研究ブログ

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授業観察その①

今週は学生の実習期間であった。ないものねだりにならないように「いいところ」を中心に指摘をする。今の学生さんは向上心があるからか、「いいところ」より「問題点」に意識が向かいがちである。もちろん、「問題点」は本人が一番よく分かっているかどうかを見極める必要はあるとは思うが・・・。

しかしながら,授業を研究対象にしている以上,挑戦的な授業を目にすることも多い。ということでメモ。

〇評価授業①中3「古代までの日本」

「古代までの日本」を「大観」する授業を意図したもの。飛鳥時代以前,奈良,平安時代と3分割にして,政府の支配体制を比較し,その推移と変遷を通して,「古代までの日本」の特色を「自分なりに」つかむ授業。

単元レベルでの授業構想(つまり,生徒の歴史認識や捉えに左右されてしまうので,「大観する」授業よりその前の授業ですべてが決まってしまう)が必要なので実習生が行うのは(本人の授業力以上の要因が絡んでくるので)かなり難しいと私は思う。

では,どうするのか?1つの案として,1980年代の広島大学の研究を思い出した。「モデル」で社会を捉えようとするととらえきれないものがあるという批判は分かるが,だからといって,共通の枠組み(もしくは,ストーリーでもよい)の必要性を否定することはできないのではないか?

特に関係しているのは以下。

棚橋健治ほか「社会科学的概念学習の授業構成Ⅲ:「平安期の時代構造」の教授書試案」

*このシリーズについての分析は井上も行っています。以下の論文を参照。

井上奈穂「概念学習における思考モデル-「社会科学科」に基づく教授書を事例に-」

井上奈穂「社会系教科におけるみ方・考え方の評価法作成方略 : 「モデルに基づく社会認識形成を目指す授業」の場合」

結局、歴史教育で難しいのは、「時代を大観する」といいつつ、個々の授業の中では、当該時代の個別・固有の事象の理解に終始してしまって、筋が見えない(共通の言葉/概念?/体系が捉えにくい)点にある。授業研究はだいたい1つ1つの授業なので、想定されている範囲で(まさに中範囲で)の議論になっているから気づきにくいのだけど、歴史的分野全体だとどうなの?という点についての問いは、巧妙に考えないようにされている。

ここに果敢にも取り組んでくれたわけだけれども、その成否は歴史的分野全体が終わらないと分からない。本人の問題というより、歴史的分野の構造的な問題ともいえる。

‥‥といいつつ、私の発想の大元は和歌森太郎だったりするので、すでに答えは出ているのかもしれない。

 

 

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授業実践の参観(高等学校における「歴史総合」「公共」)

以下は、2022年9月に、高等学校における「歴史総合」、「公共」の授業実践の参観及び実践された先生方との意見交換を行う機会を得ることができた。以下は、その報告である。

*訪問校はA高,B高のように記載。必要であれば井上にお問い合わせください。

A高等学校普通科,国際理解コースが設定されている。

授業「大戦景気と日本」@科目「歴史総合」(教科書は実教出版)の2つの授業を参観した。同じテーマを扱っていたが、授業者によって授業の進め方が異なっていた。大きく、「教科書活用型」と「教科書参考型」の授業と位置付けてみる。

●パターン1.教科書活用型:スライドで該当ページを示し、教科書の記述,資料を追いながら進めていた。

<授業の流れ>

①「問い」の提示…「第一次世界大戦に伴って日本は好景気になったのはなぜでしょう?」と授業全体に関わる発 問を提示。教科書等を使いながら、生徒が「仮説」を考え、隣同士で「仮説」についての意見交換を行う。

②「仮説」の検証…生徒に「仮説」を発表させ、教科書の記述を通して、その仮説を検証していく。 この時期にはどんなものを輸出していたのか?/これらをどこで作っていたのか?/どんな人たちが儲かっていったのか?/人々の生活はどうだったのか?(日本の物価と賃金の推移の資料を確認)/抗議運動(米騒動など)は全国に拡大していったのか?/寺内内閣はどう対応したのか?/原敬にどのような期待を持ったのか?…など  (やり取りと教科書記述・資料の確認)

③次時の予告

●パターン2.教科書参考型:教科書の内容を教師が再構成したパワポによる歴史の因果関係を捉えさせる

<授業の流れ>

①テーマに関連する出来事の確認…年表による主要な出来事の提示及びモデル図による第1次世界大戦下の主要国の関係性を提示。必要に応じて、年表やモデル図上に、穴埋め箇所が設定されており、何が入るかを問いながら、全体の流れを把握させていた。

