研究ブログ

研究ブログ

トイレ検索システムBellelavano公開

東京女子大学現代教養学部人間科学科コミュニケーション専攻安村・渡辺研究室の蕪木・河久保の2014年度卒業研究「ユーザーのニーズに合わせた情報検索システムの有効性-女子大生を対象とした新宿駅周辺トイレ情報における検索方法の研究」を実装した「トイレ検索システムBellelavano」を公開しました.この研究は2015年3月に開催されるインタラクション2015でも発表されます.

紹介動画@YouTube

0

NEW 2013年度卒業論文の題目と要旨

2013年度の東京女子大学現代教養学部・人間科学科コミュニケーション専攻・渡辺ゼミ卒論題目と概要を紹介します.「Webの非言語情報の音声表現-音階の有効性」と「モールス信号を用いた情報入力-Android端末におけるモールス信号入力の有効性の検証」は2014年3月のWITで学会発表も行っています.
Webの非言語情報の音声表現-音階の有効性

 昨年度の卒論ではSpeaconに焦点を当てましたが,今年度は音楽を使ってわかりやすく表現できないかを考えました.2次元の情報を持つ表に音階とオクターブを割り当てれば,目で見えなくても表の2次元構造がわかるのではないかと考えて,晴眼者を対象に実験を行いました.

ウェブサイト作成ツールを用いたユーザビリティとアクセシビリティの改善- ユーザビリティとアクセシビリティの両方を改善するAdobe Edge Animateの利用法

 

スマートフォン用ウェブサイトのアクセシビリティ -スマートフォン用スクリーンリーダを用いたモバイルサイトのアクセシビリティ調査

 AndroidとiPhoneを使って,スマホサイトでよく用いられるjQueryMobileのWidgetとサイトのアクセシビリティを調べました.

モールス信号を用いた情報入力-Android端末におけるモールス信号入力の有効性の検証

 モールス信号はキー一つの長短で表現できます.誰でもモールス符号を簡単に覚えることができるならば,スマホを見なくても文字を入力できるのではないかと考えて,被験者実験を行いました.

母語保持教育を助ける絵本の読み上げシステム-日本語とポルトガルによる絵本の読み上げ

 

視覚障害者のインターネットショッピング-若い女性の視覚障害者の洋服の購買行動の改善

 視覚障害者がWebを利用する際,写真をどう説明するかという課題に焦点を当てた卒論を過去2回行いましたが,今回は「購買行動」に焦点を当てて,購買行動の視点から見て必要なことを考え,それを満たした服のショッピングサイトを作成し,実験を行いました.

音声による文章理解―音声の強調が文章理解に与える影響―

 紙の本に下線が引いてあればそこは重要箇所です.勉強するときに下線を引くことで重要箇所を覚えたり強調したりできます.では音声図書で下線に相当するのは何でしょうか? 音声に変化を与えた効果が文章理解に与える影響を実験しました.

スマートフォン用ウェブサイトのユーザビリティ-ユーザビリティを増すリンクの仕方とリンクの表示方法

 スマホ用Webサイトを見ると,いろいろなメニューやナビゲーション方式があります.ではそれが本当に便利なのかに興味を持ち,典型的なサイトを作って実験しました.

0

NEW 2012年度卒業論文の題目と要旨

2012年度の東京女子大学現代教養学部・人間科学科コミュニケーション専攻・渡辺ゼミ卒論題目と概要を紹介します.下記一番目の卒論は,「Webの構造の音声表現 〜スクリーンリーダーにおけるSpeaconsの有効性〜」という題目で3月の福祉情報工学研究会(WIT)で発表します.


