論文

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2021年9月15日

平仮名の字源と草書

國學院雜誌
  • 中山 陽介

122
9
開始ページ
23
終了ページ
41
記述言語
日本語
掲載種別
研究論文(学術雑誌)
DOI
10.57529/00000667

平仮名は漢字を崩してできた文字である。通説では、平仮名は、万葉仮名を草書にしたものをさらに書き崩して出来たと想定されているが、そのことは歴史的実態に基づいて十分に検証されていない。本稿では、この通説の検討を通して平仮名が漢字のどのような形態に由来するかを考察する。
従来、平仮名の形は、上代の楷書・行書の万葉仮名を書き崩してできたとする見解もあった。しかし、平仮名の字形には、楷書・行書からの変化では説明できず、草書を字源として変化の過程を考えるべき字が少なくない。そこでまず、漢字の草書の成立史を概観して、草書の字形は歴史の異なる楷書や行書からは説明できないものであり、従って平仮名で草書を字源とする字は、楷書・行書で書かれた万葉仮名から字形の成り立ちを説くべきでないことを明らかにする。
次に、その草書がいつから日本で使われるようになったかについて論じ、日本では奈良時代以前に草書は通用しておらず、その普及は平安時代になってからのことであることを確認する。
次に、そもそも平仮名の字が、通説のように全て草書に由来するかを検討する。平仮名の中に、字源が中国の草書と一致しない一群があることを指摘し、上代から使用例のある楷書・行書の字形から崩れたものや、日本で独自に使われた字形を字源とするものも含まれていることを明らかにし、それらは平安時代初期に通用していた書き方から適宜採用されたものであることを論じる。
最後に、草書が取り入れられたことが、平仮名が発生する契機になったことを論じる。国語を表音表記した歴史は長いが、その形を書き崩して独自の表音文字を作ることは九世紀まで起こらなかった。それが平安時代初期に起こったのは、この時期になって草書が普及し、万葉仮名にも使われるようになったためであり、草書は、平仮名という文字が生まれる上での重要な基盤であったと考える。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.57529/00000667
共同研究・競争的資金等の研究課題
平仮名成立史の研究
ID情報
  • DOI : 10.57529/00000667

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