②①をもとに、「日本」の出来事を位置付ける…当時の日本社会の様子,原敬の政策などを見ていく。パワポと生徒のWSは連動している。

③資料の読み取り…吉野作造の「憲政の本義を説いて其有終の美を消すの途を論んず」の一文を読み取らせ、当時の「民本主義」の考え方について確認する(https://www.kotensinyaku.jp/books/book313/ *光文社の古典新訳)

④次時の予告

 B高等学校…普通科,医療・看護コースが設定されている。

授業「選挙制度」@科目「公共」(教科書は東京書籍)の参観した。内容Bの政治に関する内容に該当する。生徒が安心して発言できる空間づくりを心掛けていた。

授業「選挙制度」@科目「公共」

<授業の流れ>

①「選挙」についての学習の復習(中学校から)…「選挙」って何だろう?説明してみてください。/選挙って何時代からありますか?(誰かを当てるのではなく、全体に投げかけ、自由に発言をするようにしていた)

②「選挙」についての学習の復習②…図_大正時代の投票の様子の図(憲兵に見張られている)を示し、今の選挙から見て「ヤバい」点を当て見よう。→を踏まえ,近代選挙の4原則を確認

③選挙制度の確認(WSでの作業)・・・小選挙区制、個人代表制、比例代表制の制度の説明とメリット/デメリットの整理

④次時の予告

 C高等学校…普通科。

ここでは、参観ではなく、校長先生と4名の社会系教科担当の先生方科目「公共」を進めていくうえでの課題などについての意見交換を行った。課題としては大きく以下のような点が挙げられた。

意見交換の内容

・学習評価について…学習改善のための評価と評定のための評価/「思考力・判断力・表現力」をどう評価するか?

・パフォーマンス課題について…「○○市のをよくしよう」というような課題を設定しているが、生徒が話し合ったことがそのまま市政に反映されるわけではない。このような課題のゴールが、「○○市をよくする政策を提案する」ことではなく、学校教育の目的に合った(実際的な)ゴールを設定する必要がある。

(このような課題を設定することで、選ばれなかった生徒のやる気が下がってしまう問題をどうするか?)

・科目「公共」と他教科。キャリア教育とのつながりをどう作るか?

以上、3校での訪問を踏まえて、いずれの学校でも新しい教育課程をどう実装していくのかについて、まさに走りながら模索されている姿が伺えた。気づいた点は以下。

1.生徒の「探究」の保障…「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力等」との関連性

:「探究」を行う際、「問い」の工夫(授業構成・単元デザイン)と「探究」を支える「知識」をどう提示するか、が議論になることが多い。A高校で参観した2つの授業が見られた。まず、「教科書活用型」としたパターン1では「問い」が示されるが、いずれも「教科書」の記述の中に「答え」があるものであった。教科書の記述・資料をしっかり読めば、暗記していなくても、考えることができる。そのため、「教えずとも考えられる」授業といえる。次に、「教科書参考型」としたパターン2では、これまでの学習の積み重ね(WSで共有)及び新しく提示する資料を通して、歴史の流れが構成されていた。授業者が、歴史の「因果」に着目し、再構成した教科書の内容をつなげていく授業といえる。まさに、「教えたことを使わないと考えられない」授業といえる。

 

「考え」ながら「教える」にしろ「教え」て「考える」にしろ、どちらがいいのかという議論ではなく、目の前の生徒の状況に合わせ、その場に合った適切な方法を選択の論理が必要だろう。パーツと全体を組み立てる論理だな。なお、今回の授業は、飛び込みで1時間の授業に参観したため、単元について具体的な授業に基づいて行っているわけではない(念のため)。

2.授業における学習の場づくり

科目「公共」では、「参加」、「対話」が重要である。しかし、日本の生徒は、自分の意見を言うことが苦手であるという調査結果から考えて、問いを投げかけ、答えさせる場合、生徒によっては過度な緊張が強いられると考えられる。

そのような生徒の意見をどのように引き出すのか?というのもポイントの1つであろう。B校の授業では当てるのではなく、生徒のつぶやきを拾いあげる方法をとっていた。科目「公共」では「公共的な空間」が扱われる。教える以上、授業の中でも「公共的な空間」が保障されるべきであることに改めて気づかされた授業であった。

 

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