論文

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2020年12月31日

コミュニティ・スクールの権限規程の変容とその制度導入に及ぼす諸要因に関する実証的研究-学校運営協議会設置規則における「任用意見規程」に注目して-

日本教育学会『教育学研究』
  • 佐藤晴雄

87
4
開始ページ
2(468)
終了ページ
15(481)
記述言語
日本語
掲載種別
研究論文(学術雑誌)
出版者・発行元
日本教育学会

本論文は、コミュニティ・スクール制度創設から現在(2020年)に至るまでの学校運営協議会権限規程の在り方の変化を通してその役割変容の実態を明らかにすると共に、コミュニティ・スクール制度を新たに導入した教育委員会の未導入時における関係者の意識と施策の在り方に注目することによって、その導入の背景にある諸要素を探ること目的とする。
まず、現在のコミュニティ・スクール制度はイギリスの学校理事会(School Governing Bodies)をモデルにして創設されたことから、学校運営協議会には教職員の任用に関して任命権者に意見を申しできる制度として誕生した。しかし、この人事に関わる権限が与えられたことによって、コミュニティ・スクールを避ける傾向にあったが、2017年の法改正によってその権限の在り方は教育委員会の判断に委ねることが可能とされ、弾力化された。
このように、任用意見申出権限に関してはコミュニティ・スクールの普及を左右する争点であり、またガバナンスとしての存在にとつての鍵になるものと考えられる。
そこで、その法改正後の学校運営協議会設置規則の権限規程の変容を明らかにするために、①全国の設置規則611件を収集し、権限規程(任用意見及び運営意見の申出)の態様を分析することとした。さらに、②コミュニティ・スクール全国調査に設置規則における任用意見に関するデータを投入して再分析を試みた。
その結果、①設置規則の分析によれば、2017年以後の規則はそれ以前に比べて、任用意見が無条件で「有り」とされる例が減少し、代わって「校長の事前意見聴取」という条件を付した「有り・条件付け」が増加している。自治体希望別では、「有り・条件付け」が任命権者である道府県で有意に多いことが分かった。また、法改正がなされた2017年以後には「個人を特定せず」という制約を加える規程が目立つようになった。
次に、②全国調査の分析によると、新規導入教育委員会の特徴としては、2015年の調査時点で導入「予定のある」例が多く、教育委員会関係者がコミュニティ・スクールについて話題にしている程度が高く、また不能感が相対的に強い傾向にある。ガバナンスやソーシャル・キャピタルなどの条件よりも、新たな教育施策に積極的に取り組む先進性が見出された。
以上の分析結果から、2017年の法改正以後の新規導入教育委員会やその改正に合わせて規則改正を行った教育委員会の設置規則の任用意見規程がゆるやかにされ、その権限が弱められたのである。また、法改正以後にコミュニティ・スクールを導入した教育委員会は強い不要感をもつものの、未導入教育委員会に比べて不能感をやや強く抱く傾向が見出された。ようは、法改正によって、教育委員会独自の判断で任用規程の在り方が決定できるようになったことがコミュニティ・スクールの普及を促したと言えるのである。


キーワード
学校運営協議会/教職員人事/校長の意見具申権/教育委員会の内申権/校長への事前意見聴取

ID情報
  • ISSN : 0387-3161

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