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Life sciences / Urology

糖尿病治療薬(SGLT2 阻害薬)に新たな可能性 ~糖尿病治療薬(SGLT2 阻害薬)による尿路結石抑制の可能性を 日本人の大規模疫学データで検証~

【発表のポイント】

   <疫学研究より>・・糖尿病罹患が尿路結石症増加と関連していることを示しました。糖尿病患者において各種糖尿病治療薬の中で唯一SGLT2阻害薬のみが尿路結石症の減少と関連し、他の糖尿病治療薬は尿路結石症の減少と関連していないことを示しました。さらに非糖尿病患者男性に対するSGLT2阻害薬使用が尿路結石症減少と関連していることを示しました。

 

   SGLT2阻害薬は尿路結石に対する有望な治療アプローチとなる可能性があります。

【概要】

四谷メディカルキューブ泌尿器科科長阿南 剛(あなん ごう)(東北医科薬科大学医学部臨床准教授)と東北医科薬科大学病院薬剤部 菊池 大輔(きくち だいすけ)副薬剤師長、東北医科薬科大学医学部統合腎不全医療寄附講座 / 東北大学大学院医学研究科 廣瀬 卓男(ひろせ たくお)助教らの研究グループは、糖尿病治療薬として使用されているSGLT2阻害薬の尿路結石抑制の可能性を日本人の大規模患者データベースを用いた疫学研究から示しました。糖尿病は尿路結石症の増加と関連していましたが、各種糖尿病治療薬と尿路結石症の関係を検討したところ、SGLT2阻害薬のみ尿路結石症減少と関連し、他の糖尿病治療薬は尿路結石症の減少と関連しないことを明らかにしました。これまでに同グループは動物・細胞を用いた基礎研究により、SGLT2阻害薬が抗炎症作用にて腎臓結石の形成を抑制することを報告してきました。本研究では、日本人のリアルワールドデータを用いて、SGLT2阻害薬による尿路結石症抑制の可能性を示しました。この研究成果は根本的治療薬のない尿路結石症の病態理解や治療法の開発に役立つことが期待され、「すべての人に健康と福祉を」のSDGsに貢献します。

本研究成果は2023年02月24日付けで国際専門誌Kidney International Reports誌に掲載されます(doi: https://doi.org/10.1016/j.ekir.2023.01.034)。

 

【研究背景】

尿路結石症は男性15%、女性7%(男性7人に1人、女性15人に1人)が生涯で罹患する内分泌代謝疾患の1つで、猛烈な痛みを伴います。また、再発率が高く、5年で約50%の人が再発します。尿路結石の約90%は結晶成分としてシュウ酸カルシウムを含みますが、このカルシウム含有結石の形成を抑制したり、溶解したりする薬はなく、根本的な治療薬は存在しません。そのため、尿路結石症の成因の究明、再発予防法、治療薬の確立は喫緊の課題となっています。

今回、我々が注目したSGLT2阻害薬注1)は、腎臓でのグルコースの再取り込みを抑制して血糖を低下させる糖尿病治療薬の1つですが、近年では心臓保護作用や腎臓保護作用も着目されています。さらに、SGLT2阻害薬は、利尿作用や抗炎症作用といった結石形成に抑制的に働く効果を持っており、これまでに我々はSGLT2阻害薬が抗炎症作用により腎臓結石形成を抑制することを動物・細胞実験で報告しました(Pharmacol Res. 2022;186:106524) (https://www.tohoku-mpu.ac.jp/medicine/media-medicine/63408/https://www.tohoku-mpu.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2022/11/4490bdb855d59d3df768dc0419530e75.pdf)。今回、日本人の大規模疫学データを使用し、糖尿病の有無と尿路結石症との関連、糖尿病患者における各種糖尿病治療薬と尿路結石症との関連、非糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬処方と尿路結石症との関連を検討しました。

 

