1990年 - 1992年
X線を利用した脳損傷の法医病理学的研究
日本学術振興会 科学研究費助成事業 一般研究(C)
法に触れる多くの傷害事件や複雑な交通事故を扱う法医学の領域では外力によって惹き起こされた脳の損傷を検索するに当たり、その損傷の部位・広がり・程度・新旧の別などを的確につかみ、その結果を高齢者に多く認められる内因性疾患による脳病変と対比して鑑別し、損傷そのものの形態とその位置から損傷の成立ちを考えて外因との関連において捕らえながら鑑定していくことが要求される。しかし、脳は骨組織に包まれているために外力によって複数の部位に多彩な変化を生じ易く、また複雑な立体的構造を示す損傷が多いと言う特性を有する。従って脳損傷の検索には単に外表及び組織のスライスによる観察では不十分であり、いろいろな角度からの検討が必要である。私たちはこれらの問題を解決するために、従来行われていた脳の肉眼的・組織学的観察に加えて、剖検例の開頭前に総頚動脈から硫酸バリウムを主剤とする造影剤を注入して血管造影を行うという方法をとっ
て脳損傷の検索を進めてきた。その結果、頭部外表の観察や脳スライスの検討に当たり、これまでは見落としがちであった微細な損傷もその損傷部の血管破綻による造影剤の漏出を肉眼的にまた組織学的に追うことにより損傷を発見し易くすることができた。また開頭前に頭部X線撮影を併用することにより、臨床検査データも既往歴も共に不明な多くの例において脳内の出血部および虚血部を明確なコントラストによって同定し、その部分の血管の断端部に注目して病変の種類・広がりとその程度を推定し、内因性の疾患を鑑別し得た。これまでに経験し得た80例あまりの症例についての中間報告を本年ベルリンで開催される日独法医学シンポジウムに「脳実質内の出血」の標題で報告を予定し、またデュッセルドルフで開かれる国際法科学会議において「損傷と成傷器」についても報告する予定である。
て脳損傷の検索を進めてきた。その結果、頭部外表の観察や脳スライスの検討に当たり、これまでは見落としがちであった微細な損傷もその損傷部の血管破綻による造影剤の漏出を肉眼的にまた組織学的に追うことにより損傷を発見し易くすることができた。また開頭前に頭部X線撮影を併用することにより、臨床検査データも既往歴も共に不明な多くの例において脳内の出血部および虚血部を明確なコントラストによって同定し、その部分の血管の断端部に注目して病変の種類・広がりとその程度を推定し、内因性の疾患を鑑別し得た。これまでに経験し得た80例あまりの症例についての中間報告を本年ベルリンで開催される日独法医学シンポジウムに「脳実質内の出血」の標題で報告を予定し、またデュッセルドルフで開かれる国際法科学会議において「損傷と成傷器」についても報告する予定である。
- ID情報
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- 課題番号 : 02670255
- 体系的番号 : JP02670255