q-1}dt$ も収束することがわかります。 この関数 $\Gamma(s)$ や $B(p,q)$ を用いて多くの積分を書いていきましょう。 まず、この関数の性質を調べてみると、 以下のことが知られています。 $$B(p,q)=\frac{\Gamma(p)\Gamma(q)}{\Gamma(p+q)}$$ $$\Gamma(a+1)=a\Gamma (a)\ \ (a>0)$$ $$\Gamma\left(\frac{1}{2}\right)=\sqrt{\pi},\ \ \Gamma(1)=1$$ とくに、$n$ が自然数のときに、 $$\Gamma(n)=(n-1)!$$ となります。 この中で比較的わかりやすいのは、$\Gamma(1)$ であり、 $$\Gamma(1)=\int_0^\infty e^{-x}dx=\left[-e^{-t}\right]_0^\infty=1$$ として直接計算できます。 また、$\Gamma(a+1)=a\Gamma(a)$ も、 $$\Gamma(a+1)=\int_0^\infty x^{a}t^{-x}dx=\left[-x^{a}e^{-x}\right]_0^\infty+a\int_0^\infty x^{a-1}t^{-x}dx=a\Gamma(a)$$ として部分積分だけで求められます。 ここで、$\lim_{x\to \infty }x^{a}e^{-x}=0$ なる極限を使いましたが、これは、$a<n$ となる自然数を取っておいて $$|x^{a}e^{-x}|=\frac{x^n}{e^x}<\frac{x^n}{\frac{x^{n+1}}{(n+1)!}}\le\frac{(n+1)!}{x}\to 0\ \ (x\to \infty)$$ となるので、挟み撃ちの原理により $x\to \infty$ において $$x^ae^{-x}\to 0$$ となることがわかります。 その他の公式についてはここでは詳しくできませんが、この演習の中で そのうちでてくる方法を用いれば証明をすることができます。 注意してほしいことは、$\Gamma(0)$ の値は求まらないことです。 今のところ、ガンマ関数 $\Gamma(s)$ は $s>0$ だけです。 上の公式を用いると、 $$\Gamma(s)=\frac{\Gamma(s+1)}{s}$$ ですが、$s\to 0$  とすると、右辺の分子は $1$  の有限の値に 収束しますが、分母は $0$  に近づいてしまうので、 結局、$\lim_{s\to 0}\Gamma(s)=\infty$ となってしまいます。 ガンマ関数やベータ関数の公式を用いて積分を計算する 実際、これらの公式を用いていろいろな積分を求めてみます。 授業中やった計算をもう一度してみます。 $\sin^2x=t$ とおきます。すると、$dt=2\sin x\cos x=2\sqrt{t(1-t)}dx$ ですから、 $$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^{2n}xdx=\int_0^1t^{n}\frac{dt}{2\sqrt{t(1-t)}}=\frac{1}{2}\int_0^1t^{n-\frac{1}{2}}(1-t)^{-\frac{1}{2}}dt$$ $$=\frac{1}{2}B\left(n+\frac{1}{2},\frac{1}{2}\right)=\frac{\Gamma\left(n+\frac{1}{2}\right)\Gamma\left(\frac{1}{2}\right)}{2\Gamma\left(n+1\right)}=\frac{(n-\frac{1}{2})(n-\frac{3}{2})\cdots \frac{1}{2}\Gamma(\frac{1}{2})\Gamma(\frac{1}{2})}{2(n!)}$$ $$=\frac{(2n-1)!!}{2^{n+1}n!}\pi=\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{\pi}{2}$$ となります。ここで、二重階乗は $(2n-1)!!=(2n-1)(2n-3)\cdots 3\cdot 1$ $(2n)!!=(2n)(2n-2)\cdots 4\cdot 2$ を表します。 また、$\int_0^\infty e^{-x^2}dx$ も、$x^2=t$ とすると、 $dt=2xdx$ $$\int_0^\infty e^{-x^2}dx=\int_0^\infty e^{-t}\frac{1}{2\sqrt{t}}dt=\frac{1}{2}\int_0^\infty t^{-\frac{1}{2}}e^{-t}dt=\frac{\sqrt{\pi}}{2}$$ となります。 また $\int_0^1\frac{dx}{\sqrt{1-x^3}}$ は、$x^3=t$ とすることで、$dt=3x^2dx$ であり、 $$\int_0^1\frac{dx}{\sqrt{1-x^3}}=\int_0^1\frac{1}{3\sqrt[3]{t^2}}(1-t)^{-\frac{1}{2}}dt$$ $$=\frac{1}{3}B(\frac{1}{3},\frac{1}{2})=\frac{\Gamma(\frac{1}{3})\Gamma(\frac{1}{2})}{3\Gamma(\frac{5}{6})}=\frac{\Gamma(\frac{1}{3})}{\Gamma(\frac{5}{6})}\frac{\sqrt{\pi}}{3}$$ となります。 曲線の長さ 次に、曲線の長さについての演習を行いました。 平面上に $(x(t),y(t))$ のパラメータをもつ曲線 $C$ の $a\le t\le b$ のときの長さ $l(C)$ を $$l(C)=\int_a^b\sqrt{(x'(t))^2+(y'(t))^2}dt$$ として計算できます。 授業中に最後まで計算できなかった計算をしておきます。 (すいません、三角関数で置換し、計算を間違えました。) 以下もう一度計算しなおしました。 $(t,t^2)$ として定義できる2次関数のグラフの  $0\le t\le 1$ の部分 $C$ の長さ $l(C)$ は $l(C)=\int_0^1\sqrt{1+4t^2}dt$ のように計算できます。 また、$2t=\sinh \theta$ とおくと、$2dt=\cosh \theta d\theta$ であり、 $2=\sinh \theta$ となるとき、 $4=e^{\theta}-e^{-\theta}\Leftrightarrow e^{2\theta}-4e^\theta-1=0\Leftrightarrow e^\theta=2+\sqrt{5}\Leftrightarrow \theta=\log (2+\sqrt{5})$ なので、$\text{Arcsinh}(2)=\log(2+\sqrt{5})$ となります。 ここで、$\text{Arsinh}(x)$ は $\sinh(x)$ の逆関数を表すことにします。 また、$\sinh(2z)=2\sinh(z)\cosh(z)$ や、$\cosh^2(z)-\sinh^2(z)=1$ であることを用いると、 $$l(C)=\int_0^{\text{Arsinh}(2)}\frac{\cosh^2\theta}{2} d\theta=\frac{1}{2}\int_0^{\text{Arsinh}(2)}\frac{1+\cosh (2\theta)}{2}d\theta $$ $$=\frac{1}{2}\left[\frac{\theta}{2}+\frac{2\sinh(\theta)\cosh(\theta)}{4}\right]_0^{\text{Arsinh}(2)}=\frac{\log(2+\sqrt{5})}{4}+\frac{4\sqrt{1+4}}{8}$$ $$=\frac{\log(2+\sqrt{5})}{4}+\frac{\sqrt{5}}{2}$$ となります。