MISC

2007年

ヴィエンチャン近郊農村における工場通勤労働の開始と日常生活の変化

日本地理学会発表要旨集
  • 西村 雄一郎
  • ,
  • 岡本 耕平

2007
0
開始ページ
128
終了ページ
128
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14866/ajg.2007f.0.128.0
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

<BR> ラオスの首都ヴィエンチャン近郊地域では,市街地に近接した地域を中心に1990年代以降,工場立地が進展しているが,交通事情もあって通勤圏は狭い.ドンクワーイ村もごく最近まで通勤圏に含まれておらず,賃労働収入の源は,主として出稼ぎか,乾季に他の村で収穫を手伝うといった程度であった.<BR> このドンクアーイ村で,2006年2月に初めて通勤就業が始まった.タイ資本がヴィエンチャン郊外に設立した外国むけ絵本の製本工場(X社)から村に求人があり,工場の送迎バスによる片道1時間から1時間半かけての通勤が始まった.また,2007年2月には,東南アジア・インドで生産されたジーンズを搬入しウォッシュ加工を行うフランス資本の工場(Y社)への通勤も始まった.<BR> 本研究では,両社およびドンクワーイ村の通勤経験者17名全員に雇用状況に関するインタビュー調査を行った(2007年3月実施).この調査結果と,全世帯悉皆調査(2005年8月-20006年10月実施),GPS/GISを用いた生活活動調査(40世帯,2006年8月実施)のデータを併用し,通勤と日常生活・家計との関連について検討した.<BR> X社は基本給が月35US$,Y社は約30US$程度で,ともに残業・皆勤などの手当が加算される.労働時間は,各社朝8時から17時が定時であるが,需要変動に応じた残業が行われ,村への帰宅が深夜になる場合もある.通勤経験者のうち男性は1人のみで,それ以外はすべて女性であり,年齢は15-20歳に集中する(平均18.4歳).また,既婚者は女性1名のみでそれ以外は未婚である.<BR> 通勤就業を行うことで,これまで現金収入を持たなかった若年女性でも定期的な収入を得,家計を助けることが可能になった.しかし,工場通勤労働の定着率はかなり低い.これは,賃金が非常に安く,残業がなければ就業継続への意欲を満たすに足る収入を得られないこと,自然資源採集を含む複合的な現金収入獲得の手段が存在していることが理由となっている(表1).また,長時間残業・休日出勤と長時間の通勤時間により身体的な負担が高く,かつ他の世帯構成員と全く異なる生活時間・空間で日常生活を送らざるを得ないことも工場通勤労働の定着率を低めている(図1).<BR> 工場側は,こうした低い定着率に対応するために常に必要以上の労働者を確保しようと努めており,そのためX社・Y社のような後発立地の工場は,ドンクワーイ村のような通勤圏の限界にまで通勤送迎バスを出して労働者を募る.仕事の閑散期にも余剰労働者を抱えるため,賃金は低く抑えられる.<BR> ヴィエンチャン近郊農村における工場労働市場は,このような工場側の事情と,農村部での生業複合のバランスの上に成り立っていると考えられる.

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2007f.0.128.0
J-GLOBAL
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200902205362130746
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130007013964
ID情報
  • DOI : 10.14866/ajg.2007f.0.128.0
  • ISSN : 1345-8329
  • J-Global ID : 200902205362130746
  • CiNii Articles ID : 130007013964

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