Webの非言語情報の音声表現 ―スクリーンリーダーにおけるSpeaconsの有効性―
  • 目的:本研究は、Webページを構成する要素のうちWebの構造を示すSemantic要素とVisual要素をどのように音声化すれば視覚障害者にわかりやすいかという問題に焦点を当てた。具体的には以下2つの目的に取り組んだ: 1) 昨年度の卒論で有効性が確認されたSpeacons(読み上げる単語が音声として認識されなくなる程度までスピードを上げたもの)をスクリーンリーダーNVDAに実装し、視覚障害者を被験者としてその有効性を確認する、2) 人間の読み上げの工夫(話速、大きさ、ピッチ、間、抑揚、声の種類)、サイン音、Speaconsを取り入れたスクリーンリーダー用音声表現の仕様を決定する。
  • 方法:1) SpeaconsをNVDAに実装した際の有効性を検証するため、視覚障害者9名を対象に実験を行った。実験用サイトを既存のNVDA-AとSpeaconsを実装したNVDA-Bそれぞれで被験者に操作させ、課題に回答させた。各操作後にユーザビリティとメンタルワークロードを測る質問紙を行い、最後に全体のインタビューを行った。2) 人間の読み上げの工夫を知るための調査を行い、その結果から人間の読み上げの工夫、サイン音、Speaconsを取り入れたNVDAの仕様を決定した。
  • 結果:Speaconsの有効性を検証する実験の結果、タスク達成率、ユーザビリティ、メンタルワークロードにおいてNVDA-A、NVDA-B間に有意差は見られなかった。しかし、NVDA-Bの方がわずかにユーザビリティが高く、メンタルワークロードが低い傾向が見られた。インタビューでもSpeaconsに肯定的な意見が多く見られた。
  • 考察:Speaconsは、非言語情報とその他の文章を区別しやすい点、時間短縮につながる点でかなり有効であり、実装を望む被験者も多く見られた。しかし、Speaconsを有効に利用するためには、慣れの効果、早口でも聞き取りやすい合成音声、最適なピッチの設定が必要であることもわかった。今後これらの課題を克服すればSpeaconsの有効性がより明確に明らかになり,実際のスクリーンリーダーに取り入れることができるであろう。
  • キーワード:Web、非言語情報、CSS、合成音声、Speacons、サイン音、人間の工夫
Webのデザイン調整 ―サイズ調整機能の比較―
  • 目的:Webブラウザに表示されている文字や画像などの大きさを調整する方法には、様々な方法がある。そこで本研究では各種のサイズ調整機能をユーザビリティの観点から比較し、どのサイズ調整機能がユーザに望ましいのかを明らかにする。
  • 方法:】既存のサイトを用いて実験を行った。実験では、サイト制作者が作成した文字サイズ調整機能A(典型的にはページ右上にある文字拡大・縮小ボタン)、ブラウザに搭載されているサイズ調整機能B(本実験ではFirefoxのアドオンを用いてブラウザに拡大縮小ボタンを表示)、ブラウザのショートカットキーによるサイズ調整機能C(CTRLと+、又はCTRLと-)の3種類の調整機能のうちのひとつを使用する条件でサイトを閲覧しながらタスクに取り組み、タスクの達成時間と正答数を測定した。その後、ユーザビリティチェックアンケートと評価グリット法を用いたインタビューを実施した。
  • 結果:タスク達成時間は調整機能Bを使用した場合が有意に最も短く、調整機能Aを使用した場合が有意に最も長くなった。タスク正答数は調整機能Cを使用した場合が最も高く、調整機能Aを使用した場合が最も低くなった。また、Webユーザビリティ評価スケールとサイズ調整機能自体に関するユーザビリティチェックアンケートの結果から、調整機能Bは最も満足度が高く、調整機能Aは満足度が最も低い機能であることがわかった。最後に評価グリッド法を用いたインタビューの結果から、ユーザはサイズ調整機能に対して「期待通りの大きさになること」を最も重視していることが明らかとなった。
  • 考察:調整機能Aは「効率性」「効果性」「満足度」全てにおいて最も評価が低くなったことから、3種類のサイズ調整機能の中で最もユーザビリティが悪いサイズ調整機能であることがわかった。また調整機能BとCに関しては、調整機能Bがやや優れていることが示唆された。最後にインタビュー結果から、ユーザは「期待通りの大きさになる」といった機能面だけでなく、デザイン面や使用していて満足感を得られることにも期待していることがわかった。
  • キーワード:ユーザビリティ、サイズ調整機能、Web、文字サイズ、拡大・縮小、ショートカットキー、ズーム
視覚障害者の歩行ナビゲーション ―Android端末の加速度センサを用いた歩行距離の推定―
  • 目的:誰にでも入手可能なデバイスを用いて視覚障害者の屋外及び屋内のナビゲーションを支援するシステムを開発することが本研究の最終目標である。その第一歩として今年度は、Android端末に搭載されたセンサ類と独自のアプリケーションを用いて、東京女子大学の正門から教室まで視覚障害者をナビゲーションできるシステムの開発に取り組んだ。本研究では、このシステムに必要な機能の中でも特に重要となる、GPSが利用できない状況で歩行距離を算出する方法を検討した。具体的には、Androidに内蔵された加速度センサだけを用いて歩行距離を推定する手法を検討することがこの卒論の目的である。
  • 方法:まず、Android端末に搭載されている加速度センサの基本性能(0点のずれ,応答速度,機種ごとの違いなど)を調べた。次に、晴眼者を被験者として1周149mの長方形の道を歩く実験を行い、加速度センサのデータから歩行距離を推定する複数の式の妥当性を、式から求めた距離と実距離との差・被験者による違い・歩行速度による違い・再現性(10周分の算出式の分布)から検討した。
  • 結果:Android端末の加速度センサは端末毎に0点が異なるため0点補正が必要であることなどがわかった。加速度センサのデータから歩行距離を推測する5種類の式を考案し検討した結果、先行研究でも提案されていた身長から100cm引いた長さを歩幅として歩数から距離を求める式の他に、より単純な方法として、加速度の絶対値を積分した式が、本システムで利用できそうなことがわかった。これらの式には歩行速度依存性があるが、被験者ごとに簡単な一次式で補正することで、今回の実験条件では約3%の精度で歩行距離を推測できることがわかった。
  • 考察:今回の実験ではAndroid端末に内蔵されている加速度センサだけで約3%の精度で歩行距離が算出できたが、より多様な被験者(身長、歩き方、白杖を使用する視覚障害者など)や多様な歩行条件でも今回の方法が利用できるかどうかは不明である。また,今回のような方法では歩行時間が長くなるにつれて誤差が大きくなるので、ランドマーク(曲がり角,ドア,階段など)で位置を補正する必要がある。我々はQRコードを用いてこの補正をすることも考えているが、今回はQRコードの検証は行っていないため有効性を検証する必要がある。
  • キーワード:視覚障害、音声案内、ナビゲーション、Android、GPS、加速度、地磁気、QRコード
スポーツ中継の音声ガイド ―擬似3D音声による視覚障害者のためのリアルなスポーツ中継―
  • 目的:主に音声で情報を得る視覚障害者にとって、スポーツ視聴は内容理解だけではなく臨場感やスピード感も求められる。そのため、立体的な擬似3D音声の特性を活かした音声ガイドを利用し、その感覚を音で伝えスポーツの感動を共有することを今回の目的とする。
  • 方法:】<調査1>擬似3D音声ガイドを用いた実験のための音声を作成するにあたり、視覚障害者の現在のスポーツ中継についての考えを理解するためにインタビューを行った。<調査2>ロンドンオリンピックで行われた競泳競技について、テレビとラジオで放送された実況音声を、アナウンサーの発話内容を中心に比較した。その結果から、テレビの中継音声に対し音声ガイドで補うべき情報が何なのかを検討した。
    <実験>擬似3D化した音声ガイドを3種類作成し、テレビ中継にかぶせて視覚障害者に聞かせる実験を行い、与えた位置を判断する課題に対する回答の精度を測定して、音声ガイドごとの印象、擬似3D音声ガイドの有効性、内容についてインタビューを行った。
  • 結果と考察:<調査1>インタビューの結果、ラジオは音声のみで情報を伝えるという前提で制作されているため、試合について想像しやすい内容になっているが、テレビ音声では詳細な内容は事細かに表現しない。また、試合中の各段階の結果が知りたいので、それについて音声で説明し、さらに位置情報があると理解しやすいはずであるという意見があった。<調査2>位置や動作・表情、他選手についてや主述について言っているかいないかの違いがあった。<研究課題3>(1)音声ガイドによる説明は内容理解につながるが、あくまでガイドの内容についてはテレビ中継の補助になるようにすべきである、(2)擬似3D効果についてはスポーツの動きについての手掛かりとなり、そこから選手の移動を感じ臨場感を味わうことにつながるとわかった。この擬似3D音声ガイドを利用するに当たり気をつけるべきことは、予めガイドが何について説明し、何の動きを表現しているのか理解する必要があるということである。そ今後の課題としては、視覚障害者が位置を理解しづらいというサッカーなどの多くの選手が入り乱れる競技についての音声ガイドを用いた表現について検討することが考えられる。
  • キーワード:視覚障害、音声ガイド、擬似3D、音声、スポーツ、競泳
ウェブのナビゲーション ―新しいナビゲーションメカニズムの提案と評価―
  • 目的:高齢者のインターネット利用率が未だに低いのは、ウェブサイトで一般的に用いられているハイパーリンクが高齢者にとって使いにくいことが理由だと考えた。そこで本研究では、リンクのデザイン、ページ内のリンクの配置の仕方、ページの切り替わり方等の異なるサイトを提案し、大学生及び高齢者を対象にタスク実験を行い、その結果から、若年層と高齢者のウェブの利用特性の違い、従来のナビゲーション方法の問題点、年齢に関わらず使いやすいと感じるナビゲーション方法を検討する。
