基本情報

所属
大阪大学 大学院医学系研究科病理学講座および生命機能研究科 がん病理学教室 教授
学位
博士(医学)(2014年3月 東京大学大学院医学研究科)

連絡先
inoue.daichi.medosaka-u.ac.jp
J-GLOBAL ID
201801013514968244
researchmap会員ID
B000309225

外部リンク

大阪大学大学院医学系研究科基礎研究棟7階に2024年度よりあたらしい研究室(がん病理学教室)を開設しました。万博公園の緑を臨むロケーションの元、リノベーションを経て最新鋭の設備を整えています。大阪大学の恵まれた環境で私たちと一緒に研究していただける博士研究員を募集していますので、お気軽にお声がけください。全体ミーティングは英語で行い留学生も含めて国際的な環境を整備しています。

血液内科学(日本血液学会専門医・指導医)を背景として、がん生物学の探究に取り組んでいます。米国NYのMemorial Sloan Kettering Cancer Centerへの留学を経て、2019年より神戸先端研で血液・腫瘍研究部を主宰してきました。2024年4月より大阪大学に異動し、以下の研究を発展させています。

主に臨床医学(血液内科学)・腫瘍学を背景として、骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)を中心とした血液がんのメカニズム解析を進めてきましたが、対象を固形がん全体に広げ、分子発症機構の解析やメカニズムに基づいた治療応用に関する研究に挑戦しています。
とくに、正常幹細胞と腫瘍性幹細胞の違いを内的・外的制御機構の点から正確に理解し、そこから得られる腫瘍の脆弱性に着眼した治療応用を目指しています。

(1) RNAレベル・翻訳レベルでの遺伝子発現制御機構 

がん細胞では遺伝情報が転写後RNAレベルで歪められることを見出してきました。これまでにRNAスプライシングやRNAメチル化・RNA輸送などの転写後レベルでの遺伝情報の制御機構を探索し、腫瘍細胞における治療標的分子を複数同定しています。現在、化合物などを用いて病態への介入を目指しています。さらに、翻訳における制御機構の破綻がどのように発がんにつながるのか、新規テクノロジーを用いて探索しています。

Inoue et al. Nature 2019, Inoue et al. Nature Genetics 2021, Nishimura et al. Cancer Sci 2022, Nishimura et al. Exp Hematol 2023, Nishimura et al. ongoing project, Saika et al. ongoing project, Oshima et al. ongoing project, Kanaoka et al. ongoing projectなど

(2) ブロモドメインタンパクによる造血制御およびをそれらを標的とした白血病治療応用 

がんにおいて、ブロモドメインタンパクBRD9のRNAレベルでの制御異常を報告してきました。正常造血およびAML造血におけるBRD9阻害による幹細胞分化制御機構をクロマチンレベルで詳細に明らかにしており、生体モデルでの治療応用を進めています。また、成人造血と胎児性造血におけるBRD9の役割の違いや、免疫細胞における役割、BRD9-NUTM1融合遺伝子が原因となる乳児白血病の発症機構、制御性T細胞におけるBRD9の機能の解明にも取り組んでいます。

Xiao et al. Nat Commun 2023, Zhang et al. iScience 2025, Nishimura et al. in revision, Yamasaki et al. ongoing projectHasegawa et al. ongoing projectなど

(3) RNAスプライシング異常と合成致死性を利用したMDS治療応用 

MDSの約半数でスプライシング関連遺伝子の変異が検出されていますが、スプライシング異常そのものを標的とするのは非常に困難です。そこで、発想を転換し、スプライシング異常により分解される分子との合成致死性を利用する新規治療戦略の開発を行っています。

Zhang and Hasegawa et al. ongoing project

(4) 予後不良EVI1再構成AMLの機能解析 

予後不良AMLの代表としてinv(3)やt(3;3)によって転写因子EVI1が過剰発現したAMLが知られています。同時に存在するスプライシング関連遺伝子変異によってEVI1のDNA結合能力を変化させる新規バリアントを同定しました。このようなAMLではVenetoclaxなどの薬剤耐性が知られており、生体モデルを用いて耐性克服を試みています。

Tanaka et al. Blood 2022, Knorr et al. Nature Cancer 2023, Zang and Koike et al. in revision

(5) SETBP1変異による予後不良白血病および先天性疾患のモデル作成とメカニズム解明  

治療抵抗性で知られるSETBP1変異AMLに着眼し、SETBP1が本来持つ役割の解析、変異体が有するクロマチンへの影響をAMLモデルおよび先天性疾患モデル(Schinzel-Giedion syndrome)で詳細に解析しています。SETBP1変異は比較的高頻度に認められながら、その意義の理解や解析手法でこれまでに大きな限界を抱えていました。そこで、より生理的な条件を模倣した生体モデルや単一細胞レベルでの解析手法を用いてメカニズムと治療戦略を探索しています。

