基本情報

所属
福山大学 (名誉教授)
学位
農学博士(京都大学)

J-GLOBAL ID
200901002529240393

大学院生の時から半世紀、枯草菌研究を続けた。還暦に日本農芸化学会功績賞「枯草菌代謝ネットワークのカタボライト制御の分子機作」を授賞したが、その折「化学と生物」45巻3号の巻頭言(p.151, 2007)を執筆した。それをもってプロフィールに当てる。

「生命現象の普遍性と多様性」
一介の研究者が、一生の研究生活で取り組める研究課題は、極めて限られた学問分野の十指にも満たない。どの研究課題を選択するかに、その研究成果の質の殆どが規定される。ところが、研究課題は、それまで教授された知見や個人の限られた研究生活の中の偶然の要素により決まるか、あるいは、はぼ選択の余地なく与えられるのが普通である。その研究課題に切磋琢磨して取り組み、やっと得られた研究成果がどれだけ普遍化される知見であるかは、その研究に着手する前から判断する事は容易ではなく、偶然に左右されることが極めて大きい。
筆者が、枯草菌を研究対象にしたのは、学園紛争の嵐が東京から京都に押し寄せた頃で、A. Kornberg博士ら著名な大腸菌分子生物学者が、枯草菌の胞子形成に興味を抱き研究を始めた頃でもあった。博士号を取得後、筆者が米国国立衛生研究所(NIH)で枯草菌代謝研究に取り組んでいた頃に抱いた次の2つ疑問に、その後の40年の研究の大筋が規定される事になった。一つは、「複数の酵素を欠損し、胞子形成不能の極めて多面発現的な変異の本質は何か?」もう一つは「サイクリックAMPの関与しないカタボライト抑制とはどのような機構か?」であった。
最初の疑問は、欠損酵素の研究とそれらの遺伝子のマッピングなどの成果に結びついたが、最終的にこの多面発現変異の全貌がわかったのは、ゲノムの全塩基配列の決定後であった。ゲノム切断と再結合に基づく転移と欠失の結果であり、長年の思い入れが解明されればそういうことだったのかと思い知らされる事となった。もう一つの疑問は、枯草菌のカタボライト抑制機構の解明、さらにはこのカタボライト制御を基盤とする枯草菌の代謝制御ネットワークの解明へと展開することができた。
生命現象の解明の成果は、生物全般に適応できる普遍性をもつものとその生物に特有な多様性の一つについての知見とに区別されうる。きわめて普遍的な生命現象の解明は、ノーベル賞にも結びつくものであるが、生物の普遍的研究の黄金時代は30年以上前に過ぎ去ったと思われる。枯草菌研究では、R. Losick博士の胞子形成に関する圧倒的な研究成果もノーベル賞候補にすら挙がっていない。それどころか、20年以上前にそれまで細菌の基礎研究に携わって者の多くが、研究費の獲得ということもあって、その研究成果をひっさげて高等生物へと研究対象を転換していった。筆者は、幸運にも1990年前後からのゲノム学の発展により、枯草菌がモデル生物の一つとして取り上げらたことから、ゲノムの全塩基配列決定とその後のオーム研究に従事することができた。モデル微生物のゲノム研究は、ポストゲノム研究の幕を開いたが、網羅的で圧倒的なオーム研究の個々のデータの解析に、ほぼ従来の研究手法による分子レベルの解析研究に頼るという、かつての個別研究に戻ろうとしている。
筆者の研究のうち枯草菌の代謝制御ネットワークのカタボライト制御研究の成果は、グラム陽性低GC細菌に普遍的に適用できるが、生物全般から見ると多様な生物現象の一つに過ぎない。しかし、膨大な労力を必要とし、その殆どが徒労に終わる応用研究には、生物機能の多様性についてのデータは基礎知識として大きな意味をもつ。ともあれ、有能な研究者の研鑽の賜である、その研究分野の国際的評価に耐えた、普遍度の高い一流の一編一編の学術論文に最大限の敬意を払うものである。

Yasutaro Fujita 英文論文・著書・総説106編の被引用状況 [総被引用件数11,342件(Google scholar, 2020.6.02現在)(内訳:1000件以上 2編、999-200件 7編、199-100件 9編、99-50件 21編、49-25件 24編)].Yasutaro Fujita h指数:43. 日本農芸化学会功績賞のAward Review, 'Carbon Catabolite Control of the Metabolic Network in Bacillus subtilis', Biosci. Biotechnol. Biochem. 73: 245-259 (2009)の被引用件数、277件. Another Review, 'Regulation of fatty acid metabolism in bacteria', Mol. Microbiol. 66:829-839 (2007)の被引用件数、312件.

尚、福山大学当研究室での枯草菌研究により、2002年3月、吉田健一講師(現神戸大学教授)が農芸化学奨励賞「ゲノム情報に基づく枯草菌の逆遺伝学的研究」、さらに2013年3月、広岡和丈准教授が農芸化学奨励賞「植物の生育促進への利用に資する、枯草菌の転写応答機構の研究」の受賞に至っている。また、2012年3月、広岡和丈と藤田泰太郎の学術論文、'Identification of Aromatic Residues Critical to the DNA Binding and Ligand Response of the Bacillus subtilis QdoR (YxaF) Repressor Antagonized by Flavonoids', Biosci. Biotechnol. Biochem. 75: 1325-34 (2011)にBBB論文賞が授与された。

2012年3月、福山大学を定年退職、4月に再雇用後、2017年3月満期退職となった。この満期退職に当たって、生涯の研究を纏める解説「真正細菌フィルミクテス門に属する枯草菌の代謝制御の分子生物学の過去半世紀の展開」(化学と生物,54(9):657-667 (2016))を執筆した。

現在、ゲノム科学の素養を生かし、「古の日本(倭)の歴史」を執筆中である。


経歴

  18

学歴

  5

委員歴

  12

論文

  20

MISC

  111

書籍等出版物

  14

講演・口頭発表等

  57

共同研究・競争的資金等の研究課題

  24

産業財産権

  3