  • 方法:病院サイトを用いた実験を行なった。実験1では、従来のナビゲーション方法に加えて4種類の方法を提案し、それら5種のサイトを用いて、大学生20名にタスク実験、質問紙調査、インタビュー調査を行なった。実験2では、実験1で明らかになった各サイトの問題点を改善した4種のサイトを用いて、大学生24名にタスク実験、質問紙調査、インタビュー調査を行なった。実験3では実験2で最も評価の高かったサイトと従来型のサイトを用いて高齢者4名にタスク実験、質問紙調査、インタビュー調査を行なった。
  • 結果:質問紙調査1(WUS)と質問紙調査2の結果、サイトの全ページ内リンクを画面左側に縦一覧にまとめ、かつサイトの全コンテンツを1ページにまとめて、画面のリンクをクリックすることで"縦スクロールで移動するサイト"が大学生、高齢者共に使いやすく好ましいと評価され、タスク達成時間も最も短かった。従来型のサイトは大学生にはデザインの楽しさが評価されたが使いやすさや好ましさの評価は低く、リンクの配置の仕方やデザインによってユーザに気付かれにくいリンクがあるという問題点が明らかになった。
  • 考察:"縦スクロールで移動するサイト"の評価が高かったのは、リンクが一覧になっているために目的のリンクが探しやすい、リンクか否かの判断が容易である、全てのページが1ページにまとまっているためにリンクでクリックする方法とスクロールをする方法をユーザや状況に合わせて使用できる点が評価されたからである。また、スクロールさえすればサイトの全情報が見ることができるため、サイト内を行き来しなくても目的の情報へ辿り着けるという点で、高齢者の情報探索の不安を軽減できる利点も明らかになった。
  • キーワード:ウェブ、ウェブサイト、利用特性、ナビゲーション、ハイパーリンク
ウェブのユーザビリティとアクセシビリティ -新卒採用サイトのユーザビリティとアクセシビリティ-
  • 目的:企業にとってウェブサイトは情報公開をする上で大きな役割を果たしており、ユーザにとって最も信頼のおける情報源としてその重要性が高い。特に就職活動をする者にとって、企業の新卒採用サイトは信頼の置ける情報源として重要性が高いため、ユーザビリティとアクセシビリティの良さが求められるのではないかと考えた。そこで、本研究で企業のユーザビリティとアクセシビリティの現状を調査することにした。また、これまでの卒業研究から、動画や写真のあるサイトはユーザビリティが良い傾向にあること、そして動的ウェブはアクセシビリティが悪い傾向にあることが明らかになっているため、企業サイトでも同様のことが言えるのか調査すべく「動画・写真の多いサイト」と「動画・写真が少ないサイト」に分けてユーザビリティとアクセシビリティを調査した。また、動画や写真が多い採用サイトはユーザに「使ってみたい」という欲求を与えるのかについても同様に調査した。これらの目的を検証するため、以下3つの仮説を立てた。仮説1:動画と写真が多い採用サイトはユーザビリティ評価が高い。仮説2: 動画と写真が多い採用サイトは「使ってみたい」という評価が高い。仮説3:動画と写真が多い採用サイトはアクセシビリティ評価が低い。
  • 方法:株式会社マイナビの「2013卒マイナビ大学生企業人気ランキング」からの就職希望上位30社の中から「動画・写真が多いサイト」と「動画・写真が少ないサイト」をそれぞれ5つずつ、計10サイト選んだ。そして、つぎの手順に従って調査を行った。1.ユーザビリティ評価スケールを用いたユーザビリティ評価2.「使ってみたい」という欲求を測るスケールを用いたサイトの動機付け評価3.miCheckerによるアクセシビリティ評価以上の調査を行い、新卒採用サイトのユーザビリティとアクセシビリティの現状を調査した。
  • 結果:「動画・写真の多い採用サイト」と「動画・写真の少ない採用サイト」の平均値をt検定により検討したところ、ユーザビリティ評価の差に有意さはなかった。また、動機付けに関しても動画と写真が多いサイトと少ないサイトの間に有意さは無かった。アクセシビリティに関しても有意さは無いことが明らかとなった。
  • 考察:調査により「動画・写真の多い採用サイト」と「動画・写真の少ない採用サイト」の間でユーザビリティ・動機付け・アクセシビリティに差がないことが明らかとなった。しかし、調査対象サイト数を増やす・NVDAを使った調査を行う・ユーザ実験を行うなどの工夫をすればより正確な調査結果が出ると考えられる。
  • キーワード:新卒採用サイト、動画、写真、ユーザビリティ、アクセシビリティ、動機づけ
音と色の感性的マッピング
  • 問題意識:近年マルチメディアの発展はめざましいものである。マルチメディアでの創作にあたり、映像や音楽といった視覚的・聴覚的メディアは欠かせないものである。映像のイメージに合う音楽を付加する、または音楽のイメージに合う映像を付加することはしばしば行われるが、それがイメージに合うほどお互いの印象を強めることが可能である。視覚と聴覚の間の感覚的な対応付け(マッピング)が可能であれば、マルチメディアの更なる発展に役立たせることが可能である。
  • 目的:本研究では、「色聴」に着目し、音と色の対応付けを探った。「色聴」は特殊な人間だけに起こる現象とされているが、実は万人が持つ知覚であるが、意識している人が少ないだけであるという説がある。もし万人に「色聴」が備わっているならば、万人に共通する音と色の感性的マッピングが可能となり、マルチメディア作品の更なる発展を期待できる。
  • 方法:「色聴」の可能性のある「子ども群」「音感をもつ群」と、「子ども群」「音感をもつ群」の条件以外の「一般群」の3群に分けて実験を行い、音と色の対応付けにどのような関係性があるかを検証する。音刺激は、音楽の要素のうち単音・調について扱った。被験者にMIDI音源を聴かせ、その音のイメージをクレヨン16色を使用して答えさせた。またインタビューにおいて、音や色の好き嫌い、音楽経験を答えさせ、他に音と色の対応付けにあたっての要因があるか検証した。
  • 結果:「こども群」「音感を持つ群」「一般群」の3つの群で、多少の違いは見受けられるが、音と色の対応付けは3群で共通する一定の傾向が見られた。「子ども群」は最も解答にまとまりがあった。「一般群」は一定の傾向に沿っているが、他の2群より色が分散した結果となった。また「音感を持つ群」は独自のこだわりが強いため、全く傾向にはずれた解答も多く見られた。
  • 考察:「子ども群」では、音の単音・調においての音と色の対応付けに一定の傾向が見られた。この原因が学校教育などの既存の固定観念によるものであることを否定できない。しかし同時に「色聴」である可能性も高い群である。「音感をもつ群」はこだわりが強いため、色が散らばり、「一般群」では「色聴」感覚がないため色が散らばる結果となった。3群で一定の傾向が見られたものの、本研究では万人に「色聴」があるということはできなかった。「色聴」はまだ解明されていないことが多い分野であるが、本研究でも明らかな結果を示すことはできなかった。
  • キーワード:共感覚、色聴、音楽、色、子ども、音感
メールの有効な分類法 ―Gmailのスター機能にアイコンの数が及ぼす影響―
  • 問題意識:情報化が進む現代社会において、インターネットは人々にとって欠かせないものになった。その中でも、人々がインターネットを利用する際のコミュニケーション手段として、メールは欠かせないものとなっている。メールは、ユーザの使いやすさを考慮し、様々な分類機能を兼ね備えている。しかし、これらのメールの分類機能はユーザにとって使用しやすく有効的なものなのだろうか。特にGmailにあるスター機能は、アイコンの種類が12種類と多いため、ユーザは使いこなせるのだろうか。
  • 目的:本研究では、ユーザがよく使用しているWebメールとその分類機能を調べ、Gmailの独特な分類機能であるスター機能について、スター機能のアイコンの設定数の変化はユーザビリティ評価に影響するのか、またアイコンの意味に影響するのかについて調べることを目的とする。
  • 方法:まず、質問紙調査を行い、普段使用しているメールデバイス、Webメール、Webメールの中で使用している分類機能、スター機能の認知などの質問項目に回答してもらった。その結果を基に、被験者にGmailの受信ボックスに入っているメールを、スター機能を使用してアイコンの数ごとで分けた3条件で分類する実験を行った。その後、スター機能のアイコンの意味、スター機能のユーザビリティについてのアンケートを行った。
  • 結果:調査より、Gmailで最も使用されている分類機能はスター機能であった。また、12種類あるスター機能のアイコンのうち、調査対象者が「使いこなせる」と感じたアイコン数の平均値は3.57であった。実験では、4つのユーザビリティ項目について、スター機能で使用するアイコンの設定数の変化が影響していた。また、黄色スターアイコンの意味にもアイコンの設定数の変化が影響していた。
  • 考察:スター機能のアイコンの設定数によって、以下4つのユーザビリティ項目に対する評価が変化することが分かった。「好ましさ」はアイコンが5つの場合が最も多く、これは被験者が自分でアイコンを自由に選択できたため好感を持ったのではないと考えられる。「操作の分かりやすさ」「反応のよさ」は、アイコンの数が少ないほど目的のアイコンにたどり着くまでクリックする回数が短いため、アイコンが1つの場合が最も評価が高かったと考えられる。「見やすさ」では、被験者が受信トレイを見るのに適切なアイコンが3つであることが分かった。これは調査で「使いこなせる数」と被験者が回答したアイコンの平均値が3.57であることから、スター機能のアイコンの適切な数は3つであると考えられる。
  • キーワード:Gmail、スター機能、ユーザビリティ、色、記号、アイコンの意味
0

