MISC

2003年

「見せる風致施業」はどこまで語られてきたか

日本林学会大会発表データベース
  • 奥 敬一
  • ,
  • 深町 加津枝
  • ,
  • 大住 克博

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DOI
10.11519/jfs.114.0.133.0
出版者・発行元
日本森林学会

1.はじめに 「風致施業」が,伐採跡を目立たなくする,あるいは見えない場所で伐採するという「隠す」風致施業ではなく,より積極的に森林景観を向上させる「見せる」あるいは「魅せる」風致施業を目指すべきであるという指摘は,1970年代後半から現れ始めた。その後,四半世紀の間に森林を取り巻く情勢は大きく変化したが,日常・非日常の風景としての森林の重要性についての認識は深まっており,森林の持っている美しさを効果的に発揮させる施業技術に対する期待は,一層高まっているといえる。 本論では,主に1970年代以降の資料をもとに,研究と実践の場から,「見せる風致施業」に関連して得られた知見,語られてきたこと,そして充分に議論されてこなかった事柄を整理することを目的としている。したがって,対象とした資料は国内の事例に限り,等高線伐採や不可視域での伐区設計といった事例は除いた。2.資料 レビューの対象とした資料は,学術雑誌として日林誌,日林論,各支部会誌,森林計画学会誌,造園雑誌(ランドスケープ研究)などのほか,各大学紀要・報告,日林学術講要,林業技術誌,地域林試報告,営林局(森林管理局)業務研究報告,主要な単行書であり,森林総合研究所の森林・林業関連文献データベースである「Folis」による検索を中心に抽出した。とくに現場での実践事例報告の収集はFolisによる検索に大部分を依拠した。3.結果と考察森林景観の評価については多くの研究が積み重ねられてきている。とくにSD法を中心としたイメージ研究の蓄積により,景観を評価するための多元的な尺度の構成に関して多くの知見が得られている。また,森林の物理的な構造と,景観あるいは空間利用上の好ましさを結びつけて指標化を試みた研究も多く存在し,さらにイメージと物理的指標とを関連づけようとした報告も見られた。一方,実践事例において大きな比重を占めるのは,密度管理によって森林風致の形成を試みた事例である。これには間伐を通して人工林や広葉樹二次林を風景的に向上させようとするものが含まれる。また,既存の人工林を天然林型に誘導したり,風致樹の導入を行った事例も比較的多く見られた。研究,実践ともに一定の知見の積み重ねは進んでいるものの,この間,双方の知見を積極的に統合しようとする試みは充分になされたとはいえない。とくに,森林景観のイメージに関連する多元的な評価軸と,施業・管理に利用できる物理指標との関連の整理は,立木密度に関するものを除けばわずかである。逆に,実践事例に関しては実施の前後およびその後の経過に対するイメージ評価が十分でないため,将来の風致施業技術のための貴重な情報が見過ごされている可能性がある。また,風致施業として提案されてきた技術の,生態,造林技術的観点からの検討にも,いまだ多くの余地が残されている。「見せる風致施業」は,まだ多くの範例を必要としている。現地での施業の適用にはそのためのモデルとなる森林の存在が重要であり,評価研究を通したそうしたモデルの発見と,施業の試行から時間を経過した林分を検証可能なモデルとしてモニタリングしていくことが,今後の風致施業の展開にとって,重要なキーとなるだろう。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.11519/jfs.114.0.133.0
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130007019939
ID情報
  • DOI : 10.11519/jfs.114.0.133.0
  • CiNii Articles ID : 130007019939

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