MISC

2015年7月

低用量フタル酸エステル曝露による自己免疫性精巣炎への影響

臨床環境医学
  • 寺山 隼人
  • 伊藤 正裕
  • 平井 宗一
  • 内藤 宗和
  • 曲 寧
  • 倉升 三幸
  • 小川 夕輝
  • 畑山 直之
  • 林 省吾
  • 平柳 淑恵
  • 隅山 香織
  • 金沢 輝久
  • 坂部 貢
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24
1
開始ページ
48
終了ページ
57
記述言語
日本語
掲載種別
出版者・発行元
日本臨床環境医学会

フタル酸エステル(Di-(2-ethylhexyl)phthalate:DEHP)の曝露により誘導される、酸化ストレスやアジュバント効果の影響により、精子形成障害が引き起こされることが報告されている。我々は、精子形成障害が誘導されない低用量のDEHPの曝露であっても、精巣内の免疫環境が変化していることを報告している。成熟精子は免疫系が既に確立された思春期以降に精細管内に出現するため、免疫系から異物として認識される様々な自己抗原を含んでいる。一方で、セルトリ細胞で構成される血液-精巣関門(Blood-Testis Barrier:BTB)により、これらの自己抗原は免疫系の攻撃から守られている。以前、我々は、同系のマウスから精巣生殖細胞(Testicular Germ Cell:TGC)の皮下注射を1回するだけでは明らかな精子形成障害が誘導できないが、2回以上皮下注射する事でリンパ球の浸潤と精子形成障害を特徴とする実験的自己免疫性精巣炎(Experimental Autoimmune Orchitis:EAO)が誘導されることを示した。本研究は、低用量DEHP曝露がEAO発症に及ぼす影響を解析した。実験動物は10週齢A/Jマウスを用いた。実験群は(1)Control群:通常の食餌、(2)DEHP群:0.01%DEHP含有食餌、(3)TGC群:通常の食餌+TGCの1回皮下注射、(4)DEHP+TGC群:0.01%DEHP含有食餌+TGCの1回皮下注射、の4群とした。注射から8週間後に安楽死させ、精巣と血清の解析を行った。解析方法は組織化学染色(HE染色、HRP染色)、免疫組織化学染色(F4/80、IFN-γ、血清抗体)、Realtime PCR(F4/80、IFN-γ)、ELISA(血清IgG)を用いた。TGC群は、精子形成障害が誘導されないが、精巣内への僅かなリンパ球浸潤、IFN-γ mRNAの上昇、精子・精子細胞に対する自己抗体の出現が認められた。DEHP群は、TGC群の障害に加え、HRPの精細管内への侵入やセルトリ細胞の空胞化が観察され、BTBの障害が認められた。さらに、DEHP+TGC群は、重度のEAOの誘導、精子・精子細胞に対する自己抗体の出現、HRPの精細管への侵入が観察され、他群と比較して、F4/80 mRNA、IFN-γ mRNA、自己抗体の上昇が認められた。本研究にて、精子形成障害をきたさない量のDEHP曝露であっても、BTBが障害され、自己免疫性精巣炎が誘導されやすい状態になっていることが明らかになった。(著者抄録)

ID情報
  • ISSN : 0916-9407
  • 医中誌Web ID : 2016105615

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