2011年度卒業論文の題目と要旨

2011年度の渡辺ゼミ卒論題目と概要を紹介します.いくつかの卒論は学会発表も予定しています.


非言語情報の音声表現 -視覚表現と論理構造の自然な音声表示-
  • 目的:本研究は、Webページの構造を表す要素である「論理的な構造」、及び文字の装飾である「視覚的な表現」をどのように音声化すればわかりやすいかという問題に焦点を当てた。「論理的な構造」(見出しレベル1、見出しレベル2、引用、リンク、リスト(箇条書き)、リスト(順序))と「視覚的な表現」(大文字、小文字、太字、打消し線、イタリック、赤字)それぞれに対応する自然な音声表現を実験により探り、視覚情報の伝わりやすさ向上に貢献することが目的である。
  • 方法:音声の伝わりやすさを了解度とメンタルワークロードの2つの側面から検証するために、女子大生24人を対象に実験を行った。課題の文章読み上げをNVDAで行い、「論理的な構造」及び「視覚的な表現」に該当する部分は、ソフトウェアを用いて自分達で作成した。「論理的な構造」では、NVDAによる普通の読み上げ、Spearcons、サイン音の3種類、「視覚的な表現」では、NVDAによる普通の読み上げ、Spearcons、サイン音、特徴ある音声の4種類の音声表現を聞かせて課題を回答させた。それぞれの正答率から了解度を測定し、合わせて主観的メンタルワークロードのチェックリストを用いてメンタルワークロードを測定した。
  • 結果:「論理的な構造」においては、速く読まれるSpearconsがサイン音と比べて了解度が有意に高く、メンタルワークロード値も有意に低かった。「視覚的な表現」においては、Spearconsとサイン音が特徴ある音声と比べて了解度が有意に高く、メンタルワークロード値も有意に低かった。
  • 考察:「論理的な構造」においてSpearconsはかなり有効な手段であるといえる。Spearconsは速さが変化しており、他の部分との区別も出来るため、文と混同することがなく良いため、知覚しやすい。また、今回の実験では、ピッチも変化していたため、より分かりやすくなっていたと思われる。「視覚的な表現」においてはSpearconsとサイン音は同程度に良いという結果が出たが、視覚的な表現には「赤字」「太字」「小文字」「大文字」など、似たような言葉が多く紛らわしいため、対応付けしやすい音でサイン音を構成することが最良の手段だと考えられる。今回の実験は晴眼者の女子大生のみで行ったが、視覚障害者の中でも先天的か後天的かなどに分かれるため、今後は、それぞれに適している音を考える必要があるだろう。
  • キーワード:Web、論理構造、視覚的な表現、CSS、合成音声、NVDA、Spearcons、サイン音
高齢者のウェブ利用―情報検索の特性―
  • 目的:高齢者のインターネット利用率が増加している。年齢を重ねてから始めたウェブ利用では、様々な問題が考えられる。効果的、効率的にウェブを利用するには、目的の情報を的確に検索する能力が必要である。そこで、私たちは特定の高齢者3名を対象に、ウェブで検索を行なう際の高齢者の特性を明らかにすることを目的とした。
  • 方法:高齢者3名を対象に調査と実験を行った。調査ではウェブ利用に対するインタビューやウェブ利用の観察を行った。調査で明らかとなった項目を確かめることと高齢者のウェブ利用上の特性を明らかにすることを目的として3種類の実験を行った。実験ⅠではYahoo!とGoogleを用いたカテゴリ検索と検索語検索の比較実験を、実験Ⅱでは目的のサイトを見つけるまでの情報選択過程を明らかにする実験を、実験Ⅲではサイトマップとサイト内検索の有用性の比較実験を行った。
  • 結果:実験の結果、今回の高齢者3人から言えることを記す。実験Ⅰでは、調査で述べていた「GoogleよりYahoo!の方が予め情報が示されているため使いやすい」という被験者の発言は客観的データとしては証明されなかった。主観的にはYahoo!の予め情報のあるカテゴリが使いやすいと述べた。実験Ⅱでは、すぐ目につく情報や教示文にあるキーワードに飛びつき、サイト吟味を行わずクリックする行動が見られた。また適切な検索語入力が困難であるため目的の検索結果を表示させることが難しく、目的に適うサイトか判断に時間を要した。実験Ⅲでは、客観的データはサイト内検索よりもサイトマップ検索の方が好成績だった。一方、主観的評価は、クリックするだけで目的の情報を探すことが出来るサイトマップ検索の方が高かった。
  • 考察:調査と実験から以下が分かった。先行研究の原田の実験結果と一致する項目は、目につく情報やキーワードに反応、画面内変化に気付きにくい、ページ下部を見ない、検索語の改善、エラーの反復、不慣れな事象に対する主体性が無い、記憶、ページ遷移を忘れる、知識やメンタルモデルの不足、検索語の設定が困難、英語や片仮名語が苦手、指マークでリンクの有無を確認、ページ判断に時間を要する、ページの認知が困難、広告の認知、社会的圧力に対する態度、思い込みである。この他に、予測変換の利用、ダブルクリックの多用が見られた。これらから、高齢者が検索する際にシステムがナビゲーションすること、多様なパソコンスキルや経験をもつ高齢者集団の特性をウェブ関係者が理解することが必要であることが分かった。
  • キーワード:高齢者、ウェブ、情報検索、ウェブ利用上の困難さ、ウェブ利用の特性
映画の音声ガイド-視覚障碍者に適切な3D効果の検討-
  • 目的:「より多くの視覚障碍者に3D映画を、ひいては映画をより楽しんでいただくこと」という研究目的を達成するために、「3D映画に対して、視覚障碍者がどのように考えているか調査する」、「3D音声ガイドが有効な映画及びシーンを検討する」という2つの研究課題を設定した。
  • 方法:<研究課題1>3D映画に対する期待や意見を知るために、晴眼者を対象とした質問紙調査と、視覚障碍者を対象としたインタビュー調査を行った。<研究課題2>3D映画における3D効果にとらわれず、音声ガイド自体を聴覚的に3D化するべく、3D音声ガイドが有効な映画及びシーンを検討した。視覚障碍者を対象に、ジャンルが異なる3本の映画を使って、著者らが制作した同一のガイド内容の2D音声ガイドと3D音声ガイドを聞き比べる実験を行った。その後、3D音声ガイドの長所や有効性に関するインタビューを行った。
  • 結果と考察:<研究課題1>インタビュー調査の結果、①3D効果の説明をガイドに追加するよりも、背景や人物の説明をより詳しくする方が、視覚障碍者が求めている理想の音声ガイドに近づく、②効果音と音声ガイドの組み合わせによって、視覚障碍者は迫力や臨場感を感じられるという2点が分かった。<研究課題2>実験の結果、①視覚障碍者の映画鑑賞へのこだわりは、映画のストーリー理解を重視する人々と、映画の音響効果を重視する人々に分類可能である、②映画のストーリー理解を重視する人々は、2D音声ガイドを好み、静かな映画で3D音声ガイドが有効だと考えている、③映画の音響効果を重視する人々は、3D音声ガイドに興味があり、アクションの多い映画で3D音声ガイドが有効だと考えているという3点が分かった。また、3D音声ガイド製作における留意点として、①視覚障碍者が音声ガイドの内容をはっきり聞きとり、理解できるように保障すること、②一定レベル以上の音声ガイドの音質を保障すること、③3D音声ガイドはあくまで人工的な空間情報の演出であると忘れないこと、④ユーザーが2D音声ガイドと3D音声ガイドのどちらで聞くかを選択できるように保障することが必要だと分かった。さらに、今後の課題として、①「3D音声ガイドが有効なシーン」のひとつとして、2人きりの対話のシーンも該当するのではないだろうか、②映画のみならず、スポーツ中継でも3D音声ガイドが有効ではないだろうかという2点が挙げられる。今後も学生の立場なりに音声ガイドの研究を継続することで、音声ガイドの発展及び普及、そして視覚障碍者の楽しみの手助けとなることを期待したい。
  • キーワード:視覚障碍者、視覚障害者、映画、音声ガイド、3D、音源定位
ウェブアクセシビリティ評価ツールの性能向上 ―miCheckerによる適切な評価方法―
  • 目的:本論は「ウェブアクセシビリティ評価ツールの性能向上」をテーマにしている。ウェブアクセシビリティ評価ツール「miChecker」の評価方法の問題点を明らかにし、ユーザの使用実感とmiCheckerの減点方法の不一致を改善することで、より適切なウェブページのアクセシビリティ評価手法を検討することを目的としている。
  • 方法・結果:
    1. 地方自治体、省庁、女子大学のウェブサイトに対しmiCheckerでアクセシビリティ評価を行い、miCheckerの現状の減点方法の確認及びその減点方法の問題点の追及をした。さらに、ユーザの使用実感との一致を見るために、スクリーンリーダーNVDAでウェブサイトを読み上げ、miCheckerと一致しているかを調べた。その結果、miCheckerはエラーごとに減点方法を工夫しているが、1ページに同一のエラーが多い場合は、評価が著しく低下していることが分かった。
    2. EUのUWEM 1.2coreに基づいたアクセシビリティスコアを算出し、miCheckerの減点方法と比較した。その結果、エラーの程度を考慮していないが、全体の要素数を考慮しているUWEM 1.2coreによる評価とmiCheckerの間には強い相関が見られた。
    3. ユーザの使用実感との一致度を見るために、著者がNVDAで評価した結果を得点化し、自動評価ツールmiCheckerとの関連性について調査した。その結果、中程度の正の相関が見られた。
    4. ユーザの使用実感とmiCheckerの評価結果を近づける適切な減点方法を検討した。全体の要素数を考慮する方法や同一エラーを反復してカウントする上限を設ける方法を適用した結果、減点方法を工夫する前よりも高い相関が見られた。
  • 考察:miCheckerの評価方法改善のためには、同一のエラーの多い場合に著しい減点が生じる問題を解消することが必要である。そのためには、全体の要素数を考慮する、もしくは同一エラーを反復してカウントする上限を設けることが有効的であることがわかった。また、ウェブサイトを評価する際には、まずmiCheckerで自動評価した後に、ヒューリスティック評価を行うのが効率的だと分かった。
  • キーワード:アクセシビリティ、JIS X 8341-3:2010、miChecker、NVDA、UWEM 1.2core
音楽環境が作業効率に及ぼす影響 ―好きという感情と作業効率の関係―
  • 問題意識:オフィスワーク中心となった現代の労働環境では、オフィスワーカーの健康を維持し、作業効率を改善する快適な労働環境の構築が重要である。そこで本研究では環境構築要素として聴覚刺激に着目し、作業をするに最適な音楽環境を調査することにした。
  • 目的:本研究では作業者の疲労を軽減し、作業効率を向上させる音楽環境を調査することを目的としている。好きという感情は作業効率を向上させるのか、リラックスしていると作業効率が向上するのか、音楽環境が作業者の心理に作用するか、好きであると同時にリラックスできると感じた音楽はリラックス効果を持ち作業効率を向上させるのか、不快であるという印象を持った場合に作業効率は低下するのか、作業効率を向上させる音楽として好きな音楽は普段聴く音楽であるか、という点に着目して実験を実施した。
  • 方法:被験者には著者が用意した無音、ヒーリング、クラシック、女性ポップス、男性ポップス、ハードロックの6つの音刺激を聴きながら課題を行った。STAI法アンケートによって被験者の不安度とリラックス度を、SD法によって音刺激に対する好感度とリラックス度を調べた。またアンケートとインタビューを実施することでSTAIやSD法によって得られた結果が生まれた、作業者の行動の実態を調査した。
  • 結果:実験の結果、音楽が作業者のリラックス度を増減すること、音楽環境に対する印象やストレスの度合いが作業効率に影響することがわかり、好感とリラックスに加え、単調と複雑の均衡という全ての要素を満たした音楽が作業効率を向上させることが明らかになった。また音楽を好きだという感情は、作業時のBGMに対するものであることがわかった。
  • 考察:快適な作業環境を構築するために必要な条件は、音楽を流すこと、選曲の際は「好感」「リラックス」「単調及び複雑」という3つの印象を全て満たす音楽を選ぶこと、音楽は作業者が普段は聴かないようなジャンルの音楽を選ぶことであることが判明し、そのような音楽は本研究では「クラシック」「男性ポップス」であった。この2つの音楽は作業効率が向上し、「ハードロック」は作業効率が低下していた。しかしリラックス音楽である「ヒーリング」に関しては、ストレスを感じにくい音刺激であるという結果が出たにも関わらず正答率は「女性ポップス」とほぼ同じであり、「ヒーリング」と同様に「リラックス」ができると判定された「クラシック」や「男性ポップス」に比べると正答率は低かった。これにより、作業効率を向上させる音楽環境は、一概にリラックス音楽といはいえないと考えられる。
  • キーワード:好き 音楽 STAI不安特性 リラックス SD法 作業効率 集中力
ウェブのユーザ体験 -料理サイトにおける文字・写真・動画の効果-
  • 問題意識:ユーザが製品やサービスを利用する際、使い易さのみならず、ユーザの利用意欲を駆り立てる楽しさが必要である。さらに本研究では、ユーザが使いたいと思うウェブサイトを制作するためには、理解度も重要なのではないかと考えた。ユーザビリティに配慮された使い易さに加えて、適当な要素を効果的に使用した理解度の高いウェブサイトを制作してこそ、ユーザが楽しいと感じることができるのではないか。
  • 目的:本研究では、実用性が重視される料理レシピサイトにおいて、文字、写真、動画が理解度に与える影響を明らかにしていくことが目的である。被験者を料理の初心者と熟練者に分類し、上記の影響をより詳しく調べる。また、ユーザビリティと理解度と楽しさの関連性についても検討する。
  • 方法:3種類の料理レシピごとに、文字、写真、動画の3要素を用いた3サイトを制作し、計9つのサイトを準備する。3要素の中から1つのサイトを閲覧した後、タスクに取り組んでもらい、その後、アンケートとインタビューに答えてもらった。
  • 結果:サイトを閲覧しながら解答する場合、文字のサイトのタスク達成時間は短く、動画のサイトは長いことがわかった。タスク正答数は、サイトを閲覧しながら解答する場合、文字のサイトが最も高く、写真のサイトが最も低かった。またSD法では、文字のサイトは「暗い、退屈な」という印象が強かったが、写真と動画のサイトは、それぞれ「面白い、楽しい」という印象を受けていることがわかった。次にユーザビリティチェックを行った結果、写真と動画それぞれのサイトが全体的に高得点で、文字のサイトは全ての項目において低い得点となった。最後に料理の初心者と熟練者を比較したところ、初心者は熟練者に比べ、タスク達成時間が長くなった。またサイトを閲覧せずに解答する場合、初心者は熟練者よりもタスク正答数が低かった。
  • 考察:文字、写真、動画のどの要素についてもユーザビリティと理解と楽しさには少なからず関係性があるが、被験者の主観評価と客観評価による結果の違いなどから、必ずしも「使い易さ+理解=楽しさ」という関係が成り立つわけではないことがわかった。また、文字の効果は情報を正確に伝えること、写真の効果はサイトの構造が整った印象や楽しさを与えること、動画の効果はより詳しい情報や楽しさを与えることがわかった。
  • キーワード:料理、文字、写真、動画、ユーザビリティ、理解、楽しさ、ユーザ体験
災害時の情報アクセシビリティ -地元新聞における大震災情報の変移―
  • 目的:本論は、「災害時の情報アクセシビリティ」をテーマにしている。この論文では、福島民報新聞において(1)東日本大震災について、時間が経過するごとに新聞にはどのような情報が出てきたのか、(2)(1)から、東日本大震災について新聞はどのような情報をどれだけ取り上げているのか、を明らかにしようとしている。東日本大震災発生時福島県にいた著者や著者の家族が生活に必要な情報を得るにはローカルな情報源として新聞が最も役に立った、と感じたことが研究のきっかけであった。このことから、被災者が災害時にもアクセスすることのできたメディアが新聞であったと考え、新聞の調査をするに至った。
  • 方法:本研究では、上記の目的のために、2011年3月12日(土)から2011年3月31日(木)分と2011年4月4日(月)から2011年10月31日(月)の毎週月曜日分の福島民報新聞を対象として、東日本大震災に関する情報の内容分析を行った。調査対象を「県内・総合」「社会」面に絞り、それぞれの記事を、新聞を読んで出てくるものをピックアップし独自に設定したカテゴリーに振り分けていった。設定したカテゴリーは、「福島第一原発、地震、津波、死者・不明者、政治、支援、企業、被害、ライフライン、救助・捜索、物資、医療、避難、教育、生活情報、交通、健康、住宅、復旧・復興、風評被害、放射線、治安維持、ストレス、震災孤児、東電対応、犯罪、がれき処理、補償・賠償、ケア、情報提供、感謝、雇用、廃棄物」の33個である。
  • 結果:設定したカテゴリーの中で3月12日と3月27日の2日以外は、すべての日において「福島第一原発」カテゴリーが第1位の記事数であった。3月12日は東日本大震災の起こった翌日であることから被害の状況を伝える記事が多く、「被害」カテゴリーの記事数が最も多くなった。3月27日に最も多い記事数だったのは「避難」カテゴリーであった。
  • 考察:以上の調査結果を検討し、「避難」と「放射線」の両カテゴリーは、「福島第一原発」の動きに応じて記事数が増加したり減少したりするのではないか、また「福島第一原発」のカテゴリー自体は水素爆発などのイベントや人々の注目を引くような出来事の存在、被害の拡大によって、記事数が一気に増加するのではないだろうかと結論付けた。また、新聞というメディアの強みである一覧性が最も発揮されたのは「生活情報」カテゴリーにおいてではないかと考えた。東日本大震災において広い範囲で起こった停電の影響を受けてもアクセスすることの可能だったのが新聞であり、かつ生活に必要な情報を一目で探すことが可能なメディアだからである。
  • キーワード:東日本大震災、新聞、内容分析
ウェブサイト制作ツールのアクセシビリティとユーザビリティ ―Microsoft Expression Web4の調査―
  • 問題意識:オーサリングツールがアクセシビリティ向上をサポートする機能を持ち合わせていれば、アクセシブルなページを制作できる。アクセシビリティに関する知識やHTML、CSS の詳しい知識のない初心者には、特にオーサリングツールの役割が重要であると考えられるため、初心者用オーサリングツールを用いてアクセシブルなページが制作できるかどうか調べることが必要である。
  • 目的:本研究では、初心者用オーサリングツールとして、Microsoft社のExpression Web4に焦点を当て、Expression Web4によって作成されるウェブサイトのアクセシビリティを調査することを目的とした。
  • 方法:調査1としてAuthoring Tool Accessibility Guidelines 2.0 Working Draftを使ってExpression Web4のアクセシビリティを調べた。そして調査2として、Web制作初心者がExpression Web4を用いてアクセシブルなページを制作できるかどうかを調べた。最後に、Expression Web4の初心者用マニュアルの作成を行った。
  • 結果:

