共同研究・競争的資金等の研究課題

2019年4月 - 2022年3月

統一的正犯体系に基づく共犯理論の総合的研究:比較法的検討を通じた理論と実務の架橋


配分額
(総額)
4,420,000円
(直接経費)
0円
(間接経費)
0円
資金種別
競争的資金

日本の共犯規定は、形式的には、正犯(共同正犯:60条)と共犯(教唆犯:61条、幇助犯:62条)を区別する「共犯体系」を採用しているが、裁判実務において共犯が処罰されることは稀であり、実際上は、犯罪関与者を原則として「正犯」として処罰する「統一的正犯体系」が採用されており、規定形式とその運用の間に乖離がみられる。そこで、本研究では、統一的正犯体系を実際に運用している各国の議論状況・実際の運用状況を広く参照することで、実質的には統一的正犯体系を採用している日本の裁判実務の基本的立場に対して理論的基盤を提供し、理論と実務を架橋することを目的とする。日本の共犯規定が「正犯」と「共犯」を区別する「共犯体系」を採用していることから、従来は「共犯体系」を前提とした研究が行われてきたのに対して、実務においては、犯罪に関与した者の大部分が「正犯」として処罰されており、実質的に「統一的正犯体系」を採用しているといえる状況にあり、ここに理論と実務の乖離がみられた。そこで、本研究は、統一的正犯体系に関する議論の蓄積のあるドイツや統一的正犯体系を採用しているとされる法域(北欧、イタリア、オーストリア、国際刑法)における議論および裁判実務を参照することで、犯罪に関与した者を広く「正犯」として処罰する日本の裁判実務に対して理論的基盤を提供し、理論と実務を架橋することを目的とするものである。本年度(2019年度)の研究においては、日本における統一的正犯体系に関する研究および実務における犯罪関与者の処罰状況を調査するとともに、ドイツ、北欧(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)、国際刑法、オーストリアにおける犯罪関与者の処罰をめぐる議論および実務状況について調査を行い、その概況を把握した。そして、研究会において上記調査で得られた知見を研究グループ内で共有し、共犯体系と統一的正犯体系との間で理論上特に問題となり得るのは、共犯と身分、共犯の従属性、共犯の因果性の問題であることを確認した。そこで、次年度以降は、これらの問題に焦点を当てて各国の議論状況および実務状況を具体的に調査・分析を行うとする調査方針を確立した。本年度(2019年度)は、調査計画に従って、日本および各法域における統一的正犯体系および犯罪関与者の処罰に関する議論および実務状況について調査を行い、そこで得られた成果を研究グループ内で共有することで、次年度以降の具体的な調査方針を確立することができたため、研究はおおむね順調に進展しているといえる。研究計画によれば、本年度(2019年度)に確立した調査方針に従って、次年度(2020年度)は、文献調査および現地調査を通じて、各国の議論状況および実務状況についてより具体的に調査する予定であった。しかし、新型コロナウイルスの影響により、現時点で、現地調査の実施が極めて困難であることが予想されることから、各国の研究者や実務家に対してオンラインによる聞き取り調査を行い、また、文献調査をより充実させることによって、これを補完することを予定し、準備を進めている