講演・口頭発表等

2011年11月

SNPマーカー情報を利用した黒毛和種の経済形質に関する遺伝的評価-ゲノム関係行列の形成に用いるSNP数と予測育種価の正確度-

第49回肉用牛研究会
  • 〇小川 伸一郎
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  • 松田 洋和
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  • 谷口 幸雄
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  • 渡邊 敏夫
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  • 西村 翔太
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  • 杉本 喜憲
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  • 祝前 博明

記述言語
日本語
会議種別
口頭発表(一般)

(発表者)

【目 的】
近年、ウシ50KSNPチップが開発され、大量のSNPマーカー情報を利用したゲノム育種価評価が手法的に実現可能となってきている。そこで、演者らの共同研究グループは、これまでに、黒毛和種肥育牛に関する枝肉形質および50K SNPチップのデータを用い、計算の手法、遺伝分散および残差分散の推定、育種価予測の正確度などの観点から、ゲノム評価に関する基礎的検討を行ってきている。本研究では、関連の基礎研究の一つとして、黒毛和種肥育牛の枝肉重量を対象とし、GBLUP法でのゲノム関係行列(G行列)の形成に用いるSNP数を順次変化させた場合における予測育種価の正確度の変化の様相について検討を加えた。
【方 法】
黒毛和種去勢肥育牛872頭の枝肉重量およびSNPのデータを用いた。枝肉重量のデータは、平成12年から20年までの間に、二か所の食肉市場において収集された記録(約22~37か月齢)である。記録を記述するための線形モデルには、母数効果と残差に加えて、個体の育種価(ポリジーン効果)の変数を取り上げた。SNP型の判定は、Illunima Bovine 50K Infinium Ⅱによって54,001箇所のSNPについて行い、マイナーアリル頻度>0.01、データコール率>0.95、ハーディー・ワインベルグ平衡から乖離していないこと(P>0.001)などを選択基準として、最終的に37,838箇所のSNPを選定し利用した。データの分析は、血統情報に基づく相加的血縁行列に変えて、SNPデータによって作成したG行列を用い、ベイジアン・リッジ分析法によって実施した。ここでは、G行列の形成に利用するSNP数を500から順に増加させ(配置は等間隔)、遺伝分散および残差分散の推定値の推移の様相を調べるとともに、予測育種価の正確度との偏りの検討を行った。
【結 果】
遺伝分散および残差分散の各推定値は、全SNPを用いた場合の値のそれぞれ52および154%であった。SNP数を順次増加させると、残差分散の当該割合は減少する一方、遺伝分散のそれは増加する顕著な傾向が認められ、4,000個を用いた場合の遺伝分散の当該割合は88%であった。さらにSNP数を増やすと、抽出変動による多少の増減は認められたが、遺伝分散の当該割合は漸増し、10,000個を用いた場合に100%に達した。全SNPを用いた場合と1,000個を用いた場合との予測育種価間の相関は0.90であったが、4,000個を用いた場合には0.986の値を示し、4,000個および10,000個の場合における予測育種価の全SNPを用いた場合に値に対する単回帰係数は、それぞれ0.93および1.00であった。以上の結果は、黒毛和種の枝肉重量を対象としたGBLUP法に関して、低密度のSNPチップの利用についての有用な情報を与えていると考えられるが、交差確認や異なるデータセットによる検討が必要である。