    調査1からExpression Web4は、イメージ要素以外の非テキストコンテンツにもアクセシブルなコンテンツを制作するための機能をつけることが必要であることが分かった。またATAG 2.0 Working Draft チェックリストでの、具体的な違反例として

    • アクセシビリティレポートで利用できるWCAGは、現在使うべき最新版のWCAG 2.0ではなくWCAG 1.0しか使用できない
    • ウェブサイトを公開する前に自動でチェックする機能がない
    • アクセシブルなコンテンツ制作を支援する機能の説明が文章化されていない

    など様々な違反例があり、この違反例を直し、ATAG 2.0 Working Draft チェックリストに適合するようなオーサリングツールにすることが必要である、と言える。

    また調査2からサイト制作の際のエラー(新規作成で日本語設定のウェブページを作成した場合でも、lang属性が自動的に挿入されない)を直すことが必要であることが分かった。

  • 考察:結果から得られた違反やエラーを直すべきであるが、調査2から初心者であってもMicrosoft Expression Web4を使用するとアクセシブルなサイトを制作することが出来るという結果が出たため、著者が作成したようなExpression Web4の初心者用マニュアルを作成すれば、初心者がアクセシビリティに関する知識を持っていなくても、またそれを得る努力をしなくても、ウェブスタンダードに則したアクセシビリティの高いページを作成できる。かつ、ページを楽しく容易に作成することができるだろう。
  • キーワード:アクセシビリティ、オーサリングツール、ATAG 2.0 Working Draft、初心者、Microsoft Expression Web4
0

星 「みんなの公共サイト運用モデル改定版」関連の説明

  • 注1:外部サイトにリンクしている資料は全て別ウィンドウで開きます.
  • 注2:Researchmapページ先頭に埋め込まれている「音声ブラウザ対応ページ」へのリンクは,僕の環境ではパースエラーになります.なお,最初のh4見出しがこの記事の見出しに相当するようです.

 

総務省で昨年度実施された取り組みの成果として,「みんなの公共サイト運用モデル改定版(2010年度)」と「みんなのアクセシビリティ評価ツール (miChecker)」が総務省のサイトで公開されました.しかし,両者の関係やJIS X 8341-3:2010との関係,運用モデルや評価ツールの意図などがわかりにくいかもしれないので,簡単に解説します.

 

まず,2004年のJIS公示から今回の運用モデル改訂版や評価ツール公開に至るまでの経緯を時系列で説明します.

