論文

査読有り 筆頭著者
2014年

誕生表現に関する一考察:―― gabbhassa avakkantiとgandhabba ――

印度學佛教學研究
  • 名和 隆乾

62
3
開始ページ
1167
終了ページ
1172
記述言語
英語
掲載種別
DOI
10.4259/ibk.62.3_1167
出版者・発行元
日本印度学仏教学会

Dighanikaya 22 (III p.305, II.6-9)に列挙される誕生表現の一つとして,okkanti(降下)がある.この語が含意する内容にはいくつかの可能性が考えられるが,その一つにgabbhassa avakkanti/gabbhe okkanti/gabbhavakkantiという入胎を表す表現が挙げられる.従来,これらに対する翻訳語は一定していなかった.そこで本稿は各語の具体的用例を考察し,それぞれ前二者は「胎児の降下」「母胎への降下」と解されるべきであり,gabbhavakkantiに関しては「胎児の降下」または「母胎への降下」という両方の理解の可能性があることを示した.また本稿は,Dighanikaya 28 (IV p.103, 11.3-19)に現れるgabbhavakkantiという語が,ava-kramの文字通りの意味と考えられる「降下する」にとどまらず,入胎時〜出胎時の動作までをも含意していることを指摘した.これは,入胎〜出胎という一連の動作のうち,最初の動作であるava-kramを示すことで,一連の動作の完了までを含めた表現であると考えられる.本来「降下する」を意味すると考えられるava-kramが,入胎〜出胎までの動作をも含意する場合があるということは,当時「誕生」がどの様に理解されていたかを考える上で興味深い.次いで本稿は,Majjhimanikaya 38 (I p.265, 1.35-p.266, 1.6), 93 (II p.157, 11.1-3)に説かれる,gabbhassa avakkantiの成立に必要とされる3条件について考察した.その3条件の一つは「gandhabbaが控えた状態となる(gandhabbo ca paccupatthito hoti)」こととされるが,従来の殆どの研究はこのgandhabbaを入胎者(つまりgabbha)と看做していた.しかし本稿は,従来の研究の諸根拠を検討し,それらが根拠たり得ていないことを指摘した.そして,当該文脈に用いられる動詞表現の考察から,当該文脈においてgandhabbaは,入胎者と解されていなかったと結論づけた.なお,本稿は資料範囲をほぼパーリ聖典に限定している.というのも,本稿のテーマはいわゆる中有説とも関わりがあるが,中有を認めない上座部大寺派所伝のパーリ聖典と,中有を認める他部派の聖典とを併用することは,方法論的に適切でないと判断した為である.

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DOI
https://doi.org/10.4259/ibk.62.3_1167
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009809468
CiNii Books
http://ci.nii.ac.jp/ncid/AN00018579
URL
http://id.ndl.go.jp/bib/025364955
ID情報
  • DOI : 10.4259/ibk.62.3_1167
  • ISSN : 0019-4344
  • CiNii Articles ID : 110009809468
  • CiNii Books ID : AN00018579

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