【研究内容】

本研究では、日本のDPC注2)データベース(約1,192万人)を使用し、リアルワールドデータで糖尿病の有無で尿路結石有病率に差があるかを検証しました。糖尿病は男性ではオッズ比1.12(95%信頼区間1.10-1.13)、女性ではオッズ比1.70 (95%信頼区間1.67-1.73)と有意に尿路結石症増加と関連していました(表1)。

次に、糖尿病患者における各種糖尿病治療薬(SGLT2阻害薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、ビグアナイド薬、DPP4阻害薬、グリニド薬、SU薬、チアゾリジン薬)の使用の有無と尿路結石の有病率に差があるかを検討しました。SGLT2阻害薬のみオッズ比男性0.95 (95%信頼区間0.91-0.98)、女性0.91 (95%信頼区間0.86-0.97)と尿路結石症減少と有意に関連していました。SGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬は尿路結石症の減少と関連はありませんでした(表2)。

加えて、非糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の有無で尿路結石有病率に差があるかを検討しました。非糖尿病男性患者ではSGLT2阻害薬はオッズ比0.42 (95%信頼区間0.35-0.51)と有意に尿路結石症減少と関連を認めましたが、女性ではSGLT2阻害薬はオッズ比0.90 (95%信頼区間0.68-1.19)と尿路結石症減少と関連を認めませんでした(表3)。

 

【今後の展望】

日本人の大規模疫学研究にて、糖尿病患者においてSGLT2阻害薬が尿路結石症の減少と有意に関連していました。これまでの動物・細胞実験の結果でもSGLT2阻害薬が抗炎症作用により腎臓結石形成を抑制した(図1)ことと一致する結果でした。カルシウム含有尿路結石に対する予防薬・治療薬はこれまで存在しませんので、尿路結石予防ならびに治療薬への応用が期待できると考えられます。

 

【用語説明】

注1.       SGLT2阻害薬; 近位尿細管のトランスポーターSGLT2 (Sodium-glucose cotransporter 2)とSGLT1により99%以上のブドウ糖が尿から体内に再吸収されます。このSGLT2を阻害することで、ブドウ糖の体内への再吸収を抑制し尿中に排泄することで血糖を低下させるといった作用機序を有しています。日本では2014年から糖尿病の治療薬として使われていますが、近年では心不全や慢性腎臓病の治療にも使わるようになっています。

注2.       Diagnosis Procedure Combination (DPC); 診断群分類システムの呼称で、診断名や薬剤名などが登録されています。

 

【論文名】

Impact of sodium-glucose cotransporter-2 inhibitors on urolithiasis

(SGLT2阻害薬の尿路結石症に対する影響)

掲載誌:Kidney International Reports

 

【著者名】

Go Anan*, Daisuke Kikuchi, Takuo Hirose, Hiroki Ito, Shingo Nakayama, Takefumi Mori

*責任著者

なお、本研究は文部科学省および日本学術振興会による科学研究費補助金、鈴木謙三記念医科学応用研究財団の助成金の支援を受けて行われたものです。

 

【本件に関するお問い合わせ先】

〈研究に関すること〉

四谷メディカルキューブ

泌尿器科科長 阿南 剛(あなん ごう)

(東北医科薬科大学臨床准教授)

TEL:03-3261-0401

E-mail:g-anan@mcube.jp

 

東北医科薬科大学病院薬剤部

副薬剤師長 菊池 大輔(きくち だいすけ)

TEL: 022-259-1221

E-mail:d.kikuchi@hosp.tohoku-mpu.ac.jp

 
〈機関窓口〉

医療法人社団あんしん会 四谷メディカルキューブ

経営管理部 広報担当

島津(しまづ)・永田(ながた)

TEL:03-3261-0401 (代表)

E-mail:pr@mcube.jp

 

学校法人東北医科薬科大学 企画部広報室

TEL:022-727-0357 (直通)

FAX:022-727-2383

E-mail:koho@tohoku-mpu.ac.jp

 

Institution :  東北医科薬科大学      四谷メディカルキューブ