Tanaka et al. Leukemia 2023, Yamazaki et al. in preparation, Saika et al. in preparation, Okada et al. ongoing project

(6) 造血幹細胞と骨髄ニッチ環境との相互作用の解明 

造血細胞が骨髄微小環境をどのように制御し、また骨髄微小環境の変化がどのように造血に影響を与えるのか、細胞外小胞、単一細胞レベルでのクロマチン解析、イメージングなどの新規テクノロジーを用いて明らかとしています。現在、血液と骨との臓器連関や、間葉系幹細胞のクロマチン制御異常などをscRNA/ATAC-seqなどを用いて探索しています。

Hayashi et al. Cell Rep 2022, Hayashi et al. Int J Hematol 2023, Hayashi et al. ongoing project

(7) 造血細胞に生じる新たな細胞死フェロトーシスの意義 

加齢に伴う酸化ストレス、脂質過酸化の蓄積について、セレノプロテイン、鉄依存性の細胞死フェロトーシスの観点から、幹細胞の分化バイアスや老化、疾患発症の観点から研究を進めています。また、AML細胞にフェロトーシスを誘導する治療戦略にも取り組んでいます。

Aoyama and Yamazaki et al. Blood 2025, Yamazaki et al. ongoing project

(8) Metabolic Rewiringに着眼したがん治療応用 

AML細胞が依存するアミノ酸取り込み経路や阻害時の代償機構、細胞死誘導に抵抗性となるメカニズムに着眼し治療応用と耐性克服機序に取り組んでいます。

Yamazaki et al. ongoing project

(9) TP53変異白血病の未知の病態解析と治療応用 

TP53変異の理解は未だ不十分な点が多く、変異体が機能喪失や機能変容など、どのような作用を有しているのか、極めて予後不良なTP53変異白血病においても、まだ十分な結論には至っていない状況が続いています。新規モデルと大規模スクリーニングによる治療標的を同定しており、レドックス代謝を中心とした病態解明に基づく治療戦略を行っています。

Nishimura et al. ongoing project

(10) 進化的に保存されてきたイントロンの存在意義 

進化的に重要な遺伝子のみに高度に種を超えて保存されてきた「マイナーイントロン」は全イントロンのわずか0.3%、700個あまりとされ、通常とは異なる機序でスプライシングされます。この希少イントロンの存在意義を幹細胞の観点から解き明かす試みを行っています。

Saika et al. ongoing project


(11) クローン性造血や体細胞老化を中心とした臓器連関機構の解明

近年、遺伝子変異を伴う造血幹細胞由来の成熟血球がさまざまな臓器で不都合な役割を担い、個体老化につながることが明らかになってきました。多臓器連関、細胞間コミュニケーションの解明を通して、老化や前がん病変のメカニズム解明に取り組んでいます。

Hasegata et al. ongoing project, Morii et al. ongoing project, Sugiyama et al. ongoing project

(11) 時間の概念から細胞を捉える新生物学 

今見ている形質を持った細胞の元の正体とは何か?時間を遡ってみる新技術や細胞系譜、細胞イベントを忠実に記録する新手法を用いて、これまでにない新しい領域を拓く挑戦的研究も行っています。学術変革B、JST-CRESTにおいてサポート頂きながら新技術を用いて、発がん、分化コミットメント、胎児造血発生、加齢などの様々な局面から細胞の運命を紐解いています。

2025/6 現在
ラボメンバー 23名(准教授1名、助教2名、博士研究員2名、医学系博士課程11名, 生命機能研究科大学院生2名, 技術職員2名, 事務職員2名, MD研究者8名, 海外出身者6名)

[経歴]
2005/3 京都大学医学部医学科卒業
2005/4-2010/3 神戸市立医療センター中央市民病院免疫血液内科初期・後期研修医
2010/4-2014/3 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(医科学研究所 北村俊雄教授)
2014/4-2015/9 東京大学医科学研究所細胞療法分野特任助教
2015/10-2019/3 Memorial Sloan Kettering Cancer Center 博士研究員 (Omar Abdel-Wahab Lab) 
(2015/10-2017/9日本学術振興会海外特別研究員)
2019/2- 神戸医療産業都市推進機構先端医療研究センター血液・腫瘍研究部 上席研究員
2020/4- 京都大学大学院医学研究科客員准教授
2021/10- 神戸医療産業都市推進機構先端医療研究センター血液・腫瘍研究部 部長
2024/4- 大阪大学大学院医学研究科病理学講座および生命機能研究科(がん病理学)教授


学歴

  2

受賞

  27

論文

  83

MISC

  25

共同研究・競争的資金等の研究課題

  15