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査読有り
2013年

低負荷・低速度肩外旋トレーニングにより棘下筋は肥大する

日本理学療法学術大会
  • 松村 葵
  • ,
  • 建内 宏重
  • ,
  • 中村 雅俊
  • ,
  • 市橋 則明

2012
開始ページ
48100407
終了ページ
48100407
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14900/cjpt.2012.0.48100407.0

【はじめに、目的】 一般に棘下筋を含め腱板筋の筋力トレーニングは,三角筋などによる代償を防ぐために低負荷で行うことが推奨されている.しかし低負荷での棘下筋に対するトレーニング介入研究において,わずかに筋力増強が生じたという報告はあるが筋肥大が生じたという報告はなく,棘下筋に十分な運動ストレスを与えられているとは考えにくい. 近年,下肢筋を中心に低負荷であっても低速度で運動を行うことで,筋力増強や筋肥大がおこると報告されている.また運動の筋収縮時間が筋力トレーニング効果と関連するという報告もされている.よって運動速度を遅くすることで筋の収縮時間を長くすれば,より筋に運動ストレスを与えられると考えられる.実際に,我々は低負荷であっても低速度で持続的な運動を行えば,棘下筋は通常負荷・通常速度での運動よりも持続的な筋収縮によって筋活動量積分値が大きくなり,棘下筋に大きな運動ストレスを与えられることを報告している(日本体力医学会 2012年).しかし,低負荷・低速度肩外旋トレーニングが,棘下筋の筋断面積や筋力に与える影響は明確ではない. 本研究の目的は,低負荷・低速度での8週間の肩外旋筋力トレーニングが棘下筋の筋断面積と外旋筋力に及ぼす効果を明らかにすることである.【方法】 対象は健常男性14名とした.介入前に等尺性肩関節体側位(1st位)外旋筋力,棘下筋の筋断面積を測定した.対象者を低負荷・低速度トレーニング群(500gの重錘を負荷し側臥位肩関節1st位で5秒で外旋,5秒で内旋,1秒保持を10回,3セット)と通常負荷・通常速度トレーニング群(2.5kgの重錘を負荷し側臥位肩関節1st位で1秒で外旋,1秒で内旋,1秒安静を10回,3セット)の2群にランダムに群分けした.両群ともに運動は週3回8週間継続した.介入期間の途中に負荷量の増大はせず,介入4週までは研究者が運動を正しく実施できているか確認した.介入4週と8週終了時点で介入前と同様の項目を評価した.チェック表にて運動を実施した日を記録した. 棘下筋の筋断面積は超音波画像診断装置を用いて,肩峰後角と下角を結ぶ線に対して肩甲棘内側縁を通る垂直線上にプローブをあてて画像を撮影した.筋断面積は被験者の介入内容と評価時期がわからないように盲検化して算出した.等尺性外旋筋力は徒手筋力計を用いて3秒間の筋力発揮を2回行い,ピーク値を解析に使用した. 統計解析は棘下筋の筋断面積と外旋筋力に関して,トレーニング群と評価時期を2要因とする反復測定2元配置分散分析を用いて比較した.有意な交互作用が得られた場合には,事後検定としてHolm法補正による対応のあるt‐検定を用いて介入前に対して介入4週,8週を群内比較した.各統計の有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を十分に説明し同意を得た.本研究は本学倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】 介入終了時点で両群とも脱落者はなく,トレーニング実施回数には高いコンプライアンスが得られた. 棘下筋の筋断面積に関して,評価時期に有意な主効果とトレーニング群と評価時期と間に有意な交互作用が得られた.事後検定の結果,低負荷・低速度トレーニング群では介入8週で介入前よりも有意に筋断面積が増加した(7.6%増加).通常負荷・通常速度トレーニング群では有意な差は得られなかった. 外旋筋力に関して,有意な主効果と交互作用は得られなかった.【考察】 本研究の結果,低負荷であっても低速度で持続的な筋収縮によって,棘下筋の筋肥大が生じることが明らかになった.低速度で行うことで筋活動積分値が大きくなり,棘下筋により大きな運動ストレスを与えられる.また低負荷でも低速度で運動を行うことによって,低負荷・通常速度での運動よりも筋タンパク質の合成が高まるとされている.これらの影響によって,低負荷・低速度トレーニング群で筋肥大が生じたと考えられる. 低負荷・低速度トレーニング群では棘下筋の筋肥大は生じたが外旋筋力は増加しなかった.また,より高負荷である通常負荷・通常速度トレーニング群でも,外旋筋力の増加は生じなかった.本研究で用いた負荷量は低負荷・低速度で約4%MVC,通常負荷・通常速度で約20%MVCと神経性要因を高めるには十分な大きさではなかったことが,筋力が増加しなかった原因と考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果,低負荷であっても低速度で運動を行うことで棘下筋を肥大させられることが明らかとなり,低負荷トレーニングにおいて運動速度を考慮する必要があることが示唆された.本研究は,棘下筋の筋萎縮があり,受傷初期や術後などで負荷を大きくできない場合に,低負荷でも低速度でトレーニングを実施することで筋肥大を起こす可能性を示した報告として意義がある.

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14900/cjpt.2012.0.48100407.0
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130004584922
ID情報
  • DOI : 10.14900/cjpt.2012.0.48100407.0
  • CiNii Articles ID : 130004584922

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