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2015年1月10日

単一原子/光子を操作するナノ光ファイバー

日本物理学会誌
  • 白田耕藏

70
1
開始ページ
36
終了ページ
44
記述言語
日本語
掲載種別
記事・総説・解説・論説等(学術雑誌)
出版者・発行元
日本物理学会

光の発生や伝播を光子のレベルで操作制御することは光物理学のトピックスの一つである.また関連研究は応用の視点からも,量子情報処理を実現するための基盤技術として世界の各所で様々に展開されている.本稿では,我々がこの10年来研究を進めているナノ光ファイバーによる単一原子/光子の操作制御法について実験技術を中心に紹介する.ナノ光ファイバーとは,通常の単一モード光ファイバーの一部をサブミクロン直径(伝播光の半波長程度)まで極細化したものであり,応用の視点からは単一原子/光子の操作制御機能を将来の量子情報光ファイバーネットワークに直接的に組込み可能なことが要点である.一方,物理的には光のモード密度分布を直径が波長程度の微小なナノファイバー伝播モードに局在集中させることがその要点である.モード局在の結果,ナノファイバー近傍に配置した原子の光応答は自由空間と大きく異なるよう操作し制御することができる.典型例は原子の自然放出であり,ナノファイバー表面近傍では原子の自然放出は異方的となり,放出蛍光全光子の20%以上がファイバー伝播モードに放出される.即ち,ナノファイバー上に単一原子を配置すれば,その蛍光を量子情報処理のキー要素の一つである単一光子の列としてファイバーモード中に効率良く発生できる.また,ナノ光ファイバー近傍に原子を配置すれば,原子に共鳴する伝播光の散乱確率は大きく高まり,結果としてファイバー伝播光に対し高光学密度系を少数原子で生成できる.ナノファイバー伝播光の高光学密度原子系が実現すれば,光子レベルの超微弱伝播光を操作する共鳴非線形光学過程を様々に設計し実現し得る.更に,ナノ光ファイバー系に共振器を組込めば,異方的な自然放出や高光学密度原子系の機能は飛躍的に増強でき,物理的にもまた応用技術としても大きなインパクトを与え得る.最近では,ナノファイバー上に周期的な穴構造を直接に加工しファイバーブラッググレーティング(FBG)により反射機能を組込む技術も確立しつつあり,既に優れたナノファイバー光共振器も実現している.また直接加工法と相補的な方法として,ナノファイバーに外部グレーティングを接触させることにより,ナノファイバーにFBG機能を組込む方法も確立しつつある.最近ではこの外部グレーティングに不連続欠陥を導入することにより単一モードナノファイバー共振器も実現し,自然放出の大きな増大効果など共振器QED効果も観測されている.ナノ光ファイバーの方法は単一原子/光子の操作制御法として,その物理的及び技術的基盤は確立しつつあるが,諸機能を媒介する「原子」については更なる発展が必要である.本稿で紹介する研究では「原子」としてレーザー冷却原子系や常温のナノ結晶量子ドット系を用いているが,レーザー冷却原子系は物理的には理想に近いが応用技術展開を考えたとき,その生成/制御の複雑さはネックになるだろうし,量子ドット系は簡便な単一ドット操作や発光量子効率の高さの面で大きな長所を有するが,発光スペクトル幅の広さや発光が点滅するブリンキングなど問題点もある.今後はこれまでに確立してきた実験技術をベースに,理想に近い「原子」系の開発が期待される.

リンク情報
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009900506
CiNii Books
http://ci.nii.ac.jp/ncid/AN00196952
URL
http://id.ndl.go.jp/bib/026010708
ID情報
  • ISSN : 0029-0181
  • CiNii Articles ID : 110009900506
  • CiNii Books ID : AN00196952

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