  1. 2004年6月に日本初のウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドラインである「JIS X 8341-3 高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ」が公示されました.
  2. 公共分野,つまり国・地方公共団体等,はJISを尊重することが求められています.そこで総務省で「みんなの公共サイト運用モデル」が作成され,特に地方自治体のウェブサイトがJIS X 8341-3に準拠して作成できるようにする取り組みが行われました.
  3. その後,2009年12月に,W3CでWCAG 2.0が勧告になりました.(WCAG 2.0の策定には日本も参加していたので,日本でも適用できるガイドラインとなっていました.)
  4. 2009年度にJIS改正版の開発が行われ,2010年8月にJIS X 8341-3:2010が公示されました.この規格はWCAG 2.0と国際協調しているなど,2004年版にない新しい特徴を持っています.(詳細は「JIS X 8341-3:2010 解説」参照)
  5. JIS改正版の理解と普及を促進するため,我々はWAIC(ウェブアクセシビリティ基盤委員会)情報通信アクセス協議会に設立しました.WAICは,「JIS X 8341-3:2010の理解と普及を促進するため、改正原案作成メンバー、関連企業、関連省庁、利用者が集まって、JIS改正版を実装する際に必要な情報、JIS改正版に沿った試験や適合性評価を行う際に必要な情報など、ウェブサイト作成と評価(試験)の事実上の基準となるベースラインを築いていくこと」を目指しており,委員会の下に,WG1(理解と普及),WG2(実装),WG3(試験)の3つのワーキンググループを持っています.
  6. WAICでは,WCAG関連文書の和訳として「WCAG 2.0」,「WCAG 2.0解説」,「WCAG 2.0実装方法集」を公開すると共に,JIS改正版の実装と試験に役立てるため,下記文書を公開しました.
  7. JISの公示に合わせてWAICで各種資料が作成・公開されたのと同時に,総務省では,以下2つの活動が行われました.
    • みんなの公共サイト運用モデルの改定に関する研究会」:2004年度版JISに対応した運用モデルの経験を元に,1) 地方公共団体がウェブアクセシビリティ向上のために実施すべき取り組みを明示する,2) 地方公共団体の職員が理解し活用しやすい構成・内容にする,3) JIS改正版に基づいた対応が促進されるようにJIS改正版及び(WAICが公開している)関連文書と連携した内容とする,ことを目的として,「みんなの公共サイト運用モデル改定版(2010年度)」が作成されました.
    • ウェブアクセシビリティ評価手法確立のための有識者会議」:ウェブアクセシビリティ評価に必要な手法を調査した上で,評価手法の実現方法の検討及び有効性の確認を行い,利便性が高く実際に広く利用される評価手法を確立することにより,国,地方公共団体等におけるウェブアクセシビリティ評価の取組を促進することをが目的です.その成果の一つとして,Eclipseでオープンソースとして開発されていた評価ツールACTF aDesignerを改良した「みんなのアクセシビリティ評価ツール (miChecker)」が公開されました.

ここで重要なことは,1)両者はお互いに関連して開発されている(つまり,運用モデル改訂版で利用できる評価ツールの例として評価ツールが公開されている),2)WAICが公開している上記資料(試験実施ガイドライン,対応度表記ガイドライン,WCAG 2.0解説書,WCAG 2.0実装方法集,実装チェックリストなど)を活用する形で運用モデル改訂版や評価ツールが開発されていることです.つまり,公共分野においては,スタンダードとしてのJIS X 8341-3:2010,その利用と普及を図るためにWAICが作成した資料やガイドライン,それらを活用して地方公共団体の担当者が取り組む方法を示した運用モデル改訂版,と積み上がった構造になっていることに注意してください.

 

みんなの公共サイト運用モデル改定版(2010年度)では,「ウェブアクセシビリティ対応の手引き(PDF)」が最初に読むべき文書です.(これを簡単にまとめたというか地方公共団体の担当者が上司に見せるときに役立つ資料が「ウェブアクセシビリティ対応の手引き_概要版(PDF)」.)手引きから参照される附属資料として 「附属資料1:ウェブアクセシビリティ方針策定・公開の手順書(PDF)」,「附属資料2:外部発注におけるアクセシビリティ確保手順書(PDF)」,「附属資料3:高齢者・障害者のホームページ利用確認ガイド(PDF)」があります.

 

みんなのアクセシビリティ評価ツール (miChecker)のサイトからZIPファイルをダウンロードして解凍すると,「miChecker」フォルダーにプログラム本体が,「2_手順書」フォルダーに,利用ガイド,達成基準別活用法,試験手順書,ワークシートが作成されます.まずは,解凍された「miChecker_v1」フォルダー直下にある「1_miChecker紹介(PDF)」に目を通してください.次に,「2_手順書」フォルダーにある「利用ガイド(PDF)」を読んでください.「利用ガイド」には,このツールを用いたアクセシビリティ検証の方法,JISに対応した達成基準チェックリストの作り方(実装チェックリストとワークシートの利用方法)などが解説されています.

 

大震災の影響もあって総務省のサイトは未完成ですが,昨年度の2つの成果を一般公開すると共に地方公共団体への適用を進めていくために,現在の形でサイトに情報が掲載されているのだろうと思います.新旧の情報が混在していたり,必要な情報が欠けていたりしているようですが,追って改善されることを切に期待しています.

1

会議・研修 第52回UAI研究会 開催報告

第52回UAI研究会が東京女子大学で開催され,下記の発表が行われました.

  • 近藤薫:修論計画「高齢者と電子書籍」の議論
  • 渡辺隆行:Giorgio Brajnik, Yeliz Yesilada, and Simon Harper :Testability and validity of WCAG 2.0: the expertise effect, ASSETS2010, pp.43-50.

次回は6月25日(土)13時半開始です.その次は7月16日(土)13時から,なべゼミ4年生の卒論計画発表を行います.卒論題目は未だ正式決定していませんが,今年度は下記のテーマが走る予定です.:-)

  • 非言語情報の音声表現-視覚モダリティから聴覚モダリティへの自然な対応付け-
  • 高齢者のウェブ利用-ユーザ体験,ユーザビリティ,アクセシビリティ-
  • ウェブのユーザ体験―文字のみ,文字と画像,動画のそれぞれで説明した料理サイトの使いやすさの比較―
  • サイト評価ツールによるアクセシビリティ評価-miCheckerによる適切な評価方法-
  • 音楽環境における作業効率への影響
  • 映画の音声ガイド-3D効果の音声表現-
  • 災害時の情報アクセシビリティ
  • オーサリングツールのアクセシビリティとユーザビリティ-MS Expression Web4-
0

ノート・レポート 記事公開「JIS X 8341-3:2010を用いたサイト評価の注意点」

日経BP社のPC Onlineで「JIS X 8341-3:2010を用いたサイト評価の注意点」が公開されました.

JISを用いてサイトの試験や評価をする際の注意点として,下記を挙げています:

  1. JISのつまみ食いは駄目
  2. 評価対象ページの選び方
  3. アクセシビリティ問題の数え方
  4. アクセシビリティ問題の発見の仕方
  5. 評価結果の公表
0

『日経パソコン』2月14日号の「編集長インタビュー」をご覧あれ

『日経パソコン』2月14日号,p92の「編集長インタビュー」に見開きで掲載されました.
# 本当は10月に取材されるはずが,ダウンしていたので取材が延期になり,掲載を遅らせてしまいました.

「Webアクセシビリティの新規格,策定者に聞く
”誰でも使えるWeb”を日本で実現したい」

プロのカメラマンが撮影した写真がデカデカと載っているのでびっくりした!
1

2010年度卒業論文の題目と要旨

2010年度の渡辺ゼミ卒論題目と概要を紹介します.「動的なウェブのアクセシビリティ」はこのサイトで卒論PDFを公開しています.「ユーザ中心のウェブデザイン」は2月の福祉情報工学研究会で発表します.「合成音声の聞き取りやすさ」も学会発表の予定です.


写真のわかりやすい説明~視覚障害者が求めるオンラインショップの洋服の説明文~
  • 【問題意識】できる限り多くの人がWeb を利用できる「Web アクセシビリティ」の向上は、現代における重要な社会ニーズである。また、インターネット利用者の利用目的は「企業・政府等のホームページ・ブログの閲覧」、「商品サービスの購入」が主であり、特に女性では「衣料品・アクセサリー類」の購入が多い。一方で、オンラインショップ等の企業が提供する多くのホームページは、Web アクセシビリティに問題があるものが多い。
  • 【目的】本研究では、女性の視覚障害者が求める、洋服のオンラインショップにおける商品画像のわかりやすい説明文とはどのようなものかを検討することが目的である。視覚障害者の女性が、説明文を読んで商品である洋服の情報を理解するには、どのような説明文が適当であるか考える。
  • 【方法】多くの情報が欲しい洋服、少ない情報でわかる洋服はどのようなものか調査し、双方から4 つずつ合計8 種類の洋服を研究対象とした。また、それぞれの洋服に異なる説明文を作成し、説明文として読ませる実験(実験1)、音声で聞かせる実験(実験2)を行い、わかりやすさに与える影響を検討した。
  • 【結果】まず実験1では、客観的で情報量が多い説明文がわかりやすいという結果になった。また「わかりやすさ」と「客観的な説明文か」、「わかりやすさ」と「情報量は十分か」の間にやや強い、または非常に強い正の相関がみられた。なお「わかりやすさ」と、「商品に魅力を感じるか」の間には洋服により相関関係にばらつきがあった。次に実験2の結果、新たに箇条書きで書かれた説明文であること、説明文が聞き取りやすいことも、わかりやすさに影響を与えることが明らかになった。また、「箇条書きであるか」と「説明文の聞き取りやすさ」の間、「説明文の聞き取りやすさ」と「わかりやすさ」の間にやや強い正の相関がみられた。また、「商品に魅力を感じるか」と「好みのデザインか」の間に非常に強い正の相関がみられた。
  • 【考察】オンラインショップにおける洋服のわかりやすい説明文とは、情報量が多く客観的な表現であり、また音声で聞く事を考慮して箇条書きの説明文を作成することが好ましいことが明らかになった。また、「わかりやすさ」と「商品に魅力を感じるか」の間に相関関係がみられた場合があるが、これは「好みのデザインか」という第三の変数の介入による疑似相関であったと考えられる。

