MISC

2013年9月6日

ヒトとサル類における鼻腔の生理学的機能に関する数値流体力学的シミュレーション

霊長類研究
  • 西村剛
  • 森太志
  • 埴田翔
  • 熊畑清
  • 石川滋
  • 宮部貴子
  • 鈴木樹理
  • 林美里
  • 友永雅己
  • 松沢哲郎
  • 松澤照男
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29
Supplement
開始ページ
158
終了ページ
記述言語
日本語
掲載種別
出版者・発行元
日本霊長類学会

 人類は,鮮新世アフリカで種分化を遂げたが,その後,更新世初期に現れたヒト属 Homoのみが生き残った.ヒト属は,平らで短い顔という派生的形質に加え,その顔から突き出で下方に開口するという奇妙な外鼻を有する.外鼻孔から前庭,鼻弁,鼻腔をへて咽頭に至る鼻道は,さまざまな温度・湿度状態で入ってくる吸気を,核心温度で湿度 100%の状態に調整する機能を担っている.その不具合は生存リスクを高める.本研究は,数値流体力学的シミュレーションを用いて,寒冷・温暖,乾燥・湿潤の 4つの組み合わせの外気条件を設定し,ヒトとチンパンジー,マカクザル,サバンナモンキーにおける鼻腔内の吸気の流れと,温度・湿度調整の様態を比較検討した.吸気流は,種を問わず,鼻弁とよばれる狭めで速く,そこから鼻腔へと拡散し,主として鼻腔の中内側部を通じて咽頭へと至る.ただし,ヒト以外の霊長類では,鼻弁から咽頭へと直線的な流がみられるが,ヒトでは,鼻弁から鼻腔へと上向きに流れ,鼻腔から咽頭へ下向きに流れる曲線的な流れがみられた.吸気の温度と湿度は,いずれの種においても,厳しい外気条件であっても十分に調整される.鼻腔は,上鼻道,中鼻道,下鼻道という狭い溝に区分され,それらは鼻腔の中内側で交わる.ゆえに,中内側部は,流れる吸気の体積に比して呼吸上皮の表面積が最も広いので,そこで,吸気の温度や湿度は効率的に調整されるのだろう.ヒト属の鼻腔は,その他の霊長類や人類と異なり,顔面頭蓋の形態進化にともなって高く,サル型の外鼻であれば,吸気は主として鼻腔の下部を流れると考えられる.しかし,ヒト属の派生的な外鼻により,鼻腔へ入る吸気が鼻腔の中内側部へと向くと考えられる.その奇妙な外鼻をもつ更新世ヒト属は,変動の激しい気候環境下のアフリカを生き抜き,さらに,より厳しい気候のユーラシアへと出アフリカ (第 1次 )を成し遂げることができたのだろう.

リンク情報
J-GLOBAL
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201402241524020539
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130005471584
URL
http://jglobal.jst.go.jp/public/201402241524020539
ID情報
  • ISSN : 0912-4047
  • J-Global ID : 201402241524020539
  • CiNii Articles ID : 130005471584
  • identifiers.cinii_nr_id : 9000347150522

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