動的なウェブのアクセシビリティ―Dojo,jQuery,YUIの調査―
  • 【目的】本論文は、代表的なJavaScriptライブラリであるDojo,jQuery,YUIはアクセシビリティに配慮した設計が行われているのかを調査することを目的とする。今日の情報社会において、インターネットは情報取得の大きな役割を果たしている。そのような中で、動的なウェブの技術をスクリーンリーダーやキーボード操作では利用することができないという現状がある。そこで、近年注目されている代表的なJavaScriptライブラリは、WAI-ARIAへの対応が行われているのかを調査する。
  • 【方法】W3CのWAI-ARIA Authoring Practicesで紹介されているウィジェットを、Dojo,jQuery,YUIを用いて著者が作成した。その後、作成した各ウィジェットを用いてWAI-ARIA Authoring Practicesが要求しているキーボード操作が行えるか、NVDAを使用したスクリーンリーダーでの読み上げができるかを調査しウィジェットごとに結果をまとめた。
  • 【結果】Dojoが最もアクセシビリティに優れているが、Dojoでも完全にはWAI-ARIAへの対応が行えていないことが分かった。jQueryとYUIは、どちらもWAI-ARIAへ対応しているウィジェットは尐なかった。
  • 【考察】調査結果から、(1)WAI-ARIAのキーボード操作の要求の一部に困難な部分があり、最もWAI-ARIAに対応しているDojoでも行えない操作があること、(2)基本的な機能であるフォームは全てのJavaScriptライブラリでアクセシビリティに優れていること、(3)アコーディオン、デートピッカー、スライダー(2サム)、ツリーグリッド、ツリービューは、どのJavaScriptライブラリでもアクセシブルでないので使用すべきでないことが分かった。

初心者用ウェブサイト作成ツールのアクセシビリティ問題―iWeb の調査―
  • 【問題意識】ガイドラインを完璧に理解してウェブサイトを制作することはウェブ制作者にとって負担が大きく、またアクセシブルなウェブサイトを制作することがウェブ制作者の目的に入ることは少ない。そこで、ウェブサイト作成ツール、つまりウェブオーサリングツールの役割が重要となる。初心者に知識がなくても、オーサリングツールがアクセシビリティ向上を自動的にサポートする機能を持ち合わせていれば、多種多様なユーザが快適にウェブを利用できるようになるだろう。アクセシビリティに関する知識やHTML、CSS の文法を知らないことが多い初心者には、特にオーサリングツールの役割が重要であると考えられるため、初心者用オーサリングツールのアクセシビリティ問題を明らかにすることが必要となる。
  • 【目的】本研究では、初心者用オーサリングツールとして、Apple 社のiWeb ’09 に焦点を当て、iWeb によって作成されるウェブサイトのアクセシビリティを調査することを目的とした。
  • 【方法】まず、iWeb のテンプレートを調査した。次に、実際に自分でiWeb でウェブサイトを作成し、スクリーンリーダーNVDA や評価ツールを用いて問題がないか調査した。最後に、一般のユーザがiWeb で作成したサイトを対象にアクセシビリティを調査した。
  • 【結果】iWeb が生成するHTML ソースは、見出し要素がない、alt 属性が空である、ウェブページの見た目の順序とHTML ソース内の要素の順序が異なるということなどがわかった。そのため、NVDA の音声読み上げでは、ページの構造や内容が把握しづらい、画像が読み上げられないといった問題があった。一般のユーザが作成したサイトでも、HTML ソースが飛び飛びになっており、どこを読み上げているかさえ理解しづらいものとなっていた。さらに、標準の方法では原因が特定できないエラーや現象が表れた。
  • 【考察】iWeb の現状の機能では、アクセシブルなウェブサイトを作成することはできないということが明らかになった。

SNSのアクセシビリティ―mixi の調査―
  • 〔目的〕本論は、「SNS のアクセシビリティ」をテーマにしている。SNS はインターネット上で、友人•知人間を超えてネットワークを構築することができる、コミュニケーションの場である。しかし近年、mixi などのSNS はコンテンツの内容が日々複雑になり、使いこなすのが困難なコンテンツも存在している。本来SNS は、誰もが使いやすくあるべきという概念が当てはまる。よってこの論文では、今や我々の生活に広く普及しているSNS について、社会的ネットワークをより多くの人が平等に構築できるように、アクセシビリティ問題に着目した。アクセシビリティ評価ツールによって各SNSの問題点を明らかにし、改善策を提案することで、SNS のアクセシビリティ向上に貢献したい。
  • 〔方法〕本研究では、上記の目的のために、まず2000 万人を超える人が利用しているmixi と介護者・障害者のためのSNS「へるぱ!」のアクセシビリティ問題をWAVEToolbar を用いて、エラー数とその内容を比較した。その結果を踏まえて、aDesignerを用いてmixi の各コンテンツ(日記を書く、コミュニティを作成するなど)に焦点をあて、アクセシビリティを調査した。問題のあるエラーについては問題箇所を明らかにし、改善策を提案した。最後にmixi 全体の総合評価を行い、結果をまとめた。
  • 〔結果〕mixi と「へるぱ!」のWAVE Toolbar を使用した調査では、主にラベル要素と代替テキストのエラーが報告された。両SNS でエラー数を比較したところ、「へるぱ!」のほうがmixi よりもエラー数が少なく、アクセシブルと思えたが、それはコンテンツの内容充実度の違いによる差であった。aDesigner の調査では、mixi の各コンテンツに焦点を当て調査を行った結果、各コンテンツで共通した要修正点(スキップリンクや代替テキスト、IFRAME、同一テキストの繰り返しなど)や共通したユーザー確認(イベントハンドラ、ラベル要素、空のUL 要素OPTGROUP など)が報告された。WAVE Toolbar とaDesigner の両評価ツールで報告されるエラーは共通したものが多かった。また、明らかになったエラーも改善策を提案したので、改善策を実行することで誰もが使いやすいSNS が実現すると考える。
  • 〔考察〕mixi や「へるぱ!」で明らかになったアクセシビリティ問題は、上記の通り各コンテンツごとに共通したものが多く、調査結果で述べた改善策を実行すれば、誰もが使いやすいSNS が実現するであろう。

合成音声の聞き取りやすさ‐文章の聞き取りにおける単語親密度の影響‐
  • 【目的】合成音声とは、人間の音声・言葉を人工的に合成することである。合成音声は視覚障害者にスクリーンリーダーとして利用されている。スクリーンリーダーで聴取するのは主に文章であるため、本研究では、文章の聞き取りについての検証を行う。また、今回着目したのは、単語親密度である。単語親密度とは、なじみの程度を数値であらわしたものである。文章の了解度及び心的負荷に、単語親密度が効果を示すのか、また、親密度の教示(低親密度単語が含まれるか含まれないか)の効果の検証も合わせて行う。
  • 【方法】本研究では、2回実験を行った。1回目の実験では、文章の了解度の検証を行い、2回目の実験では、心的負荷を検証した。音素バランス文から文章を選出し、低親密度単語を含むテキストと、含まないテキストに分けた。そのテキストから合成音声を作成し、5段階に話速を変え、書き取り実験を行った。また、教示の効果の検証を行うため、低親密度単語を含む文章は2グループ作り、教示の有りと無しで了解度および心的負荷に効果があるのかを見た。
  • 【結果】実験1では、低親密度単語を含む文章と含まない文章では、了解度に違いが見られた。ただし、極端に速い話速や遅い話速では、了解度に違いは見られなかった。次に低親密度単語を含む文章の教示の効果は、文章全体の了解度に差は見られなかった。文章中の低親密度単語のみに着目し、低親密度単語が聞き取れているかの分析を行ったが、有意な教示の効果は見られなかった。一方、低親密度単語を含む2つの課題文グループには、親密度による条件が等しいにも関わらず、了解度、および低親密度単語の聞き取りに差が見られた。実験2では、教示の効果が心的負荷に表れているか検証を行ったが、教示による有意な効果は見られなかった。
  • 【考察】低親密度単語を含むか含まないかで了解度に差が見られた。低親密度単語は1文に1単語(または2単語)しか含まれないにも関わらず、文章全体の了解度に違いが見られた。低親密度単語の聞き取り以外にも、低親密度単語が文章全体の聞き取りに影響を及ぼしていることが考えられる。また、低親密度単語を含む課題グループ2つで課題を作ったが、教示の有無による効果に差は見られなかった。低親密度単語の親密度の平均は揃えたが、低親密度単語を含む課題グループ2つの間で、了解度に差が見られた。この課題グループを作成した際に揃えたのは、文章中の低親密度単語1語の親密度の平均と音素、文章のおおよその長さだった。しかし、更に正確な文章の聞き取りにおける教示の効果を測定するためには、低親密度単語のモーラ数、文章中の低親密度単語の位置などもそろえることが必要だと考えられる。実験2では、心的負荷の評価を行った。教示の有無では有意な差が見られなかった。ただし、片方の課題グループでは教示の有無で心的負荷にやや違いが見られたが、もう一方では心的負荷の違いは見られなかった。この原因として考えられるのは、課題グループの2つは了解度に差があったことが予想される。これより、了解度と心的負荷には密接な関係があることがわかった。

ポータルサイトのユーザビリティとアクセシビリティ
  • 【目的】本論は「ポータルサイトのユーザビリティとアクセシビリティ」をテーマにしている。この論文では、(1)人気のあるポータルサイトはユーザビリティに配慮されているか、(2)人気のあるポータルサイトはアクセシビリティに配慮されているか、(3)ユーザビリティに配慮されているポータルサイトはアクセシビリティにも配慮されているか、を明らかすることが目的である。
  • 【方法】まず、東京女子大学の学生を対象としてポータルサイトの利用調査を質問紙で行い、人気のあったポータルサイト上位5つ(Yahoo!、iGoogle、MSN、@nifty、All About)を調査対象として、ユーザビリティとアクセシビリティを評価した。ユーザビリティチェックは「標準ウェブユーザビリティ辞典」と「ウェブ・ユーザビリティ評価スケール」を用いて筆者が5段階評価(1点から5点)を行った。アクセシビリティは「aDesigner」で評価を行い、エラーとなった箇所を「NVDA」で読み上げて確認した。
  • 【結果】「標準ウェブユーザビリティ辞典」を用いた5段階評価の結果、平均4以上であり、またポータルサイト間で有意な差は見られなかった。一方、「ウェブ・ユーザビリティ評価スケール」を用いた5段階評価の結果、All Aboutだけが有意に評価が低いことがわかった。また、「aDesigner」と「NVDA」を用いたアクセシビリティチェックの結果、全てのサイトにおいてJIS X 8341-3の最低限守らなければならない達成等級Aの達成基準への違反がみられた。
  • 【考察】以上の調査の結果、ポータルサイトの人気とユーザビリティの良さには関係がないこと、ポータルサイトの人気とアクセシビリティの良さにも関係がないことが明らかになった。また、ユーザビリティに配慮されているほどアクセシビリティにも配慮されているわけではないことが明らかになった。

肉声と合成音声の比較―DAISY図書を利用した読書―
  • 【目的】電子書籍元年と叫ばれる今日ではあるが、日本における視覚障害やディスキレシアへの読書環境は未だ十分とはいえない。しかし、著作権法改定に伴い、国際的に普及しているアクセシブルな電子書籍の規格であるDAISY図書が、日本においても広がりを見せている。2010年4月にDAISY Translatorの無償配布が開始され、専門的な知識がなくともDAISY図書の作成が可能となった。DAISY図書では録音した肉声での読み上げ、もしくは合成音声での読み上げを行うことができるが、テキストと同期させる場合、合成音声版の作成のほうが容易である。しかし、一般には、肉声と比較して合成音声は聞き取りにくいとされている。本研究では、読書という限定された状況において、肉声と合成音声の比較を行い、さらに、合成音声の聞き取りやすさを高める手だてを探る。
  • 【方法】音声の聞き取りやすさを了解度と心的負荷の2つの側面から検証することを目的に、48人の被験者を対象に実験を行った。課題の読み上げをそれぞれ肉声と合成音声で行い、文章に関する課題の正答率から了解度を測定し、合わせてNASA-TLXを用いて心的負荷を測定した。また、音声の聞き取り最中に「戻る」「進む」といった操作を加えることが聞き取りやすさに影響を与えるかを検証するための実験も実施した。
  • 【結果】操作の有無にかかわらず、肉声による聴取時に比べ合成音声による聴取時に心的負荷が高く、了解度においては合成音声に比べ肉声による聴取時に高いことが明らかになった。特に、人物名の聞き取り課題において、肉声と合成音声の聴取の差が顕著にみられた。
  • 【考察】繰り返し操作を行うことで、了解度において合成音声聴取時の値が肉声聴取時の値に近づくことが検証された。一方、心的負荷においては繰り返し操作の有効性はみられなかった。繰り返し操作は了解度において効果がみられるものの、音声の聞き取りやすさを高めるには、心的負荷を低くするための他の手段も加えてさらなる検討が必要である。また、肉声であってもフレーズで区切られていることにより、聞き取りに違和感を覚える人が多いという結果から、今後の課題が明確となった。

配色のユニバーサルデザイン
  • 【問題意識】ウェブアクセシビリティに関するガイドラインやツールは日々発展しているが、それらの提供する基準が、作り手の好みと違っていては、実際に作られるウェブサイトはアクセシブルにならない。そこで、作り手に好まれる配色と、実際の公共サイトに使われている配色の違いを比べる。
  • 【目的】作り手の好みと、実際の公共サイトを比較し、その上で両方に受け入れられ、かつアクセシブルな配色を考える。
  • 【方法】作り手の好む配色と、都道府県サイトで実際に使われている配色を、アクセシビリティ、色み、トーン、配色の傾向から比較した。まず、作り手の好む配色として、ユーザ投稿型サイトのKulerの人気パレットをアクセシビリティチェックし、各色をPCCS 形式に変換することで、色み、トーン、配色の傾向を考察した。都道府県サイトも各トップページから5 色を選出し、同様に各項目を調査した。最後に、作り手の好む配色と都道府県サイトの配色から分かったことを合わせて、両者に受け入れられる配色について考察した。
  • 【結果】作り手の好む配色については
    • 全体的にアクセシブルなパレットは尐なかった
    • 緑みや黄色みを感じる色が多い
    • 薄い色、浅い色、冴えた色、暗い灰みの色が多い
    • 色同士は近いトーンが多い
    都道府県サイトで使われている色については
    • 濃い色が1、2 色含まれている配色がアクセシブルであった
    • 薄い色、白、明るい灰色が多い
    • 色同士は近いトーンが多い
  • 【考察】今回の研究から、緑みか黄色みを感じる色みで、5 色のうち、濃い色に冴えたトーンと、隣り合う明るいトーンの2 色、薄い色は薄いトーンの1 色、明るい灰色、白の構成が、今回作り手と実際のサイトの両方に受け入れられるアクセシブルな配色と考える。

ユーザ中心のウェブデザイン―高齢ユーザとサイト制作者の意識差—
  • 【目的】高齢者のインターネット利用率が増加傾向にあるが、インターネット上には使いにくいウェブサイトが溢れており、高齢者が日常的に情報活用するには依然として困難な状況にある。先行研究によれば、製品やシステムが使いにくくなる要因は、ユーザとデザイナが描くモデルのギャップにあると指摘されている。そこで本研究は、高齢ユーザとサイト制作者の間に存在するギャップを明らかにし、ユーザ中心のウェブサイト制作プロセスに必要な要件を提言することを目的とする。
  • 【方法】現役サイト制作者に高齢者をターゲットユーザとしたサイト制作を依頼し、そのサイト(3 種類A~C)を用いて高齢ユーザによるユーザテスト(タスク実験、観察、質問紙、インタビューを含む)を行なった。さらにユーザテスト結果をサイト制作者へフィードバックし、高齢ユーザにとって使いにくいデザイン課題とサイト制作現場の問題点に関してグループディスカッションを実施した。
  • 【結果】高齢ユーザの評価が最も高かったサイトは、グローバルナビゲーションが分かりやすくデザインがシンプルな実験サイトB であった。その他の実験サイトにも致命的なエラーはなくタスク達成率も高かったことから、いずれもユーザビリティの高いサイトであったといえる。しかし、より使いやすいサイトを目指すために、高齢ユーザが使いにくかった要因を文字、アイキャッチ、情報レイアウト、地図デザイン、フォームデザインに分類して検討した。その結果、高齢ユーザ特性や利用状況を踏まえて高齢ユーザに配慮すべき事項の詳細、および高齢ユーザとサイト制作者のギャップが明らかになった。
  • 【考察】高齢ユーザとサイト制作者でギャップがあったのは、高齢ユーザの文字サイズ変更機能の利用状況、フォーム枠の見えにくさ、ページ右上に配置された情報の気付きにくさ、病院サイトに求める役割だった。いずれのギャップも、サイト制作者が制作時に高齢ユーザ像を想定できなかったことが原因であった。こうした双方のギャップを減らすには、少なくともユーザのインターネット利用状況やニーズを調査した上で、ユーザ参加の手法を用いてサイトを評価し、サイト制作関係者でユーザ評価を共有しながら課題の改善を繰り返すプロセスが必須である。
0

日経BPに記事掲載

日経パソコンさんがウェブアクセシビリティ基盤委員会の活動を取材してくださっており,下記2件の記事が出ています.我々の活動に密着して良く理解してくださっているのでとても良い記事だと思いますよ.:-)

9月2日の基盤委員会のセミナー
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/news/20100903/1027291/

8月25日のテクニカルコミュニケータ協会の有料セミナーの取材
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/news/20100826/1027104/
(こっちは僕の写真付き :-)
0